『デーモンを殺す者』の帰還 ~SAO・偽伝~   作:ネイキッド無駄八

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一応、プロローグというか、プレストーリー?的な話になります。
では、はじまりはじまり。


ソードアート・オンライン ~世界の寄る辺となりますように~
四十四のウォークライ


 「攻撃、開始!!」

 

 号砲一喝。

 青髪の指揮官、ディアベルの叫びと共にその戦の狼煙は上がった。

 

 「おおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ディアベルの号令によって鼓舞された戦士たちもまた、一斉に鬨の声を上げて突撃を敢行する。

 総勢四十四人の戦士たちは皆、帯びた武器も身につけた鎧も、背格好も年の頃もバラバラで、統一感など何ひとつとしてなかった。バラバラの軍団は、しかしその意気は揚々とただ一つの目標へ向けて疾駆する。

 

 「グルォオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 そんな戦士たちを迎え撃つのは、赤く巨大な獣人の王と、王を守護する三匹の近衛。

 敵愾の意に満ちた赤き眼光を放つ亜人の王は、二メートルを優に超えるその体躯に見合った巨大さを誇る骨の荒斧を振りかざして、闘争心も露わに前へ前へと駆ける。

 王に先行して駆ける近衛は、王を守護するという己の役目を体現したかのような物々しい鎧に身を固め、眼前に得物である棍棒を構え、あくまで王に先んじる。

 浮遊城アインクラッド、第一層迷宮区ボスモンスター『イルファング=ザ=コボルドロード』、その取り巻きモンスター『ルインコボルド=センチネル』は、完璧なフォーメーションで戦士たち目掛けて猛走する。

 

 『勝とうぜ!』

 何もかもがバラバラの四十四人の戦士たちに向けて、戦の前に彼らの指揮官である青髪が掲げた言葉。

 それに応える思いは四十四人の誰ひとりとして違うことはなく、そして今、四十四の雄叫びはひとつの軍団――レイドとなって勝利へ向かって突き進む。

 

 「おおおおおおりゃあああ!!」

 

 突撃する戦士たちの先頭で一番槍を務めるイガグリ頭の男、キバオウが雄叫びと共に振りかぶった一撃が、コボルドの近衛センチネルの棍棒とかち合い、この戦闘で初めての剣戟が鳴り響いた。

 

 かくて、ここに迷宮区第一層攻略戦、初の大型レイドバトルの幕は上がった。

 

 ――――――――――

 

 

 (この調子なら、いける……!)

 

 剣戟の火花が激しく散り、敵も味方も誰も彼もの怒号が飛び交う戦場、その一角。

 眼前に迫り来るセンチネルの棍棒の一撃をいなし、体勢を崩したセンチネルへの追撃のため後ろに控えていたパートナーとの位置取りの切り替え――スイッチを行いながら、どことなく女性的なルックスでやや線の細い片手剣使いの男プレイヤー、キリトは内心に高揚を得ていた。

 フロアボス攻略戦が始まってからいくらか時間が経過したが、今のところ戦いの流れは攻略隊にあった。

 レイドを指揮するディアベルの采配は見事であり、彼の指示に従って己の役目を全うするプレイヤーたちの士気にも、未だ翳りは見られない。総じて、良い流れだとそう言って良いだろう。

 6つの隊によって編成されたレイドは、担う役割によって更に2つの群に分かれている。

 A、B、さらにディアベルの属するC隊の3つは、最前線でコボルドロードと直接殴り合う役。  

 残るD、F、そしてキリトの属するE隊の3つは、コボルドロードの取り巻きであるセンチネルの注意を引きつけ、コボルドロードと戦うA、B、C隊の立ち回りを助ける後方支援部隊の役を担っていた。

 

 「三匹目…!」

 

 眼前では、キリトと入れ替わる形でセンチネルの前へ躍り出た彼のパートナー、アスナの凄絶な速度による細剣ソードスキル、リニアーが流星の如くセンチネルを一閃、ポリゴン片の爆散へと変じさせていた。

 その剣捌きは流麗であり鮮烈。恥ずかしながらSAOでも随一だろうと自負する己自身の技前と比較してみても、その冴えは見事の一言に尽きた。一切の無駄なく繰り出された技の切れは抜群であり、その手並みにキリトは素直に賞賛を禁じ得なかった。

 

 「グッジョブ……!」

 

 静かにパートナーを讃えた後、キリトは自分たちから少し離れた位置にて戦う、前線組の様子を窺う。

 

 「グォオオオオオオオオ!!」

 

 見ればボスであるコボルドロードの残りHP量を示す4本のバーの内、最後の一本が半分を切ろうとしていた。卓越したディアベルの指揮により、ボスとの長い戦いもいよいよ終盤に差し掛かろうとしていたのだった。

 

 「グルルルルルルル……」

 

 赤き獣人の王は、両の手に握られていた荒斧と、革張りの円盾を投げ捨て、低く唸りを上げる。

 

 (よし、ここまではベータテストの時と同じみたいだな……)

 

 無手になったコボルドロードの様子を、キリトは注意深く観察していた。

 第一層フロアボスであるコボルドロードは、まだこのSAOがゲーム内での死イコール現実世界での肉体の死を意味してはいなかったころ、ベータテストの時代にも変わらず第一層で冒険者たちを待ち構えていた。

 ベータテスト当時、かのモンスターの行動ルーチンには『残り体力が少なくなると、武器を持ち替える』というものがあった。それまで携えていた荒斧と円盾から、両手持ちの曲刀であるタルアールへと装備を変更する、という攻撃パターンの変化である。

 どうやら、デスゲームと化した今に至ってもそのAIに変わりは無いようだった。

 事前情報通りのボスの行動に、キリトを始め攻略パーティの戦士たちは皆、比較的冷静に事の成り行きを注視していた。

 

 

 「下がれ! 俺が出る!」

 

 突然、静観していた戦士たちの中から、指揮官であるディアベルがひとり、コボルドロードの前へと突出した。コボルドロードの目はディアベルに向けられ、迎え撃つようにディアベルの構える長剣にもソードスキルのアジャストを意味する黄色の光輝が纏われる。

 おかしい、とその振る舞いにキリトは奇妙を覚えていた。

 ボスのHPは残り僅かであり、この状況ならパーティ全員の総力を集結し、一斉に叩くのが常道であり、それが最も効果的な一手であるはず。これまで実に合理的に戦いを推し進めてきた彼が、ここに来て不可解極まりない手を打ってきたことの意味を、しかしキリトは理解した。

 

 (ラストアタックボーナス……!)

 

 刹那、こちらを見ていたようなディアベルの視線に込められた意図と、一見血迷ったかのような行動の真意。

 それがボスにトドメの一撃を加えた者のみが得ることのできる褒賞である、ラストアタックボーナス、通称LAを得るためのものであることを、ベータテスト経験者であり、図らずも何度か己もLA獲得を成したことのあるキリトは悟っていた。

 自らこのレイドの指揮官を買って出たこと、そしてこの場での行動から、キリトはこの青髪の騎士が自分と同じベータテスト経験者、ベータテスターであること、またその彼がLAについてを一切伏せたまま自らがその恩恵に預かろうとしていることまで思索し、キリトはディアベルに待ったをかけようとした。

 コボルドロードはたしかに武器を持ち替えようとしてはいるが、それがベータの時と同じタルアールである保証はないのだ。それがはっきりしないこの状況で打って出るのは、あまりにもリスクが高すぎる、とそう判断してのことだった。

 

 しかし、その憂慮は彼の、そしてこの場に居合わせた全員の想像を遥かに上回る事態によって、無惨に打ち砕かれることになった。

 

 

 

 「グ……ガァァアアアア……!!」

 

 「な、なん……だよ……これ……」

 

 

 

 キリトの眼前で、崩れ落ちる影はふたつ。

 ひとつは、コボルドロードの新たに持ち替えた武器、長大な刃渡りを誇る恐ろしい得物、『()()()』による一撃を受け、倒れ伏すディアベルの姿。

 

 そしてもうひとつは、野太刀を振りかぶった姿勢のまま、背中から巨大な()()()()を生やして膝をつく、イルファング=ザ=コボルドロードの姿だった。

 

 「な、なんやコレ……? なにが起こっとるんや……?」

 

 「どういうことだ? 前情報と違う……というよりも、こんなことが有り得んのか?」

 

 キリトの耳には、目前で起こっている出来事に、理解が追いつかず呆然としたキバオウと、彼よりはいくらか落ち着いてはいるものの、やはり困惑を隠しきれていない大柄スキンヘッドの斧使いエギルの呟きが漏れ聞こえてきた。

 動揺しているのは彼ら二人だけではなかった。

 それまでディアベルの的確な指示により、危なげなく戦いを進めてきたレイドメンバーもリーダーの突然の負傷、更に計画には含まれていなかった不測の、そして異常な事態に対し、どうすればいいのか分からずにオロオロと立ち尽くすのみだった。ここに来て、急遽集められた攻略パーティの脆弱さと、それを見事に束ねあげていたディアベルの手腕が立証されたことは、皮肉と言わざるを得ないだろう。

 

 (マズイぞ……この状況、危険すぎる!!)

 

 そして動揺しているのは、キリトもまた同じだった。

 目の前の事態に対し、現在の状況は極めて危うい。

 指揮官であるディアベルが倒れ、指示ができる人間が居ない現状、レイドはその機能を成さない正しく烏合の衆と化している。あまりに異常すぎる事象に対して、誰もが停止してしまっているため今は何も起こってはいないが、ひと度パニックが起こればレイドの総崩れは避けられないことは明白だった。

 さらに危険なのは、とキリトはこの場で最大の異常である、原因不明のダメージを受けたコボルドロードを見やる。

 背中から槍の一撃を受け、地面に縫い止められる形で膝をついているコボルドロードが、いつ暴走するか分からないというのも一応はある。しかし、その可能性は極めて低いだろう。

 

 「グ…………ア………アァ……」

 

 もはや虫の息といった体のコボルドロードのHPゲージは、残り少ないその残量をみるみる内に減らしている。身体を深々と抉り貫いている槍による、継続ダメージがその原因だった。凶悪なそのビジュアルに違わない空恐ろしいスリップダメージが、獣人の王の命を削り取っていく。

 それを横目に、キリトは倒れ臥しているディアベルの元へと駆け寄った。

 

 「く……つッ…………」

 

 痛みをこらえるように呻くディアベルのHPゲージは、残酷な速度で減少していく。

 どうやら傷は相当以上に深いらしい。

 キリトは急いでイベントリを開き、ポーション瓶を取り出し治療に当たろうとした。

 

 「どういうことだ……ベータの時とは、違う仕様……?」

 

 どこを見ているかも分からない、焦点の定まっていない虚ろな目のディアベルは呟く。

 

 「喋るな! 今、ポーションを……」

 

 ポーション瓶を取り出したキリトは、封を切ってディアベルに含ませようとしながら、思考をフル回転させていた。

 まず、ディアベルの負傷。

 原因はベータテストの時とは違うコボルドロードの得物、野太刀によるもの。

 先走りが過ぎたディアベルの行動が招いてしまった結果ではあったが、彼にも何か思うところがあったのだろう。でなければ、こんなハイリスクな賭けに打って出はしまい。

 次に、コボルドロードの槍による負傷。

 原因は、背を貫く長大な槍。

 当然、プレイヤーによるものではない。槍使いはレイドの中にも何人か在籍してはいる。しかし、事前のブリーフィングで確認した彼らの装備と、コボルドロードの背から生えている長槍とそれらはまるで一致しない。どころか、あんな凶悪なビジュアルの槍、キリトはSAO内で今まで一度も目にしたことはなかった。

 いったいあれは、と思ったところでキリトは、はっとあることに気づいた。

 

 「あの槍の仕手は、いったいどこに……!?」

 

 その答えを探そうとしたキリトの前に、しかしそれは唐突に、そして酷薄に提示された。

 

 

 ドズッ、ドズドズドズ

 

 

 「ガアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 眼前で虫の息のコボルドロードの背に、さらに幾本もの長槍が突き刺さった。

 無惨な槍衾と化したコボルドロードは、ついに断末魔の叫びを上げ、ポリゴンの爆散と化して消え失せた。

 

 「な………!?」

 

 スリップダメージで消滅したのではない。さらなる槍の殺到、明確な殺意によるもの。

 瞠目するキリトの前に、驚愕はさらに追い討つ。

 

 「あ……………」

 

 倒れ伏すディアベルの胸に、槍の柄が生えていた。

 それは、コボルドロードを絶命させたものと同じ槍。

 愕然とした思いでディアベルのHPゲージに目を向けたキリトは、絶望的な現実を目の当たりにした。

 ポーションで回復を始めていたディアベルの残り僅かなHPが、一気に削り取られていく。

 

 「そんな…………」

 

 呆然と眺めるキリトの前で、ついにディアベルのHPゲージの残量が底をつき、数値は「0」を示した。

 最後の表情は、悔恨の色だった。道半ばで散ることが、よほど無念だったのだろう。

 その目はしっかりとキリトを見据え、何かを伝えんと訴えかけていた。

 

 「みんなを、頼む」

 

 あるいは空耳かと紛うほどにか細かったが、たしかにキリトの耳は、彼の最期の台詞を捉えていた。

 そして、ディアベルもまたポリゴンの欠片となって飛び散っていった。

 

 「ディアベル………!」

 

 灰のように儚く散っていくポリゴンは、掴もうと伸ばしたキリトの掌の中を無情に零れていった。

 人は、これほどあっさりと消えてしまうものなのか。

 こんなに安っぽい子供騙しの輝きが、生命の輝きであって許されるのか。

 嘆き悲しむ余裕は、しかしキリトには許されなかった。

 

 「ちょっと、あれ………!!」

 

 息を呑むアスナの声に視線を上げたキリトの前に、()()はあった。

 

 

 そこにあったのは、ひとつの『軍隊』だった。

 一見すると黒い小山が蠢いているかのようなソレは、盾と槍を携えた黒いスライムのようなモンスターの集合体であり、小山の表面は何十体ものスライムにびっしりと、隙間なく固められていた。

 コボルドロードを、そしてディアベルを絶命させた槍と同じものを装備したスライムたちは、小山の表面からうち何匹かを剥がれ落とし、小山の前に立ちふさがるかのように陣形を敷いた。

 盾で前を完全に固め、槍を物々しく突き出したスライムたちの姿は、まさしく古代バビロニアの兵士たちが用いた密集陣形、ファランクス方陣そのものだった。

 

 「『Phalanx』………!? こんなモンスター、今まで見たことないぞ……!?」

 

 デスゲームに放り込まれてから、そしてベータテスト時代も含め、キリトはこのファランクスと名付けられたモンスターを見たことも聞いたこともなかった。

 無論、コボルドロードのAIに変調が見られた以上、新たなモンスターがボスとして立ちはだかるであろう可能性も大いに有り得ることだ。

 

 しかし、眼前の敵は『何かが』違う。

 キリトとて伊達に今までデスゲームをくぐり抜けてきたわけはなく、これまでにも何度か『死』の危険と直面し、なんとかそれらを乗り越えてきた。

 修羅場を生き延びたことで、多少のことでは動揺しない度胸も身につけてきたつもりだった。

 だが、今目の前にいるこのファランクスというモンスターが、キリトは恐ろしくて仕方が無かった。

 それは、先程まで戦っていた獣人の王たちと相対した際の、手に汗握る緊張感とはワケが違う。

 

 濃厚な『死』が、撒き散らされる『死』が、口を開けた『死』が、これ以上ないほどに明確に現出している『死』が、キリトから身動きを奪っていた。

 彼だけではない。

 彼の横に立ち尽くしたアスナも、口を開けたまま硬直するキバオウも、歯噛みするエギルも、攻略組の皆も。

 ここに存在するあまねく誰もが『死』の軍隊を前に、動作することを奪われ、迫り来る『死』に足を取られ、槍衾の贄となるのを待つばかりだった。

 

 ファランクスが、一斉に槍を水平に構える。

 突撃の構えを取ったファランクスから、槍の嵐が殺到せんと迫り――――

 

 

 

 

 「ボォオオオオオレェタァアアリァアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 ―――裂帛の気合と共に駆け抜けた突風が、キリトに肉薄していたファランクスの槍を轟然と叩き伏せ、キリトの横を通り過ぎアスナへと向かった槍も、まとめて一挙に吹き飛ばした。

 

 「んなっ…………!?」

 

 途端、どっと冷や汗が背を伝い、緊張の糸が切れたことでへたり込みそうになったキリトは、ファランクスと己との間に割って入り、彼の命を救った闖入者の後ろ姿を目の当たりにした。

 

 身を包むのは質素なプレートアーマー。くすんだ様な色合いのそれは卸したての新品にはありえない年季を感じさせる代物であり、長く使われてきた代物だということが見て取れた。

 小柄なキリトとは違い長身の部類に入るその体格は頼りない印象とは遠く、無駄なく鍛えられているその体躯は筋力ステータスのような目に見えない数字とは違い、雄弁に力強さを物語る。

 兜は装備しておらず、長めの髪が後ろで縛られまとめられていた。

 その手に下げている得物は、長槍の穂先に斧の刃を取り付けた斧槍、俗に言う『ハルバード』と呼ばれる武器であり、油断なくハルバードを両手に構えるその立ち姿は隙が見当たらず、闖入者がかなりの使い手であることをキリトは察した。

 

 ぼんやりとその様子を観察していたキリトの方に、闖入者は振り返り視線を巡らせる。

 その容貌は精悍な面立ちの青年であり、意外なことにキリトたちとさほど年が離れているとは思えないほどの年若さだった。

 キリトとアスナを確認するように見回した後、更に彼らの後方へと視線を投げかけ、低音だがよく通る声で言葉を投げかけた。

 

 「いいぜ、オストラヴァ! 冒険者たちを連れて後退してくれ! 時間を稼ぐ!」

 

 どうやら誰かに指示を出していたらしい。オストラヴァという聞きなれない名前から察するに、攻略組のメンバーでないことは明白であり、闖入者の仲間か何かへのものだったようだ。

 その発言の内容に対し、キリトは思わず闖入者へと疑問をぶつけていた。

 

 「お、おい! アンタ、時間を稼ぐって、あいつら相手に、ひとりでか? 無茶だ! 危険すぎる!」

 

 至極もっともな意見に対し、闖入者はじろりとキリトを見つめ、それからニヤリと口端を歪めさせた。

 

 「お気遣い、たいへんありがたいがね。お前が真に心配すべきなのは、オレのことじゃあないだろう?」

 

 「なんだって?」

 

 どこか悪戯めいた調子で告げられた闖入者の台詞を反芻し、キリトは彼が何を言わんとしているかをなんとなく理解した。

 

 「まずは己の身を守れって、そう言いたいのか?」

 

 「半分、正解だ。もう半分は、傍らのレディでも見て考えるんだな」

 

 それを聞き、完全に得心が行ったキリトは斜め後ろに振り返る。

 

 「れ、レディって……」

 

 そこで頬を引きつらせていたのは、何かの拍子で吹き飛ばされたのか、被っていたフードが落ち素顔を露わにしたアスナだった。

 女性であることにはプレイヤーネーム等から薄々気づいてはいたが、いざその素顔を拝んでみれば、可憐な雰囲気漂うかなりの美少女であることが発見できた。

 こんな非常時でありながら場違いな思考に囚われつつあったキリトに、ニヤリ顔のまま闖入者が言葉を続ける。

 

 「そんだけ鼻の下伸ばせてりゃ、まだまだ大丈夫だろう。ここはいいから、オレに任せて下がってな」

 

 「失礼なこと言うな! 鼻の下なんか伸ばしてない!」

 

 「まぁまぁ。いったん、ここは大人しく撤退するのを優先させてもらっても構いませんか?」

 

 憤慨して反論するキリトに対し、既に後ろに後退しつつある攻略組の方向から、礼儀正しい印象を受ける落ち着いた青年の声が聞こえてきた。

 見れば、全身を騎士の鎧とそう形容するのがしっくりくる、フリューテッドアーマーと呼ばれる鎧に身を包んだ男がキリトたちの方へと歩み寄って来ていた。

 堅牢で、ともすれば地味な見た目のその鎧とは打って変わり、左の腕には繊細な装飾を施された黄金の盾を、右腕にはこれまた華美な装飾があしらわれた黄金の剣を携えたその騎士は、言うなればおとぎ話の中の英雄、勇者のようにも感じられる。

 

 

 「おう、オストラヴァ。冒険者たちの退避は済んだか?」

 

 「完全には行きませんでした。目下、ファランクスの攻撃が届かない位置に誘導しただけです。原因ですが、私たちが入ってきた扉が内側から封鎖されています。間違いなく、デーモンの霧の封印です」

 

 「なるほど。つまりこいつを倒さなきゃ、あらゆることの埒があかないってワケか」

 

 「そういうことでしょうね」

 

 どうやら、この若い騎士がオストラヴァというらしい。

 キリトは、今度こそアスナと共に後ろに下がりながら、彼らに問いかけた。

 

 「……本当に、大丈夫なのか?」

 

 その問いに対し、闖入者はフンと笑って前に向き直るのみで、若い騎士は頷いて答える。

 

 「たしかに、あのファランクスというデーモンは難敵です。我々では、果たして勝てるかどうか。ですが彼は私たちに、任せろとそう言っています。ならば、私は彼に賭けてみようと思います」

 

 「デーモン……?」

 

 落ち着いた様子の騎士――オストラヴァの言葉を聞きながら、キリトは目の前で死の一個軍隊と真正面から向かい合う、ハルバードを携えた闖入者の後ろ姿を見た。

 

 「彼なら、ベルモンドならば、きっとなんとかしてくれるはずです。信じましょう」

 

 オストラヴァの言葉と時を同じくして闖入者――ベルモンドは、槍を一斉に構え盾を翳すファランクスへと向けて、勇猛果敢に突っ込んでいった。

 

 

 

 「らああああああああああああっ!!!!!」

 

 

 

 

 




ソウルを捧げよ!(使命感)

あ、ちなみにこの作品ですが、勢いで書いたサブであり、自分としてはメインはパズドラの作品のつもりです。
ただ、こっちのほうがアウターがあるからとても書きやすかったです。
原作って偉大。

ではまた次回。
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