花鳥玲愛は、甘さを認めない   作:エーアイ

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第22話 相沢湊は、歓迎会の主役になりきれない

 歓迎会の主役。

 

 その言葉は、相沢湊には少し重かった。

 

 キュリオに入ってから、もうしばらく経つ。

 新人という言葉だけで扱われる時期は、少し過ぎた。

 焼き菓子も、限定提供から通常メニュー候補へ近づいている。

 

 森崎乃々香は、客に説明する時、以前より自然に湊の菓子を扱ってくれる。

 三枝誠司は、焼成記録を見ながら、湊に必要な範囲で任せてくれる。

 有坂直人は、店全体の流れの中で、湊の菓子の位置を考えてくれる。

 

 花鳥玲愛は。

 

 相変わらず、厳しく見ている。

 皿の上だけではなく。

 皿の外側も。

 客席に置かれた後も。

 食べ終わった後も。

 そして最近は、湊本人の動きまで。

 

 ただし、花鳥はそれを全部、仕事だと言う。

 

 品質管理。

 客席への影響確認。

 スタッフの体調管理。

 幹事としての調整。

 特別扱いではない。

 

 湊は、それを否定しない。

 否定しないまま、その中にあるものを受け取るようになった。

 だから今日の歓迎会も、受け取らなければならない。

 

 そう思っていた。

 それでも、主役として店に入るのは、やはり落ち着かなかった。

 

「相沢さん、こっちです」

 

 森崎が、店の入口で明るく手を振った。

 キュリオではない店。

 半個室のある、落ち着いた飲食店。

 駅から近く、騒がしすぎず、料理の匂いも強すぎない。

 花鳥が選んだ店だった。

 

 湊は、入口で一度だけ周囲を見た。

 

 店の明るさ。

 席の距離。

 店員の声の大きさ。

 料理の香り。

 

 全部が、強すぎない。

 歓迎会の場として、よく整っている。

 少し考えれば分かる。

 これは偶然ではない。

 花鳥がそう選んだ。

 

「相沢さん」

 

 その花鳥が、席の近くに立っていた。

 私服ではない。

 仕事終わりなので、店の外用に整えた服装。

 だが、キュリオの制服ではない。

 湊は、一瞬だけ言葉に迷った。

 

「遅れてはいません」

 

 花鳥が先に言った。

 

「集合時間の五分前です」

 

「はい」

 

「入口で立ち止まると、後ろの方の邪魔になります」

 

「あ、すみません」

 

「謝罪ではなく、席へ移動してください」

 

「はい」

 

 いつも通りだった。

 店の外でも、花鳥は花鳥だった。

 そのことに、少し安心する。

 湊は案内された席へ向かった。

 席へ向かう途中、有坂が軽く説明してくれた。

 

「ほかのスタッフにも共有はしてあるんだけどね。今日はシフトと明日の営業の都合もあって、参加者はこの顔ぶれに落ち着いたよ」

 

「そうなんですね」

 

「うん。相沢くんの菓子に直接関わってきた面々で、まずは小さく、かな」

 

 湊は頷いた。

 キュリオには、ここにいる人たち以外にもスタッフがいる。

 ホールにも、厨房にも、時間帯によって顔を合わせる人たちがいる。

 だが、今日の席は、店全体を一度に動かす大きな宴会ではなかった。

 湊の菓子に直接関わってきた人たちが、無理のない範囲で集まった、小さな歓迎の席。

 その方が、少しだけ受け取りやすい気がした。

 そして同時に、逃げ場も少ない気がした。

 大勢に紛れることができない。

 礼を言って、流して、終わらせることもできない。

 この顔ぶれだからこそ、ちゃんと受け取らなければならない。

 

 湊は、そう思った。

 

 席順は、すでに決まっていた。

 有坂が場全体を見られる位置。

 三枝が厨房側の人間として湊の近くにいながら、料理に意識を持っていかれすぎない位置。

 森崎が話しかけやすい位置。

 花鳥は、端。

 

 注文や店員への声かけがしやすく、参加者の様子を見られる位置。

 

 湊は、中央すぎない。

 でも、主役として話を振られた時には皆から見える。

 見えている。

 けれど、囲まれすぎない。

 そういう位置だった。

 

 湊は、座ってから気づいた。

 自分が過度に主役扱いされすぎないように、最初から調整されている。

 

「相沢くん」

 

 有坂が柔らかく笑った。

 

「今日は改めて、歓迎会ということで」

 

「ありがとうございます」

 

「入ってすぐにやれなくてごめんね」

 

「いえ。むしろ、今でよかったと思います」

 

 三枝が頷いた。

 

「俺もそう思うよ」

 

 湊が見ると、三枝は小さく笑っていた。

 

「最初の頃にやっても、相沢くん、たぶん歓迎されてる場合じゃないって顔をしてたと思う」

 

「否定できません」

 

「今は?」

 

 湊は、少しだけ考えた。

 

「今も少し落ち着きません」

 

「正直でよろしい」

 

「でも、前よりは受け取れると思います」

 

 三枝は、満足そうに頷いた。

 

「ようやく店の一員って感じだね」

 

 その言葉は、思っていたより胸に来た。

 店の一員。

 湊は、すぐには返事ができなかった。

 森崎が隣で明るく言った。

 

「相沢さん、ほんとに歓迎されていますよ」

 

「ありがとうございます」

 

「相沢さんの焼き菓子、お客様にもだいぶ説明しやすくなってきましたし」

 

「森崎さんたちが説明してくださるおかげです」

 

「そこは、相沢さんの菓子がちゃんと説明できる形になったからですよ」

 

 森崎の言葉は素直だった。

 素直すぎて、少し照れる。

 湊は頭を下げかけた。

 そこで花鳥の声が飛んだ。

 

「相沢さん」

 

「はい」

 

「今夜は頭を下げる回数を減らしてください」

 

「……はい」

 

「歓迎会の主役が、何度も頭を下げると、周囲がかえって気を遣います」

 

「分かりました」

 

「本当に?」

 

「努力します」

 

「実行してください」

 

 森崎が楽しそうに笑った。

 三枝も少し笑っている。

 有坂は、穏やかにグラスを持ち上げた。

 

「じゃあ、花鳥さんに怒られる前に始めようか」

 

「店長」

 

「はいはい」

 

 有坂は笑った。

 

「相沢くん、改めてキュリオへようこそ。これからもよろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

「では、乾杯」

 

 グラスが軽く触れ合う。

 大きすぎない音。

 騒がしすぎない声。

 湊は、グラスを置きながら、少しだけ息を吐いた。

 歓迎会が始まった。

 

 料理が運ばれてくる。

 花鳥は、そのたびにさりげなく位置を見ている。

 誰の前に何が置かれたか。

 森崎が取りやすいか。

 三枝が料理に意識を持っていかれすぎていないか。

 有坂が会話を回しやすいか。

 湊の前に、極端に辛い料理や匂いの強い料理が集中していないか。

 

 湊は、それに気づいてしまう。

 

 花鳥は、店の外でも場を整えている。

 キュリオのホールではない。

 客席でもない。

 それでも、花鳥は場の流れを見ている。

 

 誰かが話しすぎていないか。

 誰かが黙りすぎていないか。

 湊に質問が集中しすぎていないか。

 森崎が遠慮していないか。

 有坂が話を拾いやすいか。

 三枝が厨房の話で湊を助けられるか。

 

 全部、見ている。

 

「相沢さん」

 

 森崎が言った。

 

「最初、花鳥さんに菓子を認めてもらえなかった時、どう思いました?」

 

「森崎さん」

 

 花鳥の声が、すぐに入った。

 強すぎない。

 だが、会話の流れを切るには十分な声だった。

 

「歓迎会で、初日の傷を掘り返す必要はありません」

 

「あ、すみません」

 

「謝罪ではなく、話題を選んでください」

 

「はい」

 

 湊は、少し笑いそうになった。

 森崎は悪気があったわけではない。

 ただ素直に聞いただけだ。

 だが、確かにその話題は、湊が少し構えてしまうものだった。

 

 花鳥は、それを先に止めた。

 森崎を責めすぎず。

 湊を過度に守りすぎず。

 自然に話を別へ流した。

 有坂が柔らかく続ける。

 

「じゃあ、最近お客様から言われて嬉しかった言葉とかある?」

 

 助け舟だった。

 湊は少し考えた。

 

「紅茶と一緒に頼むと、ちょうどよかったと言っていただいたことです」

 

「ちょうどよかった、か」

 

 三枝が頷いた。

 

「相沢くんの今の菓子には、かなりいい言葉だね」

 

「はい」

 

 森崎も笑った。

 

「私、そのお客様覚えています。すごく自然に食べてくださっていました」

 

「はい」

 

 湊は頷いた。

 

「自然に、というのが嬉しかったです」

 

 有坂が小さく笑った。

 

「前はもっと、印象に残る方を目指していた?」

 

「そうだと思います」

 

「今は?」

 

「邪魔しないで残る方が、難しいと思っています」

 

 三枝が「いいね」と言った。

 

 花鳥は黙っていた。

 だが、湊には分かる。

 今の答えは、おそらく悪くなかった。

 

 料理が進む。

 会話も進む。

 

 森崎は明るく場を温める。

 三枝は厨房側の話を、重くなりすぎないように挟む。

 有坂は全体を見ながら、湊が答えやすい話題を選ぶ。

 花鳥は、進行を乱さない。

 

 目立たない。

 だが、全て見ている。

 飲み物が空きそうになる前に確認する。

 料理の皿が偏る前に声をかける。

 時間が押しすぎないように、さりげなく次の流れを作る。

 

 会計の段取りも、すでに有坂と確認済みらしい。

 帰りの電車の時間まで、森崎に確認している。

 湊は、主役なのに、ずっと見られている気がした。

 見張られているのではない。

 

 整えられている。

 

 自分が歓迎会の主役として疲れすぎないように。

 気を遣いすぎないように。

 礼を言いすぎないように。

 過度にいじられすぎないように。

 

 湊は、そのことに少しずつ気づいていった。

 

 会の中盤。

 三枝が湊の方を見た。

 

「そういえば、相沢くん。花鳥さんに幹事用の菓子、出したんだって?」

 

 湊は、少しだけ固まった。

 花鳥の視線が三枝へ向く。

 

「三枝さん」

 

「いや、悪くない話だと思って」

 

「歓迎会の場で話す必要はありません」

 

「相沢くんが、ちゃんと礼を皿にできるようになったって話だよ」

 

 有坂が興味深そうに聞いた。

 

「幹事用の菓子?」

 

 森崎も身を乗り出す。

 

「何ですかそれ、私も知りたいです」

 

「森崎さん」

 

 花鳥の声が少しだけ硬くなる。

 湊は、ここで自分が何か言うべきだと思った。

 

「小さな試作品です」

 

「試作品?」

 

「幹事作業の合間に、紅茶と一緒に食べても邪魔にならないかの確認用です」

 

 森崎は、ぱちぱちと目を瞬かせた。

 

「それ、花鳥さんに出したんですか?」

 

「はい」

 

「すごいですね」

 

「すごくはありません」

 

 湊と花鳥の声が、少し重なった。

 森崎が笑った。

 三枝も笑っている。

 有坂は楽しそうにグラスを置いた。

 

「息ぴったりだね」

 

「店長」

 

 花鳥が即座に止める。

 

「余計な解釈です」

 

「うん。そういうことにしておこう」

 

「そういうこと、ではありません」

 

 湊は、そのやり取りを聞きながら、少しだけ耳が熱くなった。

 自分でも、今のは少し合ってしまったと思う。

 

 しかし、花鳥がすぐに場を整えた。

 

「相沢さん」

 

「はい」

 

「その試作品は、現時点で商品候補ではありません」

 

「はい」

 

「歓迎会の場で詳細を話す必要はありません」

 

「分かりました」

 

「三枝さんも、広げないでください」

 

「はいはい」

 

「はい、は一度です」

 

「はい」

 

 空気が軽くなる。

 ただし、湊がいじられすぎる前に止まる。

 花鳥は、やはり流れを見ている。

 

 湊は、そのことにまた気づく。

 

 会の終盤。

 有坂が、柔らかく言った。

 

「相沢くん、最後に一言だけもらっていいかな」

 

 来た。

 

 湊はそう思った。

 歓迎会の主役としての挨拶。

 おそらく避けられない。

 だが、有坂の言い方は重くない。

 

 一言だけ。

 

 長くなくていいという逃げ道がある。

 花鳥が決めた流れかもしれない。

 あるいは有坂の気遣いかもしれない。

 

 たぶん両方だ。

 

 湊は立ち上がった。

 参加者の視線が集まる。

 落ち着かない。

 やはり主役は苦手だ。

 

 だが、今なら受け取れる。

 少しは。

 

「今日は、ありがとうございます」

 

 言ってから、花鳥に言われたことを思い出す。

 

 頭を下げすぎない。

 礼を言いすぎない。

 周囲が気を遣う。

 

 湊は、頭を下げるのを少しだけ抑えた。

 

「キュリオに来てから、自分の菓子がどこに置かれるのか、ずっと考えています」

 

 自分の声が、少し硬い。

 でも、言う。

 

「最初は、皿の上しか見えていませんでした」

 

 三枝が静かに頷く。

 森崎が真剣に聞いている。

 有坂は微笑んでいる。

 花鳥は、いつもの姿勢でこちらを見ている。

 

「今も、全部見えているわけではありません。でも、厨房だけでは見えないものを、少しずつ教えてもらっています」

 

 湊は、一人ずつ見た。

 

「三枝さんには、作る側として止まることも教えていただきました」

 

 三枝が軽く手を振る。

 

「森崎さんには、運ぶ側、説明する側の見え方を教えていただきました」

 

 森崎が少し照れる。

 

「有坂店長には、店全体の中で考えることを教えていただいています」

 

 有坂が「こちらこそ」と小さく言う。

 

 そして、花鳥を見る。

 

 ここで言いすぎてはいけない。

 

 歓迎会の挨拶で、花鳥だけを重くしてはいけない。

 

 湊は、一拍置いた。

 

「花鳥さんには、客席に届くまでが仕事だと、何度も教えていただきました」

 

 花鳥は表情を変えない。

 

 だが、湊は続けた。

 

「まだ十分ではありませんが、これからも、皿の上と、その外側を見ていきます」

 

 そこで終える。

 それくらいがいい。

 

「今日は、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

 

 今度は、少しだけ頭を下げた。

 深すぎないように。

 

 有坂が拍手する。

 

 森崎が明るく拍手する。

 

 三枝も、柔らかく拍手する。

 

 花鳥も、小さく拍手した。

 

 湊は座った。

 

 胸の奥が、少しだけ熱い。

 

 主役になりきれたかは分からない。

 たぶん、なりきれていない。

 けれど、受け取ることはできた気がした。

 

 歓迎会が終わる頃、花鳥はすでに会計と帰りの流れを整えていた。

 有坂が店員と話し、三枝が厨房側の荷物を確認し、森崎が忘れ物を見ている。

 花鳥は、時間を確認する。

 

「森崎さん、電車の時間は大丈夫ですか」

 

「はい、大丈夫です」

 

「三枝さん、明日の仕込みは通常通りですね」

 

「うん。無理はないよ」

 

「店長、会計は確認済みです」

 

「ありがとう、花鳥さん」

 

「相沢さん」

 

「はい」

 

「主役だからといって、最後まで残って片付けようとしないでください」

 

 湊は、ちょうど立ち上がりかけたところだった。

 

「……はい」

 

「今日は歓迎される側です」

 

「分かりました」

 

「本当に?」

 

「努力します」

 

「実行してください」

 

 その声に、周囲が少し笑った。

 湊も笑った。

 花鳥は、やはり場を整えている。

 

 最後まで。

 店の外でも。

 キュリオではない場所でも。

 

 そのことが、湊には分かってしまった。

 店を出た後、少しだけ皆の流れがばらけた。

 

 有坂と三枝が会計の確認をする。

 森崎が鞄の中を確認している。

 花鳥は、出口近くで立っていた。

 

 湊は近づいた。

 

「花鳥さん」

 

「何ですか」

 

「ありがとうございます。俺、少し助かりました」

 

 花鳥は、即座に答えた。

 

「幹事として場を整えただけです」

 

「はい」

 

 湊は頷いた。

 

「だから助かりました」

 

 花鳥の動きが止まった。

 

 本当に一瞬だけ。

 その一瞬で、湊は言いすぎたかもしれないと思った。

 

 だが、撤回はしなかった。

 花鳥は、幹事として場を整えた。

 それは事実だ。

 そのおかげで、自分は歓迎会の主役として、過度に疲れず、過度にいじられず、ちゃんと受け取ることができた。

 

 だから助かった。

 それも事実だった。

 

「……礼は、一度で十分です」

 

 花鳥は、少し遅れて言った。

 

「はい」

 

「それに、今日は私だけで整えたわけではありません。店長も、三枝さんも、森崎さんもいました」

 

「分かっています」

 

「でしたら」

 

「それでも、花鳥さんが幹事として見てくださっていたことに、助かりました」

 

 花鳥は、少しだけ視線を外した。

 

「言葉の使い方に注意してください」

 

「はい」

 

「今の言い方は、かなり危険です」

 

「すみません」

 

「謝罪ではなく、修正してください」

 

「難しいです」

 

「では、今後の課題です」

 

「はい」

 

 いつものやり取りだった。

 そのはずなのに、今日は少しだけ違った。

 店の外。

 歓迎会の後。

 主役として受け取った後。

 その場所で交わすと、同じ言葉でも少しだけ温度が違う。

 

 森崎がこちらへ来た。

 

「相沢さん、今日はおめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「花鳥さん、幹事お疲れさまでした」

 

「森崎さんも、時間通りに動いてくれて助かりました」

 

「はい」

 

 森崎は嬉しそうに笑った。

 

 三枝も近づいてくる。

 

「相沢くん、今日はちゃんと主役してたよ」

 

「そうでしょうか」

 

「半分くらい」

 

「残り半分は?」

 

「明日の厨房で確認だね」

 

 湊は苦笑した。

 

「はい」

 

 有坂が最後に来た。

 

「じゃあ、今日は解散かな。みんな、気をつけて帰ってね」

 

 それぞれが頷く。

 歓迎会は終わった。

 大きな事件はない。

 派手な言葉もない。

 ただ、キュリオで湊の菓子に関わってきた人たちが、湊を歓迎してくれた。

 

 そして、花鳥がその場を整えてくれた。

 

 湊は、帰り道の入口で一度だけ振り返った。

 花鳥は、まだ皆の帰る方向を確認していた。

 

 最後まで幹事だった。

 最後まで、ホールのチーフのようだった。

 けれど、今日はそれだけではなかった。

 相沢湊は、歓迎会の主役になりきれない。

 それでも、歓迎されたことは受け取れた。

 受け取れたのは、たぶん。

 自分が主役として疲れすぎないように、場を整えてくれた人がいたからだった。

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