機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第19話「切り裂きシャックス」

第二回戦を勝ち抜いたケンとオーガは、控室へ戻っていた。

 

「はぁぁぁ……。」

 

ケンは椅子へ腰を下ろすと、大きく息を吐く。

 

「生きたぁ……。」

 

全身から一気に力が抜ける。

 

ほんの数十分前まで命のやり取りをしていたとは思えないほど、今はどっと疲れが押し寄せてきていた。

 

一方その頃。

 

格納庫では、おやっさんを中心に整備員達が慌ただしく動き回っていた。

 

「左脚スラスター点検急げ!」

 

「推進剤補給開始!」

 

「サブマシンガンの残弾確認!」

 

「ワイヤーアンカー異常なし!」

 

ガンダムダウトとカトラスは、既に次の試合へ向けた整備へ入っていた。

 

試合間隔は短い。

 

休んでいる暇などない。

 

その時だった。

 

『第三回戦組み合わせを発表します。』

 

場内アナウンスが流れる。

 

「えっ?」

 

ケンは顔を上げた。

 

「もう決まったの?」

 

オーガは何も答えず、端末へ視線を落とす。

 

画面を静かにスクロールさせ、小さく息を吐いた。

 

「……どうやら、一組棄権したらしい。」

 

「棄権?」

 

「予定より早く順番が回ってきた。」

 

「データも少ないな……。」

 

オーガは頭を掻きながら端末を閉じる。

 

「少ないが頭へ入れておけ。」

 

そう言ってケンへ端末を渡した。

 

「あ、ありがとう。」

 

ケンは画面を覗き込む。

 

「えっと……。」

 

「シャックス。」

 

「ガダン。」

 

「搭乗機は……。」

 

読み進めていたケンの動きが止まる。

 

「……え。」

 

もう一度見る。

 

見間違いじゃない。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

控室中へケンの絶叫が響き渡った。

 

「うるせぇ!!」

 

「静かにしろ!!」

 

「ぶっ殺すぞガキ!!」

 

空き缶。

 

工具。

 

雑誌。

 

様々な物がケンへ飛んでくる。

 

「す、すいません!」

 

「ごめんなさい!」

 

ケンは頭を下げながら必死に避け回った。

 

「どうした。」

 

オーガだけは表情一つ変えずに尋ねる。

 

「どうしたもこうしたもないよ!」

 

ケンは端末を突き付ける。

 

「次の相手!」

 

「犯罪者じゃん!」

 

「しかも殺人犯!」

 

「ニュースで何回も見たことあるよ!」

 

「二十八人殺したって全国ニュースになってたじゃん!」

 

「しかも捕まったはずなのに!」

 

「なんでここにいるの!?」

 

半べそになりながら叫ぶケン。

 

オーガは端末を受け取り、淡々と答えた。

 

「脱獄でもしたんだろ。」

 

「それに。」

 

「ここはそういう場所だ。」

 

「いや、そういう場所って……。」

 

ケンは頭を抱える。

 

「怖すぎるでしょ……。」

 

オーガは呆れたように息を吐いた。

 

「ケン。」

 

「俺やお前も、世間から見れば犯罪者だ。」

 

「……。」

 

「大して変わらん。」

 

ケンは言葉を失う。

 

確かに。

 

ガンダムダウトを持ち出し、今は国際指名手配犯。

 

ニュースではテロリスト扱いされている。

 

それは紛れもない事実だった。

 

「……そうだけどさぁ。」

 

「殺人犯とは一緒にしないでよ。」

 

ぼそりと漏らす。

 

オーガは軽く肩を竦めるだけだった。

 

「気持ちは分かる。」

 

「だが、相手が誰であれやることは変わらん。」

 

端末を操作し、二機のデータを映し出す。

 

「シャックス。」

 

「攻撃担当。」

 

「近接戦を好む。」

 

「使用機体はソリダス。」

 

「ガダン。」

 

「防御担当。」

 

「使用機体はグラディウス。」

 

「両腕に大型シールドを装備。」

 

「二人一組で戦うことを前提とした戦法だ。」

 

ケンは画面を見つめる。

 

「なるほど……でもなんだっけコイツなんかあったよな?」

 

「思い出せない……しかし盾役と攻撃役か。」

 

オーガは頷く。

 

「盾役を早く落とす。」

 

「そうすればシャックスは前へ出るしかない。」

 

「そこを狙う。」

 

「頼むぞ。」

 

「う……うん。」

 

ケンは深呼吸する。

 

「なんとか……やってみる。」

 

オーガはケンの肩へ軽く手を置いた。

 

「気負うな。」

 

「なんとかなる。」

 

それだけ言うと、控室を後にする。

 

ケンも慌ててその後を追った。

 

『第三回戦出場者、格納庫へ集合してください。』

 

アナウンスが流れる。

 

二人は歩きながら最後の作戦確認を済ませ、そのまま格納庫へ入っていく。

 

それぞれの機体へ乗り込む。

 

ハッチが閉まり、コックピットに灯りが点る。

 

巨大な隔壁が開く。

 

「行くぞ。」

 

オーガの声に、ケンは深く息を吸った。

 

「……了解。」

 

二機のMSがゆっくりとカタパルトへ移動する。

 

《ガンダムダウト、発進スタンバイ》

 

《カトラス、発進スタンバイ》

 

「頼むぞ……。」

 

ケンは操縦桿を強く握る。

 

『第三回戦!!』

 

『レッドスワン海賊団、発進!!』

 

カタパルトが作動した。

 

ガンダムダウトとカトラスが宇宙へ射出される。

 

歓声が響く。

 

『さぁぁぁ!!』

 

『今大会の台風の目!!』

 

『レッドスワン海賊団の登場だぁぁぁ!!』

 

『暗礁宙域の古強者ザーク傭兵団を退けた実力は本物なのか!!』

 

『未だその性能を見せ切っていないガンダムダウト!!』

 

『今度こそその真価を見せるのかぁぁぁ!!』

 

実況はさらに声を張り上げる。

 

『対するは!!』

 

『二十八人を虐殺した連続殺人犯!!』

 

『切り裂きシャックス!!』

 

『そして相棒!!』

 

『爆弾魔ガダン!!』

 

『この殺人狂コンビがガンダムを血祭りに上げるのかぁぁぁ!!』

 

観客席から歓声と野次が飛び交う。

 

その様子を、小惑星へ待機するレッドスワン号ブリッジではモニター越しに見守っていた。

 

「始まりやしたね。」

 

腕を組むグレアー。

 

「今回は相手が悪すぎるわ……。」

 

ノンはモニターから目を離せない。

 

「切り裂きシャックス……。」

 

「ニュースで見たことがある。」

 

「本当にあんな人が……。」

 

メイド長は静かにノンの隣へ立つ。

 

「お嬢様。」

 

「坊っちゃんなら大丈夫です。」

 

「……ええ。」

 

そう答えながらも、不安は消えなかった。

 

一方、試合会場。

 

東ゲートから姿を現したのは――

 

一機だけだった。

 

巨大な両肩シールドを備えたグラディウス。

 

「一機?」

 

ケンが首を傾げる。

 

「シャックスは?」

 

オーガも僅かに眉を寄せた。

 

「……見えない。」

 

「隠れている。」

 

その瞬間だった。

 

「来るぞ!」

 

グラディウスが突然フルスロットルで突っ込んできた。

 

「うわっ!」

 

巨大なシールドがダウトへ叩き付けられる。

 

ガンッ!!

 

「くっ!」

 

ダウトは弾き飛ばされる。

 

続けざまに肩のシールドから小型爆弾が射出される。

 

「爆弾!?」

 

ケンは慌てて機体をロールさせる。

 

背後で爆発。

 

「ケン!」

 

「距離を取れ!」

 

オーガの狙撃用ライフルが火を吹く。

 

狙いは正確だった。

 

しかし。

 

ガンッ!

 

弾丸は両肩の大型シールドへ弾かれる。

 

「硬い……。」

 

オーガは冷静に呟く。

 

もう一発。

 

今度は脚部。

 

しかしガダンは巧みにシールドを動かし、全て防ぐ。

 

「徹底して守る気か。」

 

「ケン。」

 

「アンカーを試せ。」

 

「了解!」

 

ダウトが横へ回り込む。

 

「ワイヤーアンカー!」

 

射出。

 

しかし。

 

ガンッ!!

 

アンカーはシールドへ弾かれた。

 

「駄目だ!」

 

「全部盾で防がれる!」

 

「予想以上だな。」

 

オーガは距離を取りながら狙撃を続ける。

 

だが突破口がない。

 

その時だった。

 

「キャハハハハハハハ!!」

 

甲高い笑い声が通信へ響く。

 

「!」

 

ケンが振り向く。

 

オレンジ色のMS。

 

ソリダス。

 

両手には短いヒートブレード。

 

「見ぃぃぃつけたぁぁぁ!!」

 

ソリダスが異様な速度で迫る。

 

「うわっ!!」

 

ダウトは咄嗟に後退。

 

ヒートブレードが胸部を掠める。

 

火花。

 

「危なっ!」

 

「キャハハハハ!」

 

「逃げるなよぉ!」

 

「もっと切り刻ませてくれよぉ!!」

 

狂ったように笑いながら、ソリダスは次々と斬撃を繰り出す。

 

速い。

 

軽い。

 

そして軌道が読めない。

 

「くっ!」

 

ケンはヒートカトラスを抜く。

 

ガキィン!!

 

火花が散る。

 

「重っ!」

 

「キャハハハ!」

 

「いい音ぉ!!」

 

シャックスは笑いながらさらに斬り込む。

 

完全にケンは防戦一方だった。

 

その一方。

 

ガダンはオーガが抑えている。

 

しかし。

 

狙撃を止めれば、ガダンはすぐにシャックスの援護へ入る。

 

逆にシャックスへ集中すれば、ガダンが自由になる。

 

完全な二人一組の連携だった。

 

「チッ……。」

 

オーガが舌打ちする。

 

「このままではジリ貧だ。」

 

その時。

 

通信が入る。

 

「ケン。」

 

「聞け。」

 

「今からお前とシャックスの間へ火線を通す。」

 

「その隙にガダンをハッキングしろ。」

 

「盾を失わせる。」

 

「俺が仕留める。」

 

「……え?」

 

「説明終わり。」

 

「カウント開始。」

 

「三。」

 

「えっ、ちょっ!」

 

「二。」

 

「急すぎ!」

 

「一。」

 

「撃つ。」

 

ドォンッ!!

 

狙撃用ライフルが火を吹く。

 

シャックスは反射的に後退。

 

「おっとぉ!」

 

「危ねぇ危ねぇ!」

 

一瞬だけ距離が空いた。

 

「今だ!」

 

「もう!」

 

「やるしかない!!」

 

ダウトが一気にガダンへ加速する。

 

その後ろから。

 

「キャハハハハ!!」

 

シャックスが笑いながら追い掛けてくる。

 

「逃がすかよぉ!!」

 

しかし。

 

ダウトの加速が僅かに勝る。

 

オーガの狙撃で身動きが取れないガダンへ肉薄した。

 

「届け!!」

 

ダウトの左腕がグラディウスへ触れる。

 

《接触確認》

 

《電子回線接続》

 

《侵入開始》

 

「入った!」

 

《制御掌握》

 

バチィッ!!

 

グラディウスの全身へ火花が走る。

 

「なっ!?」

 

ガダンが初めて動揺した。

 

「動かない!?」

 

「終わりだ。」

 

ダウトは背中からヒートカトラスを抜く。

 

一閃。

 

右腕。

 

続けて左腕。

 

肩から先が切り飛ばされる。

 

巨大なシールドが宇宙へ舞った。

 

「オーガ!!」

 

「十分だ。」

 

狙撃用ライフルが静かに火を吹く。

 

一発。

 

弾丸は真っ直ぐグラディウスのコックピットを貫いた。

 

爆発。

 

「……。」

 

オーガは表情一つ変えない。

 

「コイツは生かしておいてもな……」

 

短く呟き、すぐに視線をシャックスへ向ける。

 

そこでは狂気じみた笑い声を上げながら、ソリダスが再びダウトへ襲い掛かろうとしていた。

 

シャックスの狂気じみた笑い声が通信越しに響く。

 

「キャハハハハハ!!」

 

「逃げるなよぉ!」

 

「もっと抵抗しろ!」

 

「その方が切り刻み甲斐があるだろぉ!!」

 

ヒートブレードが何度も振り下ろされる。

 

ガンダムダウトはヒートカトラスで受け止めるのが精一杯だった。

 

「ケン!」

 

オーガの声が飛ぶ。

 

「距離を取れ!」

 

「援護出来ない!」

 

「コイツしつこくて!」

 

「クソッ!」

 

ソリダスは獲物を逃がすまいと獣のように食らい付く。

 

「キャハハハハ!!」

 

「もっと遊ぼうぜぇ!!」

 

「細切れにしてやるよぉ!!」

 

その笑い声を聞いた瞬間だった。

 

ケンの身体が強張る。

 

「……。」

 

どこかで聞いた。

 

忘れようとしていた。

 

いや――忘れられるはずがなかった。

 

⸻

 

モニター室

 

「坊主……。」

 

グレアーが眉をひそめる。

 

「動きが鈍りやした。」

 

「ケン?」

 

ノンも違和感に気付く。

 

「どうしたの……?」

 

メイド長は何も言わず、ただノンの様子を静かに見守っていた。

 

⸻

 

一年前。

 

動画配信を始めて間もない頃。

 

登録者はゼロ。

 

動画を投稿しても再生数は十回にも届かない。

 

「やっぱり向いてないのかな……。」

 

そんな弱音を吐きながら、公園で動画を撮っていた。

 

その時だった。

 

「もしかして……ケンケン?」

 

振り返ると、小学生くらいの少女が立っていた。

 

「動画見たよ!」

 

「面白かった!」

 

突然の言葉に、ケンは目を丸くする。

 

「えっ……。」

 

「ほんと?」

 

「うん!」

 

少女は満面の笑みで頷いた。

 

「また動画出してね!」

 

「絶対見るから!」

 

その夜。

 

何気なくチャンネルを開く。

 

登録者数。

 

1人。

 

「……。」

 

思わず画面を二度見する。

 

コメント欄には。

 

『今日も面白かった!』

 

『また次も楽しみにしてるね!』

 

「……ありがとう。」

 

誰も見ていないと思っていた。

 

でも、見てくれている人がいた。

 

たった一人。

 

それでも嬉しかった。

 

その子は毎回コメントをくれた。

 

動画を上げる度に。

 

『今日も面白かった!』

 

『学校のお友達にも教えたよ!』

 

『また頑張ってね!』

 

そのコメントを見るのが楽しみだった。

 

だから動画を続けられた。

 

しかし。

 

ある日を境に、コメントは止まった。

 

「忙しいのかな……。」

 

「飽きちゃったかな……。」

 

少し寂しかった。

 

翌日。

 

何気なく流れていたニュース。

 

『連続殺人事件の続報です。』

 

テレビへ目を向ける。

 

『連続殺人犯シャックスによる二十八人目の被害者が確認されました。』

 

映し出された写真。

 

「……え?」

 

息が止まる。

 

そこに写っていたのは。

 

昨日までコメントをくれていた、あの少女だった。

 

『被害者は10歳――』

 

それ以上、耳に入らない。

 

「なんで……。」

 

画面の向こうでは。

 

護送されるシャックスが笑っていた。

 

「キャハハハハハ!!」

 

ニュース映像越しに見た、その笑い声。

 

⸻

 

「キャハハハハ!!」

 

現実へ引き戻される。

 

目の前で笑っている男。

 

同じ笑い声。

 

同じ顔。

 

「……お前。」

 

ケンの声が低くなる。

 

⸻

 

モニター室

 

「ケン?」

 

ノンが息を呑む。

 

「違う……。」

 

「いつものケンじゃない。」

 

グレアーも表情を険しくした。

 

「坊主……。」

 

「あれは頭に血が上りやした。」

 

「まずいでさぁ。」

 

⸻

 

「キャハハハ!」

 

「どうしたぁ!」

 

「来いよぉ!!」

 

シャックスがブレードを振り上げる。

 

ケンの中で、何かが切れた。

 

「お前が……。」

 

ダウトが一気に前へ踏み込む。

 

「なんで!」

 

ヒートカトラスでヒートブレードを受け止める。

 

火花が散る。

 

「お前みたいな奴が!!」

 

左腕を突き出す。

 

「ワイヤーアンカー!!」

 

ガシュッ!!

 

アンカーがソリダスへ突き刺さる。

 

《接触確認》

 

《電子回線接続》

 

《侵入開始》

 

「止まれぇぇぇぇ!!」

 

バチィィッ!!

 

ソリダスの全身へ電流が走る。

 

「なっ……!」

 

シャックスが操縦桿を何度も叩く。

 

「動け!」

 

「動けよぉ!!」

 

「キャハハ……。」

 

笑っていた顔が初めて焦りへ変わる。

 

「なんでだ!」

 

「動けぇぇ!!」

 

「お前が……。」

 

ケンは低く呟いた。

 

ダウトがゆっくりとソリダスへ接近する。

 

ヒートカトラスを握る右手には自然と力が入っていた。

 

「お前が……。」

 

一閃。

 

ザンッ!!

 

ソリダスの右腕が肩口から切り飛ばされる。

 

宇宙へヒートブレードが流れていく。

 

「まだだ!」

 

左腕。

 

ザンッ!!

 

もう一本のヒートブレードも宙を舞った。

 

「お前が!」

 

さらに踏み込む。

 

ヒートカトラスがソリダスの頭部を斜めに切り裂く。

 

ドォンッ!!

 

頭部が爆散し、破片が宇宙へ飛び散る。

 

「なんで!」

 

「なんで人を殺して!!」

 

「そんな笑ってられるんだよ!!」

 

ケンの怒号が宇宙へ響く。

 

⸻

モニター室

 

「ケン!」

 

ノンが立ち上がる。

 

「もうやめて!」

 

叫んでも届かない。

 

グレアーは険しい顔のままモニターを見つめる。

 

「坊主……。」

 

「完全に頭へ血が上っちまってる。」

 

メイド長は何も言わない。

 

ただ、ノンが今にも飛び出しそうな様子を静かに見守っていた。

 

⸻

 

「キャハ……。」

 

頭部を失ったソリダスのコックピットから、シャックスの笑い声だけが通信に乗る。

 

「そうだ……。」

 

「その顔だ……。」

 

「お前もこっち側だったんだなぁ!!」

 

「もっと怒れよ!」

 

「もっと殺したくなれ!」

 

「人殺しは気持ちいいよなぁ!!」

 

その言葉が、ケンの中の最後の理性を断ち切った。

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

ダウトがヒートカトラスを大きく振りかぶる。

 

「お前みたいな奴が生きてて!」

 

「なんで!」

 

「あの子が死ななきゃならなかったんだよぉぉぉ!!」

 

振り下ろされたヒートカトラスが、ソリダスのコックピットを真っ直ぐ貫いた。

 

一瞬。

 

時間が止まったようだった。

 

シャックスの笑い声も止む。

 

ソリダスのコックピットから生体反応ゆっくりと消えた。

 

完全停止。

 

『し……試合終了ぉぉぉ!!』

 

実況の声だけが、静まり返った会場へ響く。

 

『勝者!!』

 

『レッドスワン海賊団!!』

 

『ガンダムダウト! カトラス組!!』

 

歓声は起こらなかった。

 

観客達も、怒りに任せてコックピットを貫いたガンダムダウトの姿に息を呑んでいた。

 

⸻

モニター室

 

誰も口を開かなかった。

 

ノンはモニターを見つめたまま、小さく呟く。

 

「……ケン。」

 

グレアーも腕を組んだまま目を伏せる。

 

「坊主……。」

 

「重てぇもん背負っちまいやしたね。」

 

メイド長は静かにノンへ視線を向ける。

 

ノンは何も言わなかった。

 

ただ、宇宙空間で動かなくなったガンダムダウトを見つめ続けていた。

 

⸻

 

コックピット。

 

荒い呼吸だけが響く。

 

ヒートカトラスはまだコックピットへ突き刺さったままだ。

 

ケンは震える手で操縦桿を握り締める。

 

怒りは消えていた。

 

残ったのは、取り返しのつかない現実だけだった。

 

「……俺。」

 

「俺が……。」

 

その声は震えていた。

 

ガンダムダウトは、しばらくその場から動くことができなかった。




切り裂きシャックスとガダン


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