花鳥玲愛は、甘さを認めない   作:エーアイ

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3章・あとがき

第3章は、相沢湊の歓迎会編です。

 

第1章では、湊の菓子がキュリオの商品として認められるまでを書きました。

第2章では、その菓子を通じて、花鳥玲愛が湊本人を少しずつ見始める話を書きました。

そして第3章では、ようやく湊がキュリオの一員として、店全体に迎えられる話になりました。

 

本来なら、新人が入った時点ですぐ歓迎会をしてもよかったのかもしれません。

ただ、この作品の湊は、入ってすぐの段階ではまだ「歓迎される」ことを受け取れる状態ではありませんでした。

 

皿の上しか見えていない。

花鳥玲愛に認められたい。

自分の菓子が店に置けるかどうかで精一杯。

 

その状態で歓迎会をしても、湊はたぶん落ち着かなかったと思います。

 

だから、このタイミングにしました。

 

湊の焼き菓子が通常メニュー候補として少しずつ落ち着き、森崎が説明できるようになり、三枝が焼成を任せられるようになり、有坂が店全体の中で湊の位置を見られるようになり、玲愛が湊本人まで見るようになった。

 

その後で行われる歓迎会です。

単なる「新人が来ました」の歓迎会ではなく、

「ようやく、店の一員として迎えられるようになった」

という意味の歓迎会です。

 

今回、特に書きたかったのは、幹事をする花鳥玲愛です。

 

玲愛は当然のように言います。

 

店の行事です。

業務上必要な調整です。

幹事として当然です。

特別扱いではありません。

 

そして実際、それは全部正しいです。

 

日程。

翌日の仕込み。

森崎が参加しやすい予算。

三枝が料理に意識を持っていかれすぎない店。

有坂が場を回しやすい席。

湊が過度に主役扱いされすぎない導線。

匂いが翌日に残らない料理。

帰り道。

会計。

時間。

 

玲愛は全部見ています。

 

仕事としては完璧です。

 

ただし、読者から見ると分かります。

 

これは完全に、湊のことをかなり気にしています。

 

主役が疲れすぎないように。

過度にいじられないように。

無理に礼を言いすぎないように。

翌日、厨房の音が重くならないように。

ちゃんと歓迎されたことを受け取れるように。

 

玲愛はそれを全部、幹事として必要なことだと言い張ります。

 

この「正しい言い訳」が、今回のカトレアらしさだと思っています。

 

また、湊側も第2章から少し進みました。

 

第2章の湊は、「見てもらえることが自分にとっては特別」と言いました。

でも、特別扱いは求めない。

 

第3章では、歓迎会の準備で玲愛がかなり動いてくれていることに気づき、湊なりに礼を返そうとします。

ただし、ここで重要なのは、湊が「花鳥さんのためだけには作らない」と考えていることです。

第1章で湊は一度、玲愛個人の好みに踏み込みすぎました。

「花鳥さん自身は、どんな甘さを認めますか」

そう聞いて、玲愛に拒まれました。

だから今回の湊は、そこを間違えないようにします。

 

礼は込める。

でも、花鳥玲愛個人のためだけには作らない。

幹事作業の合間に、少し息をつける菓子として考える。

 

これは湊の成長です。

 

恋愛的な好意をそのまま菓子に乗せるのではなく、仕事の中で意味のある皿にする。

その上で、玲愛にも届いてほしいと思っている。

この距離感が、今の湊らしさだと思います。

 

歓迎会当日では、湊は主役になりきれません。

 

歓迎されることに慣れていない。

何度も礼を言いそうになる。

主役として中央にいるのが少し落ち着かない。

 

でも、玲愛が幹事として場を整えてくれている。

 

話題が湊に集中しすぎないように。

初日の痛い話題に寄りすぎないように。

森崎が明るく話せるように。

三枝が助け舟を出せるように。

有坂が柔らかく場を回せるように。

 

湊はそれに気づきます。

 

花鳥さんは、店の外でも場を整えている。

この気づきが、今回の歓迎会編の中心です。

歓迎会そのものは、派手な事件ではありません。

でも、湊にとっては大きな区切りです。

 

キュリオに来たばかりの新人ではなく、菓子が店に置かれ、客席に届き、スタッフに説明され、店の時間の中に入った人間として迎えられる。

だからこそ、エピローグは翌朝にしました。

 

歓迎会は特別な日です。

 

でも、この作品では、その翌日にいつも通り働けることの方が大事です。

 

昨日歓迎されたからといって、今日の焼き色が安定するわけではない。

店の一員と言われたからといって、客席の時間が全部見えるわけではない。

嬉しさが皿に出すぎれば、それはまた調整が必要になる。

 

玲愛が言う、

 

「今日も通常通りです」

 

という一言は、かなり厳しいです。

 

でも、湊にとってはありがたい言葉でもあります。

 

歓迎会の翌日も、普通に店に立つ。

普通に指摘される。

普通に焼成記録を見られる。

普通に客席へ皿を出す。

 

それが、湊が本当にキュリオに受け入れられたということだと思います。

 

第3章は、第1章・第2章よりも少し店全体の話になりました。

 

玲愛と湊の距離も進んでいますが、それ以上に、

湊がキュリオに居場所を持ち始めたこと。

ここを描きたかった章です。

 

歓迎会は終わりました。

 

でも、湊にとって本当に大事なのは、その翌日にまた厨房へ入り、皿の上と、その外側を整えることです。

相沢湊は、歓迎されたことを忘れない。

ただ、その歓迎に甘えないように、今日もキュリオの厨房に立つ。

この章は、そういう区切りの話でした。

 

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