その日俺は事件の捜査で家に帰るのが遅れていた。その時ある飲み屋に二人の男女が入っていくのが見える。俺も普通なら特に気にせずに家に帰っていたところ、女性の方の足取りが少し重く見えた。そして、少し落ち着かなそうな雰囲気を纏っている。そして何より、俺の直感が何かが怪しいと反応していたので少し迷ったが、二人の男女の後をつけるような感じでこっそり店内に入ることにした。そして、男女、そして何か男に対してオドオドしている店主。その一人一人を注意深く俺は眺めていた。そしてその予感は的中してしまう。
その店主は青色のお酒の中に錠剤を入れた。
その決定的な瞬間を見て、俺は口を開く。
「ねぇ」
俺は小学生らしい声を装って声を上げた。
「......ぁ......」
「あ?何だ?」
女性の方はやはり少し落ち着かなかったのか、俺が子供の声を上げたときに驚きの声を小さく上げた。
そして男の方はやはり気性が荒いのか、威圧的な態度でこちらを見た。
しかしそんな目線は見慣れている。俺は構わずに続ける。
「今店長さん、ドリンクに何か入れてたよね?」
「.....いや、そもそもその位置から見える筈は...」
否定しないか。それに店主からは知るはずないことだけど、遠い位置から見えたのは博士が開発したメガネの望遠機能のおかげだ。そして、店に入った時に店主に合図を送った人を俺は見逃さなかった。
「否定はしないんだね。酷いことするなぁ。ね?そうは思わない?合図をしたおじさん?」
「!...あ?何だこのガキ!」
「まあまあおじさん落ち着いて。店内で騒ぎを起こすと迷惑だよ?」
本当に気性荒いなこの人。迷ったけどやっぱり来て正解だった。
「うるせぇ!あらぬ疑いかけやがってガキが!店長が勝手にやったことだろ?俺が合図したなんて証拠がどこにある」
証拠は今はないけど探せばいくらでも出てくるんじゃないかな?この店は闇深そうだし、今までの要素だけでももう十分だ。
「証拠はないけど、疑うに足る要素はあるよお姉さん。このおじさんは店長にドリンクを頼んだ時、いつものを強調した言い方をした。それだけじゃない。お姉さんから見えない左目でウインクをしたよね?それをみた店長さんはその後の返答が少し遅れていた。」
「そしてその後の店長さんはドリンクを作る短い時間で2回も物を落とした。それに、瞬きの回数が30秒間に22回。明らかに異常だ。極め付けは、僕がさっき店長に何かを入れたと疑惑をかけた時に否定しなかった。つまり、あんたら2人は共謀してこのお姉さんを嵌めようとしていた。違う?」
そして俺自分の推理を語った俺は女性の方に目を向けると、そこでその様子に目を奪われた。
小学生1年生の俺が推理を披露すると大抵関心よりも驚きが勝つ。なんなら、愕然、驚愕されることすら珍しく無い。酷いと子供の戯言と取り入ることすらしてもらえない。それなのにこの女性は、少しも驚いていなかった上、俺の言葉を疑うことなく信じているようだった。その感情の全てを関心に向けるようなその眼差しは、俺を驚かせるに十分だった。
そして、その隙を狙う男がいることすら俺は忘れてしまっていた。
「っ...!...〜〜〜〜〜!!!!!このガキィェエアア!!!!!」
「っ!」
俺も警戒していなかったわけでは無い。人は場合によっては相手が子供でも力で潰そうとすることがある。それを甘く見ていた幼児化してすぐならともかく、今はそんな慢心、油断などしない。現に麻酔銃をいつでも撃てるようにしていたつもりだった。しかし、予想外の隙が生まれてしまい、麻酔針で応戦するもタイミング的に間に合わなくなってしまう。
まずい...まずい...!
ああ、これが|超集中≪ゾーン≫か。世界がゆっくりに見える。迫ってくる拳も、驚いた顔の女性も...?あの驚き方は、俺が殴られそうになっていることに驚いているわけじゃ無いな?どちらかというと、焦っているように見える。何か俺を助けられる術があるのか?なかったら焦りより恐怖が勝るはず、さっきの俺の推理を見た反応も然り、やはり彼女は何か!?
そうして俺は殴られる寸前に思考を全力で回していると、彼女はスカートのポケットに手を突っ込み何やらビリビリと音を立ててすぐに手を戻したかと思えば手にはボール。それをこちらに投げつけると大量の煙が溢れ出し、男を怯ませ、その隙に俺を抱えて店から逃走してしまった。その鮮やかな一連の動きには見覚えがあった。
「で、オメーがあんな格好で男とバーに来ていた理由は?」
「世の中には知らねぇ方がいいこともあるんだぜ?名探偵」
店からある程度離れた公園のベンチで降ろされた俺は、女性改め怪盗キッドに疑問をぶつけていた。しかし、それはのらりくらりと躱されてしまう。
俺は今どっと疲れていた。それは死にかけたから、というのもあるが、女性が煙幕弾を投げても俺はその正体を怪盗キッドと結びつけるまでに少し時間がかかった。
なんというか、少し負けた気分だ。それに、こいつは推理力自体はそこまでだが、とてつもない頭脳を持った男だ。あの程度の状況で自分が騙されそうになっていたことに気づかないはずがない。多分、俺の推理を見て鑑賞していたんだろう。クソっ。腹立つやつだ。
「そういや悪い大人に騙されそうになったところを助けてくれてありがとよ、名探偵?」
「お前だって知ってたらわざわざ言ってねえ!」
「まあ、そのお人好しな思考と行動は嫌いじゃねぇけどな!」
...しかし、本当にそれだけだったか?とも疑問に思う。俺が推理をした時の心から感心したような表情、それは演技だとしても、俺が殴られそうになった時の必死な表情も見ている。それに、彼女からずっと感じていた落ち着かない雰囲気。それがあったから、いざ決定的な瞬間を見ても普段との差異でキッドとすぐには結びつけられなったのだ。それは何かしら引っかかる何かが俺の中にあったからに違いない。今回は事件では無いが、何か、まだ謎が残っているような...
「じゃあ俺はもうやることもないし帰るとするかな」
「俺から逃げれるとでも?」
「いや、捕まえないさ。今はね」
「....」
「じゃあまた会おうぜ名探偵!」
俺は何とか情報を引き出そうと会話を続けるが、キッドは情報を渡す気はないようだ。もうこの場から立ち去ろうとしている。まあ俺は事実今回キッドを捕まえるつもりはない。まだ謎が多いのもあるし、今回は俺を助けてくれた事には多少恩を感じている。よくある「今回は見逃そう」ってやつだ。......あれ、なんか聞き忘れているような...あ
「...ちょっと待て!まだお前が女装してあの場所にいた理由を聞いてねぇ!」
「じゃあな〜」
「おいキッド!」
そうしてキッドは消えていった。今日はなんか疲れたな。もうこんな時間...もうこんな時間...!?やべぇ...連絡めちゃくちゃ入ってる...急いで帰らねぇと...
そうして怒られるかと家に帰った俺は、蘭に少しだけ注意され、おっちゃんは酒に酔い潰れて寝ていた。蘭もその対応に手を焼いているようで、俺に対する注意もそこそこにおっちゃんの世話に戻っていった。なんというか、嫌な大人の典型を見た気がする。