機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第45話「ノクト=フーガ」

 ベルーガが地球圏外縁の警戒宙域を抜けてから、まだそれほど時間は経っていなかった。

 

 先ほど識別を行った地球連邦軍の警備艦では、すでに通常の監視任務へ意識が戻りつつある。

 

 月方面ではコロニー国家連合軍との緊張が続いている。

 

 だが、この宙域で直接戦闘が起きているわけではない。

 

 接近する艦艇の確認。

 

 航路の監視。

 

 識別信号の照合。

 

 地味ではあるが、こうした仕事の積み重ねが地球周辺の安全を保っている。

 

 先ほど通過していった大型艦についても、処理そのものは問題なく終わっていた。

 

 地球連邦軍所属。

 

 特務艦ベルーガ。

 

 責任者として応答したのは、グレアー=アイズ中佐。

 

 軍籍情報も識別IDも一致している。

 

 機密任務中だと言われれば、現場の警戒部隊がそれ以上踏み込む理由はない。

 

「いや、それにしても驚いたな。」

 

 通信担当の兵士が、照合記録を閉じながら息を吐いた。

 

「何がだ?」

 

 隣の席から声が返る。

 

「アイズ中佐だよ。最近まったく見ないって話だったからさ。」

 

「特務についてたなら当然だろ。」

 

「まあ、そうなんだろうけど。オルフェウス准将の副官だぞ? まさかこんなところで本人の照合をするとは思わなかった。」

 

「俺達が知らないから特務なんじゃないのか。」

 

「それ言われたら終わりだな。」

 

 二人が軽く笑った、その時だった。

 

 ブリッジ後方の扉が開く。

 

「今通した艦は問題なかったのか?」

 

 若い男の声に、何人かが振り返った。

 

 地球連邦軍MS隊隊長。

 

 ノクト=フーガ。

 

 年齢に似合わぬ真面目さを顔に貼り付けたような青年で、普段から任務中に無駄話をすることはほとんどない。

 

 ただし冷たいわけではない。

 

 部下の面倒見もいい。

 

 訓練となれば誰より熱くなり、任務となれば一番前へ出る。

 

 それ故に若い隊員達からの信頼も厚かった。

 

 そんなノクトが、担当宙域の状況確認のため、たまたまブリッジへ足を運んでいた。

 

「はい。問題ありません。」

 

 通信担当の兵士が姿勢を正す。

 

「友軍の特務艦とのことで、照会も取れています。」

 

「特務艦?」

 

「ベルーガという艦です。」

 

 その名前を聞いた瞬間。

 

 ノクトの足が止まった。

 

「……ベルーガ?」

 

「はい。」

 

 兵士は、ノクトのわずかな変化に気付かないまま続ける。

 

「それが驚いたことに、グレアー=アイズ中佐だったんですよ。」

 

 ノクトの表情が変わった。

 

「……何?」

 

「アイズ中佐です。」

 

「グレアー=アイズ中佐か?」

 

 声が一段低くなる。

 

「はい。本人のIDも確認済みです。」

 

 兵士は少し感心したように笑う。

 

「まさか特務についていたとは思いませんでした。最近見かけないなんて話もありましたけど、これなら納得ですよ。」

 

「……。」

 

 ノクトは答えなかった。

 

 グレアー=アイズ。

 

 父、オルフェウス=フーガ准将の副官。

 

 現在もその立場は変わっていない。

 

 ただ。

 

 ある時を境に、父の前から姿を消した。

 

 そして同じ頃。

 

 妹のカノンもいなくなった。

 

 その事実は、軍内部へ正式には公表されていない。

 

 父自身がそう決めたからだ。

 

 准将の娘と、その副官。

 

 二人が同時期に所在不明。

 

 そんな情報が広がれば、余計な憶測を招く。

 

 まして今は、地球連邦とコロニー国家連合の関係が極限まで張り詰めている。

 

 どんな小さな情報でも、都合よく利用されかねない。

 

 だからオルフェウスは、表立って騒がなかった。

 

 グレアーが自分を裏切ったとも考えていない。

 

 何か事情がある。

 

 今は静観する。

 

 不用意に追い詰めず、確かな情報を待つ。

 

 ノクトも、その考えを聞かされていた。

 

 理解もしていた。

 

 父の判断が正しいことも。

 

 今ここで取るべき行動が、まず父への報告であることも。

 

 それでも。

 

「いつ通した。」

 

 ノクトの声が変わる。

 

「はい?」

 

「ベルーガは、いつここを通った。」

 

 兵士が慌てて記録へ目を落とす。

 

「ほんの少し前です。まだ十分も経っていません。」

 

 それを聞いた瞬間。

 

 ノクトは踵を返した。

 

「MS隊、発進準備を急がせろ!」

 

「え?」

 

 ブリッジ中の視線が集まる。

 

「ノクト隊長?」

 

「今の特務艦を追う!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 呼び止める声を背中で聞きながら、ノクトはすでにブリッジを飛び出していた。

 

 廊下を駆ける。

 

 父の言葉が頭に浮かぶ。

 

 余計な騒ぎは起こすな。

 

 グレアーを疑う理由はない。

 

 確かなものが出るまで待て。

 

「分かっている……!」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。

 

 分かっている。

 

 だが、探していた手掛かりが向こうから現れた。

 

 しかもベルーガ。

 

 そこにグレアーがいる。

 

 ならば。

 

「カノンも……。」

 

 いるかもしれない。

 

 そう考えた瞬間、足を止めることは出来なかった。

 

     ◇

 

 MSデッキでは、突然の指示に整備員達が慌ただしく動き始めていた。

 

「隊長!」

 

「何があったんです?」

 

「出撃予定なんて入ってませんよ!」

 

「予定変更だ!」

 

 ノクトは走りながら答える。

 

「ブルーガ隊、直ちに発進準備! 全員乗り込め!」

 

 休息に入っていた隊員達も次々とデッキへ駆け込んでくる。

 

「隊長、敵ですか!?」

 

「今は説明している時間がない!」

 

 その剣幕に押され、隊員達も各機へ散っていく。

 

 並んだブルーガの奥。

 

 一機だけ、明らかに輪郭の異なるMSが固定されていた。

 

 地球連邦軍が次期主力として配備を進めている最新鋭量産機。

 

 リーガ。

 

 その中でもノクトの機体は、隊長機として彼の戦闘特性に合わせた調整が施されている。

 

 ノクトは昇降ワイヤーを掴み、一気にコックピットまで上がった。

 

 ハッチが閉じる。

 

 システム起動。

 

 暗かったコックピットへ次々と光が灯る。

 

 各部チェック。

 

 推進系。

 

 姿勢制御。

 

 武装接続。

 

 問題なし。

 

「リーガ、起動。」

 

 操縦桿を握る。

 

 機体が固定アームから離れ、ゆっくりとカタパルト方向へ進み始めた。

 

 その時。

 

 通信回線が強制的に開く。

 

『ノクト隊長!』

 

 艦長だった。

 

『何をしている! 発進許可は出していないぞ!』

 

「事情は後で話します!」

 

『事情だと?』

 

「あの特務艦に、確認しなければならないことがあります!」

 

『それだけでMS隊を動かせると思っているのか!』

 

 鋭い声が返る。

 

『先ほど正式な照合を済ませた友軍の特務艦だぞ!』

 

「分かっています!」

 

『なら機体を戻せ!』

 

「出来ません!」

 

『ノクト!』

 

 艦長の声に苛立ちが混じる。

 

『これは訓練ではない! 正規のIDを持つ友軍艦に、許可もなくMS隊を差し向ければ問題になる!』

 

「……チッ。」

 

 ノクトが舌打ちする。

 

 ベルーガとの距離は、今も少しずつ開いている。

 

 このまま押し問答を続けている時間はない。

 

「艦長。」

 

『何だ。』

 

「あの艦には、ガンダムが積んである可能性があります。」

 

 通信の向こうが静かになった。

 

『……何だと?』

 

「まだ確証はありません。」

 

『なら何故そんなことを言える!』

 

「グレアー=アイズ中佐は、父オルフェウス=フーガ准将の副官です。」

 

『それがどうした。』

 

「父から、グレアー中佐に関して確認している件があります。」

 

 それ以上は言わない。

 

 カノンとグレアーの所在が分からないこと。

 

 父がそれを伏せていること。

 

 ここで口に出すつもりはなかった。

 

「そこへベルーガが現れた。」

 

『だからと言って、ガンダムまで結び付けるのは飛躍ではないか。』

 

「だからこそ、今から確かめます。」

 

『ノクト。』

 

「何もなければ、それで終わります。」

 

 ノクトはリーガをさらにカタパルトへ進める。

 

「ですが、もしあの艦にガンダムがあるなら、見逃した後では遅い。」

 

『……。』

 

 艦長は黙った。

 

 今やガンダムという言葉は、ただの兵器名ではない。

 

 世界中を揺らす火種。

 

 その存在を無視出来る者はいなかった。

 

『……本当に、確認だけだな?』

 

「こちらから攻撃するつもりはありません。」

 

『……ええい。』

 

 艦長が大きく息を吐く。

 

『分かった。発進を許可する!』

 

 ノクトの目が僅かに動く。

 

『ただし問題だけは起こすな! 相手は現時点では友軍艦だ!』

 

「向こう次第です。」

 

『ノクト!』

 

「穏便に済ませたいとは、私も思っています。」

 

 一瞬の沈黙。

 

『……通信を優先しろ。絶対に勝手な攻撃はするな。』

 

「了解。」

 

 回線が切れる。

 

 ノクトは前を見る。

 

 カタパルト前方のハッチが開いていく。

 

 暗い宇宙。

 

 その先に、ベルーガがいる。

 

 背後ではブルーガ隊も次々と起動していた。

 

『隊長、本当にさっきの艦を追うんですか?』

 

『友軍艦ですよね?』

 

「全機、武装使用は俺の指示があるまで禁止。」

 

 ノクトは操縦桿を握り直す。

 

「目的はベルーガへの接触と確認だ。」

 

『了解。』

 

『了解!』

 

 発進シグナルが点灯する。

 

「ノクト=フーガ。」

 

 リーガがカタパルトへ固定される。

 

「出るぞ!」

 

 次の瞬間。

 

 機体が一気に加速した。

 

 巡洋艦の艦首から宇宙へ飛び出す。

 

 その後を追って、複数のブルーガも次々と発進していった。

 

     ◇

 

「後方から高速接近するMS反応!」

 

 ベルーガのブリッジ。

 

 警報が鳴り響く中、グレアーが表示へ視線を走らせる。

 

「数は?」

 

「複数! 先ほど通過した連邦軍艦の方向からです!」

 

「さっきのところ!?」

 

 ケンが思わず声を上げる。

 

「俺達、通してもらったんじゃなかったの!?」

 

「そのはずでやすがね……。」

 

 グレアーは接近反応を拡大する。

 

 ノンも前へ出た。

 

「追ってきてるの?」

 

「そう見えやす。」

 

「IDが引っ掛かったとか?」

 

「それなら艦から直接停止命令が来ると思いやす。」

 

 表示が更新される。

 

 後続の大半はブルーガ。

 

 その先頭に、一機だけ異なる機体。

 

「……リーガ。」

 

 グレアーが呟く。

 

「何それ?」

 

「連邦軍の最新鋭主力量産機でやす。」

 

「最新鋭……。」

 

 ケンの顔が曇る。

 

 その直後。

 

「向こうから通信!」

 

「繋いでくだせぇ。」

 

 回線が開く。

 

『こちら地球連邦軍MS隊。特務艦ベルーガへ。』

 

 若い男の声。

 

『速度を落としてください。確認したいことがあります。』

 

 ノンの表情が変わった。

 

 ほんの僅か。

 

 目が見開かれる。

 

「……。」

 

 ケンが気付く。

 

「ノン?」

 

 グレアーも通信表示を見たまま、僅かに眉を動かした。

 

『グレアー=アイズ中佐。聞こえていますか。』

 

 グレアーが小さく息を吐く。

 

「……やっぱりでやすか。」

 

 通信を返す。

 

「聞こえておりやす。」

 

 その瞬間。

 

『ご無沙汰しております、グレアー中佐。』

 

 ノクトの声には、明らかな敬意があった。

 

『突然追い掛ける形となったことはお詫びします。ですが、どうしても確認したいことがあります。』

 

 グレアーは少しだけ姿勢を正した。

 

「ノクト隊長。」

 

 ケンが横を見る。

 

「知り合い?」

 

 ノンは答えない。

 

 その代わり、グレアーが通信を続ける。

 

「先ほど警戒部隊にも説明したはずですが、本艦は現在、機密行動中でやす。」

 

 少しだけ間を置く。

 

「任務内容については申し上げることが出来やせん。」

 

『それは承知しています。』

 

 ノクトの返答は早かった。

 

『ですが、グレアー中佐。あなたが何も知らせずに姿を見せなくなったことを、父も気に掛けています。』

 

 ノンが僅かに俯く。

 

 グレアーの目も少しだけ細くなった。

 

『せめて、直接確認させてください。』

 

「何をでやす?」

 

『艦内をです。』

 

 ブリッジの空気が固まる。

 

 ケンが思わずノンを見る。

 

 グレアーはすぐに返した。

 

「お断りしやす。」

 

『……理由を聞いても?』

 

「機密任務中だからでやす。」

 

『では、グレアー中佐本人とお話しするだけでも――』

 

「今こうして話しておりやす。」

 

『そういう意味ではありません。』

 

 ノクトの声に、僅かに苛立ちが混ざる。

 

『一度艦を停止させてください。こちらが乗艦し、正式に確認します。』

 

「それも出来やせん。」

 

『何故です。』

 

「同じ答えでやす。」

 

 グレアーは淡々と返す。

 

「機密任務中につき、部外者を艦内へ入れることは出来やせん。」

 

『部外者……。』

 

 ノクトの声が少し沈む。

 

 それまでの軍人としての硬さが、僅かに崩れた。

 

『……私にも言えないのですか?』

 

 ブリッジに沈黙が落ちる。

 

 グレアーはすぐには答えなかった。

 

 ノクトが幼い頃から知っている。

 

 オルフェウスの息子。

 

 真っ直ぐで。

 

 真面目で。

 

 少し不器用なほど、正しいことを信じる青年。

 

 だからこそ。

 

「……坊っちゃんだからこそ、でやす。」

 

 完全に、いつものグレアーの声だった。

 

 ノクトの返事が止まる。

 

『……坊っちゃんは、やめてください。』

 

「そう言われても、あっしにとっちゃ昔から坊っちゃんでやす。」

 

 ほんの少し。

 

 グレアーの口元に笑みが浮かぶ。

 

 だが、その目は笑っていなかった。

 

『グレアー中佐。』

 

「ノクト隊長。」

 

『何を隠しているんです。』

 

「申し上げられやせん。」

 

『父にも?』

 

 グレアーの表情が僅かに揺れる。

 

「……。」

 

『父上にも、言えないのですか。』

 

 その問いに答えるより先に。

 

「兄さん。」

 

 ノンが口を開いた。

 

 通信の向こうが完全に静かになった。

 

 ケンがノンを見る。

 

 グレアーも振り返った。

 

『……。』

 

 数秒。

 

 やがて。

 

『……カノン?』

 

 声が変わっていた。

 

 先ほどまでのMS隊長ではない。

 

 妹を探していた兄の声。

 

『カノンなのか?』

 

「……うん。」

 

『本当に……そこにいるのか。』

 

「いるわ。」

 

『何故だ!』

 

 ノクトの声が一気に強くなる。

 

『何故何も言わずにいなくなった! 父上がどれだけ――』

 

「兄さん。」

 

『カノン!』

 

「今は言えない。」

 

『またそれか!』

 

「ごめん。」

 

『謝って欲しいんじゃない!』

 

 通信越しでも分かる。

 

 ノクトは怒っている。

 

 だが、その怒りの奥にあるものはもっと単純だった。

 

 心配。

 

 安堵。

 

 そして。

 

 何も分からないことへの苛立ち。

 

『帰ってこい。』

 

 真っ直ぐな言葉だった。

 

『今ならまだ、父上と話せる。俺も一緒に行く。』

 

「……帰れない。」

 

『何故だ!』

 

「それも言えない。」

 

『カノン!』

 

「兄さんを巻き込みたくないの。」

 

 その言葉に。

 

 ノクトが黙る。

 

「父さんも。」

 

『……何だと?』

 

「だから今は、これ以上聞かないで。」

 

『そんなことを言われて、分かったと引けると思うのか。』

 

「思ってない。」

 

『なら――』

 

「でも、それでも行かせて。」

 

 ノンの声は静かだった。

 

 強がっているわけでもない。

 

 ただ。

 

 決めている。

 

 それがノクトにも伝わった。

 

『……。』

 

 長い沈黙。

 

 やがてノクトが口を開く。

 

『グレアー中佐。』

 

「はい。」

 

『本当に、カノンを危険な目に遭わせていないと誓えますか。』

 

 グレアーは一瞬だけノンを見る。

 

「それについては……。」

 

 言葉を選ぶ。

 

「危険がないとは言えやせん。」

 

『……。』

 

「ですが、お嬢を守るつもりがないわけではありやせん。」

 

『なら、なおさら止めるべきではないですか。』

 

「それは出来やせん。」

 

『何故です。』

 

「それも、今は申し上げられやせん。」

 

『……。』

 

 ノクトの呼吸がわずかに聞こえる。

 

『分かりません。』

 

 低い声。

 

『何も分からない。』

 

 ノクトは操縦桿を強く握った。

 

『グレアー中佐は何も話してくれない。カノンも帰らない。なのに、そのまま行かせろと言う。』

 

 少し間を置く。

 

『理屈だけなら、引くべきなのかもしれません。』

 

 グレアーが黙って聞く。

 

『正式なIDもある。特務艦としての照会も通っている。こちらから無理に踏み込めば、私の方が問題になる。』

 

 ノンが僅かに表情を緩めた。

 

 だが。

 

 次の言葉で、それはすぐ消えた。

 

『それでも。』

 

 ノクトの声に熱が戻る。

 

『私の勘が、このまま行かせるなと言っています。』

 

「兄さん……。」

 

『グレアー中佐。最後にお願いします。』

 

 ノクトは真っ直ぐベルーガを見据えていた。

 

『艦を止めてください。』

 

「お断りしやす。」

 

『艦内確認も?』

 

「出来やせん。」

 

『カノンをこちらへ戻すことも?』

 

「嫌よ。」

 

 今度はノンが即答した。

 

『……そうか。』

 

 ノクトが短く息を吐く。

 

 ベルーガとMS隊。

 

 まだ互いに武器は向けていない。

 

 だが。

 

 どちらも進路を譲るつもりはない。

 

「兄さん。」

 

『何だ。』

 

「本当に、私達と戦うつもり?」

 

 ノクトはすぐには答えなかった。

 

『……戦いたくはない。』

 

 その声には嘘がなかった。

 

『だが、このまま見送るつもりもない。』

 

 グレアーが小さく息を吐く。

 

「やれやれ……。」

 

 ケンが二人を見比べる。

 

「これ、どうするの?」

 

 誰もすぐには答えなかった。

 

 前方には地球。

 

 後方にはノクト率いる連邦軍MS隊。

 

 ベルーガは、その狭間にいた。

 

 ノクトのリーガが、ゆっくりとベルーガの進路前方へ回り込む。

 

 続くブルーガ隊も散開し始めた。

 

 まだ武器は構えていない。

 

 だが。

 

 明らかに、通すつもりのない動きだった。

 

『ベルーガ。』

 

 ノクトの声が、もう一度響く。

 

『これ以上の前進は控えてください。』

 

 グレアーは正面モニターを見つめたまま、静かに答える。

 

「それも、出来やせんねぇ。」

 

 ノンが拳を握る。

 

 ケンは、地球から視線を外した。

 

 青い星は、もうすぐそこにある。

 

 だが。

 

 その手前に。

 

 一人の兄が、立ちはだかっていた。




ノクト=フーガ

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ノクト専用リーガ

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