機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
ガンダムダウトがベルーガの格納庫へ戻った時には、Live配信はすでに終了していた。
警邏艦との距離を十分に取り、追撃してくる機体がないことを確認してから、赤ずきんが配信を切ったのだ。
民間輸送船を助けるために始めたはずのLiveは、結果としてそれ以上のものを世界へ晒すことになった。
賊三機との戦闘。
コロニー国家連合軍第206警邏中隊――オービットハンズとの遭遇。
兵士達との会話。
そして最後には、一個中隊規模のソリダスを相手に、それまでとはまるで別物のような動きを見せたガンダム。
すべてが編集されることなく、そのまま流れた。
格納庫へ収容されたダウトを固定アームが支え、整備員達がすぐに機体へ取り付いていく。
その間もケンは、しばらくコックピットから動けなかった。
「……疲れた。」
ノーマルスーツのヘルメットの中で、自分の声が妙に近く聞こえる。
身体に大きな怪我はない。
それでも、操縦桿から離した指先にはまだ力が残っていた。握っていた感覚が抜けず、手を開くだけなのに少し時間が掛かる。
「坊主!」
下からおやっさんの声が響いた。
「無事ならさっさと降りてこい! 点検出来ねぇだろうが!」
「……今行くよ。」
「元気ねぇな!」
「元気あるわけないじゃん!」
言い返してから、ケンはようやく身体を起こした。
コックピットを出て梯子を降りる。
格納庫の床には、ノンとグレアーも来ていた。
ジーナも少し離れた場所に立っていたが、ケンが降りてくるより先にノンの様子を確認している。
ケンはヘルメットを外し、大きく息を吐いた。
「……ただいま。」
「おかえり。」
ノンが短く返した。
それから、ケンの背後にあるダウトへ視線を向ける。
外装やナックルガードシールドには細かな損傷が増えている。
それでも、一個中隊規模の正規軍を相手にした直後とは思えないほど、大きな破損はなかった。
「今回も、追い詰められてからだったわね。」
「……うん。」
何の話か、言われなくても分かった。
ケンも振り返ってダウトを見る。
「最初の時もそうだったよね。」
「覚えてるわよ。」
ノンは当然のように答えた。
忘れるはずがない。
まだケンがまともにダウトを動かすことすら出来なかった頃。
同じコックピットの中で、ノンもそれを見ている。
追ってきたソリダスを前に、ダウトがケンの意思とは無関係に動き始めた。
「俺、あの時ほとんど何も出来なかった。」
「ええ。」
「勝手に動いて、勝手に戦って……。」
そこまで言って、ケンは少しだけ言葉を止める。
「あの時は、撃墜したり……機体を自壊させたりもしてた。」
ノンの表情も僅かに曇った。
あれがあったからこそ、ベルーガへ来た後、ケンはおやっさんとダウトの設定を弄った。
敵を撃墜しない。
人を殺さない。
少なくとも、そういう戦い方を優先するように。
実際、それ以降アシストモードが発動しても、敵機を撃墜したり、パイロットを殺したりはしていない。
今回のオービットハンズ戦でもそうだった。
圧倒はした。
けれど、壊してはいない。
「今回も設定は守られてた。」
ケンが言う。
「一機も撃墜してないし、誰も死んでない。」
「ええ。」
「でも……。」
ケンは自分の手を見る。
「やっぱり怖い。」
ノンが黙って続きを待つ。
「俺、途中からほとんど何も出来てなかったじゃん。」
「それは分かってる。」
「設定では殺さないようにしてある。」
「それも知ってるわ。」
「でもさ。」
ケンは少し迷いながら、言葉を探した。
「あんな速さで戦ってたら、何か一つ間違っただけでも危ないだろ。」
「……。」
「コックピット狙ってなくても、ぶつかった場所が悪かったら壊れるかもしれないし。止めた機体が別の機体にぶつかるかもしれない。」
あの時の光景を思い出す。
十二機近いソリダスの間を、ダウトはまるで最初から全部分かっているかのように動いていた。
ケン自身が何をするのか理解するより先に、次の機体へ向かっていた。
「設定したから大丈夫って、頭では分かってる。」
ケンの声が少し小さくなる。
「今までだって守られてるし。」
「うん。」
「でも、俺が止めようとしても止められないから……絶対大丈夫って思えないんだよ。」
その言葉に、ノンはすぐには返さなかった。
代わりに、おやっさんが機体の下から声を掛ける。
「坊主。」
「何?」
「こっち来い。」
ケンとノンがダウトの右脚付近へ歩いていく。
おやっさんは端末を片手に、戦闘ログを確認していた。
「設定自体は生きてる。」
「ほんと?」
「ああ。」
おやっさんが画面を指す。
「今回も致命部位やコックピットを避けるように動いてる。止めてるのも火器、推進、機体制御が中心だ。」
「……そっか。」
少しだけ安心する。
だが、おやっさんはそこで話を終わらせなかった。
「ただし。」
ケンを見る。
「戦場に絶対なんてねぇ。」
「……。」
「相手も動く。こっちの予測通りに全部動いてくれるわけじゃねぇ。流れ弾もある。停止させた機体がどう流れるかまで、何もかも完全に保証出来るわけじゃねぇ。」
ケンは黙って聞いていた。
「設定は守られてる。」
おやっさんは続ける。
「だが、お前が怖がってる理由も間違っちゃいねぇ。」
「……うん。」
「それに一番の問題は、やっぱりそこだな。」
おやっさんがコックピットを見上げる。
「お前が主導権を握れてねぇ。」
ケンの表情が僅かに固くなる。
それだった。
非殺傷設定がある。
実際、守られている。
それでもケンが安心出来ない理由。
自分で止められない。
自分で始めたわけでもない。
追い詰められた瞬間、ダウト側が判断し、戦い始める。
そして、脅威がなくなるまで止まらない。
「なんか……ズルして勝ってるみたいなんだよな。」
ケンがぽつりと言った。
ノンが眉を寄せる。
「ズル?」
「だって俺、あんなこと出来ないし。」
「出来ないでしょうね。」
「そこ即答する?」
「事実でしょ。」
「そうだけど!」
少しだけ空気が緩む。
グレアーもそこでようやく口を挟んだ。
「ま、あれが無きゃ坊主は今頃オービットハンズの艦ん中でやすけどね。」
「……それも分かってる。」
「だったら、今すぐどうこう出来る話じゃありやせん。」
グレアーが肩をすくめる。
「怖いから使わない、で済むなら簡単なんでやすけど、坊主が使うかどうか決めてるわけでもないんでやすから。」
「そうなんだよなぁ……。」
ケンは困ったように頭を掻いた。
「ま、機体はこっちで調べる。」
おやっさんが言う。
「坊主は休め。」
「うん。」
「あとアンカーは無事だ。」
「あ、それ良かった。」
「切られそうになった時に外したのは正解だったぞ。一本しかねぇからな。」
「ほんとギリギリだった。」
「だからしっかり点検する。」
「よろしく。」
「お前も手伝え。」
「休めって言ったじゃん!」
「休んでからだ!」
「結局やるんだ!」
声を上げると、ノンが呆れたようにため息を吐いた。
「それだけ騒げるなら大丈夫そうね。」
「疲れてるって!」
格納庫に、少しだけいつもの空気が戻った。
◇
しばらくして。
自室へ戻ったケンは、結局ベッドに横になる前に端末を開いていた。
「……何これ。」
86ちゃんTV。
赤ずきんちゃんネル。
先ほど終了したLive配信のアーカイブには、信じられない勢いで数字が積み上がっている。
再生数。
コメント数。
登録者数。
更新するたびに数字が変わっていく。
向かいの椅子に座っているノンは、それほど驚いていなかった。
「Liveであんなもの見せたのよ。当然でしょ。」
「当然かなぁ……。」
「少なくとも、注目されない方がおかしいわ。」
画面の端から、86ちゃんTVの緑色のマスコットがころころと転がってくる。
その横では、コメントが目で追えないほどの速さで流れていた。
ケンは途中で自動更新を止め、いくつかを拾っていく。
『輸送船助けたのは普通にすごい。』
『賊三機も殺してない。』
『問題はその後だろ。』
『正規軍一個中隊をあれだけ一方的に止めるって何なんだよ。』
『途中から明らかに動きが違った。』
ケンの指が一瞬止まる。
「……やっぱ気付くよね。」
「気付かない方がおかしいわ。」
「だよね。」
当然、内部で何が起きていたのかまでは知られていない。
『最初は手加減してたんじゃない?』
『いや本人普通に焦ってたぞ。』
『特殊な制御システム?』
『途中からケンケンが操縦してるように見えなかった。』
最後のコメントを見て、ケンは少しだけ顔をしかめる。
何も言わず、別の話題へスクロールした。
そこでは、また違う議論が始まっていた。
『コロニー連合兵がガンダム怖いって言ってた意味は分かった。』
『地球側だと英雄の印象強いからな。』
『でも今回は誰も殺してないだろ。』
『殺さなかったことと、あの力が怖いことは別じゃない?』
『あれだけ強い兵器が一機いるってだけで怖い。』
さらに下へ。
『指名手配犯なんだから軍が捕まえようとしたのは普通だと思う。』
『でも先に民間船助けたのも事実。』
『どっちが正義とか悪とかで片付ける話じゃないだろ。』
ケンはそこで少し姿勢を変えた。
「……また変わったね。」
「何が?」
「コメント。」
ノンも画面を見る。
「前は俺達が正しいとか、犯罪者だからダメとか、そういうの多かったじゃん。」
今もそういうコメントはある。
けれど、それだけではなくなっている。
『コロニー国家連合側だけが被害者みたいに言うな。地球側だって大勢死んでる。』
『だからまた戦うの?』
『忘れろって言われても無理だろ。』
『じゃあ何世代まで恨み続ければ終わるんだよ。』
『簡単に終わるならとっくに終わってる。』
誰かが何かを言えば、別の誰かが反論する。
その反論にも、また別の意見が返る。
ケンはしばらく黙って読んでいた。
「……みんな、話してる。」
「ええ。」
「俺達の話じゃなくて。」
「戦争の話をね。」
さらに一つ。
コロニー国家連合の市民を名乗る長いコメントが目に止まる。
『私はガンダムが嫌いです。祖父母から昔の戦争の話を聞いて育ちました。』
『今日の兵士の人が言っていたことも分かります。』
『でも、輸送船を助けたことも、兵士を誰も殺さなかったことも事実です。』
『正直、自分でもどう考えればいいのか分からなくなりました。』
ケンは最後まで読んだ。
「……この人も分かんないんだ。」
「そうみたいね。」
「俺と一緒だ。」
少しだけ笑う。
その下には、地球側を名乗るコメントもあった。
『コロニーの人達がガンダムをあんなに怖がってるなんて知らなかった。』
『こっちにも昔の戦争で家族を失った人間はいる。』
『どっちが全部悪いって話じゃないだろ。』
『だったら今の世代まで戦う必要あるのか?』
ケンは背もたれへ身体を預ける。
「……なんかさ。」
「何?」
「色んな人の話聞けば、分かるようになると思ってたけど。」
画面を眺める。
「聞けば聞くほど、分かんなくなるね。」
ノンは少し考えてから、
「それでいいんじゃない?」
と答えた。
「え?」
「最初から答えを持ってるなら、話を聞く必要ないでしょ。」
「……確かに。」
「私達は、自分達の答えを世界に押し付けるために始めたわけじゃない。」
ノンも流れ続けるコメントを見ている。
「色んな人がどう思ってるのか。それを聞くためでしょ。」
「うん。」
ケンが頷いた。
その時。
端末上部に速報表示が現れた。
続いてベルーガ艦内の共通回線にも同じ通知が流れる。
「……地球連邦?」
ケンが画面を覗き込む。
「政府緊急声明……。」
ノンの表情が変わった。
「開いて。」
「うん。」
映像を切り替える。
◇
地球連邦政府の紋章を背に、報道官が演台の前へ立っていた。
会見場にはすでに大勢の報道陣が集まっている。
ベルーガのブリッジでも同じ映像が映し出され、グレアー達も中継を見始めていた。
『本日、地球連邦政府は、現在コロニー国家連合が月周辺宙域へ展開している大規模艦隊について、正式な見解を発表いたします。』
報道官が原稿を読み上げる。
『月及びその周辺宙域は、我々地球連邦にとって極めて重要な領宙圏です。そこへ大規模な軍事力を展開する行為は、抗議の範囲を大きく逸脱し、宣戦布告とも受け取られかねない行為であると認識しております。』
ケンは黙って聞いていた。
隣のノンは最初から表情が硬い。
『そして、その発端とされている、いわゆる“ガンダム”についてですが――』
ケンの視線が僅かに上がる。
『我々地球連邦は、現在に至るまで、新たなガンダムの開発を行っていなかったことを、ここに明言いたします。』
「……嘘。」
ノンが低く呟いた。
「え?」
ケンが横を見る。
ノンは画面から目を離していない。
『過去の戦争終結後、地球連邦は条約に基づきガンダム開発を凍結し、関連技術についても厳重な管理を続けてきました。』
「……よく言うわ。」
「ノン?」
「開発してた。」
今度ははっきり言った。
「私達が持ち出したのが、そのガンダムでしょ。」
「あ……。」
ケンの表情が変わる。
そうだった。
ノン達がベルーガと共に持ち出した、まだフレームしか完成していなかったガンダム。
後にケンが見つけ、ガンダムダウトとなった機体。
それは元々、地球連邦側で秘密裏に進められていた開発計画の中にあったものだ。
ノンは父――オルフェウス=フーガが秘密裏にガンダム開発へ関わっていることを知り、グレアーやおやっさん達の協力を得て、ベルーガとガンダムを持ち出した。
誰にも知られないまま破壊する。
戦争の火種になる前に消す。
それが、本来の目的だった。
ブリッジ側からグレアーの声が入る。
『……しらを切りやしたね。』
普段よりずっと低い声。
おやっさんも別回線から吐き捨てる。
『凍結だぁ? 俺が何作ってたと思ってやがる。』
実際に開発へ携わっていた人間の言葉だった。
『今回問題となっているガンダムが発見された場所も、地球ではありません。コロニーです。』
報道官は淡々と続ける。
『現在その機体へ搭乗しているケン=大神氏も、地球連邦軍人ではなく、コロニーに暮らしていた民間人です。』
「俺のことまで……。」
ケンが呟く。
しかし、今はそこに驚いている余裕もない。
『さらに、当該ガンダムによるコロニー国家連合側への被害についても、最初に確認された戦闘を除き、その後、大規模な人的被害は確認されていません。』
『本日、某動画配信サイトにおいて公開されたLive映像においても、コロニー国家連合軍第206警邏中隊との交戦が確認されています。』
ケンの眉が僅かに寄る。
『映像を確認する限り、同部隊に撃墜された機体及び死者は確認されていません。』
つい数時間前の出来事。
それが、もう国家の声明の材料として使われている。
『以上の事実を踏まえ、地球連邦政府は現在の一連の事態について、重大な疑念を抱いております。』
報道官が一度、原稿から顔を上げる。
『すなわち――』
会見場が静まる。
『今回のガンダム騒動そのものが、地球連邦への軍事行動を正当化するために利用された、コロニー国家連合側による自作自演、あるいはプロパガンダである可能性です。』
「……は?」
ケンが思わず声を漏らした。
ノンの拳がぎゅっと握られる。
『我々地球連邦に、戦争の意思はありません。』
『我々は条約を守り、ガンダム開発を凍結してきました。』
「自分達で作ってたくせに……。」
ノンの声に、怒りが滲む。
「自分達で作って。」
「私達が持ち出したら、今度はコロニー国家連合の自作自演?」
ケンがノンを見る。
「じゃあ……。」
少し遅れて、意味を理解する。
「連邦は、本当のこと知ってて言ってるの?」
「少なくとも上は知ってる。」
ノンは即答した。
「私の父が関わってたのよ。」
オルフェウス=フーガ。
地球連邦の高官。
その父が秘密裏に開発を進めていた。
「知らないわけない。」
「……そんなの。」
ケンは画面へ視線を戻す。
「全部嘘じゃん。」
「全部じゃない。」
ノンが言った。
「だから厄介なのよ。」
「え?」
「月の周辺にコロニー国家連合の艦隊がいる。」
「うん。」
「ガンダムがコロニーで見つかった。」
「うん。」
「あなたがコロニーにいた民間人なのも、本当。」
「……うん。」
「今日のLiveで、第206警邏中隊に死者が出なかったのも本当。」
そこでノンの声が冷たくなる。
「その中に、自分達がガンダムを作ってたっていう一番都合の悪い事実だけを隠してる。」
ケンは黙った。
「本当のことに、嘘を混ぜてる。」
その言葉に、ケンの表情が僅かに変わった。
全部が嘘ではない。
だからこそ人は信じる。
自分にも、覚えがあった。
ガンダムのフレームを見つけた。
それは本当だった。
けれど、外装は自分がジャンクで付けた偽物。
その部分を隠して、
ガンダムを見つけました。
そう動画にした。
世界は、それを別の意味で受け取った。
「……。」
『それにもかかわらず、地球連邦の領宙圏へ艦隊を展開し、我々を一方的に脅威として扱う現在の行為は、両者の関係を意図的に悪化させるものと判断せざるを得ません。』
報道官の声が続く。
『地球連邦は、このような軍事的圧力に屈するつもりはありません。』
ノンの目がさらに鋭くなる。
『よって――』
一瞬。
嫌な間が空いた。
『本日をもって、地球連邦はガンダム開発凍結措置を解除いたします。』
「……え?」
ケンが固まった。
ノンは何も言わない。
グレアーも。
おやっさんも。
誰もすぐには言葉を出せなかった。
画面下へ速報が流れる。
――地球連邦政府、ガンダム開発凍結措置を解除。
『ガンダム開発を正式に再開し、今後起こり得るあらゆる事態に備えるとともに、有事の際には可能な限り早期に事態を終結させるための戦力を整備します。』
「……再開?」
ノンが低く呟いた。
その声には、怒りを通り越した冷たさがあった。
「止めてもいなかったくせに……。」
ケンがノンを見る。
彼女は画面を睨んだままだ。
「私達は……。」
声が少し掠れる。
「これを止めるために、あのガンダムを持ち出したのよ。」
誰にも知られず壊す。
戦争の火種になる前に消す。
それだけのために。
ベルーガを奪い。
追われる側になり。
ここまで来た。
「なのに……。」
報道官は、さらに続ける。
『これは、戦争を始めるためではありません。』
ノンの拳がさらに強く握られる。
『戦争を、早期に終結させるための決断です。』
「同じじゃない……。」
小さな声だった。
「え?」
「結局また、戦争のためにガンダムを作るんじゃない。」
会見場では記者達が一斉に声を上げ始めていた。
『すでに新型ガンダムの開発計画は存在するのですか!?』
『コロニー国家連合への軍事的対抗措置という理解でよろしいのですか!?』
『条約上の問題は!?』
質問が飛び交う。
だがケンには、ほとんど耳に入っていなかった。
画面の片隅には、まだ先ほどのLive配信へのリンクが残っている。
輸送船を助けるために始めた配信。
戦争を止めたいと伝えるために続けてきたチャンネル。
その映像が。
今は地球連邦政府の主張を支える材料の一つとして使われている。
「……また。」
ケンが呟いた。
ノンが横を見る。
「ケン?」
「俺達、戦争止めたいって言ってるのに。」
声が僅かに震える。
「また、逆に使われてる。」
「ケン。」
「最初の動画もそうだった。」
ガンダムを見つけたと嘘をついた。
その動画が世界を動かした。
今度は、戦争を止めるために撮った映像。
それすら、自分達の意図とは別の使われ方をしている。
「俺達が何言っても、結局……。」
「全部あなた達が決められるわけじゃない。」
ノンが遮った。
ケンが見る。
「今回のLiveを使ったのは連邦。」
「……。」
「こういう声明を出すと決めたのも連邦。」
「でも。」
「でもじゃない。」
ノンの声は強かった。
けれど、怒鳴っているわけではない。
「それまで全部自分の責任にしたら、何も出来なくなる。」
ケンは黙る。
「私達がやったことには責任を持つ。」
ノンが画面を見る。
「でも、誰かがそれをどう利用するかまで全部背負うことは出来ない。」
少し間を置く。
「それでも。」
ノンの表情が険しくなる。
「……腹は立つけどね。」
ケンが少しだけ顔を上げる。
ノンは連邦政府の画面を睨んでいた。
「自分達でガンダムを作っておいて。」
「それを隠して。」
「今度はコロニー国家連合の自作自演だって言って。」
「その上で、堂々とガンダムを作り直すって?」
ノンの声が震える。
「ふざけないでよ……。」
ケンは何も言えなかった。
ノンにとっては、ただの政治声明ではない。
父が関わっていた。
だからこそ止めようとした。
命懸けで持ち出した。
そのすべてを。
今、地球連邦は「存在しなかったこと」にしようとしている。
そして。
その嘘を理由に、今度は堂々と新しいガンダムを作ろうとしている。
戦争は、まだ始まっていない。
コロニー国家連合は月周辺へ艦隊を展開した。
地球連邦は、その行為を宣戦布告にも等しいと非難した。
そして今。
ガンダム開発の再開を正式に宣言した。
片方が動けば。
もう片方も動く。
備えるために兵を増やす。
相手が増やしたから、こちらもさらに備える。
誰も戦争をしたいとは言わない。
それでも。
世界は、少しずつ戦争へ近付いていく。
ケンは黙って画面を見つめていた。
その隣で。
ノンもまた。
自分達が一度は消そうとした火種が、別の形で再び燃え始めるのを見ていた。
世界はまだ、戦争には入っていない。
けれど。
確かに。
動き始めていた。