Q. 魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
「ひゃいっ!?」と声が出てしまった理由を話すには——少しだけ、時間を巻き戻さないといけない。
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私、ティナ・レーゲンタールの苗字は「雨の谷」という意味らしい。
代々、水魔法の家系。おじい様も、お父様も、親戚のおばさまたちも、みんな当たり前に水を出す。家の紋章は、雨粒と谷。
そして私は、その家に生まれて——水が、出せなかった。
水だけじゃない。風も、火も、ぜんぶ。的の手前で、いつも魔法が消える。六年間、ずっと。
お父様は、何も言わなくなった。何も言わずに、ため息だけが上手になった。お母様は「大丈夫よ」と言ってくれる。でも、その目の奥が笑っていないことくらい、子供でもわかる。
親戚の集まりが、いちばん苦手だった。同い年のいとこたちが、庭で水の輪をくぐらせて遊ぶ。そのたびティナは、お茶のおかわりを取りに行くふりをした。
学園では、後ろから数えたほうが早い席。
——なんで、できないんだろう。
——これ以上、何を頑張ればいいんだろう。
誰も、教えてくれなかった。先生に聞いても、「魔力を込めて、詠唱する」しか返ってこない。それは六年間、毎日やっている。
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ひとつだけ、後ろめたい安心があった。
同じ学年に、自分よりできない子がいたのだ。
"才無し侯爵"。完全詠唱をしても、指先の火しか出ない子。みんなが陰でそう呼ぶのを聞くたび、ひどい、と思った。思いながら——心のどこかで、ほんの少しだけ、安心していた。
私は、最後尾じゃない。
……最低だ、と思う。今でも思い出すと、胸がちくりとする。
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だから、あの日のことは、忘れられない。
実技の授業で、その子が——ピリカ・ベルフォードが、風で的を倒した。
六年間、何も出せなかった子が、である。
教室がざわつく中、ティナは、震える足で近づいて、人生でいちばんの勇気を出して、聞いた。
「あの……コツとか、あるのかな」
ピリカは、困った顔をした。とても、困った顔だった。
「……ごめん。うまく、説明できなくて」
「そ、そっか。ごめんね、変なこと聞いて」
ティナは、逃げるように席に戻った。
顔が熱かった。断られた。やっぱり、教えたくないよね。せっかくできるようになった、大事な秘密だもんね。
——でも。
席に着いてから、ふと思った。あの子の顔は、意地悪の顔じゃなかった。本当に、心の底から、困っている顔だった。まるで「教えたいのに、教えられない」みたいな。
……考えすぎかな。
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それから、学園は事件続きだった。その中心は、全部あの子だった。
あのアリサ・ヴァイスフェルト様に、模擬戦で勝った。
「魔法が、消えたんだって」
「最後、殴ったらしいよ」
「は? 殴った?」
廊下の噂は、どこを切っても、意味がわからなかった。
そして、魔法大会。
ティナも観客席にいた。一回戦、相手が詠唱を終える前に距離を詰めて、一撃。二回戦、大きな男の人を、二発。三回戦、飛んでくる炎を、消して——。
決勝の相手は、アリサ様だった。空を覆う巨大な火の鳥。そして、たぶん、あの子が起こした——太陽みたいな大爆発。何が起きたのか、ぜんぜんわからなかった。
結果は、同率優勝。
あの、才無し侯爵が。私が、後ろめたい安心の材料にしていた、あの子が。学園史上最高の天才と、並んだ。
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表彰式の日、大講堂の拍手は、まばらだった。
みんな、まだ信じていなかったのだと思う。何かの間違いだとか、卑怯な手だとか、そんなささやきも聞こえた。
ティナは、まばらな拍手の中で——たぶん学園でいちばん強く、手を叩いていた。手のひらが痛くなるくらい。
隣の席の子が、変な顔でこちらを見ていた。——構うものか、と思った。生まれて初めて、そう思えた。
だって、あの子は、証明したのだ。
六年間できなかった人間が、できるようになる道が、この世のどこかにあるということを。
——聞きたい。どうやったのか、もう一度、聞きたい。
——でも、もう一度あの困った顔をさせたら、と思うと、足がすくんだ。
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結局、聞けないまま、何ヶ月かが過ぎて。
ある日の昼休み、廊下で。
「ねぇ」
「ひゃいっ!?」
振り向くと——その子が、立っていた。