機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第31話「メイド長のお買い物」

 リボーンコロニーの商業区は、昼を少し過ぎた頃から一段と人通りが増えていた。

 

 通り沿いには衣料品店や食料品店、生活雑貨を扱う店が並び、少し奥へ入れば船舶用部品や工業製品を扱う専門店もある。買い物袋を提げた家族連れや、学校帰りらしい学生達が行き交い、広場では老人達がベンチに腰掛けて世間話をしていた。

 

 地球連邦とコロニー国家連合の緊張を伝えるニュースは、この街にも当然届いている。

 

 それでも、ここにあるのは戦争とは縁遠い、穏やかな日常だった。

 

 その中を、ジーナ=メイガスはグレアー、おやっさん、数名のベルーガクルーと共に歩いていた。

 

「それじゃあ、あっしは食料品と船の備品を見てきやす。」

 

 グレアーが端末に表示された買い出しリストへ目を落としながら言う。

 

「おやっさんは予定通り機械部品ですかい?」

 

「ああ。ダウトの修理は終わってるが、闇試合で予備まで随分使っちまった。次にいつまともな店へ寄れるかも分からねぇし、買える時に買っとく。」

 

 おやっさんはそう答えると、通りの向こうに見える工業用品店へ視線を向けた。

 

 ジーナも自分の端末を確認する。

 

 そこには他の者達とは明らかに違う内容が並んでいた。

 

 衣類。

 

 下着。

 

 洗面用品。

 

 タオル。

 

 髪を整えるための道具。

 

 肌の手入れに使う物。

 

 その他、ノンがベルーガで生活していく上で必要になる日用品の数々。

 

「では、私はお嬢様の身の回りの物を揃えて参ります。」

 

 淡々と告げるジーナに、おやっさんが片眉を上げた。

 

「おい、メイド長。」

 

「はい。」

 

「必要だからって、あんまり買い込み過ぎんなよ。」

 

「必要な物を、必要な分だけ購入いたします。」

 

「……その言い方する奴が一番信用ならねぇんだよな。」

 

「どういう意味でしょうか。」

 

「いや、いい。」

 

 おやっさんは早々に諦めた。

 

 グレアーが苦笑しながら二人の間へ入る。

 

「予定通り、三時間半後に中央広場の時計塔前で合流しやしょう。坊主とお嬢も取材が終わり次第、そこへ来ることになってやす。」

 

「承知しました。」

 

「何かあったらすぐ連絡を。ここは中立コロニーとはいえ、あっしらはナガオカ屋として入ってる身ですからね。」

 

 その言葉に全員が頷いた。

 

 ケン達が取材をしている間も、こちらはこちらで余計な騒ぎを起こすわけにはいかない。

 

「では後ほど。」

 

 ジーナは軽く一礼すると、グレアー達と別れて一人、衣料品店の並ぶ通りへ向かった。

 

 店内へ入ると、柔らかな照明の下に様々な服が並んでいた。

 

 ジーナは迷いなく若い女性向けの区画へ進んだものの、最初の一着を手に取ってから、思いのほか長い時間その場に留まることになった。

 

 淡い色合いの上着を広げ、ノンが袖を通した姿を頭の中で想像する。

 

 色そのものは悪くない。

 

 だが、少し細身に作られている。取材で長時間歩くことを考えれば、肩回りにもう少し余裕があった方がいいだろう。

 

 棚へ戻し、今度は隣に掛けられていた別の上着へ手を伸ばす。

 

 こちらは動きやすそうだが、少々地味過ぎる。

 

「……。」

 

 さらに別の一着。

 

 それも違う。

 

 気付けば、同じ区画を何度も行き来していた。

 

「あの……。」

 

 後ろから声を掛けられ、ジーナが振り向く。

 

 店員の若い女性が、少し遠慮がちに立っていた。

 

「お探し物、お手伝いしましょうか?」

 

「問題ございません。」

 

「そうですか……。」

 

 店員が離れようとしたところで、ジーナは一瞬考え直した。

 

「ですが。」

 

「はい?」

 

「十代後半の女性が普段使いするのであれば、こちらとこちらでは、どちらがよろしいでしょうか。」

 

「え?」

 

 突然具体的な相談を受けた店員が目を瞬く。

 

 ジーナは二着の上着を並べながら続けた。

 

「着用される方は細身です。活動的ではございますが、少々無茶をなさる傾向がありますので、動きやすさも重要かと。」

 

「なるほど。」

 

「加えて、本人はあまり気になさっておりませんが、非常に整った容姿をしております。その点を損なわず、それでいて目立ち過ぎない物がよろしいかと。」

 

 店員が少し笑った。

 

「すごく大切な方なんですね。」

 

「当然でございます。」

 

 返事は即答だった。

 

 店員は少し驚いたようだったが、すぐに二着を見比べる。

 

「だったら、こっちの方がいいと思います。動きやすいですし、別の服にも合わせやすいですよ。」

 

「では、こちらを。」

 

「サイズは分かりますか?」

 

「はい。」

 

「即答なんですね……。」

 

「把握しておりますので。」

 

 ジーナにとっては、何を驚かれているのか分からなかった。

 

 会計を待つ間、ふと視界の端に赤い上着が入る。

 

 鮮やかな赤。

 

 ジーナは一度だけ手を伸ばしかけ、そこで止めた。

 

「……赤は、もう十分でございますね。」

 

「え?」

 

「いえ。何でもございません。」

 

 頭に浮かんだのは、赤いパーカーのフードを深く被り、カメラの前に立つノンの姿だった。

 

 赤ずきん。

 

 あの名を初めて聞いた時には、もっと他に何かなかったのでしょうかと思ったものだが、今となっては随分馴染んでいる。

 

 何より。

 

 あれはノン自身が選び取った道の象徴でもあった。

 

 戦争を止めたい。

 

 自分も何かをしたい。

 

 そう言って、ノンは自らカメラの前へ立つことを決めた。

 

 ジーナはそれを止めなかった。

 

 危険だと思わなかったわけではない。

 

 むしろ、出来ることならベルーガの安全な場所から一歩も出てほしくない。

 

 けれど。

 

 それでは駄目なのだ。

 

 そのことをジーナは、ずっと昔から知っていた。

 

 

 

 衣料品店を出たあと、次に入った生活雑貨店で髪を整えるためのブラシを手に取った時。

 

 昔の記憶が、ふいに蘇った。

 

 まだジーナが「メイド長」と呼ばれる遥か以前。

 

 幼い頃から、彼女の将来はほとんど決められていた。

 

 ジーナの母は、カノンの母親に仕えていた。

 

 そのため娘であるジーナもまた、いずれはカノンの側仕えとなるべく育てられていた。

 

『ジーナ。きちんと覚えておきなさい。将来、あなたはカノン様にお仕えするのですよ。』

 

『……はい。』

 

『カノン様のお側に立つ者として、恥ずかしくない人間にならなければなりません。』

 

 礼儀作法を学んだ。

 

 掃除。

 

 料理。

 

 衣服の手入れ。

 

 身の回りの世話。

 

 そして、万が一の時に主を守るための護身術まで。

 

 母は厳しかった。

 

 何を教える時にも、決まって最後にはカノンの名前が出た。

 

 カノン様のため。

 

 カノン様がお困りにならないように。

 

 カノン様に恥をかかせないように。

 

 それが仕事だということくらい、幼いジーナにも理解は出来た。

 

 けれど。

 

 理解出来ることと、納得出来ることは別だった。

 

 自分の母親なのに。

 

 どうして口を開けば他人の娘の名前ばかりなのだろう。

 

 どうして自分の人生まで、その子のために決められなければならないのだろう。

 

 胸の奥に生まれた小さな不満は、いつしか嫉妬へと変わっていった。

 

『ジーナ!』

 

 幼いカノンは、そんなジーナの気持ちなど何も知らず、いつも楽しそうに彼女を追い掛けてきた。

 

『一緒に遊ぼう!』

 

『私は遊び相手ではございません。』

 

『でもジーナと遊びたい。』

 

『他の方をお呼びいたします。』

 

『ジーナがいい!』

 

『……。』

 

 どうして自分なのか。

 

 ジーナには分からなかった。

 

 愛想良く接しているわけでもない。

 

 むしろ必要なこと以外は極力話さず、あくまで側仕えとして形式的に接していた。

 

 それでもカノンは懲りずに話しかけてきた。

 

 母からあれほど大切にされ。

 

 周囲からも可愛がられている少女。

 

 幼いジーナにとって、それは余計に面白くなかった。

 

 そして。

 

 ある日。

 

 その感情が取り返しのつかないことになりかけた。

 

 屋敷の庭で、カノンの世話を任されていた時だった。

 

 幼いカノンは好奇心のまま、庭に設けられていた少し高い場所へ登ろうとしていた。

 

『カノン様。危険ですのでお降りください。』

 

『大丈夫だよ!』

 

 本来なら。

 

 ジーナはすぐに止めるべきだった。

 

 腕を取ってでも降ろすべきだった。

 

 それが、自分の役目だった。

 

 けれどその時。

 

 胸の奥にあった幼い嫉妬が、ほんの一瞬だけ勝った。

 

 いつもカノン様。

 

 いつもカノン様。

 

 少しくらい。

 

 自分の好きにすればいい。

 

 そんな考えが頭を過った。

 

『カノン様。』

 

 もう一度だけ形式的に声を掛けたあと、ジーナは目を離した。

 

 直後だった。

 

『きゃっ!』

 

 小さな悲鳴と、何かが落ちる音。

 

 振り返った時には、カノンが地面に倒れていた。

 

『カノン様!』

 

 頭の中から嫉妬も不満も一瞬で消え去った。

 

 ジーナは駆け寄り、幼いカノンを抱き起こした。

 

 額から血が流れていた。

 

 腕にも擦り傷がある。

 

『……痛い。』

 

『カノン様……!』

 

 幸い、大きな怪我ではなかった。

 

 額を切り、腕を擦りむいただけ。

 

 それでも。

 

 あの時感じた恐怖を、ジーナは今でも忘れていない。

 

 もし。

 

 もう少し打ち所が悪かったら。

 

 もし。

 

 あと少し高い場所から落ちていたら。

 

 すべて。

 

 自分のせいだった。

 

 当然。

 

 母から厳しく叱責された。

 

『ジーナ! あなたは何をしていたのです!』

 

『……申し訳ございません。』

 

『カノン様のお側にいながら、お怪我をさせるなど! あなたには何度言えば――』

 

『違うの!』

 

 その声に。

 

 ジーナも母も振り向いた。

 

 額に小さな包帯を巻いたカノンが立っていた。

 

『カノン様。』

 

『ジーナは悪くないの!』

 

『しかし――』

 

『私が勝手に登ったの!』

 

 カノンは必死だった。

 

『ジーナはやめてって言ったのに、私が聞かなかったの! だからジーナを怒らないで!』

 

 ジーナは何も言えなかった。

 

 確かに、一度は止めた。

 

 だが。

 

 それだけだった。

 

 本気で守ろうとしなかった。

 

 それを一番よく分かっているのは、自分自身だった。

 

 なのに。

 

 どうしてこの少女は、自分を庇うのか。

 

 

 

 その日の夜。

 

 ジーナは一人でカノンの部屋を訪れた。

 

『カノン様。』

 

『ジーナ?』

 

 ベッドの上で本を眺めていたカノンが顔を上げる。

 

 額の包帯を見るだけで、胸の奥が締め付けられた。

 

『……どうして。』

 

『ん?』

 

『どうして、私を庇ったのですか?』

 

 カノンは不思議そうに首を傾げた。

 

『どうしてって?』

 

『私は……カノン様をきちんと見ておりませんでした。』

 

 ジーナは俯く。

 

『私が悪いのです。』

 

 声が震えた。

 

『それなのに、どうして……。』

 

 カノンは少しだけ考えてから。

 

 まるで当たり前のことのように答えた。

 

『だって、ジーナが怒られるの嫌だったから。』

 

『……。』

 

『ジーナ、いつも一緒にいてくれるでしょ?』

 

『それは、私の役目ですので……。』

 

『でも私は嬉しいよ。』

 

 カノンは笑った。

 

『だからジーナが怒られるの嫌。』

 

 それだけだった。

 

 難しい理由など何もなかった。

 

 自分はこの少女に嫉妬していた。

 

 自分の母親を取られているように感じていた。

 

 自分の人生まで、この少女のために決められていると思っていた。

 

 それなのに。

 

 カノンは。

 

 そんな自分が怒られるのが嫌だからという、それだけの理由で庇った。

 

 その瞬間。

 

 ジーナの中で。

 

 母から教えられてきた「カノン様に仕える」という言葉の意味が、初めて変わった。

 

 母に言われたからではない。

 

 決められていたからでもない。

 

 ジーナ自身が。

 

 この少女を守りたいと思った。

 

『……申し訳ございませんでした。』

 

『ジーナ?』

 

 ジーナは頭を下げる。

 

『カノン様。』

 

 そして。

 

 顔を上げた。

 

『これからは、絶対にカノン様をお守りいたします。』

 

 幼いカノンは目を丸くしたあと。

 

 すぐにいつもの笑顔へ戻った。

 

『うん!』

 

 それから、何の重みも理解していないような顔で続けた。

 

『じゃあ明日も一緒に遊ぼうね、ジーナ!』

 

『……。』

 

 ジーナは僅かに困ったように黙り。

 

 やがて。

 

『はい。』

 

 初めて。

 

 心から笑って答えた。

 

 

 

「……。」

 

 ジーナはブラシを手にしたまま、静かに目を細めた。

 

 あれから随分長い時間が経った。

 

 カノンは成長し。

 

 今ではノンと名乗り、地球連邦からも離れ、自分自身の意思で戦争を止めようとしている。

 

 幼い頃のように、危険な場所から抱き上げて連れ戻すわけにはいかない。

 

 今のノンには。

 

 自分で選んだ道がある。

 

「……昔から、言うことを聞いてくださらないところは変わりませんね。」

 

「誰の話かしら?」

 

 突然横から声を掛けられ、ジーナが振り向いた。

 

 一人の老婦人が買い物籠を手に立っていた。

 

「失礼。独り言が聞こえてしまって。」

 

「いえ。」

 

 ジーナは軽く頭を下げる。

 

「お気になさらず。」

 

 老婦人はジーナの籠を見た。

 

 若い女性向けの洗面用品や衣類が並んでいる。

 

「あら。娘さんのお買い物?」

 

「いいえ。」

 

 ジーナは即答した。

 

「違うの?」

 

「はい。私がお仕えしている方の物でございます。」

 

「まあ。」

 

 老婦人は少し驚いたあと、柔らかく笑った。

 

「今時珍しいのね。若い方?」

 

「はい。」

 

「ずいぶん大切にしてるみたい。」

 

 ジーナは、ほんの少しだけ答えるまでに間を置いた。

 

 幼い日のカノン。

 

 傷を負いながら、それでも自分を庇ってくれた少女。

 

 そして今。

 

 赤いフードを被り、自分の意思で前へ進もうとしているノン。

 

「……はい。」

 

 ジーナの声は静かだった。

 

「私にとって、とても大切な方です。」

 

 老婦人は嬉しそうに頷く。

 

「そう。」

 

 そして棚の一角を見て、小さな髪飾りを手に取った。

 

「じゃあ、こういうのはどう?」

 

 ジーナも見る。

 

 派手ではないが、少し可愛らしい意匠が入っている。

 

「……。」

 

「あら、好みじゃない?」

 

「いえ。」

 

 ノンが身に着けている姿を想像する。

 

「恐らく最初は嫌がられるかと。」

 

「ふふっ。」

 

「ですが、最終的にはお使いいただけると思います。」

 

「本当によく分かってるのね。」

 

「長い付き合いでございますので。」

 

「きっとその子も、あなたのことが大好きなのね。」

 

 その言葉に。

 

 ジーナは珍しく返答を迷った。

 

「……どうでしょうか。」

 

「あら。」

 

「私は、お仕えしているだけでございます。」

 

 老婦人は少し笑う。

 

「そういうことにしておきましょうか。」

 

「……。」

 

 何故か見透かされたような気がした。

 

 ジーナは小さく頭を下げる。

 

「参考になりました。ありがとうございます。」

 

「どういたしまして。」

 

 老婦人は笑いながら手を振り、別の棚へ歩いていった。

 

 ジーナは手に残った髪飾りをしばらく見つめたあと。

 

 静かに買い物籠へ入れた。

 

 

 

 それからさらに数十分。

 

 必要な物を一通り揃え終えたジーナは、両手に幾つもの紙袋を提げて店を出た。

 

 予定していた合流時間までもう僅かだった。

 

 中央広場へ向かう道を歩きながら、改めて荷物を確認する。

 

 衣類。

 

 下着。

 

 洗面用品。

 

 タオル。

 

 化粧品。

 

 髪用品。

 

 予備。

 

 さらに予備。

 

 そして、予定になかった髪飾り。

 

「……。」

 

 一瞬だけ。

 

 買い過ぎたかもしれないという考えが頭をよぎった。

 

 しかし。

 

「どれも必要な物でございます。」

 

 自分自身へ言い聞かせるように呟き、そのまま歩き続ける。

 

 中央広場の時計塔が見えてきた。

 

 その下には。

 

 既にグレアーと、おやっさん達の姿があった。

 

 グレアーは端末を操作しながら、買い出しを終えたクルー達が持ち寄った物資を確認している。

 

「食料はこれで問題なし。船の消耗品も一通り揃いやしたね。」

 

「機械部品も使えそうなのは押さえたぞ。」

 

 おやっさんが答えたところで。

 

 こちらへ歩いてくるジーナに気付いた。

 

「……おい。」

 

 ジーナが足を止める。

 

「はい?」

 

 おやっさんの視線は、ジーナ本人ではなく。

 

 その両手いっぱいの買い物袋へ向けられていた。

 

「なんだその量。」

 

「お嬢様に必要な物でございます。」

 

「やっぱり買い過ぎてるじゃねぇかよ!」

 

 広場に、おやっさんの声が響いた。

 

 周囲のクルー達が思わず振り向く。

 

「買い過ぎではございません。」

 

「どこがだ! 行く前に俺が何て言った!」

 

「必要な物を必要な分だけ購入すると申し上げました。」

 

「その結果がそれかよ!」

 

「はい。」

 

「堂々と言うな!」

 

 グレアーが横から袋の数を眺め、肩を揺らした。

 

「いやぁ、随分と“必要な分”が多かったようで。」

 

「今後いつ補給の機会があるか分かりませんので、余裕を持って購入しただけです。」

 

「おいメイド長。」

 

「はい。」

 

 おやっさんが袋の一つから僅かに覗いている髪飾りを指差した。

 

「それも必要品か?」

 

「はい。」

 

「絶対違うだろ。」

 

「お嬢様がお使いになられる可能性がございますので。」

 

「可能性じゃねぇか!」

 

「必要性は十分にございます。」

 

「どういう理屈だよ!」

 

 珍しくおやっさんが完全に押されている。

 

 グレアーはそんな二人を横目に端末を確認した。

 

「まぁ、支払いは予算内に収まってるみたいですし、いいんじゃないですかね。」

 

「お前まで甘やかすな!」

 

「お嬢のもんですからねぇ。メイド長に任せるしかないでしょう。」

 

「だからってこの量は――」

 

 まだ何か言おうとするおやっさんを無視し、ジーナは周囲を見回した。

 

「ところで。」

 

 声の調子が少し変わる。

 

「お嬢様はまだお戻りでは?」

 

「坊主と一緒に取材中です。」

 

 グレアーが答える。

 

「予定では、そろそろ切り上げてこっちへ向かってくる頃ですな。」

 

「そうですか。」

 

 ジーナは短く答えた。

 

 顔には出ていない。

 

 けれど。

 

 ほんの少しだけ。

 

 肩の力が抜けたようにも見えた。

 

 おやっさんはそれに気付いたのか、何も言わず鼻を鳴らした。

 

「ま、坊主も一緒なんだ。そうそう妙なことにはならんだろ。」

 

「……。」

 

 ジーナが無言でおやっさんを見る。

 

「なんだよ。」

 

「その言葉が、不安を増しております。」

 

「なんでだ!」

 

 グレアーがとうとう吹き出した。

 

「ははっ。まぁ坊主ですからねぇ。」

 

「お前まで何なんだよ!」

 

 ジーナは両手いっぱいの袋を持ったまま、静かに時計塔を見上げる。

 

 まだ。

 

 この時の彼女達は知らなかった。

 

 少し離れた場所で取材を続けるケンとノンが。

 

 そして。

 

 この平和なリボーンコロニーそのものが。

 

 間もなく大きな騒動へ巻き込まれることになるなど。

 

 何も知らないまま。

 

 ジーナはただ。

 

 ノンへ渡すために選んだ小さな髪飾りが入った袋を、大切そうに持ち直していた。




メイド長


【挿絵表示】

好きなキャラクター

  • ケン=大神
  • ノン=レッドフード
  • グレアー=アイズ
  • ヤスシ=ロックブック(おやっさん)
  • ジーナ=メイガス(メイド長)
  • ナーベル=シーマ
  • オーガ=ワーイック
  • ザーク
  • ドン・カストロ
  • 切り裂きシャックス
  • ジャンク屋の親父
  • ケンケンちゃんネルに最初に登録した少女
  • ベルーガのクルー一同
  • 今後のキャラに期待
  • 作者NageT
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