機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第47話「大気圏突入」

 ベルーガの後部へ滑り込もうとしていたガンダムダウトは、横合いから突っ込んできたブルーガの体当たりをまともに受けた。

 

「うわあああっ!」

 

 コックピットを激しい衝撃が揺さぶる。

 

 ダウトは搬入口の目前で進路を大きく逸らされ、そのままブルーガともつれ合うように回転しながらベルーガから離れていった。

 

 ケンは必死に操縦桿を動かす。

 

「離れろって!」

 

 ダウトがブルーガの肩を押し返す。

 

 しかし相手も離れない。

 

 ブルーガは片腕でダウトへしがみ付き、もう一方の腕で機体を押さえ込もうとしてくる。

 

『逃がすかよ!』

 

 接触した機体同士を通じて、荒々しい男の声が直接響いた。

 

「ちょっ……!」

 

 ケンはベルーガを見る。

 

 後部搬入口はまだ開いている。

 

 だが、二機はそこから急速に遠ざかっていた。

 

「戻らないと!」

 

 ダウトがブルーガを引き剥がそうとする。

 

 機体性能では、明らかにダウトが上だった。

 

 このまま強引に振り払うことも出来る。

 

 まして接触している。

 

 ハッキングを使えば、ブルーガの機能を止めることなど難しくない。

 

 だが。

 

 ケンの指が止まった。

 

 ここはもう、地球のすぐ近くだ。

 

 もしブルーガの機能を完全に停止させたら。

 

 そのまま放り出された機体はどうなる。

 

 回収出来る保証はない。

 

 大気圏へ落ちていく可能性だってある。

 

「……くそっ!」

 

 その一瞬の迷いが、決断を鈍らせた。

 

 ブルーガはまだダウトを離さない。

 

     ◇

 

「スコル!」

 

 リーガのコックピットで、ノクトが声を上げた。

 

 眼前では、ダウトとブルーガが絡み合ったままベルーガから離れていく。

 

『隊長! スコル機、大気圏方向へ流されています!』

 

 ジータの声にも焦りが滲んでいた。

 

「分かっている!」

 

 ノクトはリーガを加速させようとする。

 

 だが、その前方で警告表示が点滅した。

 

 これ以上進めば、自分まで突入軌道へ入る。

 

『隊長!』

 

 別回線から声。

 

 先ほどダウトのアンカーによって制御系を止められたクラウスだった。

 

『こっちはまだ機体が動きません! 姿勢制御も推進も反応なしです!』

 

「クラウス、そのまま待て! 母艦に回収を要請しろ!」

 

『了解! でもスコルは!?』

 

 ノクトは答えられなかった。

 

 ダウトとスコルのブルーガは、すでにかなり離れている。

 

 しかも下には地球。

 

 青い星が、二機を引き込むように大きく広がっていた。

 

『隊長、私が行きます!』

 

 ジータのブルーガが前へ出ようとする。

 

「駄目だ!」

 

『でも!』

 

「今から追えば、お前まで戻れなくなる!」

 

『じゃあスコルを見捨てろって言うんですか!?』

 

「そうは言っていない!」

 

 ノクトの声が荒くなる。

 

 だが。

 

 出来ることがない。

 

 その現実が、何より腹立たしかった。

 

「スコル! 応答しろ!」

 

     ◇

 

『ス……ル! 応……しろ!』

 

 ノクトの声は、ノイズに掻き消されながらダウトのコックピットへ届いていた。

 

「通信まで……!」

 

 ケンは歯を食いしばる。

 

 ベルーガからも声が飛んでくる。

 

『坊主! 聞こ……やすか!』

 

『ケン! 返事……して!』

 

「聞こえてる! 聞こえてるって!」

 

 返す。

 

 だが、向こうへ届いているのかも分からない。

 

 通信が途切れる。

 

 ノイズ。

 

 また一瞬だけノンの声。

 

『ケン! 必ず――』

 

 そこで完全に途切れた。

 

「ノン?」

 

 返事はない。

 

「グレアー!」

 

 何も聞こえない。

 

 代わりに。

 

『いい加減諦めて、お縄につきやがれ!』

 

 やたらとよく聞こえる声が飛んできた。

 

 ケンが思わず顔をしかめる。

 

「今の状況分かってる!?」

 

『あん?』

 

「俺達、流されてるんだよ!」

 

『流され……』

 

 そこで男の声が止まった。

 

 二機はまだ掴み合ったまま。

 

 その下では、地球がものすごい勢いで大きくなっている。

 

 機体表面の温度警告が点灯し始めた。

 

 白かったダウトの装甲へ、じわりと赤みが差す。

 

 ブルーガも同じだ。

 

『……おい。』

 

「何?」

 

『これ……ヤバくねぇか?』

 

「だからさっきから言ってる!」

 

 ケンが怒鳴る。

 

 最早、ベルーガへ戻るという話ではなかった。

 

 二機とも、大気圏突入へ引き込まれている。

 

     ◇

 

 ベルーガのブリッジでは、ダウトからの通信が完全に途絶えていた。

 

「ケン!」

 

 ノンが何度呼び掛けても、返ってくるのは激しいノイズだけ。

 

 大型モニターには、地球へ落ちていく二つの小さな反応が表示されている。

 

 その距離は、刻一刻と広がっていた。

 

「通信限界を超えやした……。」

 

 グレアーが低く呟く。

 

「そんな……。」

 

 ノンはモニターから目を離せない。

 

 格納庫との回線が開いた。

 

「整備班長!」

 

 ノンが振り返る。

 

「なんとかならないの!?」

 

『無茶言うな!』

 

 おやっさんの怒声が返る。

 

『もうどうにもならねぇよ! あそこまで行ったらベルーガから引っ張り上げる手段なんざねぇ!』

 

「でもダウトなら!」

 

『フレームだけならな!』

 

 声は強い。

 

 けれど、その奥に滲む悔しさは隠せていなかった。

 

『元の仕様なら大気圏突入を想定してる! だが今のダウトは外装も装備も別物だ!』

 

 おやっさんは拳を強く握っていた。

 

『俺達が組んだ今の機体で、あの熱に耐えられる保証なんざどこにもねぇ!』

 

 ブリッジに沈黙が落ちる。

 

「整備班長……。」

 

 メイド長が静かに呼ぶ。

 

 だが、おやっさんはそれ以上答えなかった。

 

『……後は。』

 

 少しだけ声が弱くなる。

 

『ガンダムの性能に祈るくらいしか出来ねぇよ。』

 

 しばらくして。

 

 さらに小さな声が続いた。

 

『必ず戻れって言っただろうが……バカ坊主……。』

 

 その独り言に。

 

 誰も返すことが出来なかった。

 

 ベルーガ自身も、すでに大気圏突入状態へ移行している。

 

 艦体を守るため、ブリッジ周辺の遮蔽が順次閉じていく。

 

 外の景色が狭くなっていく中。

 

 ノンは最後まで、ケンがいるはずの方向を見つめていた。

 

「……必ず帰ってきなさいよ。」

 

 声は小さかった。

 

「ケン。」

 

     ◇

 

《WARNING》

 

《WARNING》

 

 ダウトのコックピットは、赤い警告表示で埋め尽くされていた。

 

「クソー! どうすりゃいいんだよ!」

 

 ケンは完全に慌てていた。

 

「大気圏突入なんて予定にないから、なんも聞いてないって!」

 

 操縦桿を動かす。

 

 姿勢制御。

 

 推進器。

 

 何とか機体の向きを整えようとする。

 

 だが、横にはブルーガ。

 

 二機が互いに絡み合っているせいで、片方が姿勢を直せばもう片方が崩れる。

 

 熱警告は上がり続けていた。

 

 その時。

 

『おい! ガンダムの!』

 

「うわっ!」

 

 突然はっきり響いた声に、ケンが肩を跳ねさせる。

 

『聞こえるか!?』

 

「えっ、あっ、はい! 聞こえてる!」

 

 あまりに荒々しい声に、反射的に姿勢まで正す。

 

『おう! ガンダムに大気圏突入の機能はあんのか!?』

 

「え?」

 

 ケンは一瞬固まった。

 

「大気圏突入……えーと……。」

 

 必死に記憶を探る。

 

「一応、フレーム的には出来るって言われてた……かな。」

 

『かなぁ!?』

 

「だって俺もやったことないんだよ!」

 

『当たり前だろうが!』

 

 ブルーガのパイロットが怒鳴る。

 

 そして。

 

 少しだけ声が落ちた。

 

『……そうか。』

 

「何?」

 

『ブルーガにはねぇ。』

 

 ケンが目を見開く。

 

『大気圏突入なんざ想定されてねぇ。』

 

「……。」

 

『参ったな。』

 

 先ほどまであれだけ威勢のよかった声から、力が抜けた。

 

『ケン=大神っつったか。』

 

「え?」

 

『最後に聞かせろや。』

 

「最後って言うなよ。」

 

『なんでガンダムなんか乗ってんだ?』

 

「……。」

 

『聞いてんのか?』

 

 ケンは答えない。

 

 いや。

 

 聞いていないわけではなかった。

 

「えっと……どうしたらいい……。」

 

 モニターを見る。

 

 姿勢。

 

 高度。

 

 温度。

 

 どれも悪くなる一方。

 

「考えろ、考えろ……。」

 

『おい!』

 

「フレームは大丈夫って言ってた……でも外装が……。」

 

『シカトくれてんじゃねぇよ!』

 

「姿勢さえ……いやでもブルーガが……。」

 

『最後くらい付き合えよテメェ!』

 

「うるさい!」

 

 ケンがついに怒鳴り返した。

 

『あぁ!?』

 

「ダウトだって大気圏突入出来るか分からないんだよ! 今考えてるから黙ってよ!」

 

 普段のケンなら。

 

 こんなガラの悪い男に怒鳴られれば、まず間違いなく謝っていた。

 

 だが今は。

 

 命が掛かっている。

 

『……お、おう。』

 

 逆に向こうが少し引いた。

 

 数秒して。

 

『でもガンダムなら、単独で大気圏突入くらい出来るんじゃねぇのか?』

 

「だから正規の装甲じゃないんだって!」

 

 ケンは矢継ぎ早に返す。

 

「そんなことやったこともないし! ガンダムに乗ったのだって成り行きだし! 俺だって分からないことだらけなんだよ!」

 

『……マジかよ。』

 

「マジだよ!」

 

『なんでそんな奴がガンダム乗ってんだ。』

 

「だから成り行きだって言ったじゃん!」

 

『……はは。』

 

 乾いた笑い。

 

『結局、俺は燃え尽きるんだけどな。』

 

「だから最後みたいに言うなって!」

 

 その瞬間。

 

 ドンッ!

 

 何かが爆発したような音。

 

「うわっ!」

 

 身体がシートへ強く押し付けられる。

 

 G。

 

 機体がさらに地球へ引かれていく。

 

「こ、これが地球の引力!?」

 

『はぁ〜……ここまでかよ。』

 

「反応の差!」

 

 ケンは思わず叫んだ。

 

『テメェ元気だな……。』

 

「諦めるなって!」

 

『は?』

 

「二人で助かろうよ!」

 

『いや、だからブルーガには大気圏突入の性能はねぇって――』

 

「ダウトならなんとかなる!」

 

 ケンが遮る。

 

 一拍。

 

「……多分!」

 

『多分じゃねぇか!』

 

「うるさい! 今から考えるんだよ!」

 

『今から!?』

 

「今から!」

 

『無茶苦茶だなテメェ!』

 

「そっちに言われたくない! 体当たりしてきたの誰だよ!」

 

『それは……任務だ!』

 

「じゃあ俺が生き残ろうとしてるのも任務!」

 

『何の任務だよ!』

 

「知らない!」

 

 妙なやり取りをしている間にも、二機は落ち続けている。

 

 ケンは再びモニターへ目を走らせた。

 

「……名前。」

 

『あ?』

 

「そういえば名前知らない。」

 

 少し間。

 

『スコルだ!』

 

「え?」

 

『俺の名前!』

 

「あ〜。」

 

『分かったか?』

 

「じゃ、よろしく! スコル!」

 

『さんを付けろ! クソガキ!』

 

「今それ気にする!?」

 

『気にするわ!』

 

 ケンは思わず笑いそうになった。

 

 こんな状況なのに。

 

 でも。

 

 少しだけ。

 

 怖さが和らいだ。

 

「……よし。」

 

『何がよしだ。』

 

「スコル。」

 

『さん!』

 

「今はいいだろ!」

 

『よくねぇ!』

 

「とにかく!」

 

 ケンが操縦桿を握り直す。

 

「ダウトはフレームだけなら大気圏突入を想定してる。」

 

『さっき聞いた。』

 

「ならダウトを中心にして、二機まとめて姿勢を作れば……。」

 

『二機まとめて?』

 

「ブルーガも一緒に持っていく。」

 

『……は?』

 

「だから、一緒に降りる!」

 

『出来んのか!?』

 

「分かんない!」

 

『またそれかよ!』

 

「でも他にないだろ!」

 

 スコルが黙る。

 

 その通りだった。

 

『……分かった。』

 

「え?」

 

『やるぞ。』

 

 今度はケンが驚く。

 

『どうせこのままなら死ぬんだ。テメェの無茶に乗ってやる。』

 

「最初からそう言ってよ!」

 

『誰のせいでこうなったと思ってんだ!』

 

「スコルさんの体当たり!」

 

『……さん付けたのは評価する。』

 

「そこ!?」

 

 二機が姿勢を変え始める。

 

 ダウトがブルーガを引き寄せる。

 

 ブルーガも推進器を細かく噴かし、ダウトの動きに合わせていく。

 

「スコル! そっち少し右!」

 

『スコルさんだ!』

 

「今はもういいだろ!」

 

『右だな!?』

 

「そう!」

 

 しかし。

 

 簡単ではなかった。

 

 大気が濃くなるにつれ、僅かな姿勢のズレが大きな力となって二機を引き剥がそうとする。

 

 装甲温度が跳ね上がる。

 

《HEAT WARNING》

 

「熱っ……!」

 

『こっちも警告だらけだ!』

 

 ブルーガが大きく揺れる。

 

「合わせて!」

 

『やってる!』

 

「もっと!」

 

『無茶言うな!』

 

 ダウトの外装の一部が赤熱し、細かな破片が後方へ飛んでいく。

 

「まずい……!」

 

 ケンが必死に姿勢を戻そうとする。

 

 しかし。

 

 制御が追いつかない。

 

 ブルーガが回転し始める。

 

『おい! 止まらねぇ!』

 

「スコル!」

 

『推進が効かねぇ!』

 

「待って!」

 

 ケンはダウトでブルーガを押さえ込む。

 

 だが二機分の慣性。

 

 さらに大気抵抗。

 

 ダウトまで引きずられる。

 

《ATTITUDE ERROR》

 

《HEAT LIMIT》

 

《FRAME LOAD WARNING》

 

 警告が重なる。

 

「くそっ……!」

 

 操縦桿を握る手が震える。

 

「動け……!」

 

 機体が言うことを聞かない。

 

「ダウト!」

 

 さらに強いG。

 

「うっ……!」

 

 視界が狭くなる。

 

『おい、ケン!』

 

 スコルの声。

 

『テメェ大丈夫か!』

 

「だ、大丈夫……!」

 

『声が大丈夫じゃねぇぞ!』

 

「でも……。」

 

 ケンはモニターを睨む。

 

 下には地球。

 

 もう逃げられない。

 

「二人で……助かるんだろ……。」

 

 その瞬間だった。

 

 コックピットの表示が切り替わる。

 

《DANGER》

 

 そして。

 

《ASSIST MODE》

 

「……え?」

 

 操縦桿が、ケンの手の中で勝手に動いた。

 

「今!?」

 

 ダウトの姿勢制御スラスターが一斉に噴射する。

 

 機体が強引に向きを変えた。

 

『な、なんだ!?』

 

「アシストモード……!」

 

『何だそれ!』

 

「俺にも説明してる暇ない!」

 

 ダウトの右腕が、ブルーガの胴体へ強く触れる。

 

 接触。

 

《SYSTEM ACCESS》

 

 ケンの目が見開かれる。

 

「え?」

 

 ブルーガ側。

 

『おい! 何しやがった!』

 

「ちょっと待って!」

 

『操縦が効かねぇ!』

 

 スコルが操縦桿を動かす。

 

 だが、ブルーガは別の意思を持ったように姿勢を変えていく。

 

『機体が勝手に動いてるぞ!』

 

「俺も!」

 

『はぁ!?』

 

「ダウトも勝手に動いてる!」

 

『なんなんだよこのガンダム!』

 

「俺もそう思う!」

 

 アシストモードは二機を同時に制御していた。

 

 ダウト自身の推進。

 

 姿勢。

 

 突入角。

 

 そして。

 

 接触を通じてブルーガの姿勢制御系まで掌握する。

 

 二機の配置が変わる。

 

 ダウトが前。

 

 ブルーガがその影へ入る。

 

『おい!』

 

 スコルが気付く。

 

『テメェの機体が前に出てんぞ!』

 

「俺がやってるんじゃない!」

 

『このままじゃそっちが熱全部食らうだろ!』

 

「知らないって!」

 

 ダウトの外装温度がさらに上がる。

 

 装甲の一部が剥離。

 

 警告。

 

 また警告。

 

 それでも機体は姿勢を崩さない。

 

《ENTRY ANGLE CORRECTION》

 

《EXTERNAL CONTROL LINK》

 

《FRAME PROTECTION PRIORITY》

 

 ケンはただ、表示を追うことしか出来なかった。

 

「……これも出来るのかよ。」

 

 戦うためだけじゃない。

 

 逃げるためでもない。

 

 生き残るために。

 

 ダウトは動いている。

 

「スコル!」

 

『だからさん付けろ!』

 

「まだ言う!?」

 

『死にかけてても礼儀は必要だ!』

 

「じゃあスコルさん! 絶対離れないで!」

 

『こっちの操縦効かねぇんだよ!』

 

「あ、そっか!」

 

『クソガキぃ!』

 

 二機が炎に包まれる。

 

 モニターの外は赤。

 

 白。

 

 激しい光。

 

 轟音。

 

 G。

 

 それでも。

 

 姿勢は崩れない。

 

 アシストモードはダウトとブルーガを一つの機体のように扱いながら、大気圏を降下していく。

 

 長い。

 

 いつまで続くのか分からない。

 

 ケンは歯を食いしばり、ただ耐え続けた。

 

 やがて。

 

 警告音が一つ消えた。

 

「……?」

 

 もう一つ。

 

 さらに。

 

 外の赤い光が薄れていく。

 

 雲。

 

 白い雲が、モニターいっぱいに広がった。

 

 二機はその中へ突っ込む。

 

 一瞬。

 

 何も見えなくなる。

 

 そして。

 

 抜けた。

 

「……。」

 

 ケンは言葉を失った。

 

 青。

 

 どこまでも広がる、本物の青空。

 

 その下には雲。

 

 さらに遥か下には、大地。

 

「……空。」

 

 初めて見る。

 

 映像でも。

 

 コロニーの人工天井でもない。

 

 本物の空。

 

『……おい。』

 

 スコルの声。

 

「何?」

 

『俺達……。』

 

 少し間が空く。

 

『生きてるよな?』

 

 ケンは自分の身体を見る。

 

 手。

 

 足。

 

 コックピット。

 

 全部ある。

 

「……生きてる。」

 

『……マジかよ。』

 

「やった……。」

 

 口元が緩む。

 

「やった!」

 

 ケンが思わず叫ぶ。

 

「スコル! やったぞ!」

 

『スコルさんだ!』

 

「まだ言うの!?」

 

『当たり前だ!』

 

 その声に。

 

 ケンはとうとう笑った。

 

 コックピットの表示が切り替わる。

 

《ASSIST MODE END》

 

 操縦桿が、ケンの手へ戻る。

 

 ダウトの右腕も、ブルーガからゆっくりと離れた。

 

 二機とも無傷ではない。

 

 外装は焼け。

 

 各部には損傷。

 

 それでも。

 

 飛んでいる。

 

 青い空の中を。

 

「……地球。」

 

 ケンは、初めて自分の目で見る空を見上げた。

 

 夢にまで見た地球への第一歩は。

 

 想像していたものとは、ずいぶん違う形になってしまった。

 

 けれど。

 

 ガンダムダウトとブルーガ。

 

 本来なら敵同士だった二機は。

 

 確かに。

 

 共に大気圏を越えていた。




ノクト隊の3人


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