今は昔、竹取の翁といふもの有りける   作:何もかんもダルい

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今は昔、竹取の翁といふもの有りける

 あれから色んなことがあった。

 まずは肉体を失った俵のこと。ビデオ通話で今の状況を両親と話して、一身上の都合で自主退学する、という形に落ち着いた。退学とはいえ事情を知っている面々とは交流が続いているが、ライバーを卒業したことになっているかぐやが一緒に遊べないとむぎゃむぎゃ文句を言って宥められていた。

 

 素行はともかく成績は私に次ぐNo2を維持していただけに惜しむ声も多かったようだが、そこはあいつの義父が上手く丸め込んでくれたらしい。

 弁が立ち、集落を留守にすることが多く、そして世界中を飛び回っている推定高給取り。謎の多い人物だったが、そこをあいつ自身が問うても肩をすくめてやり過ごされてしまったとのこと。ヤチヨは何かが引っ掛かったようで腕を組んで考え込んでいた。

 

 肉体を失い情報生命体と化した件については、二人とも唖然としつつも疑問を挟まず納得していた。曰く、「嘘を吐くならもっと現実的な事を言う」と。見透かされたことにちょっと悔しそうだったのが印象的だった。

 その上で、俵がしばらく故郷には戻らず私達と一緒に居ることをほとんど無条件で認めてくれた。息子の目利きなら間違いないだろう、なんて笑いながら。

 

 ――――優助を、よろしく頼む。

 

 痣のある喉。囁くような掠れ声。傷だらけの手指。そして、淀みながらも正気の一切を失わない強い眼光。あいつは失言のように扱っていたけれど、憧れてしまうのも無理はないと思う。そんな人だった。

 

 次に、タケトリさまについて。

 ヤチヨの協力もあって、彼女はツクヨミ経由で俵の故郷と私達のマンションを自由に往復している。ナノマシンの機能を幾らか弄って移動能力を上げているらしく、そのあたりの自在さは流石8000年リアルで活動してきた神様という感じだった。

 

 ――――あんまり色々喋っちゃうのも、風情が無いでしょ?

 

 俵とヤチヨが知っていた仏頂面と、KASSENで見せた情緒豊かな彼女。この二つはどちらも彼女の素といえるものだった。

 タイムパラドックスの可能性を数値化して見れた分、ヤチヨよりも強く警戒して意図的に二つの人格を切り替えていたとのこと。巷の文章生成AIが提示された設定に応じて口調を変えるように、彼女は過去の自分と8000年を経た自分の双方を併せ持って、記憶を連続させたまま言動をスイッチできるらしい。情報生命体というのは私達よりも人格という面で融通が利く存在なのかもしれない。

 

 そういった諸々がある程度落ち着いてから、私とかぐやはヤチヨの8000年を共有した。

 人の寿命を優に超える記憶の量だ。私は脳が耐えられないリスク、かぐやはヤチヨと自他の境界が曖昧になるリスクがあった。当然そんなものをヤチヨが認めるはずはなく。タケトリさまや俵、FUSHIと共謀してヤチヨが情報整理のために眠る52時間を利用して実行させてもらった。

 

 俵達のサポートもあって想定していた最悪は起きなかったけれど、記憶の海から帰還した瞬間にはヤチヨがとうに起きていて大泣きされてしまった。ばか、あほ、もう知らない死んじゃえやっぱりやだと子供みたいに泣きじゃくる彼女を宥めるために皆で団子みたいになった。

 罪悪感は酷かったけれど、やっぱり全部を見て良かったかもしれないと思う。あの子が隠したものはあんまりにも多すぎたから。

 

 ――――ヤチヨは、かぐやなんだね。

 

 記憶の共有が終わった直後にそう溢していたかぐやは、あの花火大会の時のように大人びて見えた。自認としては完全な同一人物だが、肉体として分かたれている分人格としての独立性は保っているらしい。

 それを見ていた俵が情報生命体の人格について色々考え込んでいた。もしかしたら今後に活かせるかもしれないとぶつぶつ呟く姿は、私達の知らない未来の姿が今に降ってきたようだった。

 

 最後に、俵は私の母と会った。とは言え肉体が無いので私のスマホを介した電波越しだったが、聞く限り上手いことやれたようだ。波長が合うというよりは、言動の裏にあるものを汲み取ることに長けていたというべきか。棘のある言葉とは裏腹に空気は終始和やかだった。

 

――――あぁ、せやった。あんたによう似た男を見たわ。

 

 驚愕の事実だったのだが、俵の実父の裁判に母が出ていたらしい。判決としてはかなり長い懲役刑だったようで、守秘義務に触れないよう迂遠でこそあったが俵が実の息子であることにも触れていた。

 ただ……何と言えばいいのか。そもそも母が仕事の話を持ち出すとは終ぞ思わなかったからかなり驚いたし、普段だったら棘を数割増しにして攻め立てるところがいやに弱かったりと不自然な部分はあった。あれは、母なりに「仇は取った」と伝えたかったがゆえなのかもしれない。俵の母親が若くして望まず身籠ったことに、親として思うところがあったんだろうか。

 結局、あの人はそのあたりの真意は全部墓まで持って行ってしまうんだろう。昔日の記憶の中にある尊敬は、まだ私の中で息をしている。

 

 

 ……とはいえ、尊敬ばっかりじゃ済まない部分なんて幾らでもあるわけで。

 

「――――それでさぁ、久しぶりに顔合わせたと思ったら『足掬われんようにな』って! あの人私の事幾つだと思ってんのって話やと思わん!? あんたのとこのお母さんなんて……」

『はいはい分かった分かった、ほんっとプライベートの相性悪いな酒寄親子は』

 

 我ながら職場とは思えない勢いで愚痴を吐いていると、それを虚空からの声に食い気味に打ち切られる。こんなやり取りも何度目になっただろうか。

 あのライブから10年。私は今、研究所の所長をやっている。五感の実装はタケトリさまと俵によって早期に目途が付いていたものの、飲み食いをして人間としての生活を行うには実体の器がどうしても必要だった。

 ナノマシン技術はあまりに高度過ぎて万が一故障が起きた時に誰も対処できなくなるし、自己増殖機構もそもそも相応の栄養(そざい)が無ければ話にならない。とはいえ今のかぐやの器では流動食の摂取も一苦労で維持が精いっぱい。製造の時点でも、俵が自身の肉体をかぐやの器にした時は月人のサポートがあった特殊事例であり、タケトリさまについてもほとんどワンオフ品レベルで改造されていて不適。

 

 ナノマシンという未曽有の技術を解明するか、義体という現代の技術の延長にあるものを造るか。私が選んだのは後者だった。

 義体が完成した暁にはかぐやの器になっていたナノマシンは俵の元へ帰り、こいつを現世に留めるための器になる。仮初でも肉体を得ることで俵の存在は安定し、記憶の損傷リスクからも解放されるだろうとタケトリさまは言っていた。

 

 真実が双子のお母さんになり、芦花がインフルエンサーとして躍進したように、道坂と久遠もまた自分の道を歩んでいる。二人でコンピューター関連を主にした何でも屋をする傍ら、タケトリさまのような月人案件を探っているのだという。

 ただ、事あるごとに「見せられないデータには気を付けろ」と忠告してくるのは職業柄か。人の事なんだと思ってんだ。ヤチヨの秘蔵フォルダしかないわ。

 

『まさしくそれだろ』

「やかましい」

 

 そして、俵はどうするのかといえば。

 

「プロトコルの改良案はどうなの」

『一応目途はついたが……シミュレートでエラー確率の検証を挟んでからだな。まさか人体実験するわけにいかんだろ』

 

 繫殖形態プロトコルの改良、それがこいつの目下最大の目標となっていた。

 人間の神経系を通る電気信号を仮想のOSとし、思考と記憶を遺伝子とし、子孫を残す情報生命体を創ること。それ自体はとうに達成している。現にタケトリさまはこいつの娘と言っていいのだから。

 

『今のプロトコルじゃ、いいとこ無(・)性(・)生(・)殖(・)だからな。いずれ袋小路になるのは目に見えてる』

 

 そう、問題なのは結局のところ分身を子として独立させるに留まっているという点。発展性に乏しいのだ。

 現在の一個人の記憶と思考パターンを継承する無性生殖型から、二人の思考パターンを混合し「子孫」を作出する有性生殖型への転換と、それに伴う人間の精神の電子化。つまるところ、魂(・)の(・)定(・)義(・)そのものを作り出そうとしている。

 

 魂を造ろうとするこいつと、器を人造しようとする私。傍から見ればとんでもないマッドサイエンティストが揃ってしまったようなものだけど、そもそもこんなことをしている理由自体は単純。私はかぐやとヤチヨがパンケーキを食べられるようにしたいからで、俵は――――

 

『下世話な話かもしれんけどな。お前らが一代限りで終わりってのも寂しい話だろ』

「ほんとに下世話。あんたが寂しいだけじゃないの?」

『うっせ、ほっとけ』

 

 つまるところ、ヤチヨやかぐやを始めとした電子生命体に子(・)供(・)を(・)設(・)け(・)る(・)選(・)択(・)肢(・)を与えたいということ。その副産物として、同性愛者の間にも血縁というものを造れないかと俵は考えている。

 後者の方はお兄ちゃんと乃依さんに触発されたというのも大きいんだろう。孫なし確定が嫌だったらしい私達の母に肩入れするというわけではないけれど、最初から選択肢がないのと選択肢を選ばないのでは大きく違う、と俵はいつも言っていた。

 

『これから長い時間を生きるのは確定だしな。人間の移り変わりを見るのも一興だろ』

「神様みたいなこと言っちゃって」

『神様みてぇなことしてる奴が何か言ってら』

 

 ……かぐやとヤチヨの身体が完成し、俵の元へナノマシンが還れば、俵はタケトリさまと同じ存在になる。記憶の損傷を克服した事実上の不老不死だ。

 1万年以上もの時間を独りで過ごさせたタケトリさま(むすめ)と少しでも時間を共有したいと、こいつは人の道を外れることを選んだ。

 

 お兄ちゃん達やかぐや達に子供という選択肢をあげたいのも本音だろうけど、本当に底の底に秘めた本音ではやっぱり寂しいんだろう。どう足掻いても私たちは先に往くし、かぐやとヤチヨはきっと私と同じ時間を生きたいって言うと思う。更にタケトリさまも人間らしい人生を望んだとなれば、きっと最後に遺されるのは俵一人になる。

 でも、その真意をこいつはきっと口にはしないというのもこの10年でよく分かっている。迂闊な一言が拭い切れない後悔を生んだ俵にとって、溢した本音が誰かの人生を縛ってしまうなんてきっと耐えられないだろうから。

 

 選択肢だけ完成させて、どんな道でも選べるように舗装する。その上で、その道を選ばないというのなら笑って言葉を飲み込み見送る――――なんて。

 

「あーあ、これでバッドエンドだったら幾らでも突っ掛かったのに」

『残念、ハッピーエンドの後のエピローグの話なんだわ。今どんな気分だ?』

「超絶ムカつく」

 

 こいつにとって、それはちゃんとハッピーエンド。メリーバッドでもトゥルーでもなく、ちゃんと望んだ幸せな結末なのだ。それが分かってしまったからこそ口を挟めない。それがまたまぁムカつくこと。やっぱこいつとは相容れないわ。

 

 いっそ私も電脳化して付きまとってやろうかな。そうしたらかぐや(ヤチヨ)ともずっと一緒にいられるわけだし。

 あぁ、でも。そうなると芦花や真実、そしてお兄ちゃん達を置き去りにするのか。それはちょっと寂しいな。皆が電脳化に頷いてくれたらいいんだけど、多分そうはいかないだろうし。人は人らしく、100年足らずを精一杯生きるのが一番身の丈に合ってるのかもしれない。

 

 閑話休題。昔みたいにお互い突っ掛かることはなくなったけど、こうして互いに互いの事を愚痴り合う関係は今日この日になるまで続いている。

 発端はこいつのことを放っておけなかったから。今は、こいつも一緒にハッピーエンドに連れていくって決めたから。この関係と感情が何なのか未だに結論は出ていないけど、名前がないくらいが丁度いいのかもしれないとも思う。

 

『ヨヨヨ~仲間外れは寂しいのです』

「彩葉とばっか喋んないで、かぐやとも!」

 

 10年前より重みを増した――――それでもかつてに比べれば紙風船みたいだけど――――体が椅子越しに抱き付いてきて、会話の区切りを見計らったかのようにデスクのタブレットが起動する。

 相変わらず二人とも私の前では格好つけたりかわい子ぶったりするくせに、俵と喋るときは明らかに肩どころか全身から力を抜いている。そうやって良い所を見せたいと思ってくれるのはとても嬉しいんだけど、緩んだ姿だって私は全然見たいわけで。

 

「おのれ間男が」

『人聞きの悪ィこと言うんじゃねぇよ欲深エロ狐』

「だぁれがエロ狐や!」

「でも彩葉こないだ一緒に寝た時かぐやの鎖骨ガン見してたもんね」

『ヤッチョもうなじをじぃっと見つめられてしまったのです……うぅ、身体が出来たら悪狐(わるぎつね)に食べられちゃうよお兄ちゃぁん』 

『とのことですが、反論は』

 

 黙秘権を主張します。二人が綺麗なのが悪い。

 そうやってわちゃわちゃとしていると、休憩時間の終わりを告げるアラームが鳴り響く。

 

「いよいよだね、彩葉」

「ごめんね、10年も待たせて」

「ぜんっぜん!」

『8000年に比べれば一瞬だよ』

 

 業界異例のホワイト研究所と呼ばれるウチだが今日ばかりはそうもいかない。職員達にもいつもより少し長めに休んでもらっていた。

 

「彩葉、ドキドキするね」

「私は全然?」

「うえぇ! なんでぇ!?」

 

 今日は初の義体の起動実験の日。白熱したじゃんけん10本勝負の末に優先権を勝ち取ったかぐやが現実の肉体を得る日だ。

 とはいえまだ試作第一号、失敗は前提。どこが上手く行かないのかを確認して、俵にもソフトウェア調整をお願いする手筈になっている。

 

『器から義体へ移行できるかのチェックも挟まるんだからな、どっちかっつうと覚悟要るのお前だぞ、かぐや』

『私は後から悠々と行かせてもらいますことよ~?』

「ぐぬぬぅ……! じゃんけん負けて悔しくて大泣きしたくせに!」

『だ、だって、自分に負けるって一番悔しいんだもん!』

「はいはい喧嘩しない、もう……」

 

 がるがる兎になり始めたかぐやを尻目にマグカップを洗いに行く。そこまで綺麗にする必要はないんだけど、なんとなく時間を延ばしたくて洗剤を付けて念入りに。

 そうしていると、個人専用回線(プライベート)に切り替えた独特のノイズと共に俵が声を掛けてくる。

 

『かぐやとヤチヨの身体が出来たら、娘(あいつ)も観念して母さんにカミングアウトするってよ』

「……あんたの子供だ、ってこと?」

『1万年以上放っぽかされたこともな』

 

 自分の祖父母に会うのは流石に勇気が要るのか、タケトリさまは俵の両親と会うのをなあなあにして引き延ばしていた。そりゃあ、月で生まれて地球に来た1万数千歳の孫です、なんてそうそう言い出せないよね。

 

 俵は俵で何を言われるか分からないが覚悟はしてる、なんて言っている。こいつにとって尊敬する母親に詰められることは何よりも怖いことだろうに、いつもみたいにへらりと笑って。

 いつもと変わらない態度は、逆にこいつの覚悟を何よりも雄弁に語っている。

 

『よりにもよって血縁上の父親と同じことしてんだ、何言われたって仕方ねぇさ』

「同じじゃないでしょ。記憶の損傷なんて避けようがない……それこそ、事故や病気みたいなものじゃん」

『同じだろ。子供を独りで放り出したんだ、猶更酷い』

 

 親に大切にして貰った分、余計に罪悪感が強いんだろう。親としての役目を果たせなかったことを俵は静かに悔いていた。ゆえにこそあれほど卒業までは行くと言っていた学校も諦めて、タケトリさまと過ごすことを選んだ。

 こいつもこいつで、悩んで、迷って、色んなことを考えて今日この日まで来たんだ。

 

「二人がちゃんと歩けるようになったらさ。あんたの家まで皆で行こうよ」

『皆?』

「そう。芦花も真実も、道坂と久遠も、ブラックオニキスも。皆で」

『正気かよ』

「全然正気ですとも。ほら、義体の耐久試験も兼ねてさ」

『それに付き合わされるあいつらが不憫になるな』

 

 問答無用。私達の中で家庭事情が一番複雑なのあんたの家なんだから。面談のつもりで腹括っときな。

 それに、俵が一人暮らしをしていた時間でどれだけの関係を築けたのか親御さんに自慢するのも悪くないと思うから。三日三晩眠れないくらい長ーく聞かせてあげようよ。

 

「私はあんたがいなくても、多分今日まで辿り着けた。ヤチヨが、かぐやがいたから」

『だろうな』

「でもさ。あんたが居ないのは、やっぱり寂しいよ」

『……そうかい』

 

 そいつは良かった、なんて言って専用回線は切断された。

 直後に響くインターホン。聞こえてくるのは皆の声。

 

 沢山の笑い声に囲まれて、動くはずのない金髪の義体も笑い出しそう。

 

 さあ、ハッピーエンドまであと少し!

 

 

☽

 

 

「ねぇ、これホントに道合ってるの、い(・)ろ(・)は(・)?」

「もうちょっとだって! ほら、あ、る、い、て赫夜(かぐや)~!」

「わかったから押すな、コケたらどうすんの!」

  

 腐れ縁に連れられて、私は極東の山奥に来ている。今日この日に至るまでもう3日も野宿してるっていうのに、いつになったら着くんだか。お団子に結った自慢の金髪サラサラヘアーもお陰でボサボサだよ。

 曰く、ツクヨミの忘れ形見がそこにあるだの何だの。そもそもツクヨミって地(・)名(・)でしょ? 土地の忘れ形見って何言ってんだかね、この破天荒お嬢様は。

 

「これで場所間違ってたらどうすんの? 野宿一週間確定なんだよ?」

「その時は……ほら、ごみん♡」

「ッかぁーこれだから情報宇宙出身(デジタルネイティブ)は」

「あー! また意地悪ゆってる!」

 

 意地悪じゃないわこの悪ガキめ。人の秘蔵フォルダ勝手に漁るわ、古い作曲データ引っ張り出してきておねだりコールするわ、親の顔が見てみたいよ。長い長ぁい付き合いの私じゃなかったら今頃絶交されてボッチ確定なんだからね。

 おまけにお姉ちゃんに置手紙一枚で出てきたもんだからそりゃあもう今頃怒髪天でしょうよ。あの人いつも「私の可愛さに免じて」なんて茶化すけど一度怒るともんのすんごい怖いんだから。こいつだって知ってるはずなんだけど、何故か懲りない。何故だ。

 

「ほんとにもうちょっとだから、ね、ね?」

「分かったから早く行くよ、このままじゃもう一泊野宿することになる」

 

 ブーツの紐を締め直して、苔と倒木に隠されたコンクリートを辿っていく。近くに沢が流れているのか、木陰の涼しさを切り裂くような冷たい空気が肌を掠める。

 ……本当にあるんだろうか、神(・)様(・)が(・)住(・)む(・)集(・)落(・)なんて。それもこんな世界の端っこの山奥に。たまたまそれっぽいから目を付けたんじゃないのって言いたいけど、生憎と私の眼前をずんずん進んでいく彼女がこの手の勘を外したことは無かった。

 

「本(・)物(・)の(・)神(・)様(・)ってどんなカッコしてるんだろうねー」

「さぁ、それこそ古臭い格好してるんじゃない?」

 

 倒木を踏み越え、沢を辿り、苔と藪を踏み締めて。

 ようやく開けた視界の先には――――

 

 

 

 

「廃墟じゃん!」

「廃墟だぁ!」

 

 自然に侵食された、古い生活の痕があるだけだった。

 つまりはまあ、そういうこと。このバカタレ、ここ一番で勘を外しやがったのだ。

 

「どーすんの!? マジで野宿一週間確定じゃんか!!」

「だってだってだって、ホントにここに居るはずだったんだもん!」

「もッ……もんじゃないわ! あぁぁあぁ~~お姉ちゃんに怒られる……!」

 

 おのれ、無駄に良い顔で絆しおって。あんたの発案じゃなきゃ今頃ツクヨミで管理人と共謀したソロライブテンション爆上げ祭りを開催できてたというのに……!

 

 そうやって二人でぎゃいぎゃい騒いでいると、近くの藪が蠢く音。すわ熊でも現れたかと揃って腰が引けていると……

 

「……おいおい、マジか」

「はぇ……?」

 

 現れたのは、枯草で編んだ大きな帽子を被った男の人だった。

 金色の髪に、青い縁取りの金の瞳。星と月みたいな目で見つめられて、思わず硬直してしまう。

 

 だってその特徴は、今私の両肩を掴んでるこの子が言っていた通りで。

 

「ほら、ほらほらぁ! 言ったでしょ、縁(・)結(・)び(・)の(・)神(・)様(・)がいるって!」

「ちょっと落ち着きなって……ごめんなさい、騒いじゃって」

「……いや、構いやしねぇよ」

 

 その人は何か懐かしいものを見るように目を細めてから、ついてこいと言って私達を先導し始めた。身なりからしばらくまともな宿にありつけていないのが丸わかりだったようで、空き家を使わせてくれるとのこと。

 それはありがたいんだけど、どうにも怪しい。縁結びの神様って言われる割には普通のデジタルネイティブっぽいし、ツクヨミ管理人みたいな覇気も感じない。強いて言うなら見た目は若いけど中身はおじさんっぽい。

 あと、デジタルネイティブ特有の義体の駆動音が無い。換装した聴覚が捉えるのはどことなく有機的な周波数。でも、これはまるでSF小説の――――

 

「……ねぇおじちゃん、疲れた。なんか話してー?」

「ちょ、おま」

 

 そうやって考えながら歩いていると、前方に居た黒髪が蛇みたいにするりと踊り、男の身体を登って肩車の体勢でぐずり出した。こいつは礼儀とかそういうもんを知らんのだろうか……割といつもこんな感じだったかもしれない。

 

「ほんっとごめんなさい、ウチのバカが……」

「いいって、元気なのは良いことだろ」

「だってさ~」

「あんたはほんっとに……!」

 

 また言い合いになりかけたところで、思わずとばかりに彼は噴き出した。何がツボに入ったのか分からないけれど、そのままお腹を抱えるくらい笑っている。

 どうしたんだろうと二人で顔を見合わせていると、急にこっちの頭を撫でてくる。

 

「悪い悪い、どうにも知り合いに似てるのにまるで似てなかったからよ、面白くなっちまった」

「えっと、どういう……?」

「言葉そのまんまだ。んで、暇潰しの話だっけか? それなら面白ぇのがあるぜ」

「ほんと!?」

 

 目を輝かせて頭にしがみ付く礼儀知らずに冷めた目線を送ってやる。けれどまあ、私も歩き通しで少し退屈していたのは事実。足の痛みを紛らわせてくれるのならどんな話でも大歓迎だった。

 

「んじゃ、お決まりの文句から始めるとするか。眠かったら寝てもいいぜ」

「なにを――――ひゃあ!?」

 

 そう言うと、彼は何をどうやったのか一瞬で私を担ぎ上げてしまう。

 そのままおんぶの形で二人を背負い、しっかり掴まっていろといって歩き出した。

 

「今は昔、竹取の翁といふもの有りける――――」




 本編、これにて完結。
 おまけエピソードも何かしら書きたいんですけれど、あんまり続け過ぎると蛇足感が否めないので2、3話くらいで止めることにしておりますわ! 

 オリジナル作品、別の超かぐや姫二次、あるいはウマ娘あたりで何かしら書くかもしれませんが、見かけたときは宜しくお願いします。
 また、活動報告の方に本作の年表(?)を書きましたので興味ある方はそちらもどうぞ。

 それではまたいつか、どこかで!
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