機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
「くそっ……!」
ケンは操縦桿を切った。
ガンダムダウトが急旋回。
直後。
さっきまで機体がいた場所を、二本の弾道が貫いていく。
「また!」
アダマンのソリダスエースAC。
右手。
左手。
二丁のライフルを交互に撃ち分けながら。
止まらない。
一発撃つ。
動く。
また撃つ。
位置を変える。
さらに撃つ。
その全てが。
ケンの逃げ道を塞ぐように飛んでくる。
「なんで!」
ダウトを下降。
一発。
頭上。
「そこまで!」
右へ。
もう一発。
今度は右側。
「読んでるんだよ!」
ナックルガードシールドを構える。
着弾。
衝撃。
「ぐっ!」
機体が押し流される。
ケンは必死に姿勢を立て直した。
サブマシンガンを構える。
「だったら!」
連射。
だが。
アダマンは一瞬早く機体を斜めへ流した。
銃弾が虚空へ消える。
「また外した!」
ソリダスエースACが急加速。
ダウトの側面へ。
「速っ!」
ケンもスラスターを吹かす。
距離を取る。
だが。
アダマンは追ってこない。
一度引く。
そして。
ケンが逃げようとした先へ。
先回り。
「え?」
ライフル。
発射。
「うわっ!」
ダウトが咄嗟に身体を捻る。
弾丸が腰部装甲を掠める。
「なんなんだよコイツ……!」
逃げても。
追わない。
その代わり。
逃げる先にいる。
撃とうとすれば。
射線から外れる。
近付こうとすれば。
距離を広げる。
ケンが何をしようとしているのか。
全部。
一歩先で潰されていた。
その頃。
少し離れた宙域では。
火花が弾けていた。
「おらぁぁぁ!!」
カトラス・C。
二刀のヒートカトラスが振るわれる。
サラマンダーの巨大なヒートクロー。
激突。
ナーベルは押し込まれる前に、左側のスラスターを吹かした。
機体が横へ滑る。
そのまま旋回。
「そこだ!」
サラマンダーの側面。
ヒートカトラス。
だが。
巨大な腕が振り返る。
刃と爪がぶつかった。
「チッ!」
ナーベルはすぐに距離を取る。
以前なら。
一度攻撃を防がれれば、そのまま正面から押し込んでいた。
だが。
今のカトラス・Cは違う。
更新されたバックパック。
上がった旋回性能。
機体を小さく切り返しながら。
再び。
サラマンダーの死角へ回る。
「こっちは!」
右。
左。
急旋回。
「何年も前のままじゃねぇんだよ!」
ヒートカトラス。
振り下ろす。
サラマンダーが一歩引く。
刃が肩装甲を掠めた。
火花。
「入った!」
ナーベルの口元が上がる。
だが。
浅い。
サラマンダーが即座に反撃。
巨大なヒートクローが横薙ぎに迫る。
「!」
ナーベルは機体を倒すように回避。
爪が頭上を通り抜ける。
その直後。
尾部ユニット。
展開。
「またそれか!」
レールガン。
発射。
ナーベルはスラスターを最大まで吹かした。
カトラス・Cが急上昇。
砲撃が脚部のすぐ下を抜ける。
「……っぶねぇ!」
一瞬遅ければ。
下半身を持っていかれていた。
それでも。
ナーベルは離れない。
「カストロ!」
サラマンダーへ再び向かう。
「いつまで黙ってるつもりだ!」
ヒートカトラス。
サラマンダーが受ける。
「親父を嵌めたのはテメェだろ!」
火花。
返事はない。
「輸送艦を襲ったのも!」
ナーベルが押し込む。
「サラマンダーを奪ったのも!」
サラマンダーの腕が動く。
ナーベルはすぐに離れる。
「アタシらはもう掴んでんだよ!」
「証拠も!」
「テメェがやったことも!」
一瞬。
サラマンダーの動きが止まった。
ナーベルの目が細くなる。
そして。
初めて。
通信が開いた。
『……よく調べたな。』
ナーベルの顔から。
笑みが消えた。
「……。」
短い言葉。
それだけ。
否定しない。
誤魔化さない。
ナーベルの中で。
何年もの間。
疑い続け。
追い続けてきたものが。
一気に。
答えへ近付いた。
「……やっぱり。」
操縦桿を握る手に力が入る。
「テメェだったのか……!」
サラマンダーが構える。
『だからどうした。』
「……あ?」
『今さら何が変わる。』
ナーベルの目が見開かれる。
『ナーベンは死んだ。』
『レッドスワン海賊団は俺の下に入った。』
『そして今まで生き延びてきた。』
「テメェ……!」
『結果だけ見れば。』
『悪い話ではなかっただろう。』
「黙れ!」
カトラス・Cが加速した。
「誰のおかげで生き延びたと思ってやがる!」
二刀。
振り下ろす。
「アタシらは!」
サラマンダーの両腕。
ヒートクローが受け止める。
「テメェに生かされてたんじゃねぇ!」
火花。
「歯ぁ食いしばって!」
押し込む。
「テメェの無茶振り全部こなして!」
さらに。
スラスター。
「自分達で生き残ってきたんだよ!」
サラマンダーが腕を振り払う。
カトラス・Cが弾かれる。
「ぐっ!」
ナーベルは機体を立て直す。
怒っている。
頭の中が熱い。
それでも。
止まらない。
いや。
止めるつもりもない。
だが。
ただ真っ直ぐ。
無茶苦茶に突っ込んではいない。
距離。
角度。
相手の腕。
尾部。
全てを見る。
「ここで。」
ナーベルが低く呟く。
「終わらせる。」
その頃。
ケンは。
終わらせるどころではなかった。
「うわああっ!」
ダウトが急降下。
頭上。
アダマンの銃撃。
さらに。
下降先。
左。
もう一発。
「そこにも来るの!?」
ケンは機体を右へ捻る。
ギリギリ。
回避。
だが。
ソリダスエースACは。
既に次の位置へ。
「くそっ!」
サブマシンガン。
発射。
当たらない。
「だったら!」
ワイヤーアンカー。
左腕を上げる。
アダマンが。
即座にライフルを向けた。
「え?」
発砲。
「うわっ!」
アンカー射出口のすぐ横へ着弾。
ダウトの腕が弾かれる。
ワイヤーを撃てない。
「狙って……!」
アダマンの通信が入った。
『それか。』
「え?」
『今まで妙な止め方をしていた。』
ケンの表情が変わる。
アダマンは。
ダウトの戦いを見ていた。
当然だった。
ここまで。
カストロファミリー主催の大会を。
勝ち進んできたのだから。
『その腕から出る物。』
『近付かなければ問題ない。』
「……。」
ケンはワイヤーアンカーを見る。
ハッキング。
ダウトの切り札。
だが。
届かなければ。
何も出来ない。
「そんな……。」
アダマンの射撃。
ケンは回避。
「うわっ!」
また。
銃撃。
「くっ!」
ナックルガードシールド。
着弾。
さらに。
別角度から。
左手のライフル。
「二つ同時とか!」
ケンはダウトを後退させる。
アダマンは。
追わない。
距離を維持。
撃つ。
「……!」
また。
ケンの逃げ道を潰す。
「なんなんだよ……!」
今まで。
ケンは。
オーガに助けられてきた。
囮になって。
相手を引き付け。
その隙を。
オーガが撃つ。
そして。
ワイヤーアンカー。
ハッキング。
ダウトには。
他の機体にはない力がある。
だから。
勝てた。
でも。
今。
そのどれも。
通じない。
オーガはいない。
アンカーは警戒されている。
相手は。
純粋な操縦技術で。
遥かに上。
「……俺。」
ケンの額から汗が落ちる。
「こんなに……。」
アダマン。
移動。
射撃。
「下手だったんだ……。」
弾丸。
シールド。
着弾。
「ぐっ!」
その言葉が。
自分の胸へ刺さる。
アダマンから通信。
『ガンダムというから。』
一発。
ダウトが避ける。
『少しは期待していた。』
二発目。
回避。
『機体は悪くない。』
三発目。
ナックルガードシールド。
衝撃。
『だが。』
ソリダスエースAC。
急加速。
「!」
一気に距離を詰める。
『乗っているのは素人か。』
「……。」
ケンの眉が動く。
「……知ってるよ。」
『何?』
「素人なのは!」
サブマシンガンを構える。
「自分が一番知ってるよ!」
発射。
アダマンが機体を横へ流す。
「でも!」
ケンも追う。
「俺しか!」
さらに射撃。
「コイツに乗れないんだから!」
一瞬。
アダマンが距離を取る。
ケンは追いかけようとする。
だが。
「……っ。」
速い。
追いつかない。
ソリダスエースACが。
また遠距離へ。
ライフル。
照準。
「まずっ……!」
ケンがダウトを動かす。
一発。
避ける。
二発。
避ける。
三発。
「うわっ!」
肩装甲へ直撃。
ダウトが大きく傾く。
「くそ……!」
機体を立て直す。
その時。
遠く。
ナーベルの戦闘が。
モニターの端へ映る。
サラマンダー。
カトラス・C。
ナーベルは。
まだ食らいついている。
「ナーベル……。」
ケンが呟く。
「そっちまで……。」
だが。
視線を逸らした。
その一瞬。
警告。
「!」
アダマン。
正面。
右手のライフル。
左手のライフル。
二つの銃口。
完全に。
ダウトを捉えていた。
「しまっ――!」
同じ頃。
ナーベルも。
サラマンダーへ迫っていた。
「カストロォォォ!!」
カトラス・C。
旋回。
背後。
「もらった!」
二刀のヒートカトラス。
だが。
サラマンダーの尾が。
突然。
こちらへ向いた。
「なっ――」
レールガン。
至近距離。
ナーベルの目が見開かれる。
二つの戦場。
二つの危機。
ダウトのコックピット。
警告表示が点灯する。
《WARNING》
「……!」
ケンの呼吸が止まる。
目の前。
アダマンの銃口。
そして。
モニターの端。
ナーベルへ向けられた。
サラマンダーのレールガン。
「ナーベル……!」
次の瞬間。
二つの砲火が。
同時に放たれた。