魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
学園の廊下で、ピリカはその噂を耳にした。
「ねえ、アリサさんの髪、最近すごくない?」
「わかる。なんというか、艶が……」
「歩くたびに、さらさら揺れるのよね。何かしてるのかしら」
——ん?
ピリカは、足を止めた。
⸻
昼休み。中庭のベンチ。
隣に座るアリサの赤い髪は、たしかに、輝いていた。窓から差す光を受けて、毛先までつやつやと流れている。
「アリサ。もしかして、お師匠様にもらったシャンプー、使ってる?」
「あれすごいわよね。髪の艶が全然変わるわ。それがどうかしたの?」
アリサは、こともなげに頷いた。
「やっぱり……!」
だいぶ前に、グリモワルドがアリサにも持たせていた、あのシャンプーとドライヤー。律儀に使い続けていたらしい。そして、その成果が——学園中の噂になるほど、髪に出ている。
「それより、聞いてほしいの」
アリサが、少し困った顔をした。
「昨日も3人に、何を使っているのか聞かれて。……皆さんに、何と答えればいいのかしら。『お師匠様にもらった』だと、説明が長くなってしまって」
「3人!?」
「一昨日は2人。その前は……ええと」
指を折って数え始めたアリサを見て、ピリカは思った。
——これ、すごい宣伝なのでは。
学園で一番注目されている女の子。同率優勝者で、史上最高の才能で、公爵家のご令嬢。そのアリサの髪が、毎日、教室で輝いている。
アリサに宣伝の気なんて、これっぽっちもない。ただ、本当に良いものを、本当に使っているだけ。——だからこそ、効く。
「……ねぇ、アリサ。今度から、聞かれたらこう答えて?」
ピリカは、ちょっと照れながら言った。
「『ピリカ・ピリーラ』の品です、って」
「ぴりか・ぴりーら?」
アリサが、きょとんと繰り返した。
「私の商売に、名前をつけたの。もうすぐ、ちゃんと買えるようにするから」
「ピリカ・ピリーラ……ふふ。ふふふ、何それ。変な名前」
「へ、変って言った!? 覚えやすいでしょ!?」
「ええ、まぁ。なんだか忘れられそうにないわ」
アリサは、口元を押さえて笑った。
——その日から、学園のあちこちで「ぴりか・ぴりーら」という呪文めいた響きが、囁かれるようになる。
⸻
その夜。ヴァイスフェルト邸。
遅くに執務から戻ったボルトランは、居間でアリサと向かい合って、お茶を飲んでいた。
ふと、孫の顔を見る。——いや、顔ではなく。
「アリサ。最近、その……髪が、艶やかになったな」
「!」
アリサの顔が、ぱっと明るくなった。
「お祖父様も、そう思います?」
「う、うむ。なんというか、その、光っておる」
褒め慣れていない祖父の、ぎこちない言葉だった。それでもアリサは、嬉しそうに毛先を撫でた。
「学園でも、皆さんに聞かれるんです。グリモワルド様にいただいた、シャンプーとドライヤーのおかげで」
「ほう。あやつの作った、例の道具か」
ボルトランは、お茶を一口飲んだ。
「ふむ。……ところで、あやつは最近、何をしている」
ここしばらく、討伐の依頼も出していない。あの男が暇を持て余すと、たまにあさっての方向に飛んでいくのは、60年の付き合いで知っている。
「ピリカさんの商売を、コーヒーを飲みながら眺めて笑っています」
「……は?」
ボルトランの手が、止まった。
「商売?」
「はい。ピリカさん、グリモワルド様の魔道具を、職人ギルドと一緒に量産して売り始めたんです。この前は、お屋敷でお披露目の会があって、奥様方が10人もいらして——」
アリサは、楽しそうに話した。
ドライヤーが20件を超える注文を集めたこと。シャンプーも、ベルフォード侯爵夫人と一緒に作り始めること。商売に『ピリカ・ピリーラ』という名前がついたこと。
ボルトランは、黙って聞いていた。
「……あの、才無しと言われていた子が」
やがて、ぽつりと言った。
魔法大会で、孫と並んで優勝した少女。ファイアボールひとつ撃てないと言われていた少女が——魔道具の商売を、王都で立ち上げている。
あの男の家の、何が起こっても不思議ではない空気を思い出して、ボルトランは小さく息を吐いた。
「……まったく。あの家は、退屈をせんな」
「はい!」
アリサが、にこにこと頷いた。
⸻
しばらく、穏やかな夜の時間が流れた。
お茶のおかわりを淹れさせて、ボルトランは、ぽつりと言った。
「……わしも、一本もらえるか」
「え?」
「いや、なんでもない」
「?」
アリサは首をかしげて、それ以上は聞かなかった。
——主席宮廷魔法使いが、こっそり髪を気にした夜のことは、誰にも知られていない。
昨日の話で「ピリカ・ピリーラ」にめちゃ反応もらえて嬉し楽しかったです( ̄▽ ̄)www