【てえてえ注意!】ホロライブ怪文書短編集です。   作:夏目陽光

12 / 16
【 大神ミオ七輪神饌餅焼絵巻 】

大神ミオ、配信を啓(ひら)く。其の声たるや、鈴の鳴るが如く、初春の微風の如し。 一息ごとに、視聴者の胸を温め、其の語り口、緩急自在にして、一唱三嘆の趣あり。 此の夜、ミオ、七輪を据えて餅を焼く。其の様、恰(あたか)も古典の如く、風雅なり。

 

大神ミオ、七輪にて餅を焼くの記

【其の一:点火と期待】

 

配信の幕、静かに啓(ひら)く。画面の向こう、ミオ、愛らしき黒髪を揺らし、耳をぴこぴこと動かして、まずは集える人々を笑顔にて迎ふ。 嬉しさを隠し切れぬが如く、上体を左右に優しく揺らす其の立ち姿、実に和やか(なごやか)なり。手元には、小振りの古き良き七輪(しちりん)を据え、炭の配置を丁寧に調(ととの)えたり。

 

「──ふぅ。…よし、焼くぞぉ!」

 

ミオ、一度大きく息を吸ひ、覚悟を決めたる如く、声を弾ませて曰く、 「諸君、見よ。今宵は七輪にて餅を焼かん。…んふふ、楽しみなり」と。 言い終えて、小さく両手を叩き(ぱちぱちと)、喜びを全身に漲(みなぎ)らせたり。

其の語気、甚だ和やかにして、我が家に満座の友を招き入れたるが如き温かみあり。 マッチを擦りて火を移す手つきは極めて丁寧にして、火の粉の爆ぜるを「わわっ」と小さく身を竦(すく)めて避ける仕草、実に愛嬌(あいきょう)に満ちたり。 一語を放ちては、期待に胸を膨らませて微かに息を調え、以て聴き手をその炭火の傍らへと惹き付けるが如し。

 

【其二:炭火の熱と餅の変容】

 

炭火(すみび)赤く熾(おこ)りて、網の上の白餅(はくへい)を包む。熱気、徐(おもむろ)に伝わりて、餅の表面、微かに乾き、やがて極薄き網目の焦げ目を刻み始める。香ばしき匂い、俄(にわ)かに立ち上る。

 

「…あ、見て見て! …ぷぅって、膨らんできた…っ!」

 

ミオ、声を微かに震わせ、息を呑みて(──はっ)凝視す。 前のめりになりて画面に顔を近づけ、己の尾(しっぽ)をせわしなく振るが如き躍動を見せたり。 網に接せし一角が、炭火の情熱に耐えかねたる如く、一気に「ぷぅ」と白く膨らみ、薄皮を破りて内なる餅の柔肌(やわはだ)を露(あらわ)にす。 其の拍子(ひょうし)、急に高まり、少女の如き無邪気さを帯びる。

言葉の合間、微かに「ははっ」と笑ふ声混じり、楽しげに肩を揺らす其の息づかいは聴き手の耳朶(じだ)を揺るがす。此れぞミオの真骨頂にして、声の響き、慈愛の情に満ち満ちたり。

 

【其の三:味付けの妙】

 

餅、黄金色(こがねいろ)に焼け極まり、芯まで柔らかに膨らみたり。ミオ、直ちにこれを食さんとす。

 

「…よしっ、…まずは、お醤油を…とろーり。…んで、きな粉を…たっぷり、ね?」

 

直ちに注ぎて醤油を、散ず黄粉(きなこ)を。

右手(めて)に器を持ち、左手(ゆんで)をそっと添えて、優しく手首を傾くる其の所作(しょさ)、極めて雅(みやび)なり。

 

生真面目なる手つきにて醤油を注げば、熱き餅の亀裂(ひびわれ)へと黒琥珀の雫が「とろーり」としなやかに吸い込まれ、炭火の名残に触れて「じゅっ」と激しく爆ぜ(はぜ)、芳醇なる焦げ醤油の香気を一瞬にして四方に放つ。

ミオ、その香りに思わず「わぁ」と目を輝かせ、手にしたる器をそっと傍らに置き、直ちに右手(めて)にて大ぶりの匙(さじ)を取りて、黄粉を「たっぷり」と振り撒けり。

香ばしく煎り上げられたる黄金の粉は、醤油を吸いて濡れたる餅の肌に吸い付き、しっとりと柔らかなる衣を纏(まと)ふ。甘味と塩気の調和、まさに絶妙なり。

 

此の「とろーり」「たっぷり」の語、己の手振りに合わせ、優しく円を描くが如く指先を動かし、言葉に合わせて首を小さく傾げ(かしげ)、聲音とりわけ優しく、延びやかにして、聴き手の脳裏に、芳しき香りと焦げ醤油の旨味を現出せしむ。 緩急は再び穏やかに戻り、恰も母の如き、包容力ある響きを湛(たた)ふ。

 

【其の四:至福の瞬間と愛飲の潤い】

 

ミオ、熱々の餅を箸にて持ち上げ、ふーふーと小さく唇を尖らせて(とがらせて)息を吹きかけ、口に運ぶ。

 

「──んむ。……ん〜〜〜! …ふふ、おいしいぃ…! 」

 

(…はぁ,幸せ、と吐息するが如し) 香ばしき薄皮の歯応えと、内なる濃厚なる餅の甘みが口中に広がり、醤油ときな粉の織り成す甘辛き抱擁に、五感すべて満たさる。 あまりの美味(びみ)に、ミオ、目を細めて満面の笑みを浮かべ、身体を左右に小さくステップを踏むが如く揺らしたり。

ここにおいてミオ、傍らに備えたる漆黒の器を手に取り、芳しき熱き緑茶(りょくちゃ)を傾く。両手にて器を包み込み、大切そうに口元へと運ぶ手つき、実にお淑やか(おしやか)なり。

 

「──んきゅ、…ぷはぁ. …やっぱりこれだよねぇ」

 

喉を鳴らして 潤(うるお)いを含(ふく)むや、茶葉の清々しき苦味が、餅の濃厚なる余韻と見事に調和す。其の「ぷはぁ」と漏らす吐息、まことに満足気にして、ふわりと上体を脱力させ、喉の渇きを癒したる歓び、声の端々に溢れたり。 一口ののち、深い満足の息(──ふぅ)が漏る。其の声の余韻、長くして美しく、配信の空間を暖気(だんき)にて満たすを見る。 調子は極めて緩やかになり、視聴者一同、其の幸福を共有せざるは無し。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。