機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
地球を目前にして、ベルーガは進路を塞がれていた。
前方へ回り込んだリーガを中心に、三機のブルーガが広く散開している。
わずか四機。
大型艦を完全に包囲出来る数ではない。
だが、相手はベルーガを撃沈しようとしているわけではなかった。
進路を塞ぎ、速度を落とさせる。
その上で艦内を確認する。
ノクト=フーガの目的がそれである以上、必要なのは火力ではなく、ベルーガを足止め出来る位置を取り続けることだった。
『ベルーガ。これ以上の前進は控えてください。』
再びノクトの声が響く。
『こちらから攻撃するつもりはありません。艦を停止していただければ、それで済みます。』
「そう言われましてもねぇ……。」
グレアーは正面モニターに映る四機を見つめながら、頭を掻いた。
リーガの後方。
三機のブルーガは互いに距離を取り、ベルーガがどちらへ進路を変えても追従出来る位置を保っている。
動きに迷いがない。
ノクトが率いているだけあって、即席の集団ではなかった。
「どうするの?」
ケンが不安そうに尋ねる。
「このまま止まったら、兄さん達が乗り込んでくるわよ。」
ノンも正面を睨んだままだ。
「分かってやす。」
グレアーは航路表示へ目を移す。
前方には地球。
もう引き返すつもりはない。
ここで止まれば、ノクトは間違いなく艦内を確認しようとする。
そうなればノンだけではない。
ケンも。
ガンダムダウトも。
何もかも見つかる。
「坊っちゃん。」
グレアーが通信を開いた。
「もう一度だけ言いやす。」
『はい。』
「本艦は機密任務中。停止も、乗艦許可も出来やせん。」
『私も答えは変わりません。』
ノクトは即答した。
『このまま通すことは出来ません。』
「……そうでやすか。」
グレアーは小さく息を吐いた。
その横顔を見て、ケンが嫌な予感を覚える。
「グレアー?」
「坊っちゃんは昔から、一度決めると頑固でやしてねぇ。」
『聞こえていますよ、中佐。』
「そりゃ失礼。」
グレアーの手が操艦卓へ伸びる。
「なら――。」
表示されていた推進出力が切り替わった。
「押し通りやす!」
「え?」
ケンが振り返った瞬間。
「全速前進!」
ベルーガの主推進器が一斉に出力を上げた。
艦体が震える。
それまで一定速度で航行していた巨大な船体が、前方へ向けて急激に加速した。
『なっ――!?』
ノクトの声が通信へ漏れる。
まさか真正面から突っ込んでくるとは思っていなかったのだろう。
ベルーガは大型艦だ。
MSとは質量が違う。
武器を使わなくても、この巨体に最大戦速で衝突されれば、いくらMSでも無事では済まない。
『散開! 全機、ベルーガの進路から離れろ!』
ノクトの指示が飛ぶ。
リーガが大きく上へ跳ねる。
三機のブルーガも左右と下方へ散った。
その一瞬。
ベルーガの前方からMSが消える。
「行きやすよ!」
グレアーがさらに加速させる。
ベルーガは四機の間を押し開けるように突き抜け、そのまま地球へ向けて進んでいった。
「……通った?」
ケンが後方表示を見る。
「そんな簡単にはいかなそうでやすけどね。」
グレアーの予想通りだった。
散開した四機がすぐに反転する。
◇
「くっ……!」
ノクトはリーガの姿勢を立て直しながら、遠ざかり始めたベルーガを睨んだ。
「強引にも程があるだろう!」
『隊長、どうします!?』
『追いますか!?』
ブルーガ隊から次々と声が入る。
ノクトは一瞬だけ迷った。
本来ならば。
ここで止めるべきなのは自分なのかもしれない。
ベルーガは正式な軍籍を持っている。
グレアーのIDも本物だった。
攻撃されたわけでもない。
それなのに自分は、父から聞いていた事情と自分自身の直感だけでここまで追ってきた。
それでも。
ベルーガにはカノンがいた。
グレアーもいる。
二人とも何も話そうとしない。
そして、そのまま地球へ向かっている。
「……行かせられない。」
『隊長?』
ノクトは顔を上げた。
「全機、ベルーガに取り付け!」
三人の隊員が息を呑む。
『え?』
『取り付くって……艦にですか!?』
「中を改める。」
『ですが隊長! 乗艦許可は――』
「責任は私が取る!」
ノクトの声が全員の言葉を遮った。
「このまま見送って何か起きてからでは遅い!」
一拍。
「私に続け!」
三機のブルーガは戸惑いながらも、すぐにリーガの後へ続いた。
『……了解!』
『りょ、了解!続きます!』
『追従します!』
四機のMSが一斉に推進器を吹かす。
ベルーガとの距離が、再び縮まり始めた。
◇
「やっぱり来やしたね……。」
後方から接近する四つの反応を見ながら、グレアーは深いため息を吐き出した。
「どうすんの?」
ケンが不安そうに聞く。
「このまま逃げ切れる?」
「難しいでやしょうね。」
ベルーガとMSでは加速の性質が違う。
直線航行なら大型艦にも速度は出せるが、すでに距離を詰められている状態では、取り付かれる前に振り切ることは難しい。
「接近するブルーガ! 一機が後部へ回り込みます!」
報告が飛ぶ。
ノンが舌打ちした。
「……もうガンダム出しちゃいなさいよ!」
「え?」
ケンが目を丸くする。
「出していいの!?」
「いいわよ!」
ノンは苛立ったように言い放った。
「このまま乗り込まれたら、どうせ全部見つかるでしょ!」
「でもガンダムを隠してたんじゃ……。」
「だから隠せる間は隠してたのよ!」
ノンはモニターに映る連邦軍のMSを睨む。
「それに、あの発表の後じゃどうせ公表出来ないわ。」
「発表?」
「連邦はガンダムを開発してなかったって言ったのよ。」
ノンの声に露骨な不機嫌さが混じる。
「その直後に『連邦の特務艦からガンダムが出てきました』なんて、自分達から発表出来ると思う?」
「あ……。」
「少なくとも、簡単には出来ないわよ。」
グレアーも苦笑した。
「お嬢の言う通りでやすね。」
そしてケンを見る。
「坊主。」
「……何?」
申し訳なさそうに眉を下げる。
「頼めやすかい?」
「えぇ……。」
ケンは心底嫌そうな顔をした。
「兄妹喧嘩にガンダム持ち出すの?」
「兄妹喧嘩じゃないわよ!」
「だってノンのお兄さんなんだろ!?」
「そうだけど、私だってこんな大事にするつもりなかったわよ!」
「坊主、悪いでやすが急いでくだせぇ!」
「はいはい!」
ケンは観念したように頭を掻くと、ブリッジを飛び出した。
「なんで地球に着く直前でこうなるんだよ……!」
廊下を走り抜ける。
警報音が艦内へ響く中、格納庫を目指した。
◇
「後部MS搬入口へ一機接近!」
ブリッジに緊張が走る。
「早い!」
ノンがモニターを見る。
一機のブルーガが、加速を続けるベルーガへ並ぶように接近していた。
攻撃する気配はない。
そのまま艦体へ取り付くつもりだ。
「カタパルト付近へ来ます!」
ブルーガがベルーガの速度へ合わせる。
手を伸ばした。
機体の指が艦体を掴み、脚部を接触させる。
『取り付きました!』
ブルーガのパイロットが報告する。
『これより内部へ――』
後部MS搬入口が開いた。
『……え?』
パイロットが一瞬動きを止める。
暗い格納庫の奥。
そこから。
二つの光が灯った。
「うおおおっ!」
次の瞬間。
白い機体が勢いよく飛び出した。
ブルーガのパイロットが反応するより早く、その肩へ衝撃が叩き込まれる。
『うわっ!?』
取り付いていたブルーガがベルーガから引き剥がされ、宇宙へ弾き飛ばされた。
姿勢制御用スラスターを吹かし、慌てて体勢を立て直す。
その前を。
一機のMSが塞いだ。
白を基調としながら、既存の連邦軍機とは明らかに異なる輪郭。
額。
胸部。
そして人型兵器でありながら、どこか他のMSとは違う威圧感を持つ姿。
ガンダムダウト。
◇
「……やはり。」
リーガのコックピット。
ノクトは苦虫を噛み潰したような表情で、その白い機体を睨んだ。
「ガンダムか!」
勘が当たっていた。
喜びなどなかった。
むしろ逆だった。
本当に存在してしまった。
父の副官グレアー。
妹カノン。
そして世界を揺らしているガンダム。
その三つが、同じ艦に揃っている。
「一体……何をしているんだ。」
ノクトは操縦桿を握り締めた。
◇
「こちらガンダムダウト!」
ケンは通信を開いた。
「その……ベルーガに乗り込むのはやめてください!」
『君がケン=大神か。』
すぐにノクトから返ってくる。
「え?」
『コロニー連合の要請で国際指名手配されている、ガンダムのパイロット。間違いないな?』
「……まあ、はい。」
『なら、君にも聞きたいことがある。』
「俺も出来れば話し合いで済ませたいんですけど!」
『ならベルーガを止めろ!』
「それは無理です!」
『ならこちらも引くわけにはいかない!』
「ですよねぇ!」
ケンが呻く。
リーガが前へ出る。
その左右へ二機のブルーガ。
先ほど弾き飛ばした一機も体勢を立て直し、四機が再び揃った。
「……四機。」
ケンは操縦桿を握る。
背後ではベルーガが地球へ向けて進み続けている。
追う四機を止めなければ、また艦へ取り付かれる。
「しょうがない……!」
ダウトがサブマシンガンを構えた。
照準を取る。
だが。
狙うのは機体ではない。
ブルーガの進路上。
リーガの横。
近付けば危険だと分かる位置へ弾丸をばら撒く。
銃火が宇宙を走った。
『散開!』
ノクトの指示。
四機が左右へ分かれる。
「近付かないでください!」
さらに牽制射撃。
だが。
『構うな!』
ノクトのリーガが弾幕の間へ踏み込んだ。
「え!?」
『当てる気がない射撃だ!』
ケンの顔が強張る。
『全機、距離を詰めろ!』
三機のブルーガが一斉に加速した。
「ちょっ――!」
ケンは再び撃つ。
しかし弾道を読まれ、ブルーガが最低限の動きだけでかわしてくる。
大きく避けない。
ケンが自分達の機体を狙っていないと分かっているからだ。
「バレてる!」
リーガが一気に目の前へ飛び込んだ。
ケンはダウトを横へ振る。
直後。
リーガの攻撃が、それまでダウトのいた場所を通過した。
「速っ――!」
違う。
機体そのものがダウトより速いわけではない。
次の動きを読まれている。
ケンが逃げようとする方向へ、一機のブルーガが回り込む。
「こっちも!?」
反対へ切り返す。
今度は別のブルーガ。
上へ抜けようとしたところへ、リーガが先に上昇していた。
『逃がすな! ベルーガへの接近を続けろ!』
『了解!』
三機のブルーガがノクトの動きに合わせて位置を変える。
一機がダウトを牽制。
一機がベルーガへ。
ケンがそちらへ向かえば、残る一機が進路を塞ぐ。
「くそっ……!」
ダウトは性能で負けていない。
推進力も。
反応速度も。
リーガやブルーガより上だ。
それなのに。
「なんで……!」
リーガがまた目の前にいる。
ケンは辛うじて機体を捻り、接触をかわした。
「なんで先にいるんだよ!」
ノクトは答えない。
ただ。
ケンが動くより少し早く。
次に行く位置へ機体を置いてくる。
「この人……。」
ケンの背中に汗が滲む。
「強い……!」
◇
「隊長、ガンダムが下がっています!」
「ベルーガを守りながら戦っている。」
ノクトはダウトの動きを見ていた。
機体性能は高い。
リーガより明らかに反応がいい。
瞬間的な加速も上。
それでも。
「パイロットの経験は浅い。」
攻撃を仕掛ければ、反応が一瞬遅れる。
味方機がベルーガへ向かえば、そちらへ気を取られる。
そして何より。
「……撃ってこない。」
正確には撃っている。
だが、自分達へ当てようとしていない。
先ほどからすべて牽制。
射線から逃げなくても、致命的な位置には弾が来ない。
「何故だ……?」
ガンダム。
世界中を騒がせている機体。
そのパイロットが、目の前では必死に自分達を遠ざけようとしているだけ。
ノクトの中に、小さな違和感が生まれる。
だが。
「今は――。」
ベルーガを止める方が先だ。
「クラウス、右から回れ!」
『了解!』
「スコルはそのままガンダムを抑えろ!」
『了解!』
「ジータはベルーガへ接近!」
『了解!』
「行かせない!」
ダウトが動く。
ノクトも同時に動いた。
◇
戦闘は、そのまま移動し続けていた。
ベルーガは地球へ。
その後方を、ダウトが守りながら下がっていく。
さらにそのダウトへ、ノクト隊が食らいつく。
誰もその場に留まってはいない。
地球は。
戦いが始まった時より、明らかに大きくなっていた。
◇
「地球大気圏までの距離、急速に縮まっています!」
ベルーガのブリッジ。
航法担当の声に、グレアーが前方表示を確認する。
「現在の進路を維持した場合、まもなく大気圏突入軌道へ入ります!」
「……。」
グレアーの顔から、いつもの軽さが消えた。
後方表示にはダウトと四機の連邦軍MS。
戦闘はまだ続いている。
ケンは戻ってきていない。
「速度落とせないの!?」
ノンが声を上げる。
「今落としたら、また坊っちゃん達に追いつかれやす!」
「もう追いつかれてるじゃない!」
「艦そのものに、でやす!」
グレアーは航路図を睨む。
「ここで減速すりゃ、ブルーガがまた取り付いてきやす!」
「でもケンが!」
「分かってやす!」
普段より強いグレアーの声に、ノンが一瞬黙る。
通信が入る。
格納庫からだった。
『おいグレアー!』
おやっさんの声。
『このまま行ったら突入するぞ! 坊主はまだ外だろうが!』
「分かってやすよ!」
『分かってんなら拾え!』
「拾えるならとっくに拾ってやす!」
グレアーが珍しく声を荒らげる。
ブリッジに緊張が走った。
『……。』
一瞬、通信の向こうも黙る。
グレアーは大きく息を吐いた。
「今止まれば、坊っちゃん達に囲まれやす。」
前方の地球を見る。
「進路を変えても同じでやす。あの四機なら追ってくる。」
後方。
戦っているダウト。
「なら……。」
手を操艦卓へ置く。
「このまま降りやす。」
ノンが振り返った。
「……え?」
「ベルーガはこのまま大気圏へ突入するでやす。」
「ちょっと待って!」
ノンが席から立ち上がる。
「ケンは!?」
「その前に戻ってもらいやす。」
「戻れなかったら!?」
グレアーは答えない。
答えられない。
代わりに、おやっさんの声が通信から響いた。
『絶対に戻せ。』
低い声だった。
『今のダウトで単独突入なんざさせるんじゃねぇぞ。』
ノンの表情が強張る。
XF-Gフレームそのものなら、本来は大気圏突入を想定した性能を持っている。
だが。
今のガンダムダウトは違う。
フレーム以外の装甲。
各部の外装。
追加された装備。
その多くが本来のGDM-03とは別物だ。
大気圏突入時の熱と負荷に耐えられる保証はない。
「分かってやす。」
グレアーは通信を切り替える。
「坊主!」
◇
ノクトのリーガをかわした直後。
ケンの通信へグレアーの声が割り込んだ。
『坊主! 聞こえるでやすか!』
「聞こえてる!」
『ベルーガはこのまま地球へ降りやす!』
「え!?」
ケンが思わず地球を見る。
大きい。
さっきブリッジから見ていた時とは、もうまるで違う。
『もうすぐ突入軌道に入りやす! それまでに戻ってくだせぇ!』
「そんな事言っても振り切れない!」
ブルーガが横から迫る。
ケンはダウトを反転させ、辛うじて距離を取った。
「こっち四機いるんだって!」
『分かってやす!』
「分かってるなら待ってよ!」
『待ったら乗り込まれやす!』
「だからって!」
『ケン!』
今度はノン。
『なんとしても戻って!』
「ノンまで簡単に言うなよ!」
『簡単に言ってないわよ!』
「今めちゃくちゃ大変なんだから!」
『知ってる! でも戻らないともっと大変になるの!』
「分かってるよ!」
ケンは歯を食いしばった。
ベルーガはすでに少し先。
距離が開き始めている。
「抜けないと……。」
三機のブルーガ。
そしてノクト。
四機すべてを相手にしていたら間に合わない。
「だったら……!」
ダウトの右腕が動く。
ワイヤーアンカー射出。
狙うのは、左から回り込んできたブルーガ。
『アンカー!』
相手も気付いた。
回避しようとする。
だが。
ケンは機体そのものを狙っていた。
アンカーがブルーガの肩部へ食い付く。
接触。
《SYSTEM ACCESS》
『なっ!?』
一瞬。
ブルーガの姿勢制御が乱れた。
『機体が――!?』
「ごめん!」
ケンは必要以上には触らない。
推進制御。
姿勢制御。
動きを止めるだけ。
ブルーガがその場で急減速する。
包囲の一角が崩れた。
「今!」
ダウトがアンカーを切り離し、一気に加速する。
『抜けた!』
ノクトの声。
『追え!』
だが一瞬遅い。
ダウトは開いた隙間から飛び出し、ベルーガへ向けて一直線に加速した。
「間に合え……!」
◇
「ダウト、包囲を抜けました!」
ブリッジに声が響く。
ノンがモニターへ食い入る。
「ケン!」
「そのまま戻ってくだせぇ、坊主!」
ベルーガはすでに突入姿勢へ移行し始めていた。
艦首角度を調整。
各部装甲固定。
推進制御切り替え。
大気圏突入に向け、巨大な船体が姿勢を整えていく。
「後部MS搬入口を開放!」
「開放します!」
後部ハッチが開く。
格納庫へ続く入り口。
ダウトの帰還口。
「坊主! 一直線に入ってくだせぇ!」
『見えてる!』
ダウトが迫る。
あと少し。
◇
「見えた!」
ケンの正面に、ベルーガの後部MS搬入口が見える。
すでに艦体は大気圏突入姿勢。
このまま入れば間に合う。
「あとちょっと……!」
推進器出力を上げる。
搬入口が大きくなる。
格納庫内部まで見え始める。
『ケン! そのまま!』
ノンの声。
「分かってる!」
あと数秒。
ダウトがベルーガの後方へ並ぶ。
「よし――!」
その時だった。
警告。
「え?」
横。
一つの反応が急速に近付いていた。
「な――」
振り向く。
ブルーガ。
先ほど停止させた機体ではない。
残っていた一機が、ダウトへ一直線に突っ込んできている。
武器は構えていなかった。
避ける気もない。
「ちょっと待――!」
ブルーガの肩が、ダウトの横腹へ激突した。
「うわあああっ!!」
凄まじい衝撃。
視界が回る。
ダウトは搬入口の直前で軌道を逸らされ、ベルーガの横へ大きく弾き飛ばされた。
体当たりしたブルーガも制御を失い、ダウトと共に回転しながら艦体から離れていく。
『ケン!!』
ノンの叫び声。
『坊主!!』
ベルーガが遠ざかる。
「待っ……!」
ケンは操縦桿を動かす。
姿勢制御。
推進。
ベルーガへ戻ろうとする。
だが。
正面モニターいっぱいに。
巨大な青い星が広がっていた。
警告表示が点灯する。
《WARNING》
さらにもう一つ。
《ATMOSPHERIC ENTRY》
「……え?」
ケンの顔から血の気が引いた。
横では、体当たりしてきたブルーガも姿勢を崩したまま漂っている。
その向こう。
大気圏突入を始めたベルーガが、少しずつ離れていく。
「……嘘だろ。」
ダウトとブルーガ。
二機だけが。
ベルーガから取り残されようとしていた。