機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
「だから――協力してくれ。」
ナーベルは深く頭を下げた。
「俺達を、自由にしてくれねぇか。」
普段の豪快さは影を潜めていた。
拳を握り締めたまま頭を下げるその姿からは、レッドスワン海賊団を率いる者としての意地と、背負ってきたものの重さが伝わってくる。
ベルーガのブリッジに、長い沈黙が流れた。
ケンは何も言えず、俯いたまま自分の膝を見つめていた。
闇試合。
海賊やマフィア、傭兵達が参加する非合法のMS戦。
そこで優勝すれば、レッドスワン海賊団はカストロファミリーから独立できる。
だが、そのためにはガンダムダウトの力が必要だと、ナーベルは言った。
つまり、実際に戦うのは――。
「……坊主。」
グレアーの声に、ケンは顔を上げた。
ブリッジの操縦席に腰掛けていたグレアーは、腕を組んだままケンを見ている。
「最終的に決めるのは、坊主ですよ。」
「俺が……?」
「ダウトを動かせるのは坊主だけですからね。」
グレアーは淡々と言った。
「我々が参加すると決めたところで、坊主が乗らなければ闇試合には出られません。」
「……。」
「逆に、坊主が戦うと決めるなら、そのために必要なことを考えなくてはならない。」
それは突き放す言葉ではなかった。
無理に背中を押すわけでもなく、反対するわけでもない。
ただ、ダウトの操縦者であるケン自身に、選ぶべき責任があると告げていた。
ケンはノンを見る。
ノンもまた、真剣な表情でケンを見返していた。
「ガンダムに乗れるのはケンだけよ……。」
ノンは静かに言った。
「あんたが決めなさい。」
「ノンは……どう思う?」
「それを私に聞いてどうするの?」
少しだけ厳しい声だった。
「私が行けと言ったから行くの? やめろと言ったら断るの?」
「それは……。」
「戦うのはケンよ。」
ノンは視線を逸らさなかった。
「だから、ケンが決めるしかないわ。」
その隣に控えていたメイド長は、ノンの横顔を見つめた後、静かに口を開いた。
「私は、お嬢様のご判断に従います。」
そして、胸元へ片手を添える。
「お嬢様がお決めになられたのでしたら、私はお嬢様のお側にお仕えするだけです。」
迷いのない言葉だった。
メイド長にとって最も大切なのは、ナーベルでも、レッドスワン海賊団でも、ベルーガでもない。
ただ一人。
彼女が仕える主人――ノンの身だった。
ケンは再び俯いた。
闇試合に出る。
言葉だけなら簡単だ。
だが、そこに集まるのは遊びでMSに乗っている者達ではない。
海賊。
傭兵。
マフィアの抱える戦闘員。
戦いを生業にしてきた者達だ。
自分のように、偶然ガンダムを拾ってしまっただけの人間が、本当にそんな場所へ出ていいのだろうか。
怖くないはずがなかった。
それでも、ケンの脳裏には先ほどのナーベルの姿が残っていた。
父親を罠にはめられた。
復讐したくても、自分一人の感情で拠点に暮らす者達を危険に晒すことはできない。
だから屈辱に耐え、父を陥れた相手の下で生き延びてきた。
あの小惑星で見た街。
酒場で笑っていた男達。
市場で働く者達。
走り回る子ども達。
あそこに住む百人近い人々の暮らしを、ナーベルは背負っている。
「……ナーベル。」
「おう。」
ナーベルがゆっくりと顔を上げた。
「一つだけ、条件がある。」
「言ってみろ。」
ケンは一度息を吸い込む。
「闇試合を撮影させてほしい。」
ナーベルが片眉を上げた。
「撮影?」
「うん。」
ケンは膝の上で両手を握り締める。
「試合だけじゃなくて、そこにいる人達にも話を聞きたい。」
「海賊とか、マフィアとか、傭兵とか……普通に暮らしてる人達には、どんな世界なのか分からないだろ?」
「……。」
「俺だって、ここに来るまで知らなかった。」
小惑星の街で聞いた言葉が蘇る。
戦争は稼ぎ時だと言った男。
辺境には関係ないと笑った老婆。
ケンやノンとはまるで違う場所から、戦争を見ている人々。
「俺達が知ってることだけを話しても、たぶん足りないんだ。」
「色んな人が、何を考えて生きてるのか。」
「どうして戦うのか。」
「それを動画にしたい。」
上手く説明できている自信はなかった。
それでもケンは、ナーベルの目を見て言い切った。
「撮影して、動画にしてもいいなら……俺は闇試合に出る。」
しばらくの間、ナーベルは何も言わなかった。
その視線は、ケンの言葉の裏にあるものまで確かめようとしているようだった。
やがて、ナーベルの口元が僅かに緩む。
「……いいぜ。」
「本当?」
「ああ。撮影でも取材でも、好きにすりゃいい。」
ケンの表情が明るくなる。
「ありがとう!」
「言質は取ったからな、坊や。」
ナーベルがニヤリと笑った。
その笑みに、ケンは嫌な予感を覚える。
「ただし、闇試合に出てくるのは海賊だけじゃねぇ。」
「……うん。」
「マフィアもいる。」
「うん……。」
「人殺しを仕事にしてる傭兵も、賞金首もいる。」
「……。」
「当然、撮影すりゃそいつらも映るぞ。」
ケンの笑顔が固まった。
「それを動画にして流すんだろ?」
「…………。」
「大丈夫なのか?」
「…………あ。」
見る見るうちにケンの顔から血の気が引いていく。
「マ、マフィア……。」
「ああ。」
「傭兵……。」
「ああ。」
「その人達の顔とか、組織とかを撮って……動画にする……?」
「坊やが言い出したんだろ。」
「いや、そうだけど!」
ケンは両手で頭を抱えた。
「それ、ものすごく恨まれない!?」
「今でも国際指名手配されてるのに、さらにマフィアと傭兵まで敵に回すの!?」
「俺、何人から狙われることになるの!?」
隣でノンが呆れたように息を吐く。
「そこまで考えてなかったの?」
「今、具体的に想像したんだよ!」
「遅いわよ。」
「だって撮影のことしか考えてなかったし!」
青ざめるケンを見ていたナーベルは、堪え切れなくなったように声を上げて笑った。
「ガハハハハ!」
「笑い事じゃないから!」
「何を今さら慌ててやがる!」
ナーベルは席を立つと、ケンの背中を豪快に叩いた。
「坊やはもう国際指名手配のお尋ね者だろ?」
「マフィアや傭兵が増えても変わらねぇよ!」
「変わるよ!」
「めちゃくちゃ増えてるから!」
ナーベルは白い歯を見せた。
「お尋ね者同士、仲良くやろうぜ、坊や!」
「俺は好きでお尋ね者になったんじゃないんだけど……!」
ケンは頭を抱えたまま、力なく項垂れた。
その姿を見て、ナーベルはさらに楽しそうに笑う。
先ほどまでブリッジを満たしていた重い空気が、少しだけ和らいだ。
それでも、ケンの返事が冗談ではないことは、その場にいた全員が分かっていた。
ガンダムダウトは、闇試合へ参加する。
その決断が下された。
◇
翌日。
ベルーガのMS格納庫には、朝から金属音が響き渡っていた。
「坊主! そっちの固定具を押さえろ!」
「これ!?」
「それは動力ケーブルだ! 触るな!」
「だったら最初に言ってよ!」
「見りゃ分かるだろうが!」
「分からないから聞いてるんだよ!」
おやっさんの怒声と、ケンの情けない返事が格納庫に響く。
ダウトの改修作業は、既に本格的に始まっていた。
海賊達から譲り受けたMS用装甲や推進器。
交換によって手に入れた各種武装。
さらに、おやっさんがベルーガ内に残っていた部品を選別し、それらをダウトへ合わせて加工していく。
かつてのダウトは、ケンが廃工場に転がっていたジャンクパーツを、XF-Gフレームへ無理やり取り付けただけの機体だった。
左右で形も重さも違う。
肩の高さすら揃っていない。
脚部の長さと装甲の厚みも左右で異なり、姿勢制御は常に機体側の補正へ頼っていた。
おやっさんに言わせれば、戦場を走り回っていたこと自体が信じられない代物だった。
「右腕、三ミリ上げろ!」
「三ミリってどうやって分かるの!?」
「計器を見ろ!」
「どれ!?」
「目の前にあるだろうが!」
ケンは怒鳴られながらも、懸命に作業へ食らいついた。
工専で機械を学んでいたとはいえ、本格的なMS整備は別物だった。
装甲一枚を取り付けるだけでも、フレームへの負荷、内部配線、関節の可動域、重量配分を確認しなければならない。
形が合わなければ削る。
足りなければ補強する。
取り付けた後も何度も動作試験を行い、僅かな干渉があれば再び外して加工し直す。
数時間かけて取り付けた部品が、おやっさんの一言で外されることもあった。
「駄目だ。」
「えぇ!?」
「左肩が重すぎる。」
「でも、もう固定したよ!?」
「だから外すんだよ。」
「最初に分からなかったの!?」
「組んでみなきゃ分からねぇこともある!」
「そんなぁ……。」
ぼやきながらも、ケンは工具を手に取る。
自分が乗る機体だ。
誰かに任せきりにはしたくなかった。
それに、少しずつ形を変えていくダウトを見るのは楽しかった。
ジャンクを貼り付けただけだった機体が、今度こそ一機の戦闘用MSとして組み上がっていく。
胴体には左右の厚みを合わせた装甲が取り付けられた。
肩部も同型の装甲へ交換され、姿勢制御用の小型スラスターが左右に増設される。
腰部には推進剤と予備弾倉を搭載できる新たなユニットが取り付けられた。
脚部は装甲形状を揃え、左右の重量差を徹底的に調整する。
完全な新品ではない。
メーカーも製造時期も異なる部品ばかりだった。
それでも、おやっさんは一つ一つの性能を見極め、互いの不足を補うように組み合わせていった。
そして、ケンが提案したワイヤーアンカーも形になっていく。
前腕部へ組み込まれた射出機。
強度を上げた巻き取り用ワイヤー。
先端には対象へ食い込むための爪と、ダウトのシステムへ接続するための接触端子が取り付けられている。
「これで、本当にハッキングできるかな。」
作業台の上に置かれたアンカーを眺めながら、ケンが呟く。
「それは試してみなきゃ分からん。」
おやっさんは端子の接続部を確認しながら答えた。
「ダウトがどういう仕組みで相手の機体に入り込んでるのか、まだ分からねぇからな。」
「やっぱり直接触らないと駄目かもしれない?」
「その可能性もある。」
「でも、こいつを撃ち込んだ状態で接触と認識してくれりゃ、戦い方は大きく変わる。」
おやっさんはアンカーを軽く叩いた。
「使えるかどうかは、坊主とダウト次第だ。」
「うん。」
ケンは大きく頷いた。
作業は何日も続いた。
朝から晩まで格納庫に籠もり、食事を忘れてノンに怒られた。
配線を間違えておやっさんに工具を投げられた。
疲れて作業台の上で眠り、目を覚ますと顔に部品の型がくっきりと残っていた。
それでも少しずつ。
本当に少しずつ、新たなダウトは完成へ近づいていった。
◇
そして、改修作業開始から数日後。
格納庫に集められたケン達の前で、ダウトを覆っていた作業用シートが外された。
「……おぉ。」
ケンの口から、自然と声が漏れる。
そこに立っていたのは、確かにガンダムダウトだった。
黄色いVアンテナ。
特徴的なツインアイ。
への字を刻んだフェイスガード。
白い装甲。
だが、その姿は以前とは大きく変わっていた。
左右で形も色も違っていた肩は、同じ形状の装甲へ揃えられている。
胴体も左右対称となり、剥き出しだったフレームの多くが新たな装甲で覆われていた。
腕部と脚部の長さ、装甲の厚みも整えられ、一目で分かるほど機体全体の均衡が取れている。
以前のダウトにあった、今にも崩れそうな不安定さは消えていた。
全身を構成する部品は、今も寄せ集めだ。
白、青、赤を中心に塗装されているものの、装甲ごとに僅かな色の差がある。
細かく見れば傷も残り、補修の跡も消えてはいない。
それでも、もはやボロボロのジャンクには見えなかった。
そこには、戦うために組み上げられた一機のガンダムが立っていた。
「これでバランスの方はなんとかなるな。」
おやっさんは腰に手を当て、満足そうにダウトを見上げた。
「今までよく、あんなバランスで動いてたもんだ……。」
「そんなに酷かった?」
ケンが聞くと、おやっさんは呆れた顔を向ける。
「酷いなんてもんじゃねぇ。」
「左右で別の機体をくっつけて、それを無理やり歩かせてたようなもんだ。」
「そこまで……。」
「お前と機体の補正システムがどうかしてたから動いてただけだ。」
おやっさんはそう言いながらも、どこか誇らしげだった。
自分の手で組み上げた機体の完成を、心から喜んでいる。
ケンはもう一度ダウトを見上げる。
廃工場で見つけた、正体不明のフレーム。
軽い気持ちでジャンクを取り付け、ガンダムだと偽って動画へ投稿した。
その嘘から、全てが始まった。
「これが……。」
ケンの胸が高鳴る。
「新しいダウト……。」
以前の姿が嫌いだったわけではない。
不格好でも、あれはケンが初めて自分の手で組み上げた機体だった。
だが、目の前に立つ新しいダウトは、それとは違う。
ただ見せかけるためではない。
これから先へ進むために、おやっさんと共に組み上げた新たな相棒だった。
「どうだ、坊主。」
「うん。」
ケンは大きく笑った。
「最高だよ、おやっさん!」
「そうか。」
おやっさんも、満足そうに口元を緩めた。
「なら、さっさと動作確認を――」
「その前に!」
突然、ケンが声を上げる。
「動画撮らなきゃ!」
「……。」
おやっさんの眉間に皺が寄った。
「試運転が先だろうが。」
「新しいダウトが完成したんだよ!?」
「今撮らないでいつ撮るの!」
「完成したばかりで動くかどうかも分からん機体を紹介する馬鹿がいるか!」
「動くよ!」
「その自信はどこから来るんだ!」
おやっさんの怒鳴り声を背中に受けながら、ケンは格納庫の外へ駆け出していった。
◇
しばらくして。
再び格納庫に姿を現したケンは、オレンジ色のツナギに着替え、額にはゴーグルを乗せていた。
先ほどまで工具を持って走り回っていた気弱な少年の姿はない。
背筋を伸ばし、いつでもカメラへ飛び込めるような明るい表情を浮かべている。
ケンケンだった。
その隣には、赤いパーカーを身に着けたノンが立っていた。
フードを深く被り、顔の上半分を隠している。
カメラから見えるのは、僅かな顎の線と口元だけだった。
「……本当にこれで大丈夫?」
ノンは、自分の姿を小型モニターで確認しながら尋ねた。
「うん。顔はほとんど映ってない。」
ケンはカメラの位置を調整する。
「声は後で少し変えることもできるし。」
「それをあなたができるの?」
「……頑張って調べる。」
「そこは自信ないのね。」
ノンが小さく息を吐く。
二人は昨夜、遅くまで話し合っていた。
これから動画で何を伝えるのか。
誰が話すのか。
どんな形なら、見る人に届くのか。
ケンケンちゃんねるは、ケンが自分を見てもらうために作ったチャンネルだった。
だが、これから始めるものは違う。
ケンが目立つための場所ではない。
戦争に反対する声を届けるための場所。
その中心に立つのは、ケンではなくノンだ。
名も素性も明かせない。
それでも自分の言葉で戦争に反対すると訴える、赤いフードの少女。
新しいチャンネルの名は――。
『赤ずきんちゃんネル』
ノンの赤いフードにちなんで、ケンが付けた名前だった。
「名前、もう少し真面目な方がよかったんじゃない?」
ノンはまだ納得しきれていない様子だった。
「覚えやすい方がいいんだって。」
「でも、ちゃんネルって……。」
「一回聞いたら忘れないだろ?」
「そうかもしれないけど……。」
「ほら、まずは練習!」
ケンは三脚にカメラを固定すると、ダウトが画面の奥へ収まるように位置を調整した。
ノンはカメラの前に立つ。
背後には、完成したばかりの新しいダウト。
その姿を見上げてから、ノンは小さく息を吸った。
「緊張する?」
「……するわよ。」
「まだ練習だから、失敗しても大丈夫。」
「そう言うあんたは楽しそうね。」
「動画撮ってる時はね。」
ケンは録画ボタンへ指を伸ばした。
「じゃあ、いくよ。」
ノンが姿勢を正す。
「三、二、一――スタート。」
カメラの録画ランプが赤く灯った。
ノンは一瞬だけ言葉に詰まった。
だが、逃げることなく、レンズを真っ直ぐ見つめる。
「どうも……赤ずきんです。」
緊張で少し硬い声だった。
「この度は、新しくチャンネルを開設させていただきました。」
一度、僅かに息を吸う。
「突然ですが、私は戦争に反対します。」
格納庫の奥で作業を続けていた整備員達が、少しずつ手を止めた。
おやっさんも何も言わず、遠くから二人の姿を見ている。
「でも、どうしたらいいか、まだ分かりません……。」
ノンは正直に言った。
答えを持っているふりはしない。
自分が正しいと押し付けることもしない。
「なので、このチャンネルを通して、色々な人の話を聞きたいと思っています。」
「戦争を始めたい人。」
「戦争を止めたい人。」
「戦争によって暮らしが変わった人。」
「遠い場所の出来事だと思っている人。」
「色々な方の声を聞いて、私自身も考えていきたいと思います。」
声はまだ硬かった。
時折、視線がカメラから外れそうになる。
それでも、ノンは言葉を止めなかった。
「そして今日は、今回の戦争の渦中の人でもある、この方をお呼びしています……。」
その言葉を合図に、カメラの外で待っていたケンが勢いよく画面へ入る。
「どうも〜! ケンケンです!」
突然明るくなった声に、ノンの肩が僅かに跳ねた。
「声が大きい。」
「第一印象が大事だから!」
「私の話より目立ってるじゃない。」
「ご、ごめん。」
録画中にもかかわらず、いつもの調子で言い合う二人。
ケンは慌てて咳払いすると、カメラへ向き直った。
「えっと、今回から赤ずきんさんと一緒に、このチャンネルで色んな人の話を撮影していきます。」
「俺自身も、戦争をどうやったら止められるのか分かってません。」
「でも、何もしなかったら何も変わらないと思うので……まずはできることから始めます。」
ノンが小さく頷いた。
「これから、私達が見たことや聞いたことを、できる限り皆さんへお伝えしていきます。」
「その中には、受け入れにくい話や、正しいのか分からない意見もあるかもしれません。」
「それでも、まずは知ってほしいと思っています。」
ノンは一度口を閉じた。
そして最後に、自分の思いを確かめるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「このチャンネルを通して、皆さんが戦争を止めようと声を上げてくれることを、切に願います。」
深く頭を下げる。
「ありがとうございました。」
数秒の静寂。
ケンが慌ててカメラへ駆け寄った。
「カット!」
録画ランプが消える。
ノンは張り詰めていた息を一気に吐き出した。
「……疲れた。」
「すごくよかったよ!」
「本当に?」
「うん。最初はちょっと硬かったけど、最後の方はちゃんと伝わってた。」
ケンは撮影した映像を確認しながら頷く。
「途中であんたが大声を出さなければ、もっとよかったと思うけど。」
「そこは撮り直そう。」
「全部?」
「全部。」
「……もう一回?」
「まだ練習だから。」
ノンはカメラとケンを交互に見た後、諦めたように息を吐いた。
「分かったわ。」
再びカメラの前へ戻る。
ケンも録画位置へ移動した。
完成したばかりの新しいダウトが、そんな二人を背後から静かに見下ろしている。
新しいガンダムダウト。
新しいチャンネル。
そして、自分達にできることを探すための、新たな一歩。
ケンは録画ボタンへ指を掛けた。
「じゃあ、もう一回いくよ。」
ノンは赤いフードの奥で、小さく頷いた。
「三、二、一――」
再び、赤い録画ランプが灯った。