【てえてえ注意!】ホロライブ怪文書短編集です。   作:夏目陽光

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かなルーナ編・後編

ゲームセンターの自動ドアを抜けると、夕方の少し冷たい空気が、火照った二人の頬を心地よく撫でた。

「のあぁー、メダル数えるの疲れたのら……。ルーナ、もうお腹と背中がくっつきそうなのらぁ……」

「あはは、あれだけ大騒ぎしてドヤ顔してたら、そりゃお腹も空くよ。じゃあ、すぐそこにあるファミレス行こっか。わたしがメダルバンクの登録手続きしてる間に、ルーナがアプリで近くの店舗探してくれてたもんね」

大きな通りに面した、どこにでもあるチェーンのファミリーレストラン。

二人は店内の最も奥まった、背の高い背もたれで周囲の視線が遮られるボックス席に滑り込んだ。ゲーセンの時と同様、声を潜めるための防衛策だ。卓上のタブレット端末を覗き込みながら、お互いの注文を決めていく。

「ルーナはねぇ、このハンバーグステーキと、フライドポテト! あと、ドリンクバーなのら!」

「じゃあわたしは……この和風ハンバーグ御膳にしよっかな。もちろんドリンクバーも付けて」

注文ボタンを押し終えると、二人は示し合わせたわけでもないのに、自然と同時に席を立った。

並んでドリンクバーのコーナーへと向かう。薄暗いゲーセンの中では一際目立っていたルーナのゴージャスなフリルワンピースと、かなたのラフなカジュアルジャージ。明るい店内の照明の下に並ぶと、その正反対な凸凹っぷりが改めて強調されるようで、かなたは(やっぱりちょっと恥ずかしいかも……)と内心苦笑いした。

かなたがグラスを取り、自身の好物である野菜ジュースのボタンを押す。

すると隣で、ルーナも全く同じタイミングでグラスを重ね、同じ野菜ジュースのボタンをぽちりと押した。いつものココアではないチョイスに、かなたは少し意外そうな顔をする。

「あれ、ルーナちゃん珍しいね。ココアじゃなくて野菜ジュースなんだ?」

「むぅ……かなたんが健康に良さそうなの選ぶから、ルーナもちょっと気になったのら。真似っこじゃないのらよ!」

ぷいっとそっぽを向くルーナ。かなたは「はいはい」と笑いながら、二つのグラスを両手に持って、お姫様を先導するように席へと戻った。

席に着くと、二人は少しの沈黙のあと、同時にグラスへと手を伸ばした。

お互いの動きが完全にシンクロする。

グラスを口元へと運び、ゆっくりと喉を潤す。こくり、と喉が鳴るタイミングまでが不思議なほどピッタリと重なっていた。

「ぷはぁ……。……ねぇ、かなたん」

「ん? なあに、ルーナ」

グラスをテーブルに置く小気味良い音まで綺麗に重なる。

二人の間で、無意識のミラーリングが起きていた。

ミラーリング――親しい間柄や、心理的な距離が極めて近い人間の間で、相手の仕草や行動が自然とシンクロしてしまう心理現象。配信中の画面越しでは決して見せることのない、完全なプライベートを共有し合っている二人だからこそ、呼吸を合わせるようにそのシンクロが深く、濃く、身体に染み付いている証拠だった。

ルーナは少しだけグラスの縁を指先でなぞりながら、上目遣いでかなたを見つめた。

「……今日のデート、楽しかったのら」

「え……?」

「ゲーセンでかなたんからメダルいっぱい毟り取ったのも、お菓子の王国が勝ったのも、ぜんぶぜんぶ楽しかったのら。だから……また、次のオフも、ルーナをどこかに連れていくのらね?」

さっきまでの勝ち誇った大富豪のドヤ顔はどこへやら。

少しだけ言葉の輪郭を甘えさせるように引きずる、ルーナ特有の、相手の庇護欲を容赦なく破壊するトーンだった。

かなたは不意打ちのその言葉に、一瞬だけ呼吸を詰まらせた。野菜ジュースのグラスを持つ指先が、ほんの少しだけ緊張で強張る。

「……うん。もちろん、約束だよ。次はわたしが勝つ計画、ちゃんと立てとくからね」

「ふふん、返事はよろしいのら! じゃあ、ハンバーグが来るまで、さっきのレースの反省会をするのらー!」

一転して、またいつもの無邪気なお姫様に戻るルーナ。

その姿に振り回されながらも、かなたは(あぁ、やっぱり勝てないなぁ)と心地よい敗北感に浸っていた。

運ばれてきた湯気立つハンバーグを前に、二人は再び同時にナイフとフォークを手に取る。その完璧なシンクロに、今度はお互いに顔を見合わせて、喉の奥で小さく「ふふっ」と笑い合うのだった。

その夜、限界オタクたちが特定班として「今日の二人の行動ルート」を血眼で解析している裏で、二人のメッセージアプリには「次のオフの作戦会議」という名前のグループが、ひっそりと作られているのだった。

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