機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第二話 「なんでこうなった?」

 

 

 強い衝撃でケンは目を覚ました。

 

「うわっ!?」

 

 反射的に身体を起こす。

 

 見慣れた自室の天井ではない。

 

 薄暗いコックピット。

 

 昨夜、自分が動画撮影をしていたガンダムの中だった。

 

 そこでようやく状況を思い出す。

 

 動画編集。

 

 投稿。

 

 そしてそのまま寝落ち。

 

「あれ……朝?」

 

 寝ぼけた頭で周囲を見回す。

 

 すると。

 

 目の前に赤いパーカーを着た少女が立っていた。

 

 フードの隙間から覗く金髪。

 

 鋭い目付き。

 

 そして何より。

 

 もの凄く怒っていた。

 

「あんたやってくれたわね……」

 

 低い声だった。

 

 怒りを押し殺したような声。

 

 ケンは思わず後ずさる。

 

「えっと……」

 

 少女は一歩前へ出る。

 

「あんた自分が何をしたか分かってるの?」

 

「え?」

 

「は?」

 

 少女の眉が吊り上がる。

 

「分かってないの?」

 

「えっと……怒ってる理由を聞いても?」

 

「聞いてもじゃないわよ!」

 

 その瞬間。

 

 携帯端末が鳴った。

 

 ピコン。

 

 ピコン。

 

 ピコン。

 

 ピコン。

 

 通知音が止まらない。

 

「なんだこれ!?」

 

 画面を開く。

 

 大量の通知。

 

 大量のメッセージ。

 

 大量のコメント。

 

 見たこともない数字が並んでいた。

 

 ケンケンちゃんネル

 

 登録者数

 

 18人

 

 ↓

 

 126,384人

 

「は?」

 

 固まる。

 

 何度見ても数字は変わらない。

 

「え?」

 

 再生数。

 

 コメント数。

 

 共有数。

 

 全部桁がおかしい。

 

 コメントを一つ開く。

 

【本物のガンダムですか?】

 

 もう一つ。

 

【連邦の極秘兵器を発見したってマジ?】

 

 もう一つ。

 

【歴史が動いた】

 

「バズった……?」

 

 ケンの顔が輝く。

 

「もしかして、バズった!?」

 

 さらに輝く。

 

「まさか俺ホントにバズった!?」

 

 少女の拳が震える。

 

「違うでしょ!!」

 

 ゴツン!

 

 端末で頭を叩かれた。

 

「痛っ!」

 

「あんたのせいでまた戦争になるのよ!」

 

 少女は自分の端末を突きつける。

 

 表示されていたのはニュース記事だった。

 

【配信者による暴露で地球連邦の条約違反が判明】

 

【休戦協定崩壊】

 

【コロニー国家連合が緊急声明】

 

【地球連邦、回答拒否】

 

「……は?」

 

 ケンの思考が止まる。

 

「どういう事?」

 

「そのままよ」

 

 少女が睨む。

 

「あんたが動画を上げたせいで全部表に出た」

 

「え?」

 

「だから」

 

 少女の声が震える。

 

「戦争が始まるのよ」

 

 ケンは笑えなかった。

 

 冗談に聞こえなかった。

 

 少女の顔が本気だったからだ。

 

「……これホントにガンダムだったの?」

 

「そうよ」

 

 少女は即答した。

 

「私が処分するはずだった」

 

 その声には怒りと悔しさが混じっていた。

 

「なんで……」

 

 少女が拳を握る。

 

「なんでこんな事になるのよ……」

 

 そして。

 

 涙が落ちた。

 

 悲しみではない。

 

 悔しさだった。

 

「戦争にならないように持ち出したのに……」

 

 ケンは何も言えなくなる。

 

 やってしまった。

 

 そんな気がした。

 

「ごめん……」

 

 少女は顔を上げない。

 

「今から動画で説明する」

 

 ケンは慌てて言った。

 

「俺が作った偽物だったって言えば」

 

「もう無理よ!なにもかも手遅れ!」

 

 少女が叫ぶ。

 

「連邦の条約違反は世界中に知れ渡ってしまったのよ!」

 

「でも!ドッキリとかにしたら……」

 

「今更誰がそんなの信じるのよ!」

 

 その時だった。

 

 轟音。

 

 廃工場の壁が吹き飛んだ。

 

 爆風。

 

 衝撃。

 

 ケンと少女はコックピットの中へ転がり込む。

 

 ハッチが閉鎖。

 

 ロック。

 

 ディスプレイが起動する。

 

 ケンがシートへ座った瞬間だった。

 

 光の線が伸びる。

 

【生体認証確認】

 

【登録パイロット】

 

【KENKEN】

 

「え?」

 

 少女が絶句した。

 

「もう登録したの?」

 

「知らない!」

 

 ケンも叫ぶ。

 

「寝てただけだ!」

 

「どうして登録名がケンケンなのよ!」

 

「多分…寝言!」

 

「最悪じゃない!」

 

 二人が叫び合う。

 

 その間にも外の状況は変化していた。

 

 吹き飛んだ壁の向こう。

 

 複数のMSが廃工場へ侵入してくる。

 

 ソリダス。

 

 コロニー国家連合軍の主力量産機。

 

 流線型の曲面装甲。

 

 宇宙戦仕様のシルエット。

 

 ライフルを構えた機体がガンダムを取り囲む。

 

 完全包囲だった。

 

『対象を確認』

 

『大人しく投降しろ』

 

『繰り返す』

 

『投降しろ』

 

 隊長機らしきソリダスが警告を発する。

 

 少女が項垂れた。

 

「もう終わりよ……」

 

 諦めたような声だった。

 

「どうせ破壊するつもりだったし……」

 

「終わりじゃねぇよ!」

 

 ケンが叫ぶ。

 

「俺まだ死にたくないぞ!」

 

 その瞬間だった。

 

【パイロットの技量不足を確認】

 

【ASSIST MODE 起動】

 

 ディスプレイが切り替わる。

 

 赤い文字。

 

 ASSIST MODE

 

 シートベルトが自動で締まる。

 

「うわっ!?」

 

 身体が固定される。

 

「なにこれ!?」

 

「まさか……」

 

 少女が目を見開く。

 

「機体が自分で……」

 

 次の瞬間。

 

 ガンダムが動いた。

 

 ゆっくりと。

 

 だが確実に。

 

 長い眠りから目覚めるように。

 

 ガンダムが立ち上がる。

 

 ソリダス隊の動きが止まった。

 

 誰も予想していなかった。

 

 そしてケンも。

 

 少女も。

 

 まだ知らない。

 

 この瞬間から。

 

 世界を巻き込む戦いが始まる事を。

 

立ち上がったガンダムが前進する。

 

 床が揺れた。

 

 ソリダス隊が一斉にライフルを構える。

 

『対象起動確認!動いてます!』

 

『撃て!』

 

 十二機のソリダスの銃口からビームが一斉に放たれる。

 

「うわあああああ!!」

 

 ケンは思わず頭を抱えた。

 

 だが。

 

 ガンダムは勝手に動いた。

 

 跳躍。

 

 加速。

 

 廃工場の天井近くまで一瞬で飛び上がる。

 

 ビームが空を切った。

 

「なっ!?」

 

 ケンが驚く。

 

 赤いパーカーの少女も目を見開いていた。

 

「ありえない……」

 

 量産機とは比較にならない機動。

 

 まるで未来予測でもしているかのような回避だった。

 

【敵機動解析完了】

 

【脅威度:低】

 

【戦闘継続】

 

「戦闘継続じゃねぇよ!」

 

 ケンが叫ぶ。

 

「俺戦った事なんかねぇぞ!」

 

【アシストモード稼働中】

 

【問題ありません】

 

「問題あるだろ!」

 

 次の瞬間。

 

 ガンダムが着地する。

 

 轟音。

 

 床が割れた。

 

 ソリダス隊が散開する。

 

『慌てるな!囲め!』

 

『距離を取れ!』

 

『撃ち続けろ!』

 

 ビームが飛ぶ。

 

 実弾が飛ぶ。

 

 しかし。

 

 当たらない。

 

 ガンダムは異常だった。

 

 敵が撃つ前に動く。

 

 敵が避ける前に回り込む。

 

 まるで未来が見えているようだった。

 

「これ本当に俺が動かしてるのか?」

 

「ほぼ動かしてないでしょ!」

 

 少女が叫ぶ。

 

「止めなさいよ!」

 

「止め方が分からないんだよ!」

 

 ガンダムが急加速。

 

 一機のソリダスへ接近する。

 

『速いっ!?』

 

 ソリダスがライフルを向ける。

 

 しかし。

 

 ガンダムはその腕を掴んだ。

 

 触れた。

 

 ただそれだけだった。

 

【侵入開始】

 

【敵OS接続】

 

【支配権奪取】

 

 ディスプレイに文字が流れる。

 

「え?」

 

 ケンが固まる。

 

 次の瞬間。

 

 ソリダスのライフルが仲間へ向いた。

 

『なっ!?』

 

『おい!何をしている!』

 

『機体が動かな――』

 

 発砲。

 

 ビームが味方機を貫く。

 

 爆発。

 

 一機撃破。

 

「ええええええ!?」

 

 ケンが叫ぶ。

 

「何した今!?」

 

「ハッキングしたの……?」

 

 少女が呟く。

 

 その顔が青ざめていた。

 

『制御不能です!脱出も不可能!』

 

『まずは距離を取れ!』

 

『接触を許すな!』

 

 ソリダス隊が混乱する。

 

 だが遅かった。

 

 ガンダムが動く。

 

 また一機。

 

 また一機。

 

 触れた瞬間に制御が奪われる。

 

 仲間を撃つ。

 

 自爆する。

 

 動きを止める。

 

 戦場が地獄になる。

 

「やめろ!」

 

 ケンが叫ぶ。

 

「もういいだろ!」

 

【戦闘継続】

 

「だからやめろって!」

 

【敵戦力残存】

 

 ガンダムは聞かない。

 

 ただ最適解を実行する。

 

 それだけだった。

 

 数分後。

 

 ソリダス隊は半数を失った。

 

 残る六機。

 

『ダメだ、撤退する!』

 

『全機撃ちながら後退しろ!』

 

『距離を――』

 

 その瞬間。

 

 ガンダムの手が背中へと伸びる。

 

 そこにあるのは。

 

 ケンが取り付けたダミーライフル。

 

 発泡樹脂とジャンクパーツで作っただけのハリボテ。

 

 撃てる訳がない。

 

「それ飾りだぞ!」

 

【確認】

 

【代替手段実行】

 

 ガンダムがライフルを投げた。

 

『は?』

 

 隊長機のソリダスへ直撃。

 

 カメラ破損。

 

 体勢が崩れる。

 

 その隙を逃さない。

 

 ナイフ。

 

 ケンが付けた唯一の実用品。

 

 ジャンク屋で買った中古のMS用のナイフ。

 

 ガンダムがそれを抜く。

 

「待て待て待て待て!」

 

 ケンが叫ぶ。

 

「刺すな!」

 

 少女も叫ぶ。

 

「やめなさい!」

 

 だが。

 

 ナイフは止まらない。

 

 突進。

 

 一閃。

 

 ソリダスのコックピットが貫かれた。

 

 沈黙。

 

 爆発。

 

 機体が崩れ落ちる。

 

 ケンの顔から血の気が引いた。

 

「今……」

 

 残る五機。

 

 四機。

 

 三機。

 

 二機。

 

 一機。

 

 最後のソリダスが逃げようとする。

 

『くそっ!』

 

『化け物が――』

 

 ガンダムが追いつく。

 

 背後から掴む。

 

 そして。

 

 背部からナイフを突き刺した。

 

 背後からコックピットを貫かれたソリダスはそのまま地面に倒れ込む。

 

 戦闘終了。

 

【敵戦力殲滅】

 

【戦闘終了】

 

 静寂。

 

 廃工場には燃える残骸だけが残った。

 

 ケンは動かなかった。

 

 動けなかった。

 

 モニターには破壊されたソリダスが映っている。

 

 その中には。

 

 人がいた。

 

 自分と同じ。

 

 誰かの息子で。

 

 誰かの友人で。

 

 生きていた人間が。

 

 数分前まで確かにいた。

 

「……俺」

 

 声が震える。

 

 少女も何も言わない。

 

「俺……」

 

 手が震える。

 

 吐き気がする。

 

 呼吸が苦しい。

 

「人……」

 

 モニターから目を逸らせない。

 

「人を殺した……」

 

 誰も答えない。

 

 燃えるソリダスだけがそこにあった。

 

 工専へ行って。

 

 動画を撮って。

 

 バズりたかっただけなのに。

 

 昨日までそんな人生だったのに。

 

 どうしてこうなった。

 

 本当に。

 

 なんでこうなった?

 





ソリダス

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