Q. 魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第71話 もう無理だよぅ

 朝。

 

 ピリカは、学園に行く前に手紙を三通書いた。

 

 一通は、親方へ。納品の日取りと、追加のヒアリングで回るお屋敷の順番について。一通は、石鹸職人さんへ。明後日の顔合わせの時間の確認。一通は、お母様から来た「また問い合わせが5件来ましたわ」への返事。

 

 

 昼。

 

 学園の授業を受けながら、頭の半分はドライヤーの改良点のことを考えていた。回す向きの印、持ち手の軽量化。親方からの試作の報告が、今日あたり届くはず。

 

 

 夜。

 

 机の上に、手紙の山。

 

 ミランダ経由の問い合わせは、日に日に増えていた。『私にもぜひ』『妹の分も』『嫁ぎ先の義母が』——一通ずつ、丁寧に返事を書く。書きながら、明日の予定を確認する。放課後はティナに魔術の練習、その後でギルドに寄って——

 

 気づいたら、机で寝ていた。

 

 

 翌日の昼休み。

 

 ピリカは、パンを片手に帳面とにらめっこしていた。

 

「ピリカ」

 

 向かいに座ったアリサが、じっとこちらを見ていた。

 

「な、なに?」

 

「最近、なんだか忙しすぎるわよね。……大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だよ? ぜんぜん、大丈夫」

 

「目の下、すごいことになってるわよ」

 

「う」

 

 アリサは、お茶を一口飲んで、続けた。

 

「というか——魔術の勉強、してる暇ないわね」

 

「うっっ」

 

 図星だった。

 

 そういえば、自分の練習を最後にしたのは、いつだっただろう。

 

 この前だって、アリサがお師匠様に新しい魔術を習っているのを横目で見ながら——私は机で、納品の帳面をつけていた。庭から聞こえる楽しそうな声を、背中で聞きながら。

 

 真空の維持も、電気の制御も、ここしばらく、ぜんぜん磨いていない。アリサは着々と先へ進んでいるのに、私だけ、止まっている。

 

「だ、だって、しょうがないんだよ……。ドライヤーの量産でしょ、シャンプーの話でしょ、ティナに魔術も教えなきゃいけないし、、、」

 

 指を折って数えていくと、指が足りなくなった。

 

「納品の日も決めなきゃだし、ヒアリングで回るお屋敷の順番も組まなきゃだし、明後日は石鹸職人さんとの顔合わせだし、お母様からの問い合わせのお手紙は毎日増えるし、学園の宿題もあるし……」

 

「ピリカ」

 

「あと、ブランド! ブランドを全部の商品に入れる手配もまだで——」

 

「ピリカ。息をして」

 

「すぅー……はぁー……」

 

 言われた通りに深呼吸をしたら、ちょっとだけ泣きそうになった。

 

 

「あ、あの……ピリカちゃん」

 

 遠慮がちな声がして、顔を上げると、ティナが立っていた。

 

 なぜか、ものすごく申し訳なさそうな顔で、もじもじしている。

 

「ティナ。どうしたの?」

 

「えっとね、その……怒らないで聞いてほしいんだけど」

 

「うん」

 

「私みたいに、教えて欲しいって人が……何人か、いるんだけど……」

 

「…………」

 

「この前の授業のあと、また増えて……今、その、6人くらい……」

 

「…………」

 

「ぴ、ピリカちゃん?」

 

 ピリカは、ゆっくりと、机に突っ伏した。

 

「うわぁああん、もうこれ以上は無理だよぅ、、、、」

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」

 

 ティナがおろおろと手を伸ばし、アリサが静かにピリカの背中をさすった。

 

 

 ——教えたくない、わけじゃない。

 

 突っ伏したまま、ピリカは思った。

 

 むしろ、教えたい。あの子たちの目を知っている。『あの子ができたなら、私も』っていう、あの、すがるみたいな目。あれは、昔の私の目だ。放っておけるわけがない。

 

 ドライヤーだって、シャンプーだって、ぜんぶやりたくて始めたことだ。どれも、やめたくない。

 

 ——でも。

 

 ——身体が、ひとつしかない。

 

 (誰か……誰か、助けてぇ……)

 

 机に突っ伏したピリカの上で、アリサとティナが、顔を見合わせた。

 

 ——その小さな悲鳴は、数日後、思わぬ形で届くことになる。

 

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