かぐや姫にもう一度会いたい。

ただそのために生きてきた男の物語。

1 / 1
第1話

 カンカンカンカンと泣き叫ぶ赤ちゃんを抱きながら階段を駆け上がる。

 

 私、酒寄彩葉17歳。

 母親との対立から自分ひとりの力で生きていくと上京し、生活費と学費を自分で稼ぐ以外は至って普通の高校2年生。

 いつも通りのアルバイトの帰り道、家の前にある七色に輝くゲーミング電柱の中からなんと赤ちゃんが!

 

 ……って、あまりの意味不明な状況に現実逃避してたけどそんな場合じゃない。

 どうしよう。え、本当にどうすれば?

 

 疲労で回らない頭では何も思い浮かぶはずもなく。

 気が付けば、自分の隣の家の扉を叩いていた。

 

 「竹中さん、いますか!?“助けて”ください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「少しは落ち着いた?」

 

 こちらの様子を伺いながら訪ねながらお茶を出してくれる人は隣に住む竹中陽悕(おき)さん。

 引っ越しの挨拶をした時に、高校生の一人暮らしは大変だろうと何かと気にかけてくれている年上の男性。

 生活費と学費を自分で稼いでいることを話してしまってからは気にかけてくれることがさらに多くなった気がして、ありがたい気持ちと申し訳なさが複雑に絡みあっている人。

 

 「すみません、竹中さん。こんな時間に急に押しかけてしまったのにお茶まで……」

 

 何事かと部屋の中に入れてもらった後、ゲーミング電柱から赤ちゃんがでてきたことを慌てふためきながらも話し、ヤチヨパワーによって赤ちゃんが泣き止んでから竹中さんが淹れてくれたお茶を飲みながら一息つく。

 

 「いやいや、ゲーミング電柱だけでも目を疑うのに、そこから赤ちゃんまで出てきて取り乱さない人のが珍しいよ」

 

 苦笑しながら言う竹中さんはゲーミング電柱に関する一連の出来事を疑いもせず信じてくれているようだった。

 

 「あの、私が言うのもなんですが、何で疑いもせず信じてくれるんですが?こんな荒唐無稽な話」

 

 「え、嘘だったの?もしかして本当は酒寄の子だったとか?」

 

 「何でそうなるんですか!?」

 

 「ごめんごめん、冗談だよ」

 

 何でっていわれてもな、と言いながら当たり前のように竹中さんは続ける。

 

 「まだ知り合ってから1年ぐらいだけど、普段の酒寄を見てればそんな嘘を付く子だとは思わないよ」

 

 あんなに取り乱しながら話した内容が嘘だとは思えないしねと笑いながら話す。

 

 竹中さんの信頼に嬉しくなるのと同時に、さっきの取り乱していた自分が恥ずかしくなる。

 

 「う、すみません。騒がしくしてしまって、ご迷惑でしたよね」

 

 「そんなこと気にしなくていいよ。あんなに慌ててる酒寄にびっくりしたぐらいかな」

 

 目の前で本当に気にしてないよというように微笑みながら話す竹中さんを見て、今更ながらこんなことに巻き込んでしまった罪悪感で胸が苦しくなる。

 普段から無理はしてないかと気にかけてくれたり、晩御飯のお裾分けを貰ったりと竹中さんには“助けて”もらってばかりなのにこれ以上の迷惑をかけるなんて……

 

 冷水をかけられたかのように頭が冷え、体がこわばる。

 助けて?そないなこと気軽に言えるのが私の娘やんて、ほんまおどr──「それに、酒寄に頼られるのは嬉しいからね」

 

 「酒寄は普段から人一倍努力して頑張って、自立して一人前になろうとするのは凄いことだよ。大人でもそこまで考えれる人は少ないかもしれない」

 

 偉いな、と竹中さんは微笑みを浮かべる。

 でも、と言葉を続けながら真剣な表情で、心配する眼差しで私を見る。

 

 「全部一人で無理して頑張って、つらいことをごまかして笑っているのを見るのはこっちもつらくなるし、抱え込んで沈んでしまうんじゃないかと心配するよ」

 

 「酒寄はまだ高校生で子供なんだ。急に大人になる必要はないし、一人で難しいことは誰かに頼って“助けて”貰っていいんだよ」

 

 だからそんな思いつめた顔しないでほしいなと、大人の自分にもっといい恰好させてくれと茶化しながら話す。

 

 その言葉にさっきまで頭の中で聞こえていたお母さんの言葉も、体の冷たさもなくなっていた。

 それどころか限界ギリギリだった私は目頭が熱くなり、うつむいて泣かないようにすることしかできなくて、胸が一杯だった。

 

 「あ、ありが……とうございます」

 

 お礼を言う私に優しくうなずいて、落ち着くのを待ってから空気を変えるように手を叩いて話し始める。

 

 「じゃあ今からは赤ちゃんをどうしていくか話し合おうか」

 

 そうだ、今は自分のことじゃなくて赤ちゃんのことを考えないと。

 

 

 そこからは二人で話し合ったがいい案はでてこなくて、時間も遅いから明日の朝にもう一度集まって話しをすることになった。

 

 「うちで一晩赤ちゃんの面倒見てもよかったけど、本当に大丈夫?夜泣きとかもあるだろうし、酒寄もかなりお疲れでしょう」

 

 「いえ、大丈夫です。たしかに疲れてはいますけど、赤ちゃんを抱きあげた責任を持ちたいんです」

 

 それに、と一度言葉を切って顔が赤くなりそうになるのを抑える。

 

 「竹中さんに頼っていいって言って貰えて、自分を見て貰えて嬉しかったんです。もっと頑張りたいなって思ったんです。もちろん限界だと思ったら竹中さんに“助けて”貰いますからね!」

 

 竹中さんは驚いた顔をした後、嬉しそうな顔をして私を見つめる。

 

 「そっか、それなら酒寄に任せるよ。時間とか気にせず頼っていいからね。酒寄はまだ遠慮しそうだから」

 

 「そんなに信用ないですかね。でも、ありがとうございます。」

 

 おやすみなさい、また明日よろしくお願いします。と自分の部屋に帰る。

 

 無茶苦茶で大変だった一日が終わろうとしている。

 体は限界で重く、今すぐにでも倒れてしまいそうだった。

 でも、心は今まで以上に軽く、自分は一人じゃないんだと思うとどこまでも頑張れる気がした。

 布団で赤ちゃんと一緒に横になり、落ちていく意識の中で思う。

 ”明日もう一度竹中さんに感謝を伝えよう”と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が沈んだ常夜の世界。仮想空間「ツクヨミ」

 和風な部屋の中に白く長い髪を結い、紺色のベースで海洋生物をモチーフにした和服を着た少女が8()0()0()()一緒に歩んできた相棒を待っていた。

 

 オキ、遅いな……。

 ヤッチョを待たせるなんて罪な男だね~。

 まったくも~!

 

 そんな心とは裏腹に少女は柔らかく微笑んでいる。

 早く会いたい、ここまでこれた嬉しさを分かち合いたい気持ちが溢れでる。

 

 そして、ログイン音とともに男が現れる。

 

 「ヤチヨ、おまたせ」

 

 「オキ~!遅いよぉ!」

 

 部屋の中に現れた男は竹中陽悕。

 そんな彼に飛びつくように抱き着いて、笑顔を浮かべる少女は月見(るなみ)ヤチヨ。

 仮想空間「ツクヨミ」の創立者で管理人、ツクヨミが誇る電子の歌姫にしてトップライバー。

 

 「ごめんごめん、酒寄と話し込んじゃってさ」

 

 「ん~、頭を撫でてくれたら許す~」

 

 「そんなことでよければ。ヤチヨもかぐやの案内お疲れ」

 

 労いの言葉と共に頭を撫でる優しい手つきに頬がさらに緩む。

 

 頭を撫でて貰いながら、彩葉がかぐやを抱き上げてからの経緯を聞いて今後の確認をしていく。

 

 「明日する酒寄との話し合いだけど、かぐやが一日で急成長するのに施設とかに預けるのは危ない。このまま育てるのがいいって感じでいいよな?」

 

 「それで大丈夫!彩華は断ると思うけどベビー用品とか買ってあげてね!」

 

 「3日しか使わないのが分かってるから流石にな」

 

 「その後はヤチヨカップの開催をしてかぐやのライバーデビュー!」

 

 彩葉に無理させて体調を崩しちゃうから看病して、竹取り合戦にコラボライブ!

 

 ……ここまで本当に長かったなぁ。

 ドジって8000年前に墜落してから出会いと別れを繰り返して、何度も心が折れそうになったけど、彩葉の歌に支えられてここまでこれた。

 今でいう鎌倉時代でオキを見つけた時は凄く驚いたっけ。

 最初は雰囲気が全然違くて、常に誰かを探してる迷子みたいだった。

 オキのご先祖かなって思ったけど、話している時の調子や動きの癖が記憶のままですぐに本人だと気付いた。

 何でこの時代にいるの?とか、今まであったことをたくさん話して、オキが不老不死みたいなものって聞いたときはずぅっと一緒にいられると思って嬉しかったなぁ。

 

 これまでの思い出に思いを馳せていると難しい顔をしたオキが目に入る。

 

 「どうしたの?何か気になることあった?」

 

 「……いや、特には……。大丈夫」

 

 バレバレの嘘にムッとして、オキから離れて真っ直ぐ見つめる。

 

 「嘘。何もなければそんな顔しないでしょ。──もしかして、また輪廻のこと?」

 

 うっ……とばつが悪い顔をするが、すぐに真剣な表情で話し始める。

 

 「……そう……ね。ヤチヨがかぐやは月に帰らないといけないって思う理由は理解はできるけど、納得はできない」

 

 「何度でも言うけど、俺はこれから起こる運命(こと)が既に定められて決まっているだ何て思いたくない」

 

 私に考え直して欲しくて、諦めて欲しくなくて。

 

 「ここまでこれたのは運命で決まってたからじゃない。いろんな人たちに背中を押してもらって、()()()が歩みを止めなかったからだろ?」

 

 今度は自分がかぐやの背中を押す番だというように。

 

 「かぐやが月に帰らないと、何が起こるか分からなくて不安になるのはわかる」

 

 「でも、運命が決まっているとしたら俺たちがどんなことをしてもコラボライブや卒業ライブは行われるはずだ」

 

 運命が決まっているなら、世界にとって不都合なことが起きても修正力によって定められた運命に戻されるだろうと。

 

 「なら輪廻や運命を壊す(かぐやを月に返さない)ために努力するのは無駄じゃない」

 

 俺たちが対策することで、かぐやはこのまま酒寄と一緒にいられるかもしれない。

 運命が決まっていて意味がなかったとしても、何もしないなんて出来ないと。

 

 「……」

 

 オキの思いに今回も答えることが出来ない。

 

 今までに何回もこの話しで喧嘩をしてきた。

 かぐやが輪廻を廻らなくてもいい方法があるんじゃないか。

 輪廻とか運命とか、あるかも分からないものなんて壊して、かぐやを月に返したくないって、酒寄とずっと一緒にいたいって言えよって。

 

 かぐやが彩葉とずっと一緒に笑っていられて、そこにヤチヨとオキも一緒になって笑って……

 そんな未来に出来たらどんなにハッピーエンド(幸せ)だろう。

 

 でも、世界の修正力が私に都合よく働くなんて思わない。

 かぐやが月に帰らないとヤチヨは存在しない。

 世界線なんて都合のいいものなんてなくて、私が消えてしまうかもしれない。

 自惚れじゃなければ、彩葉はヤチヨの存在に助けられてたと思う。

 心の支えが無くなった彩葉がどうなるかなんて分からない。

 もしくは、タイムパラドックスでヤチヨどころか世界が崩壊するかもしれない。

 

 私の自分勝手な願い(わがまま)でこれまでの全てを台無しにしたくない。

 それでも優柔不断で悪いやつな私は、ハッピーエンド(幸せな未来)を夢見てしまう。

 

 彩葉に気付いて欲しい。彩葉にギュッとしてもらいたい。もう一度パンケーキが食べたいなぁ。

 

 ……ううん……ヤッチョは彩葉ともう一度会えて、コラボライブをして、これからもオキと一緒にいられればそれで十分ハッピーエンド。

 これ以上を望むのは欲張りなのです。

 

 「ごめんね。ヤチヨは運命に従うよ」

 

 「……そっか。なら俺も今まで通りコラボライブまではヤチヨを手伝う」

 

 「ありがとね。オキ」

 

 「そういう約束だからな」

 

 何度も何度もこの話しで衝突して、時には喧嘩別れもして、二人で決めた約束。

 

 『コラボライブが終わるまではヤチヨを手伝う。その後はオキの邪魔をしない』

 

 私の8000年待ち望んできた彩葉ともう一度歌を歌えるコラボライブ。

 何があってもそれだけは譲れなくて、オキにはコラボライブが終わるまでは運命に沿って欲しいとお願いした。

 その代わり、コラボライブが終わってからはオキがやることに邪魔をしない約束。

 

 オキがどんな準備をしているかは分からないけれど、卒業ライブで月人に勝てるとは思わない。

 仮にその一時勝てたとしてもかぐやを取り戻すまで何度でも地球にくるだろう。それこそ現実世界にも。

 月人がかぐやを連れ戻す理由がなくならない限り懲りずにやってくる。

 私が手伝わなければかぐやの仕事もどうにもならないはず。

 

 「考えが変わったらいつでも言ってくれよ。ヤチヨが手伝ってくれたら百人力だからさ」

 

 「うん。そのときはすぐ言うね……」

 

 オキ、ごめんね。怖いもの知らずで走っていたキラキラのかぐや姫にはもうなれないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔々あるところに竹を取るのを生業とするおじさんとおばあさん、そして()()がおりました。

 

 「1()0()0()0()()か、長かったな」

 

 おじいさんが山に入って竹を取っていると、根本が光る竹があり、竹の中には10cm程の小さい女の子がおりました。

 

 「鎌倉でかぐやと出会う前の、ただ過ごすだけだった200年を考えるとむしろ早いのかもな」

 

 おじいさんは女の子を家に連れて帰り、3人で女の子を大切に育てました。

 

 「酒寄の所にかぐやも無事に来てくれたし、後は俺が頑張るだけか……」

 

 女の子はすぐに息子と変わらない程の大人になり、本当の家族のように中睦まじく過ごしました。

 特に息子には良く懐き、常に一緒にいる程でした。

 

 「酒寄は少しずつだけど心を開いてくれて、人に頼ることもできるようになってきたから、様子を見つつでいいな」

 

 大層美しく育った少女は『なよ竹の輝夜姫』と名付けられました。

 

「ヤチヨにも前を向いて欲しいけど、これ以上どうするかな。コラボライブまでに何とかなればいいけど、最悪の場合は酒寄に丸投げになるか…………まぁ、酒寄なら安心だな」

 

 輝夜姫の美しさは知れ渡り、多くの貴族や帝からも結婚をせがまれましたが、全てを無理難題で断って息子と結婚すると笑います。

 

 「かぐやには酒寄と一緒に楽しく過ごして、お互いに離れたくないって思って貰わないとな」

 

 しかし、幸せに過ごす4人に別れの時がやってきました。輝夜姫に月からの迎えがきて帰らなければいけないと言うのです。

 

 「そんで最後には酒寄とかぐやにヤチヨも入れて3人で幸せに過ごせるようにする」

 

 輝夜姫を月には帰らせまいと帝にも協力を仰ぎ、月からの迎えに抵抗します。

 

 「ツクヨミを作るのを手伝うときにFUSHIからヤチヨのプログラムの知識と記憶を入れてもらったから、かぐやが月に残してきた仕事はなんとかなるはず」

 

 しかし、月の勢力は圧倒的でした。抵抗むなしく輝夜姫は月に帰ってしまうこととなります。

 

 「後はコラボライブの時に来る月人との交渉次第か……」

 

 輝夜姫は月に帰る前に手紙と不死の薬を残していきました。

 

「輪廻やタイムパラドックスに問題がなければかぐやを月に帰らなくてもいいようにする」

 

 手紙はそれぞれが大切に保管し、不死の薬は輝夜姫のいない世界でいきる意味はないと一番天に近い山で燃やしてしまいます。

 

 「仕事は俺が月に行ってかぐやの代わりをする」

 

 その中で息子だけは違いました。どんなに月日が経っても、輝夜姫が自分のことを忘れたとしても、もう一度会いたいと願い、不死の薬を飲んでしまいます。

 

 「俺がいなくなった時にヤチヨだけは心配だけど、8000年待ち焦がれた酒寄がいれば大丈夫だろ」

 

 元々あった肉体を擬態のための外郭に当てはめて、その存在のあり方を思念体へと変えた息子は長い時を旅してきました。旅の途中で長い時を共にするウミウシの相棒と出会い、輝夜姫に再び出会う希望を見つけます。

 

 そうして時が流れて現代、息子は1000年の思いを胸にここまで歩みを止めずに進んできました。

 

 「輝夜…………あの夜の約束をようやく叶えられるよ」

 

 

 これは輝夜姫に会いに月に行く物語

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

超かぐや姫!の熱に浮かされ、思いついた設定を形にしてみました。
初執筆で拙い部分が多いと思いますが楽しんでもらえていたら嬉しいです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。