Q. 魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
朝。
ピリカは、学園に行く前に手紙を三通書いた。
一通は、親方へ。納品の日取りと、追加のヒアリングで回るお屋敷の順番について。一通は、石鹸職人さんへ。明後日の顔合わせの時間の確認。一通は、お母様から来た「また問い合わせが5件来ましたわ」への返事。
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昼。
学園の授業を受けながら、頭の半分はドライヤーの改良点のことを考えていた。回す向きの印、持ち手の軽量化。親方からの試作の報告が、今日あたり届くはず。
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夜。
机の上に、手紙の山。
ミランダ経由の問い合わせは、日に日に増えていた。『私にもぜひ』『妹の分も』『嫁ぎ先の義母が』——一通ずつ、丁寧に返事を書く。書きながら、明日の予定を確認する。放課後はティナに魔術の練習、その後でギルドに寄って——
気づいたら、机で寝ていた。
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翌日の昼休み。
ピリカは、パンを片手に帳面とにらめっこしていた。
「ピリカ」
向かいに座ったアリサが、じっとこちらを見ていた。
「な、なに?」
「最近、なんだか忙しすぎるわよね。……大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ? ぜんぜん、大丈夫」
「目の下、すごいことになってるわよ」
「う」
アリサは、お茶を一口飲んで、続けた。
「というか——魔術の勉強、してる暇ないわね」
「うっっ」
図星だった。
そういえば、自分の練習を最後にしたのは、いつだっただろう。
この前だって、アリサがお師匠様に新しい魔術を習っているのを横目で見ながら——私は机で、納品の帳面をつけていた。庭から聞こえる楽しそうな声を、背中で聞きながら。
真空の維持も、電気の制御も、ここしばらく、ぜんぜん磨いていない。アリサは着々と先へ進んでいるのに、私だけ、止まっている。
「だ、だって、しょうがないんだよ……。ドライヤーの量産でしょ、シャンプーの話でしょ、ティナに魔術も教えなきゃいけないし、、、」
指を折って数えていくと、指が足りなくなった。
「納品の日も決めなきゃだし、ヒアリングで回るお屋敷の順番も組まなきゃだし、明後日は石鹸職人さんとの顔合わせだし、お母様からの問い合わせのお手紙は毎日増えるし、学園の宿題もあるし……」
「ピリカ」
「あと、ブランド! ブランドを全部の商品に入れる手配もまだで——」
「ピリカ。息をして」
「すぅー……はぁー……」
言われた通りに深呼吸をしたら、ちょっとだけ泣きそうになった。
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「あ、あの……ピリカちゃん」
遠慮がちな声がして、顔を上げると、ティナが立っていた。
なぜか、ものすごく申し訳なさそうな顔で、もじもじしている。
「ティナ。どうしたの?」
「えっとね、その……怒らないで聞いてほしいんだけど」
「うん」
「私みたいに、教えて欲しいって人が……何人か、いるんだけど……」
「…………」
「この前の授業のあと、また増えて……今、その、6人くらい……」
「…………」
「ぴ、ピリカちゃん?」
ピリカは、ゆっくりと、机に突っ伏した。
「うわぁああん、もうこれ以上は無理だよぅ、、、、」
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
ティナがおろおろと手を伸ばし、アリサが静かにピリカの背中をさすった。
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——教えたくない、わけじゃない。
突っ伏したまま、ピリカは思った。
むしろ、教えたい。あの子たちの目を知っている。『あの子ができたなら、私も』っていう、あの、すがるみたいな目。あれは、昔の私の目だ。放っておけるわけがない。
ドライヤーだって、シャンプーだって、ぜんぶやりたくて始めたことだ。どれも、やめたくない。
——でも。
——身体が、ひとつしかない。
(誰か……誰か、助けてぇ……)
机に突っ伏したピリカの上で、アリサとティナが、顔を見合わせた。
——その小さな悲鳴は、数日後、思わぬ形で届くことになる。