魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第68話 ピリカ・ピリーラ / 第69話 いつかの未来——ブランドという発明

 翌朝。

 

 ピリカは、目の下にうっすらクマを作って、朝食の席に現れた。

 

 なのに、顔は妙に晴れやかだった。

 

「お師匠様! できました!」

 

 ばん、と。テーブルの上に、一枚の紙が置かれた。

 

 グリモワルドは、コーヒーをすすりながら、それを見下ろした。

 

 

「まず、名前です。——『ピリカ・ピリーラ』!」

 

「…………なんじゃ、その呪文みたいなのは」

 

「な、名前です! お店というか、商売ぜんぶの!」

 

「ピリカ・ピリーラ……」

 

 グリモワルドは、口の中で二回ほど転がした。

 

「……ピリーラとは、なんじゃ」

 

「意味は、特にないです! でも、口に出すと楽しくて、一回聞いたら忘れない感じがしませんか? ピリカ・ピリーラ」

 

「ふむ。……ピリカ・ピリーラ」

 

「ピリカ・ピリーラ」

 

「…………たしかに、耳に残るのう」

 

「でしょう!」

 

 

「で、こっちが印です」

 

 ピリカは、紙の真ん中を指差した。

 

 小さな灯火が、ひとつ。

 

 その灯火を、シンプルな円が囲んでいる。

 

 夜通し描いては丸めてを繰り返して、ようやくたどり着いた、私の印。

 

 グリモワルドは、しばらくそれを眺めて——言った。

 

「まぁ、いいんじゃないか?」

 

「…………」

 

 軽い。あまりにも軽い。

 

「お師匠様。本音は?」

 

「正直、良し悪しなんてわからん」

 

 即答だった。

 

「絵なんぞ、わしの人生で一番縁のなかった分野じゃ。良いとも悪いとも、判断のしようがないわ」

 

「確かに、ですよね!!!」

 

 ピリカは、逆にすっきりした。

 

 考えてみれば、この人に絵柄の善し悪しを聞くのが間違っていた。服は年中同じローブで、家具は座れて物が置ければそれでいいという人だ。

 

「これでいきます!」

 

「別にええぞ」

 

 グリモワルドは、コーヒーを置いた。

 

 それから、もう一度、紙を手に取った。

 

「ちなみに、この絵の意味は——」

 

 皺だらけの指が、灯火を、それからそれを囲む円を、順番になぞった。

 

「真ん中のこれは……決勝戦でお主が出した、あの灯火じゃろう。そしてこの円は——水素爆発の衝撃波かのう。何かこの絵に込めた意味でもあるんか?」

 

 ピリカは、目を見開いた。

 

 ——わかるんだ。一目で。

 

 デザインはわからないと言ったその口で、これが何かは、何も言っていないのに読み取ってしまう。

 

「ええ、その通りです!」

 

 ピリカは、胸を張った。

 

「そして、この絵柄が意味しているのは——」

 

 窓から差し込む朝の光の中で、ピリカは、楽しそうに語り始めた。

 

 

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第69話 いつかの未来——ブランドという発明

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「——さて。今日は、少し変わった切り口から行きましょう」

 

 歴史教師がそう言って、黒板に大きく文字を書いた。——「ブランド」。

 

「皆さん、買い物をするとき、品物についている印を見ますよね。あのお店の印がついているから安心、この印の品は間違いない——当たり前にやっていることだと思います」

 

 生徒たちが、こくこくと頷く。

 

「『魔術の始祖』『魔道具の母』としてよく知られるピリカ・ベルフォードは——実は、この"ブランド"という概念を初めて広めた人でもありました」

 

「えっ、それも!?」「ピリカさん、なんかすごすぎない……?」「なんでもできる人じゃん…………」

 

「そうです。あの人、本当にいろいろやってるんですよ」

 

 教師が笑って、黒板に続きを書いた。

 

 

「まず、ブランド以前の話をしましょう。当時の市場はどうだったか。——ひとことで言えば、真似のし放題でした」

 

「真似……?」

 

「誰かが新しい商品を開発しますね。売れますね。すると、あっという間に他の店が同じものを作って売る。開発した人には、一銭も入らない。——どうなると思います?」

 

「えー……開発するだけ、損?」

 

「その通り。新しいものを作った者が報われない。報われないから、誰もが他人の真似ばかりする。さらに深刻だったのは——模倣品の質が、ばらばらだったことです」

 

 教師は、黒板に下手な絵をふたつ描いた。同じ形の、ドライヤーらしきもの。

 

「見た目はそっくり。でも中身は粗悪品。買った人は、当然がっかりしますね。そして、こう言うんです。『あの商品は、質が悪い』——つまり、本物までまとめて評判を落とされる」

 

「ひどい……」

 

「開発者は損をする。模倣者も大して得をしない。お客は何を信じて買えばいいかわからない。——誰も、得をしない市場だったんです」

 

 

「そこに、ピリカ・ベルフォードが現れます」

 

 教師は、黒板の隅に、1つの印を描いた。

 

 小さな灯火と、それを囲むシンプルな円。

 

「彼女は師であるグリモワルド・ヴァイツェンフェルトと協力して、唯一無二の発想と、誰にも真似できない技術で、次々と新しい魔道具を生み出していきました。そして、そのすべてに——この印を入れたんです」

 

「あ! それ、知ってます!」

 

 生徒の一人が、声を上げた。

 

「ピリカ・ピリーラの……!」

 

「ええ。今も王都の大通りに続く、あの『灯火と円』です。皆さんのお家にも、この印のついた品が、ひとつくらいはあるんじゃないですか」

 

 教室のあちこちで、「ある」「うちのケトル」「お母さんのシャンプー」と声が上がった。

 

「ちなみにこの印の意味について、彼女自身の言葉が残っています。——よく知られた名言なので、聞いたことがある人も多いでしょう」

 

 教師は、黒板の灯火の横に、ゆっくりと書いた。

 

 

 ——"知識さえあれば、小さな灯火でさえ、大きな力になる"

 

 

 

「では、印を入れると、何が起きるのか。——ここからが、ブランドという発明の核心です」

 

 教師は、チョークを置いて、教卓に手をついた。

 

「このロゴは、『この商品はピリカ・ベルフォードが品質を保証している』という印でした。お客は、ロゴを見れば本物だとわかる。買って、満足する。その満足が——次にロゴを見たときの、信頼になる」

 

「信頼が、たまっていく……?」

 

「そうです。信頼が積み重なるほど、ロゴそのものに価値が生まれていく。ドライヤーで得た信頼が、次のケトルを売り、ケトルの信頼が、その次の商品を売る。——ただの印が、店の何よりの財産になるんです」

 

 教師は、そこで少し声を落とした。

 

「ただし——逆もあります。一度でも粗悪な品を出せば、ロゴの信用ごと、すべてが崩れる。だからこそ、品質を絶対に落とすわけにはいかない。——ブランドとは、客への約束であり、自分への枷でもある。そういう仕組みだったんです」

 

 教室が、静かになった。

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「——おっと、もう時間ですね」

 

 教師は、苦笑してチョークを置いた。

 

「最後にひとつ、予告を。ブランドというものができたからこそ——今度は『ロゴだけを模倣した粗悪品が出回る』という、新しい問題が生まれます。さて、彼女はそれにどう立ち向かったのか」

 

 教師は、にっこり笑った。

 

「それはまた、次の授業で」

 

 

 ——さて、時は戻る。

 

 数百年前。朝の食卓で、ロゴの意味を語り終えた少女に、老人がひとこと。

 

「ふむ。——ま、悪くない理屈じゃ」

 

「でしょう!」

 

 少女は、世界で一番得意げな顔をした。

 




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"ピリカ・ピリーラ"に、「はて、なんだかどこかで聞いたことがある響きだな?」って思った人は、たぶん割と同世代(^^)

以前公開したAIアニメの5:54あたり、本の表紙についているのが今回出てきたブランドロゴになります!

↓↓↓
https://youtu.be/iO6VIm0o6fM?si=p3aA3MoQDiYh5SXo&t=354


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金属の水瓶と羊さん、永遠ヨミセンさん、水辺の狸さん、みこんしゃトーマスさん、トマト飴さんより高評価いただきましたーー!
ありがとうございますm(_ _)m
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