機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第43話「世界の声」

 ベルーガは、地球へ向けて航行を続けていた。

 

 月周辺では今も、地球連邦軍とコロニー国家連合軍の艦隊が互いを牽制し合っている。そこへ近付く理由はないため、ベルーガは大きく外側を回る迂回航路を選び、地球圏を目指していた。

 

 当然、時間は掛かる。

 

 進路を地球へ定めたからといって、翌日には青い星が目の前に現れるわけではない。

 

 窓の外に広がる景色も、今のところは昨日までと大して変わらなかった。暗い宇宙に無数の星が散らばり、その中をベルーガが静かに進んでいる。

 

 けれど、艦内では昨日から世界の動きが途切れることなく伝わってきていた。

 

 民間輸送船から発せられた救難信号。

 

 賊三機との戦闘。

 

 そのまま始めたLive配信。

 

 コロニー国家連合軍第206警邏中隊――オービットハンズとの遭遇。

 

 そして、配信終了後に発表された地球連邦政府の緊急声明。

 

 一日の中であまりにも多くのことが起こったせいで、ケンには昨日がずいぶん前の出来事のようにすら感じられた。

 

 休憩スペースのテーブルに座り、端末を眺めていたケンが、小さく唸る。

 

「……まだ増えてる。」

 

 向かいにいたノンが顔を上げた。

 

「何が?」

 

「コメント。」

 

 赤ずきんちゃんネルのページを見せる。

 

 昨日のLive配信には、その後も凄まじい数のコメントが付き続けていた。Liveそのものへの感想だけではない。地球連邦政府の声明が出たことで、今度はその内容を巡って視聴者同士が議論を始めている。

 

 一つのコメントへ何百もの返信。

 

 その返信に、さらに別の返信。

 

 読んでも読んでも終わらない。

 

「これ全部見てたら地球着いちゃうんじゃない?」

 

「そこまでは掛からないでしょ。」

 

「いや、分かんないよ。この量だよ?」

 

 ケンが指で画面を滑らせる。

 

 内容を眺めていると、同じ声明について語っているはずなのに、地球側とコロニー側では受け止め方が驚くほど違うことが分かった。

 

 コロニー国家連合側を名乗る者達の言葉は、明らかに強い。

 

『最初にガンダムで被害受けたのはこっちだろ。』

 

『連邦がガンダムを持ち込んでおいて、自作自演扱いは無理がある。』

 

『結局地球は昔から何も変わってない。自分達がやったことは認めない。』

 

『月に艦隊を出したのは当然だろ。何もしなかったら今度は何をされるか分からない。』

 

『散々コロニーを利用してきたくせに、また被害者の顔か。』

 

 ケンは何件か続けて読み、僅かに顔を曇らせた。

 

 オービットハンズの兵士達と直接話したことで、以前よりは理解出来る。

 

 彼らにとって今回の騒動だけが突然起きたわけではない。

 

 地球に搾取されてきた。

 

 地球はコロニーを都合よく扱ってきた。

 

 そう教えられ、そういう歴史の中で育ってきた人間にとって、ガンダムの出現もまた、その延長線上にある。

 

「……コロニー側は、やっぱり連邦の声明なんて全然信じてないね。」

 

「当然でしょうね。」

 

 ノンは短く答えた。

 

 その声には、少しだけ棘があった。

 

 ケンは気付いたが、何も言わなかった。

 

 ベルーガにいる自分達は知っている。

 

 地球連邦側でガンダムが秘密裏に開発されていたことを。

 

 その開発途中の機体を、ノン達がベルーガと共に持ち出したことを。

 

 だから地球連邦政府が「我々はガンダムを開発していなかった」と声明で語った時、それが事実ではないことは分かっていた。

 

 ただし、その真実を今すぐ世界へ出せばいいわけではない。

 

 昨日、ノンは本名を公表してすべてを話そうとした。

 

 それをグレアーが止めた。

 

 連邦側にオルフェウス一人の独断として切り捨てられる危険。

 

 そして何より、コロニー国家連合側へ開戦の口実を与えてしまう可能性。

 

 今の状況では、真実さえも使われ方次第で武器になる。

 

 ケンは次に地球側の反応を開いた。

 

 すると、空気が一気に変わる。

 

『連邦は作ったって言ってないのに、何でコロニー側は決めつけてるんだ?』

 

『証拠もないのにガンダム作ったって騒いで艦隊まで出してくる方が怖い。』

 

『昔の戦争っていつまで言うんだよ。今生きてる俺達には関係ないだろ。』

 

『またコロニーが騒いでるな、くらいにしか思わない。』

 

『月の近くまで軍艦並べておいて、被害者ぶるのは違くない?』

 

『こっちは普通に暮らしたいだけなんだけど。』

 

 ケンの指が止まる。

 

「……やっぱ全然違う。」

 

「何が?」

 

「温度。」

 

 ケンは地球側とコロニー側、二つの画面を行き来させた。

 

「コロニー側は、もう今にも何かされるって感じなのに。」

 

「地球側は、『またコロニーが騒いでる』くらいの人も結構いる。」

 

「そうね。」

 

 ノンは画面を眺めながら答えた。

 

「地球側にとって、昔の戦争はもう歴史になっている人も多い。でもコロニー側には、今も終わっていないと感じている人がいる。」

 

「……同じ世界なのにな。」

 

「同じ世界に住んでいても、同じ歴史を見ているとは限らないわ。」

 

 ケンはしばらく黙ってコメント欄を見つめていた。

 

 地球へ行こうと決めた理由が、少しだけはっきりした気がした。

 

 この文字だけでも違いは分かる。

 

 でも、文字だけでは分からないこともある。

 

 実際にそこへ行って。

 

 顔を見て。

 

 声を聞いて。

 

 初めて分かることがあるのかもしれない。

 

「……Live、やってみる?」

 

 ふいにケンが言った。

 

 ノンが顔を上げる。

 

「今?」

 

「うん。」

 

 ケンは大量のコメントを指差した。

 

「昨日もLiveしたばっかりだけど。」

 

「だからこそ。」

 

「今、みんな実際どう思ってるのか直接聞いてみたい。」

 

 ノンは少し考えた。

 

 自分達から何かを発表するためのLiveではない。

 

 あくまで、世界の声を聞くため。

 

 それなら今の赤ずきんちゃんネルがやる意味はある。

 

「……いいと思う。」

 

「じゃあやろう。」

 

「でも。」

 

 ノンが少し目を細める。

 

「変なこと言わないでよ。」

 

「俺、そんなに信用ない?」

 

「昨日を思い出して。」

 

「昨日は戦闘しながらLiveしてただけじゃん。」

 

「それが普通じゃないのよ。」

 

「……はい。」

 

          ◇

 

 数分後。

 

 赤ずきんちゃんネルに、予告のなかったLive配信が始まった。

 

 画面が切り替わり、ケンがいつもの調子でカメラへ向かって手を振る。

 

『はーい! どうもー! ケンケンです!』

 

『赤ずきんです。』

 

 ノンの落ち着いた声が続く。

 

 そしてケンは、さっそく少し苦笑した。

 

「昨日に引き続き、今日も急遽でカメラ回してます!」

 

 コメント欄が一気に流れ始める。

 

『また急遽www』

 

『昨日から濃すぎる』

 

『今日は戦闘じゃないよな?』

 

『また何か起きたの!?』

 

「いやいや、今日は別に救難信号とかじゃないから!」

 

 ケンが慌てて手を振る。

 

「昨日は本当に突然だったけど、今日はちゃんと座ってます!」

 

『昨日も最初は座ってたでしょう。』

 

「あれ?」

 

『その後すぐ出撃したけど。』

 

「そうだった。」

 

『不安しかない』

 

『今日は平和に終わってくれ』

 

「今日は多分戦闘しません!」

 

『“多分”って付けないで。』

 

「だって何が起きるか分かんないし……。」

 

『ケンケン。』

 

「はい。今日は戦闘しません。」

 

 コメント欄に笑いが流れる。

 

 少し空気が落ち着いたところで、ノンが本題に入った。

 

『昨日のLive配信が終わった後、地球連邦政府から声明が発表されました。』

 

『ガンダムについての説明と、コロニー国家連合への見解。そして、ガンダム開発凍結の解除。』

 

「それで今、世界中で色んな意見が出てます。」

 

 ケンも画面へ視線を落とす。

 

「今日は俺達が一方的に何か言うっていうより、みんながどう思ってるのかコメントで聞いてみようかなって。」

 

『全部は拾えないと思いますが、出来るだけ見ていきます。』

 

「なので喧嘩は……。」

 

 コメント欄を見る。

 

 すでに言い合いが始まっていた。

 

「……もう遅いな。」

 

『始まってるわね。』

 

 ケンは苦笑しながら、目についたものから読んでいく。

 

『コロニー国家連合が月に艦隊出してるんだから、連邦がガンダム再開するのは当然だろ。』

 

「地球側かな。」

 

 直後。

 

『その艦隊が出た原因がガンダムだろ!』

 

『最初に被害受けたのはこっちだ!』

 

「コロニー側からすぐ返ってきた。」

 

 さらに。

 

『連邦は作ってないって言ってるだろ。』

 

『それを信用しろって方が無理なんだよ。』

 

『いつまで昔の戦争引きずるんだ?』

 

『奪った側は忘れても奪われた側は忘れない。』

 

 ケンは何度か口を開きかけたが、そのたびに新しいコメントが上から流れてくる。

 

「速いって!」

 

『拾うLiveやりたいって言ったのあなたでしょ。』

 

「こんな勢いになると思ってなかった!」

 

 必死に追っているうち、一つの質問がケンの目に留まった。

 

『連邦はガンダムを作ってないって言ってるけど、じゃあケンケンのガンダムは何なの?』

 

 ケンの動きが止まった。

 

「……。」

 

 隣のノンも気付いた。

 

 一瞬だけ視線が合う。

 

 Live中。

 

 世界中が見ている。

 

 本当の答えを口にするわけにはいかない。

 

「えー……。」

 

 ケンが明らかに困った顔をする。

 

「これは……。」

 

 コメント欄が少しだけ静かになったように感じる。

 

 ケンは突然、胸を張った。

 

「俺の作ったガンダムダウトです!」

 

 直後。

 

 画面が一斉にツッコミで埋まった。

 

『それは知ってるって!』

 

『そうじゃない!』

 

『外装の話してない!』

 

『フレームどっから来たんだよ!』

 

『ホントのことは!?』

 

「いやだから!」

 

 ケンも負けじと続ける。

 

「俺が作りました!」

 

『苦しい苦しい』

 

『絶対なんか知ってるだろ』

 

『ケンケン目泳いでるぞ』

 

『赤ずきん何か言って』

 

「赤ずきん!」

 

『……。』

 

「助けて!」

 

『次のコメントに行きましょう。』

 

「助かった!」

 

『逃げたwww』

 

『完全に逃げた』

 

『答えてないぞ!』

 

 ケンは額に手を当てた。

 

「Liveって怖いな……。」

 

『今さら?』

 

「今まで戦闘しながらの方が誤魔化せてた気がする。」

 

『そっちの方がおかしいのよ。』

 

 笑いが流れた。

 

 けれどケンの胸の奥には、僅かな重さが残った。

 

 嘘をついたわけではない。

 

 今のダウトの外装を作ったのは自分だ。

 

 改修を重ねて、今の姿へしたのも自分達だ。

 

 だから「自分が作ったガンダムダウト」という言葉そのものは間違っていない。

 

 ただ、視聴者が知りたいのはそこではない。

 

 元になったフレームがどこから来たのか。

 

 なぜそれがコロニーにあったのか。

 

 そして、それを自分達は知っている。

 

 ケンはそれ以上その話題へ戻らず、別のコメントを拾った。

 

『赤ずきん達は結局どっちの味方なの?』

 

「これも結構来てるね。」

 

『そうね。』

 

 ノンが答える。

 

『私達は、地球連邦を勝たせたいわけでも、コロニー国家連合を勝たせたいわけでもありません。』

 

『戦争を始めたくないだけです。』

 

「俺も同じ。」

 

 ケンが頷く。

 

「どっちの味方っていうか……。」

 

 少し考える。

 

「戦争しない方の味方。」

 

『雑ね。』

 

「でも分かりやすくない?」

 

『分かる』

 

『ケンケンらしい』

 

『雑だけど意味は伝わった』

 

「ほら!」

 

『自慢しない。』

 

 ケンが笑う。

 

 その時だった。

 

 世界情勢についての真面目なコメントが流れ続ける中、一つだけ明らかに雰囲気の違う文章が混じった。

 

『地球来るんやったら、ウチとコラボせぇへん?』

 

「……ん?」

 

 ケンが画面へ顔を近付ける。

 

『どうしたの?』

 

「なんか急に違うの来た。」

 

 そのまま声に出して読む。

 

「『地球来るんやったら、ウチとコラボせぇへん?』」

 

 ケンが首を傾げる。

 

「すごい独特な訛りだな。」

 

 アカウント名を確認する。

 

「@kiショーちゃんネル……?」

 

 その瞬間、視聴者側が反応した。

 

『@ki!?』

 

『本人いるじゃん!』

 

『なんで来てんのwww』

 

『コラボしてくれ!』

 

『@kiガンダム好きだもんな』

 

「え、有名な人?」

 

『かなり有名みたいね。』

 

 ノンが別端末で軽く確認する。

 

『活動歴も長い。』

 

「へぇ……。」

 

 その間にも同じアカウントから新しいコメントが飛んでくる。

 

『ワテ、ガンダムめっちゃ気になっとんねん!』

 

「……ワテ?」

 

 さらに。

 

『ワッチのチャンネルにも遊びに来ぃひん?』

 

 ケンの眉がだんだん寄っていく。

 

「……ちょっと待って。」

 

『何?』

 

「この人、なんでコメントするたび一人称変わってるの?」

 

 ほとんど間を置かずに返事が来た。

 

『えぇツッコミや!』

 

『でもウチにもわっかりまへ〜ん!』

 

『定まってないんや!』

 

「自分でも分かってないの!?」

 

 ケンが思わず声を上げる。

 

 コメント欄が笑いで埋まった。

 

『いつもの@ki』

 

『平常運転』

 

『一人称ガチャ』

 

『そのうちアッシ来るぞ』

 

 そして。

 

『アッシにもよう分かっとらん!』

 

「来た!」

 

 ケンが即座に指差す。

 

「本当にアッシ来た!」

 

『ケンケン、楽しそうね。』

 

「いや気になるでしょ!」

 

 @kiはさらに続ける。

 

『ダウトの話聞きたいねん!』

 

『MSの話しよや!』

 

『武装の話だけでもええで!』

 

 ケンが少し引く。

 

「……この人、コラボっていうかダウト目当てじゃない?」

 

『そう見えるわね。』

 

『ちゃうで! ちゃんとケンケンにも興味あるで! たぶん!』

 

「たぶん!?」

 

『ケンケン。』

 

「はい。」

 

『今日のLiveの話。』

 

「あ。」

 

 ノンの一言で我に返る。

 

「戻ります。」

 

 コメント欄へ笑いが流れた。

 

 そこから再び、世界情勢についての意見を拾っていく。

 

 やはり、地球側とコロニー側の溝は深い。

 

 どちらも相手が理解出来ない。

 

 どちらも、自分達こそが危険に晒されていると感じている。

 

 その中で、別の質問が流れてきた。

 

『そういえば次どこ行くの?』

 

 ケンが止まる。

 

 ノンと顔を見合わせる。

 

「言う?」

 

『いいんじゃない?』

 

「じゃあ。」

 

 ケンはカメラへ向き直った。

 

「まだ言ってなかったけど、俺達の次の目的地。」

 

 一度だけ息を吸う。

 

「地球に行きます。」

 

 途端にコメント欄の速度が跳ね上がった。

 

『地球!?』

 

『マジ!?』

 

『来るの!?』

 

『指名手配犯が!?』

 

『連邦軍に捕まるぞ!』

 

『来ないでくれ』

 

『いや来てくれ!』

 

『地球の話も聞くの?』

 

 その中に、当然のように混ざってくる。

 

『ほな待っとるでー! ワテんとこ来てやー!』

 

 ケンが即座に反応した。

 

「またワテになってる。」

 

『もうそこはいいでしょ。』

 

「気になるんだって!」

 

 ノンに呆れられながら、ケンは少し笑った。

 

 そしてすぐに表情を戻す。

 

「地球に行くのは、遊びに行くためじゃないです。」

 

『これまで私達は、コロニーで暮らす人達や、コロニー国家連合軍の兵士達から話を聞いてきました。』

 

 ノンが続ける。

 

『でも、地球で暮らしている人達から直接話を聞く機会は、まだほとんどありません。』

 

「だから今度は地球に行って聞きたい。」

 

 ケンはカメラを見る。

 

「コロニー国家連合のことをどう思ってるのか。」

 

「ガンダムのことをどう思ってるのか。」

 

「このまま戦争になりそうな今の状況を、地球で暮らしてる人達がどう思ってるのか。」

 

 少しだけ間を置く。

 

「俺達も、まだ分からないことだらけだから。」

 

 すると今度は別方向のコメントが増え始めた。

 

『ケンケン地球初めて?』

 

『一G大丈夫か?』

 

『絶対転ぶ』

 

『重力に負けるケンケン見たい』

 

「なんで俺が転ぶこと確定してるの!?」

 

『多分転ぶから。』

 

「赤ずきんまで!?」

 

『本物の重力は初めてなんでしょ。』

 

「コロニーにも重力あるから!」

 

『行けば分かるわよ。』

 

「またそれ言う!」

 

 配信に少しだけ軽い空気が戻る。

 

 ノンも小さく笑ってから、最後にカメラへ向き直った。

 

『地球まではまだ時間が掛かります。』

 

『無事に辿り着けたら、今度はそこで色んな人の話を聞いてみたいと思っています。』

 

「ということで!」

 

 ケンが手を上げる。

 

「昨日に引き続き急遽だったけど、今日もありがとうございました!」

 

『ありがとうございました。』

 

「また次の動画かLiveで!」

 

 画面が暗くなった。

 

 配信終了。

 

          ◇

 

「……疲れたぁ。」

 

 配信が切れた瞬間、ケンは椅子へ深く沈み込んだ。

 

「戦闘してないだけ昨日よりマシでしょ。」

 

「違う方向に疲れるんだよ。」

 

 ノンが機材を片付けている横で、ケンはまだ端末を弄っていた。

 

「……@kiショーちゃんネル。」

 

「まだ見るの?」

 

「だって気になるじゃん。」

 

 検索結果を開くと、大量の動画が並んだ。

 

 歌。

 

 ゲーム。

 

 雑談。

 

 ギャンブル。

 

 MSについてひたすら語っている動画。

 

 また歌。

 

 今度は何をしているのかサムネイルだけではよく分からない企画。

 

「……何のチャンネル?」

 

「知らない。」

 

「統一感ゼロなんだけど。」

 

「人気はあるみたいよ。」

 

「ほんとだ……。」

 

 ケンは少し古い動画へ遡る。

 

「活動歴長いな。」

 

「十年以上あるわね。」

 

「古参じゃん。」

 

 さらに遡っていき、ケンの指が止まった。

 

「……あれ?」

 

「何?」

 

 現在の動画へ戻る。

 

 また十年以上前の動画。

 

 交互に見比べる。

 

「この人……昔から全然見た目変わってなくない?」

 

 ノンも画面を覗いた。

 

「撮り方じゃない?」

 

「いや、十年以上だよ?」

 

「年齢不詳って書いてあるわね。」

 

「余計気になるんだけど。」

 

 ケンがさらに調べようとした、その時。

 

 新しい投稿通知が入った。

 

 @kiショーちゃんネル。

 

 タイトルは――

 

 《ガンダムダウトとコラボ出来るかもしれへん!?》

 

「早っ!」

 

 ケンが思わず身を起こす。

 

「もう動画出してる!」

 

 ノンが呆れたように画面を見る。

 

「行動力だけは凄いわね。」

 

「……地球行ったら、本当に会うことになるのかな。」

 

「どうでしょうね。」

 

 ケンはもう一度、@kiの派手な動画一覧を眺める。

 

 少し前まで。

 

 地球は、自分にとって画面の向こう側にある場所だった。

 

 今では、その地球にいる人達とLiveで言葉を交わしている。

 

 怒っている人。

 

 こちらに来るなと言う人。

 

 来てほしいと言う人。

 

 過去の戦争を忘れられない人。

 

 もう昔の話だと思っている人。

 

 そして。

 

 急にコラボを申し込んでくる、妙な訛りの配信者。

 

「……ほんと色んな人いるんだな。」

 

 ケンが呟く。

 

 ノンは返事をしなかったが、その表情はどこか穏やかだった。

 

 世界の溝が埋まったわけではない。

 

 むしろ、聞けば聞くほど違いは見えてくる。

 

 それでも。

 

 何も知らないまま相手を決めつけるよりは、ずっといい。

 

 ベルーガはまだ遠い地球へ向かい、静かな宇宙を航海し続けていた。

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