『デーモンを殺す者』の帰還 ~SAO・偽伝~   作:ネイキッド無駄八

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今回は作者謹製のオリキャラ、『戦乙女』の登場です。
……しかし、書いていくにつれて、キャラの迷走ぶりに四苦八苦することになりました。
やはり無から有を生み出すのは難しいです。
では、はじまりはじまり。



戦乙女は月下に舞う

 火花が散る。

 

 左で、右で。頭上で、足元で。遠くで、近くで。

 

 休みなく、間断なく、途切れることなく、散り続けて咲き続ける。

 

 

 

 「そこ!!」

 

 

 

 鋭い叫びが飛ぶと共に、火花は更に速度を上げて絶え間なく閃き踊り始める。

 

 鉄の花咲くその向こう側には、爛々と目を輝かせるひとりの戦乙女。

 

 その火花に、その眼光に、魅入られたら終わりだ。

 

 胸の内で考えつつも、手は決して休めることなく火花を捌き続ける。

 上がった火花のペースに合わせ、こちらもハルバードの回転を上げて応じながら、ベルモンドは新たな思索――それほど大仰なものではなく、そう、言うなれば湧き上がったぼやきを、声を出さずに呟いた。

 

 

 何だってこんなことに、と。

 

 

 

 ―――――――――――――

 

 遡ること、一時間弱。

 時刻にして、およそ21時を少し回った頃だったか。

 あたりはもうとっぷりと夜の色に沈んでいた。

 街でもいくつかの建物は既に明かりを消し、いくつかの建物から明かりが僅かにもれ出てくるだけで、プレイヤーはおろかNPCですら街路では滅多に見かけない。

 良い子ならずとも、アインクラッドではもうすっかり『寝る時間』なのだ。

 

 いわんや街の光から離れたここ、迷宮区などはもはや完全に『魔境』である。

 百歩譲って、先の見えない真っ暗闇なのはいいとしよう。

 全く良くはないが、いいとしておこう。ダンジョンによっては篝火が据えられているなどして、夜でもさほど暗くは無かったりすることが結構あるからだ。

 明かりを準備し、さて踏み込もうとすると、次に驚かされるのは昼間とは全く異なるダンジョンの様相だ。

 特にそれが顕著なのは自然系ダンジョン、とりわけ森林や渓谷の類だろう。

 仮に、真夜中の森に入ったことがあるならばそれを思い起こしてほしい。

 耳が痛くなるほどの気味の悪い静寂と、その静寂をBGMに前触れもなく唐突に聞こえてくる得体の知れない物音。

 周りに人は居ないはずなのに、何故か時折背中に感じる正体不明の視線。

 周囲でざわめく木々でさえ、自分を見て笑い声を上げているかのような奇妙な錯覚に襲われるだろう。まさに人外魔境だ。

 そんなところに好き好んで出向こうとする者はそうそう居ない。

 例を挙げるとするなら、人が少ない夜間に熱心にレベル上げに励む攻略組の戦士たちがそれに当たるのだろうが、その彼らにしても何人かのパーティーを組み、尚且つ安全マージンが確保できるような、いわゆる『狩場』でそれを行うというのが絶対の前提だ。

 

 こんな夜更けに、マッピングすらロクに為されていない森林系ダンジョンに、ましてやたった二人で乗り込もうとする者など、正気の沙汰では無いのだ。

 そう、正気の沙汰では――――

 

 「無いんだよなぁ。これが………」

 

 「文句が長いですよ、ベルモンド。口より足を、舌より目を動かしてください」

 

 ぶーたれるのはハルバードを担いだ青年、ベルモンド。

 やんわりと、それでいてぴしゃりと彼の不平を窘めるのは全身をかっちりと鉄の鎧で覆った騎士、オストラヴァ。

 

 浮遊城アインクラッド迷宮区第26層外れ、『月光の森』。

 墨をぶちまけたかのような真っ暗闇の中、木々の合間、手に提げた心細い明かりひとつだけを頼りに進んでいく人影がふたつ。

 

 「全く、何が悲しくて野郎と二人でナイトウォークせにゃあならんのだ。最悪だぜ、最悪」

 

 「麗しいレディでなくて申し訳ありませんが、いい加減観念したらどうですか。これはあなたにも害どころか益をもたらす行いなんですから」

 

 「いちいち言われんでも分かってるよ。ケッ、面白くねぇ……」

 

 ぶつぶつと悪態をつき続けるベルモンドと、それを半ば聞き流しながら先導するオストラヴァ。

 月の光も届かない鬱蒼とした森を、二人の戦士は闇を掻き分け進んでいく。

 光を放つ鉱石――『ソウルの輝石』をかざしたベルモンドは、そのわずかな明かりを頼りに周囲を一望し、先を行くオストラヴァに訝しる様に尋ねる。

 

 「しかし、本当にあるのか? 『アレ』が」

 

 「その話なら、あらかじめ言っておいたじゃありませんか。私は既にこの目で確認しました。間違いないと思います」

 

 「見間違いじゃあ無いのか? この世界はオレたちが居たボーレタリアとは違うんだぞ。実際、『アレ』の役目を果たすアイテムなら、既にもう存在してるじゃねぇか」

 

 ベルモンドの言葉に、オストラヴァは振り返らないままに答える。

 

 「たしかに、その可能性もあるでしょう。しかし、その逆もまた、あってもおかしくはありません。それに、私はこのことに関する裏付けを取るためにアインクラッド中を回れるだけ回ってみました。結果から言えば、確認が取れたのは今のところこのエリアだけなのです」

 

 「ふぅむ。どこにでもお目にかかれるわけじゃないから、今まで見かけなかった、ってか? まぁ、たしかにこいつは店なら大抵どこでも売ってるからな。わざわざ『アレ』を探すまでもないってことか」

 

 アイテムストレージから『ポーション』の瓶をひとつ取り出して弄びながら、ベルモンドは得心がいったように頷く。

 ちゃぽん、と目の前で揺り動かしてみると、瓶の向こう側でオストラヴァがこちらに振り返っているのが見えた。

 

 「そして、『アレ』の存在を知る者は、現在アインクラッドには片手の指に収まるほどしか居ない。時が経てばいずれ目聡い誰かが気づき始めるでしょうが、それにはまだ、少し早い」

 

 「だから、お前ひとりであちこち嗅ぎまわってたと。ついでに、鼠の情報屋に協力を仰がなかったのも、それが理由か?」

 

 「ええ。彼女はとても優秀ですが、それゆえにもし彼女を介せば、この情報はアインクラッド全域に瞬く間に拡散するでしょう。そうなれば、彼らの間に混乱は避けられません。無用の争いを産む前に、まずは我々で事の真偽を見極めるべきです」

 

 「常々思ってたんだが、お前って存外悪い人間なのかもな。慇懃ぶりやがって。もしや、権益を独り占めする腹積もりなんじゃあないだろうな?」

 

 「ならばなおのこと、誰にも明かさずひとりでここを訪れるのが筋でしょう。こうして不満の嵐をぶいぶいと吹かせるあなたを連れ回すのは、正直かなり面倒くさい。私も、早々に切り上げてしまいたいところなのです」

 

 「けっ、違いねぇ」

 

 鬱蒼とした森に、笑い声がふたつ木霊する。

 それからもしばらく、あることないこと、よしなしごとを何とはなしに話し続けて歩き続けてしばらく、ついにオストラヴァはその歩みを止めた。

 

 「到着しました。ここです」

 

 「ほぉ……こりゃあ」

 

 

 

 闇が、拓けていた。

 

 それまで背高く林立してそびえ立っていた木々が構成していた黒を、そこだけぽっかりと切り抜いたかのような空白、エアポケットがそこにはあった。

 ある種、人口なのではないかと思わせる程に唐突に現れたその空漠は、一軒家なら優に3つ、いや4つは収まろうかというほどの広さがあり、そこには森の全域を覆い尽くしている背の高い樹、『ノクターン』が一切生えていなかったのだ。

 切り株のひとつに至るまで『ノクターン』が存在しないのが原因だろう、それまでずっと黒く塗りつぶされていた頭上の空も、今や全天がまるごと開いたオールビュー。

 散りばめられた星々と浮かんだ月の光がしっとりと広場を濡らしており、なんとも幽玄たる雰囲気がそこには醸し出されていた。

 

 月光降り注ぐ妖精の踊り場、とでも言えばその神秘的な光景の十分の一はひょっとしたら説明できるやもしれない。

 それほどまでに、名状しがたい圧倒的な光景がそこにあった。

 

 「この森の名前を始めに聞いた時は、いったいどういう皮肉なんだと思ったもんだが、なるほど。悪くないじゃないか」

 

 「ええ。一周回って、余計に皮肉な話です。さぁ、目当ての物はあちらにあります」

 

 降りしきる月のシャワーの中を、甲冑の騎士が迷いのない足取りで進む。

 未だ物珍しそうに其処此処をきょろきょろと見晴かしながら、ハルバードを担いだ青年もそれに続く。

 二人の間に言葉は交わされない。

 木々のざわめきも遠く、夜風すら鳴りを潜めたかのように凪いだ空漠。

 しんしんと降り注ぐ月光の中、草を踏みしめる足音だけが、しばし静かに響いた。

 

 ひとしきり歩いた後、広場のとある一角で甲冑の騎士は足を止め、そこに無言で佇んだ。

 青年も立ち止まった。騎士と並び、そこにあった『モノ』をただ無言で眺める。

 しゃがみこみ、『ソレ』に顔を寄せたオストラヴァが、強く確信するように頷いた。

 

 「どうです? 自分の目で見て、納得しましたか。このとおり、この場所で自生しているのですよ」

 

 「ふん。疑いようもないな。こりゃあ間違いない。驚きだよ、随分と粋なことしてくれるじゃないか」

 

 ベルモンドも喉から唸るような音を上げて同意する。

 なおも矯めつ眇めつして『ソレ』を観察しているオストラヴァに、それで、とベルモンドは尋ねる。

 

 「どうするつもりだ。よもや、根こそぎ刈っていくなんて真似はしないよな?」

 

 「さて、それはそれでひとつの手ではあるでしょう。しかし、それはあまりに性急すぎるというもの。決断には熟慮の上の熟考が必要です」

 

 どうだかな、と白々しそうに呟いた青年。

 考え込むかのように俯くオストラヴァを尻目に、ベルモンドは欠伸をしいしい満天の星空をぼうっと眺めた。

 心洗われるような、とはこういう景色のことを言うのだろう。

 月を見上げ、傍らに居ない彼女のことを思う。

 連れてくればよかったかな、と心の隅で青年は少しだけ後悔を覚えた。

 

 「まぁ、どうせ見えはしないだろうけどな……」

 

 何か言いましたか、とオストラヴァが尋ねるのを聞き流し、ベルモンドは不乱に空を見上げ続けていた。

 物思いの海に耽っていたベルモンドの思索は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこな殿方お二方! ちょっとお時間、よろしいかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 月の静寂(しじま)を破って響く、凛と澄んだ声音によって現実に引き戻されたのだった。

 

 「おや。こんな素晴らしい月夜に、こんな素敵なレディとお目見え出来るとは。この月と、貴女に感謝を。こんばんは、麗しいレディ」

 

 立ち上がり振り返ったオストラヴァが、気取った台詞と共に一礼する。

 声の主は、いやですわと頬に手をやって応えを返す。

 

 「そのような美辞麗句、身に余りますわ。わたくしは麗しいなどという言葉とは程遠い、粗野で野蛮な女ですゆえ。仮にそう見えたのなら、きっとこの月の光がそうさせたのでしょうね。この月と、貴方に感謝しますわ。慇懃な騎士様」

 

 こちらも気障な言い回しで一礼した声の主は、凛とした調子を崩さずに言葉の矛先を変えた。

 

 「それで、いまだに顔も見せてくださらないそちらのお方? あなたは何か、気の利いたことは言ってくださらないのかしら?」

 

 「あん?」

 

 矛先が自分に向いたことを感じたのか、面倒臭そうに声の主を振り返ったベルモンドは、フンと鼻を鳴らす。

 

 「気の利いたことだぁ? かゆくなるようなお世辞なら、さっきそこのそいつがさんざっぱら奉ったじゃねぇか。それとも、まだ足りないってか? ったく、見上げた奴も居るもんだな」

 

 思索を邪魔されたからか、幾分か喧嘩腰のベルモンドに声の主はあらあらと笑む。

 

 「騎士様とは大違いの、無作法なお口ですこと。育ちの違いがモロに見えるようですわ。でもまぁ、実のところわたくしもかなーり痒かったので、あまり人のことは言えませんわね。騎士様は好感が持てますが、どうやらあなたのほうが信用には足るようですわね」

 

 これはこれは、と恐縮するように仰け反るオストラヴァに、相変わらず不機嫌そうなベルモンド。

 そして、何が面白いのかクスクスと笑む第三の女。

 夜の帳の月の下、集った三者の間に奇妙な空気が生まれ始める。

 それを破るように、ベルモンドは口火を切った。

 

 「もう面倒くせぇのはナシでいこう。あんた、オレたちにいったい何の用だ」

 

 問われた女が、一歩を前に踏み出す。

 降り注ぐ月光の元、その立ち姿が明らかとなった。

 

 年の頃はベルモンドやオストラヴァよりも少し若い、女性という領域にもう手が届きそうな少女。

 大人びたその印象を引き立たせる、女性にしては高めの160後半ないし170弱の背丈。

 すらりと伸びた手足は華奢な印象とは遠いシャープな輪郭を描いており、毅然とした立ち姿勢も相まって、武道の心得があることを証左している。

 月の光に美しく流れる髪は、腰まである見事なプラチナブロンド。

 慎ましやかな唇と、凛と前を見る黒曜石の瞳が目を引く、しなやかな強さを備えた貌。

 その美貌とは裏腹に、戦いの傷も生々しいハードレザー、女性が佩くにはやや武骨なブロードソード、背に負われたラウンドシールドと、身につけた装備はひたすらに実戦本位な華やかさとは対極の代物。

 強さをもって、美しさと為す。

 さながら戦乙女の如きその少女は、花が咲いたかと思われるほどに顔を綻ばせて笑みを深める。

 さも楽しげに、さも待ち望んでいたかのように、戦乙女は指を突きつけて高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 「わたくしと、踊りませんこと?」

 

 

 

 

 

 ―――――――――――

 

 

 まったく、淑女ぶりやがって。とんだじゃじゃ馬も居たもんだ。

 これのどこがダンスなものか。頭蓋の中にカニ味噌でも入ってるんじゃなかろうか、猪女が。

 

 「余計なお世話、ですわ!」

 

 こちらの心を読んだかのような気合を放ち、戦乙女は体重の乗った斬撃を上段から振り下ろしてきた。

 

 「なら言ってみやがれ! これはなんていう踊りなんだ、よっ!?」

 

 ハルバードを横一文字に構えてそれを受け止めると、必然ガラ空きにならざるを得ないこちらの胴へと、突き刺さるような前蹴りが放たれる。

 くの字に折れそうになる身体を腹筋でこらえ、こちらもカウンター気味に前蹴りを放つ。

 

 「ご存知ないのかしら? 剣の舞(ダンス・マカーブル)というんですの、っ!」

 

 こちらから見て右へのサイドロールで蹴りを回避した戦乙女は、その勢いに任せて回転斬りを撃つ。

 ハルバードを右に立てて斬撃を防ぐと、まるでガードなど関係ないと言わんばかりの勢いで、回転斬りと同じコースの乱れ斬りが幾閃も飛来してきた。

 少女の細腕で繰り出されるものとは思えないほどに鋭く重い斬撃の累積に、ハルバードを支える両の腕が痺れを訴え始める。

 このまま防御を続けるのは危険だと判断するのと同時、斬撃の波状に晒されていた右側からの圧が、不意に消失した。

 

 「………!?」

 

 「遅いですわ!」

 

 背後から声が飛ぶと共に、こちらが振り返るより速く、逆袈裟の軌道で背が切り裂かれるのを感じた。

 

 「がっ……あぁ………!」

 

 戦乙女が放った会心の斬撃の勢いに、身体が前方へと吹き飛ばされる。

 

 「ふふん。まずは一本、取らせていただきましたわ……」

 

 得意げに宣う戦乙女の言葉は、しかし最後まで言い切られることなく遮られることとなった。

 

 

 

 「……っらああああああ!!!」

 

 

 

 吹き飛ばされる勢いに全力でブレーキを掛けてその場に踏ん張り、ハルバードの尻の部分、石突を逆手持ちで背後へと、渾身の力を込めて射ち出した。

 

 「ぐぅ………が……は……!?」

 

 手応え十二分。

 肺から空気が搾り出されたような音に続き、石突の一撃によって吹き飛んだ戦乙女が地面に叩きつけられたところまでを、ベルモンドの耳は捉えた。

 

 「ふぅ……存外、やるじゃないか。ここまでの使い手、この世界に来てからこっちとんと見かけなかったもんだが。お前さん、只者じゃあないな」

 

 息を整えつつ背後を振り向き、ベルモンドはハルバードを担ぎ、肩をとんとんと叩く。

 感じた手応えとは裏腹にさほどダメージは受けていない様子の戦乙女も立ち上がり、目を弓にして青年の言葉に応じる。

 

 「お褒めに預かり、光栄の至。そういうあなたの方こそ、並々ならぬ技前の持ち主とお見受けしますわ。どうせ、まだまだ本気では無いんでしょう? 良くてせいぜい五割ほど、といったところかしら?」

 

 「へっ、どうだかな」

 

 お互いに呼吸も落ち着いたところで、ベルモンドは戦いが始まってから今に至るまで、戦乙女の様子について気にかかっていたことを尋ねてみた。

 

 「加減してるというんなら、むしろそっちの方こそとオレは言いたいね。お前さん、何故使(・)わ(・)な(・)い(・)?」

 

 「……なんのことかしら? わたくしの戦い方に、何か文句でもお有りですか?」

 

 「文句は無いさ。実際、お世辞抜きで大したもんだと思うぜ」

 

 佇まいを見た当初は武道の心得が有るものとばかり思っていたその剣は、驚くことに我流の実戦剣術。

 力に任せた剛の剣とは趣を異にする、鋭く、それでいて重い剛柔ハイブリッドの斬撃。

 それを為すのは恵まれた身体能力と、天性の才に更に磨きを掛けてきたのであろう精緻な身体操作。

 その剣は臨機応変にして、千変万化。

 何合打ち合おうと見切ることが叶わない不可思議な太刀筋と、剣撃のみに留まらない拳や蹴りも織り交ぜられた密度の高い波状攻撃。

 どことなく高貴な匂いが漂う美しい見た目に全くそぐわない、血生臭いまでの修羅の剣。

 それがこれまで切り結んできて感じた、戦乙女に対するベルモンドの印象だった。

 

 なればこそ、解せない点がひとつ。

 

 

 

 

 「なんだってまた、お前さんはソードスキルを使わない?」

 

 

 

 

 それこそが、彼が感じていた違和。彼が感じていた異様。

 ベルモンドとて、このアインクラッドにおいて全てのプレイヤーと剣を交えたわけではない。

 しかし、それほど多いわけではないこの世界での経験から言っても、ソードスキルを使わないプレイヤーなどこれまで全く見かけたことはなかった。

 ソードスキルはこの世界において、文字通り必殺の剣だ。

 練度や好みなどにより頻度に差はあれど、対モンスターは言うに及ばず、人対人の戦いにおいてソードスキルを用いないプレイヤーなど居るわけが無いのだ。

 素の斬撃を遥かに上回る、システムアシストによる斬撃に、頼らない手は無い筈なのだ。

 

 或いは、戦乙女には何か、戦いにおいて譲れない流儀などがあるのやもしれない。

 だが、ここまでの打ち合いから、そうではないとベルモンドの勘は告げていた。

 

 「殴る蹴るまで厭わないお前さんが、勝負の決め手たるソードスキルを使わないなんざ奇妙以外の何物でもないんだよ。いったい、どういう了見だ?」

 

 切り込むように問いをぶつけるベルモンドに、戦乙女は悪びれない調子で肩を竦める。

 バレてましたの、と別段気にも止めていない様子で、彼女は答えを返した。

 

 「わたくしだって、使えるもんなら使ってますわよ。不可抗力、というやつですわ」

 

 「なに……? じゃあ、お前まさか……」

 

 「おそらくあなたが今思い描いているような、深刻な理由ではありませんわ。これはただ単に、そう、『才能』の問題なのでしょうね」

 

 才能、と青年は反芻するように呟く。

 

 「元よりわたくし、あまり人に指図されるのが好きでは無い方なんですの。なんでも自分で決めなければ我慢できない、そういう星の下に生まれたんだと思いますわ。故にわたくし、身体を勝手に引っ張っていくこのソードスキルというのが、どうにも肌に馴染みませんのよ」

 

 ぶんぶん、と戦乙女は剣を虚空に振るう。

 月明かりを映して白く軌跡を曳いた剣は、ぴたりと正眼に翳された。

 

 「笑いたくば笑えばいいですわ。剣に、振るわれるのですよ。このわたくしが。これほどの屈辱はありませんわ」

 

 笑わないさ、とベルモンドも担いだハルバードを地面に垂らす。

 

 「あくまでも己の剣を振るう、ってか。その意気や見事。この世界で、お前さんが三人目ってわけだ」

 

 「三人目?」

 

 「オレが心から敬服した、強き戦士の数さ。三人目のお前さん、いったい名前は何と呼んだらいい?」

 

 クスリ、と戦乙女は艶然と微笑む。

 光栄ですわ、そう口端に乗せて彼女は名乗りを上げた。

 

 

 

 

 

 

 「”ヴァルキュリア”、そう呼んでくださると嬉しいですわ。不遜な戦士様」

 

 

 

 

 

 

 結構、と青年はぎらつく笑みを顔に浮かべた。

 

 月光降りしきる森の空漠に、二人の戦士の昂ぶりが満ちていく。

 ボルテージマックス。エグゾースト全開。

 緊張と緊迫の臨界点で、ベルモンドの声が響き渡った。

 

 「……ひとつ、言わせてくれ。オレの名前だ」

 

 「……どうぞ。拝聴させていただきますわ」

 

 身を切るような緊張感の中、同時に地を蹴った二人の戦士の剣戟が、月光の森に激しく木霊する。

 その交錯点で、二人の戦士の叫びが衝突した。

 

 

 

 

 

 「ベルモンド、ってんだ………!! よろしくな、ヴァルキュリア……!!!」

 

 「こちらこそ………!! よしなにお願い申し上げますわ、ベルモンド……!!!」

 

 

 

 

 

 

 




今回のセルフツッコミ。
後半のオストラヴァ、空気すぎるやろ!!
ではまた次回、決着です。
それでは。
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