ちなみにこの小説との関係は全くない。
目の前の男、風間に案内され、やがてとある部屋にたどり着く。
隊長をやっていると言っていたし、恐らくここが風間隊の隊室なのだろう。
「入れ」
「失礼します…」
扉をくぐり抜けるとそこには、二人の男と一人の女性が居た。
「おかえりなさい、風間さん」
「風間さん、その人が例の神代先輩ですか?」
第一声を上げたのはオペレーターの格好をした女性で、その後に物腰柔らかそうな男が続く。
「ああ、これから話をするところだ」
「神代結人、17歳です。よろしくお願いします」
「風間隊オペレーターの三上歌歩です。よろしくお願いします」
「歌川遼です。よろしくお願いします」
三上と歌川は丁寧に自己紹介をしてくれる。
「…菊地原です」
一方、菊地原と名乗る男は少し不満げな表情をしながら素っ気ない態度で挨拶をする。
「おい菊地原!すみません、神代先輩」
「いやいや、気にしなくていい。それで?そろそろ用件を話してくれるか?風間」
「「「!?」」」
その俺の言葉に、風間以外の一同が驚きの表情を見せる。
「?」
俺が困惑していると、声を上げたのは菊地原だった。
「…風間さんの方が年上だよ」
「…えっ?」
俺が周りを見ると、三上と歌川もうんうんと頷いている。
「風間さん、小柄だから初対面だと勘違いされることが結構あるんです」
歌川は俺にそう小さく耳打ちをする。
「…神代。俺は21歳だ」
「…す、」
俺は次の瞬間土下座をし…
「すみませんでしたーっ!」
誠心誠意の謝罪をするのであった。
「ごめんなさい、見た目から年下だとばかり…」
「…もういい、頭を上げろ。昔からよく間違えられる」
「うっ、本当にすみません…」
俺は頭を上げて椅子に座りながら謝罪の言葉をこぼす。
「お茶でも飲んで元気出してください、神代先輩」
「ありがとう三上…美味しい…」
落ち込む俺の心にお茶のうまさと三上の優しさが染みる…
「さて、そろそろ本題に入ろう」
風間さんはそう前置きを置く。
「神代。俺の隊に入らないか?」
「…部隊の勧誘、ですか」
「ああ。お前は偵察部隊出身の近界民と、城戸司令から聞いた」
この隊も俺が近界民であることを知らされているのか。
エンブレムを見るとA-03と書いてあるし、A級3位としてかなりの実力者なのは間違いないだろう。
「俺の隊は隠密戦を主体にしている。カメレオンを軸に敵を仕留める部隊だ」
「隠密戦…」
「お前のログはいくつか見た。使いたてにしてはカメレオンをよく使いこなしている。俺の部隊で磨けばもっと光ると、俺はそう判断した」
「だから風間さんの部隊に入ってほしいと…」
「そういうことだ。無理にとは言わんが、前向きに考えてくれると助かる」
俺はしばし考える。
俺はすでに加古さんからも勧誘を受けている。
とりあえずその旨を伝えようと思ったが、それよりも先に口を開いたのは菊地原だった。
「風間さん、やっぱり俺は反対ですよ。この人をいれるのは」
「…ほう?」
「いくらカメレオンの扱いかうまいからって、その人はついてこれませんよ。俺たちの連携はただでさえシビアなんだから」
「菊地原、お前まだ…」
「B級相手だから勝ててるだけで、そのうち上位陣に打ちのめされて、他の人みたいにすぐにカメレオン使うのをやめますよ、どうせ」
まるで息をするように毒を吐く菊地原を横目に、風間さんは何やら考え込んでいた。
「なるほど、お前の言い分は分かった。なら、菊地原と神代で模擬戦をしろ」
「えっ?」
「俺と菊地原で?」
「ああ。こういうのはいい伏せても納得しないだろう。なら、菊地原自身の目でその実力を確かめるといい。実際にやった方が分かる」
確かに、風間さんの言うことには一理ある。
風間隊に入るかはともかく、カメレオン使いの戦闘を間近で見るいい機会かもしれない。
「俺は問題ありません」
「…後悔しても遅いから」
「決まりだな。三上、模擬戦の用意をしろ」
「了解です。風間さん」
「途中で泣いて謝っても止めないからね」
「木虎みたいなことを言うな…言わないから安心しろ」
「…はぁ、やるなら早くやるよ」
『お前らには3本先取でやってもらう。始めろ』
始めの合図と同時に、俺は菊地原との距離を詰める。
しかし菊地原は冷静に攻撃を弾いていく。
(スコーピオンの練度だとやはりあっちのほうが上だな…)
そう思った俺は一旦距離を取り、二つのスコーピオンを繋げてマンティスを繰り出す。
だが、それを見た菊地原は少し体を傾けただけで攻撃を躱し、スコーピオンでマンティスをへし折った。
「影浦先輩に比べたら全然鋭くないね」
「っ!」
菊地原は踏み込んで、打ち合いに持っていく。
俺のスコーピオンは普通の小太刀型だが、菊地原のブレードは刀身が長く、穴が開いている。
(穴を開けて刀身を伸ばすことでリーチと強度の両方を担保しているのか…!)
「ほら、使わないの?お得意のカメレオン」
「くっ!」
確かにこのままだと先に削り殺されるのは俺の方だ。
一旦仕切りなおすためにもカメレオンを使うべきだろう。
そう思った俺はカメレオンを起動して風景に溶け込む。
だが、それを見ても菊地原は微動だにしない。
若干不審に思いつつも、呼吸を整え、気配を殺しながらゆっくりと菊地原の背後へ回る。
(取った)
そう確信してスコーピオンを振り下ろした、その瞬間…
ーーザシュッ
「…えっ?」
「丸聞こえだよ」
気付けば、刺されていたのは俺の方だった。
【トリオン供給器官破損】
「どうして分かったんだ?」
「教える義理があると思う?」
「そうだな、菊地原の言う通りだ。続けよう」
そう言って俺はスコーピオンを構えなおす。
落ち着いて戦え。俺の武器はスコーピオンとカメレオンだけじゃない。
俺は左手でキューブを展開し、菊地原に向けて放つ。
「アステロイド」
アステロイドを放ちながら距離を詰め、右手のスコーピオンで攻撃する。
(タネは分からない。だが、少なくともカメレオンは使うべきじゃないな)
だからこそ、それ以外…弾と近接を絡めて攻める。
「バイパー」
俺はそう言いながら右手の弾を放つ。
その弾道は曲がり、いろんな角度から菊地原を狙う。
「うわ、バイパーじゃん。めんどくさ…」
そう零しつつもしっかりシールドを広げて防御する菊地原。
これにもしっかり対応してくるあたり、さすがA級だな…
「対応が早いですね、神代先輩」
「すぐ別の戦法に切り替えましたね。さっきよりも善戦してるように見えます」
「だが、それだけでやられるほど菊地原は甘くない。さあ、どう攻略する?神代…」
風間は興味津々といった様子でモニターを見つめる。
近界民とはいえ、新人にここまで興味を示す風間さんも珍しいな、と三上と歌川は思った。
風間隊の戦法は単に全員がカメレオンを使うだけではない。
菊地原の強化聴覚があるからこそ、姿を消した仲間同士でも互いの位置を把握し、正確な連携攻撃を成立させている。
見様見真似で真似できるような戦法ではない。
つまり風間は、神代なら自分たちの連携についてこられるだけの素質があると判断したということだ。
2本目を取られてしまった神代を見ても、風間の見る目が変わることはなかった。
(やっぱり、ほとんど読まれている…)
最初のカメレオンも、バイパーでの意識外からの攻撃も、全部というわけではないが大方対応されている。
対応が早いとか、そう言う次元の問題じゃない。
もっと別の、菊地原にしかない何かが作用しているような、そんな気がする。
(…まさか、サイドエフェクト?)
もし菊地原が何らかのサイドエフェクトを駆使して俺の手を読んでいるとしたら?
サイドエフェクトは五感に作用する。カメレオンとバイパーを見切れるような感覚…もしかして。
「どうしたの?来ないならこっちから行くけど?」
「いや、少し考え事をしていただけだ」
そう返事して、俺は左手でキューブを展開し、威力重視にチューニングする。
「アステロイド」
そして俺はその弾を菊地原…ではなく、周囲の建物に乱射した。
メテオラほどじゃないが、アステロイドによって建物が崩れる音が響き渡る。
菊地原は顔をしかめ、咄嗟に耳を抑える。
「っ!」
(やっぱり、音か!)
俺はそれを確認し、すぐにカメレオンを起動。
感づかれる前に距離を詰め、背後からブレードを振り下ろす!
ーーガキン!
「!?」
「これくらいの雑音で隠し通せると思ったっ…!」
(対応してきた!でもさっきより反応が鈍ってる!)
崩落音に紛れて一気に懐へ潜り込む。
右手のスコーピオンを振りかぶるが、菊地原はそれを受け止める。
その瞬間、俺は左足から地面を伝ってスコーピオンを伸ばした。
「っ!聞こえてるよ!」
菊地原は俺の刃を弾き、飛び上がることでモールクローを回避する。
「…それを待ってたんだ!」
「!」
次の瞬間、俺は両手にトリオンキューブを展開。
バイパーの弾道を菊地原の両サイドから攻めるように引き、アステロイドを威力重視のまま、菊地原に向かって放った。
菊地原は左右から迫るバイパーを防ぐため、シールドを二枚に分割する。
そして、威力に振り切ったアステロイドが、防御の薄くなったシールドを撃ち抜いた。
「…ふーん、少しはやるみたいだね」
「そりゃどうも」
「じゃ、続きやるよ」
一矢は報いた。
あと二本連続で取らなければならないが、まだ勝機がないわけじゃない。
そう思っていると、菊地原は開幕からカメレオンを起動する。
カメレオンをお互いに使うのは俺の方が不利だ。
ならせめて、見晴らしのいい場所で迎え撃つ。
そう思った俺は建物から離れ、周囲を警戒する。
(カメレオンを解除する一瞬が勝負…)
ーーカラン
「っ!」
瞬間、背後からの音に反応し、俺はスコーピオンを振るう。
しかし…
「!スコーピオンだけ…?」
「ま、読みは悪くなかったんじゃない?」
「音を立てたのはわざとか…」
菊地原は振り向いた俺の背後に姿を現し、もう片方のスコーピオンを俺の胴に突き刺した。
ーー模擬戦・3-1。勝者、菊地原。
「どうだ、菊地原」
「…まあ、入れてもいいんじゃないですか」
「あれでも認めてくれてるんですよ。菊地原君、素直じゃないですから…」
「ふむ…」
そう小さく耳打ちする三上。
なるほど、これが玄界でいう「つんでれ」というやつか。
「ちょっとそこ、聞こえてるよ」
「どうだ、神代。改めて聞くが、うちの部隊に入る気はないか?」
「お誘いは嬉しいですけど、実は加古さんからも勧誘を受けているんです。なので、少し考える時間をいただけませんか?」
「なるほど、すでに加古から勧誘を受けていたのか」
風間さんはその話を聞いて、どこか納得したような表情を浮かべる。
「分かった。元より答えを急いでいるわけではない。俺たちはいつでも待っている」
「ありがとうございます。菊地原との模擬戦、いい経験になりました」
そうして俺はその隊室を後にする。
加古隊と風間隊、どちらの戦術にも興味がある。
どっちの部隊に入るかを考えながら、俺は玉狛支部へと帰宅するのだった。