Q. 魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
「ねぇ! ティナ!!」
「ひゃいっ!?」
振り向くと、ピリカちゃんが立っていた。——あの日と、同じように。
違うのは、あの日より、ずっと近い距離と。あの日より、ずっと大きい声。
「ど、どうしたの、ピリカちゃん」
「ティナに、お願いしたいことがあるの!」
「お、お願い?」
ピリカちゃんは、大きく息を吸って、言った。
「教科書を、作るんだ。——ううん、教科書っていうと大げさだから、うすーい冊子。魔術の、はじめの一歩を書いた本。教えてほしい子が増えすぎて、私の身体がひとつじゃ、もう足りなくて」
「う、うん」
「それで——ティナに、水のところを書いてほしいの」
ティナは、目を見開いた。
じわじわと言葉の意味が染みてきて、それから、ぶんぶんと首を振った。
「む、無理だよ! だって、私なんかより魔術が上手な人、いくらでもいるよ! それこそ、アリサ様とか!」
「アリサは教えるの、あんまり上手くないよ」
ピリカちゃんは、あっさり言った。
「ちょっと天才すぎるし、思ったより感覚派だし。この前なんて『ふわっと集めて、きゅっとすれば、できるわ』だよ? ふわっとって何?」
「ふ、ふふ……」
「あのね、ティナ」
ピリカちゃんは、少しだけ、声をやわらかくした。
「最初からできちゃう人は、できない人の気持ちが、わからないの。どこが怖いか、どこで諦めたくなるか、見えないの。——私も、ティナも、できないところから、できるようになった側でしょ。つまずく場所を、ぜんぶ知ってる。それって、この本を書くための、才能だと思うんだ」
ティナの頭の中を、いろんなものが、順番に通り過ぎていった。
的の手前で消え続けた風。上手になる一方だったお父様のため息。廊下の「ごめん、うまく説明できなくて」。掌の上で、ころ、と転がった綿。ぷるんと生まれた水玉。夕食の席の、「レーゲンタールの、水だ」。
——できないところから、できるようになった側。
六年間は、無駄じゃなかった。あの六年間ぜんぶが、誰かのための地図になる。
ティナは、顔を上げた。
「……やる。やりたい、です」
語尾が敬語になったのは、緊張のせいだ。
「よしっ!」
ピリカちゃんが、ぱあっと笑って、両手でティナの手を握った。
「じゃあ、今週末から! アリサも一緒だから!」
「あ、アリサ様も!? わ、私、そこまでちゃんとお話ししたこと、ないんだけど……!」
「大丈夫、大丈夫! アリサはね、見た目より、ずっと面白いよ」
それ、本人の前で言えるのかな——と思ったけれど、ティナは黙っておいた。
IRICさんより、高評価いただきましたー!
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