機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

16 / 16
第16話「闇試合開幕」

動画撮影をある程度終えたケンは、新たに改修されたガンダムダウトの習熟訓練へ取り掛かっていた。

 

新しい装甲。

 

左右の重量バランス。

 

追加されたワイヤーアンカー。

 

どれもこれまでのダウトとは感覚が違う。

 

本来なら実際に宇宙へ出て何度も機体を動かしたかった。

 

しかし――。

 

「駄目だ。」

 

オーガは即座に首を横へ振った。

 

「え?」

 

「どうして?」

 

「ここは暗礁宙域だ……。」

 

オーガは静かに答える。

 

「どこで誰が見ているか分からん……。」

 

「闇試合の参加者かもしれない……。」

 

「機体を見られるだけならまだいい。」

 

「試合前に妨害される可能性もある……。」

 

ケンは思わず息を呑んだ。

 

「そんな事まで……。」

 

「ここはそういう場所だ……。」

 

結局、実機での訓練は断念。

 

ベルーガ内に設置されたシミュレーターと、格納庫内での基礎動作確認だけが許された。

 

 

「アンカー射出!」

 

ワイヤーが飛ぶ。

 

標的へ命中。

 

「よし!」

 

次の瞬間、模擬敵機に引っ張られダウトの姿勢が崩れる。

 

『被弾』

 

モニターが赤く染まった。

 

「またぁ!?」

 

オーガは腕を組んだまま言う。

 

「欲を出すな……。」

 

「当てたら終わりじゃない。」

 

「そこからが始まりだ……。」

 

「分かってるんだけどさぁ……。」

 

何度繰り返しても思うようにはいかなかった。

 

左右のバランスが改善されたダウトは確かに動かしやすい。

 

しかし、それだけ以前との感覚が違う。

 

機体は良くなった。

 

だが、自分が追い付いていない。

 

シミュレーターを降りたケンは深くため息をついた。

 

「こんなんで大丈夫かな……。」

 

その言葉に、近くで見ていたナーベルが豪快に笑う。

 

「ガハハハ!」

 

「大丈夫じゃなくても、なんとかするしかねぇ!」

 

「そんな精神論……。」

 

「闇試合に万全な奴なんざ一人もいねぇ!」

 

ナーベルはケンの肩を叩く。

 

「坊やは坊やに出来る事をやれ!」

 

「後は俺達が何とかする!」

 

「分かった分かった!」

 

ケンは苦笑しながら肩を押さえる。

 

「叩かないでよ!」

 

「細けぇ事気にすんな!」

 

「じゃあ俺は野暮用がある。」

 

「オーガ。」

 

「後は頼んだ。」

 

「ああ……。」

 

ナーベルは手を振ると、そのまま格納庫を出て行った。

 

 

その背中が見えなくなってから。

 

ケンはふと思っていた事を口にする。

 

「そういえばさ。」

 

「闇試合って俺とオーガが出るんだよね?」

 

「ああ……。」

 

「俺、てっきりナーベルが出ると思ってた。」

 

オーガは少しだけ考えるように沈黙した。

 

そして短く答えた。

 

「アイツは……。」

 

「船長は真っ直ぐ突っ込むから、いいカモなんだ……。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

その一言だけだった。

 

だが。

 

決闘でカトラスを一直線に突っ込ませてきたナーベルの姿を思い出したケンは、

 

「……あぁ。」

 

と、小さく頷くしかなかった。

 

ノンも。

 

グレアーも。

 

格納庫で聞いていた整備員達まで。

 

誰一人反論しない。

 

ただ静かに頷くだけだった。

 

「……。」

 

「……。」

 

「みんな納得するんだ……。」

 

ケンが苦笑すると、ノンも苦笑いを浮かべる。

 

「でも。」

 

「よく納得したわね。」

 

「あの人、自分でやらないと気が済まないタイプでしょう?」

 

オーガは表情一つ変えない。

 

「大将はどんと構えてろ……。」

 

「そう伝えた。」

 

「今はそれでいい気になっている……。」

 

「余計な事は言うな。」

 

「今はそれが一番勝率が高い。」

 

ケンとノンは顔を見合わせる。

 

「……。」

 

「……。」

 

そして同時に引き攣った笑みを浮かべた。

 

「長年の付き合いってすごいね……。」

 

「えぇ……。」

 

オーガは何も答えない。

 

ただ腕を組んだまま、静かにダウトを見上げていた。

 

そしてまた訓練が始まる。

 

オーガとの連携。

 

作戦の確認。

 

本来であれば実戦形式で機体を動かしたかったが、暗礁宙域ではどこで誰が見ているか分からない。

 

闇試合参加者による偵察や妨害の可能性も考えられたため、実機での訓練は最小限に抑えられ、ベルーガ内のシミュレーターを中心とした訓練が続けられた。

 

その中でオーガと役割を詰め、ダウトとカトラスの連携を何度も確認する。

 

万全とは言えない。

 

それでも時間だけは容赦なく過ぎていった。

 

そして――。

 

闇試合当日。

 

ベルーガの格納庫では、整備員達が慌ただしく荷物を運び出していた。

 

ダウトの予備装甲。

 

交換用パーツ。

 

整備工具。

 

修理資材。

 

それらは次々と隣に停泊するレッドスワン号へ積み込まれていく。

 

「よし、そのコンテナもだ!」

 

おやっさんの声が響く。

 

「慎重に運べ! それ予備ジェネレーターだ!」

 

整備員達が慌ただしく動き回る中、ケンは不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ?ベルーガで行かないの?」

 

ナーベルは笑いながら答える。

 

「今日は俺達が主役だからな。」

 

「レッドスワン海賊団として参加する。」

 

「だから船もレッドスワン号だ。」

 

「ベルーガはここで留守番だ。」

 

ケンは納得したように頷いた。

 

「なるほど。」

 

やがて荷物の積み込みが終わる。

 

乗り込むのは、

 

ケン。

 

オーガ。

 

ナーベル。

 

ノン。

 

グレアー。

 

メイド長。

 

そして、おやっさんと整備員達。

 

ベルーガは小惑星拠点に残され、静かに停泊したまま彼らを見送った。

 

 

数時間後。

 

レッドスワン号は暗礁宙域のさらに奥へと到着する。

 

巨大な岩塊をくり抜いて造られた、小惑星拠点。

 

その周囲には数え切れないほどの艦艇が停泊していた。

 

海賊船。

 

傭兵部隊の輸送艦。

 

武装商船。

 

見るからに裏社会の人間達が集まっている。

 

「すご……。」

 

ケンは窓越しに呟いた。

 

「こんなに集まるんだ……。」

 

ナーベルがニヤリと笑う。

 

「年に一度のお祭りだからな。」

 

「裏社会じゃ有名なんだよ。」

 

レッドスワン号は指定されたドックへ着艦した。

 

 

格納庫ではダウトとカトラスが降ろされる。

 

おやっさんは整備員達へ指示を飛ばす。

 

「すぐ整備ブースを設営しろ!」

 

「試合が終われば戻ってくるぞ!」

 

「いつでも修理出来るようにしとけ!」

 

「了解!」

 

整備員達は工具箱を抱え、格納庫内へ散っていった。

 

一方、ノン、グレアー、メイド長は艦橋のモニタールームへ向かう。

 

大型モニターには試合会場の映像が映し出され始めていた。

 

「ここから観戦出来るんですね。」

 

ノンが呟く。

 

「ああ。」

 

グレアーは短く答える。

 

「坊主達の戦いはここで確認します。」

 

メイド長も静かに頷いた。

 

「お嬢様、お席へどうぞ。」

 

 

一方、ケン達は受付会場へ向かう。

 

そこには既に数多くの参加者が集まっていた。

 

受付の係員が事務的に説明を始める。

 

「暗礁宙域闇試合タッグトーナメントへようこそ。」

 

「本大会は二対二によるトーナメント方式。」

 

「試合は宇宙空間に設置された戦闘区域で行われます。」

 

「参加チームは東ゲート、西ゲートより同時出撃してください。」

 

「機体が損傷した場合は、次戦までに修理、もしくは予備機への乗り換えを認めます。」

 

「リザーブパイロットは一名まで登録可能です。」

 

ナーベルが前へ出る。

 

「リザーブは俺だ。」

 

受付係は頷き、端末へ入力した。

 

「確認しました。」

 

説明はさらに続く。

 

「なお、本大会に反則はありません。」

 

ケンは首を傾げる。

 

「反則なし?」

 

受付係は淡々と言い放った。

 

「殺害。」

 

「奇襲。」

 

「不意打ち。」

 

「武装制限なし。」

 

「降伏も自由。」

 

「すべて認められています。」

 

「生き残った者が勝者です。」

 

「…………え?」

 

ケンの顔色が一瞬で青ざめた。

 

「えっ?」

 

「ちょ、ちょっと待って。」

 

「殺していいの!?」

 

受付係は無表情のまま答えた。

 

「はい。」

 

「死人が出ることも珍しくありません。」

 

「…………。」

 

ケンはゆっくりと後ろを向く。

 

「俺、帰る。」

 

そう言って歩き出した瞬間――

 

ガシッ。

 

「いだだだだ!」

 

首根っこを掴まれた。

 

オーガだった。

 

「どこへ行く……。」

 

「いやいやいや!」

 

「聞いてないって!」

 

「殺し合いじゃん!」

 

「逃げる!」

 

「間に合わん……。」

 

オーガはそのままケンを引きずって受付へ戻す。

 

「やだーーー!!」

 

「帰るーーー!!」

 

周囲の参加者達は呆れたように眺めていた。

 

受付係だけは事務的に言う。

 

「受付を続けます。」

 

ナーベルは腹を抱えて笑う。

 

「ガハハハハ!」

 

「坊や、今さら何ビビってんだ!」

 

「笑い事じゃないって!!」

 

こうして半ば強引に受付を済ませたケン達は、試合開始まで待機所へ案内されるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。