機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
地球圏外縁。
ベルーガを追跡した地球連邦軍の警備艦では、あの騒動が終わってからもしばらく重たい空気が残っていた。
MSデッキへ戻った機体の中に、大きく損傷したものはない。
クラウスのブルーガは、ダウトのアンカーによって制御系を一時的に止められていたものの、機体そのものに致命的な損傷はなかった。ジータの機体も帰艦し、ノクトのリーガも無事だった。
ただ一機。
スコルのブルーガだけが戻ってこなかった。
ブリッジに戻ったノクトは、地球へ落ちていった二機の記録を何度も確認していた。
「スコル機の反応は?」
通信担当の兵士が、言いにくそうに首を横へ振る。
「ありません。」
「地上側の監視網は?」
「こちらの管轄から即時確認出来る範囲には反応なし。大気圏突入後の追跡も途切れています。」
「なら、もう一度――」
「ノクト。」
艦長の声が、それを止めた。
ノクトが振り返る。
「艦長。」
「もう十分だ。」
「ですが。」
「ブルーガに単独大気圏突入能力はない。」
淡々とした言葉だった。
それだけに重い。
「スコル機はガンダムと共に突入軌道へ入り、その後反応を喪失した。機体も遺体も確認出来ていない以上、正式にはMIAとして処理する。」
ノクトの表情が固まる。
行方不明。
記録の上ではそうなる。
だが。
あの場にいた全員が、同じことを考えていた。
大気圏突入を想定していないブルーガが、そのまま地球へ落ちた。
助かっているとは、到底思えない。
「……スコルは。」
ノクトは拳を握った。
「私の命令で出撃しました。」
ジータも、クラウスも何も言わなかった。
ノクト自身が誰より分かっている。
ベルーガを追うと決めたのも自分。
艦へ取り付けと命じたのも自分。
ガンダムを止めようとしたのも自分。
勢いのまま。
父の判断を理解していながら。
それでも、自分の勘を信じて踏み込んだ。
「その通りだ。」
艦長が答える。
「だから今回の件について、君には処分を受けてもらう。」
「……はい。」
「発進許可前の独断行動。友軍特務艦への強引な追跡。部下の監督不行き届き。そして一名のMIA。」
一つずつ並べられる。
反論出来るものは何もなかった。
「当面、自室謹慎。」
「了解しました。」
ノクトは即答した。
艦長が少し意外そうな顔をする。
だが、ノクトは続けた。
「スコルを失った責任は、私にあります。」
「……。」
艦長は少しだけ視線を逸らした。
今回の件が表沙汰になれば、責任を問われるのはノクトだけではない。
最終的に発進許可を出したのは艦長自身。
正式な照会を終えた友軍特務艦へMS隊を差し向けた事実も残っている。
だが。
今のところ。
ベルーガから抗議はない。
上層部から問い合わせもない。
グレアー=アイズ中佐についての確認もない。
何も。
来ていない。
「今回の件は、これ以上大きくしない。」
艦長が声を落とした。
ノクトが顔を上げる。
「……どういう意味でしょうか。」
「そのままだ。」
艦長は少し苛立ったように指を机へ打ち付ける。
「ベルーガ側から何も言ってこない。上からも何もない。それなら、こちらから余計な問題を増やす必要はない。」
「しかし。」
「スコルは作戦行動中の命令違反に伴うMIAとして処理する。」
ノクトの眉が僅かに動く。
スコル自身も、最後はガンダムを止めるため、ベルーガへ取り付く命令の中で動いていた。
だが、そこから大気圏突入域まで追ったことを細かく掘り返せば、結局はノクトの独断と艦長の許可に行き着く。
「君には謹慎処分。」
艦長は言い切った。
「それで終わりだ。」
ノクトはしばらく黙っていた。
納得しているわけではない。
だが。
この場で何を言ってもスコルが戻ってくるわけではない。
「……了解しました。」
静かに敬礼し、ノクトはブリッジを後にした。
◇
自室へ戻ったノクトは、軍服の上着すら脱がないまま椅子へ腰を下ろした。
静かだった。
任務もない。
出撃も出来ない。
外へ出ることも許されない。
ただ一人。
考える時間だけが残された。
「……。」
頭に浮かぶのは、あの時の光景ばかりだった。
ベルーガ。
ガンダム。
カノン。
グレアー。
そして。
ガンダムへ体当たりし、そのまま地球へ引き込まれていったブルーガ。
「スコル……。」
名前を口にすると、胸の奥が重くなる。
口が悪く。
遠慮もなく。
それでも命令を出せば必ず動いた。
そんな部下だった。
その男を。
自分が死なせた。
「……。」
ノクトは額へ手を当てる。
何度考えても。
あの時、自分が取った行動そのものを完全に否定することは出来ない。
グレアーとカノンが突然目の前に現れた。
ガンダムが積まれている可能性もあった。
結果として、その勘は当たっていた。
だが。
だからといって。
あそこまで強引に行く必要があったのか。
「……赤ずきんちゃんネル。」
ふと。
その名前を思い出した。
ケン=大神。
ガンダムダウト。
最近、世界中で話題になっている配信。
存在自体は知っていた。
だが、まともに見たことはない。
指名手配犯と、顔を隠した配信者がやっているチャンネル。
その程度の認識だった。
ノクトは机の端末を手に取る。
検索する。
すぐに出てきた。
「……。」
思っていたより遥かに大きなチャンネルだった。
並ぶ動画。
再生数。
コメント。
Liveのアーカイブ。
ノクトは最新付近の映像を開いた。
最初に映ったのは、宇宙空間。
民間輸送船。
賊に襲われている。
そこへ現れるガンダムダウト。
「……。」
ノクトは無言で見続けた。
ケンが賊を止める。
撃墜しない。
民間船を守る。
そして現れる、コロニー国家連合軍第206警邏中隊《オービットハンズ》。
戦闘になる。
包囲。
追い詰められるダウト。
途中から、明らかに動きが変わった。
「……何だ、この動きは。」
ノクトが僅かに身を乗り出す。
一個中隊規模。
十機を超える正規軍機。
それを。
次々と止めていく。
なのに。
「……撃墜していない。」
誰も殺していない。
Liveだから編集で後から作ったものでもない。
その場で。
世界中へ。
そのまま流れていた。
次の動画。
中立コロニー、リボーン。
住民の声。
戦争を知らない者。
昔の戦争を家族から聞いて育った者。
地球を恐れる者。
コロニー国家連合を恐れる者。
正解を押し付けるでもなく。
ケンと赤ずきんは聞いている。
ただ。
話を聞いている。
「……こんなことを。」
カノンの声が、頭に蘇る。
『兄さんを巻き込みたくないの。』
そして。
グレアーの言葉。
『……坊っちゃんだからこそ、でやす。』
「……。」
ノクトは再生を止めた。
長い沈黙。
「俺は……何も見ていなかったのか。」
もちろん。
動画だけですべてを信じるつもりはない。
軍事資産を持ち出していることも事実。
ガンダムを隠していたことも事実。
何故カノン達がそこまでしているのか。
まだ分からない。
それでも。
「ちゃんと見ていれば……。」
少なくとも。
もっと話を聞こうとしたかもしれない。
ベルーガへ取り付けなどと。
あんな命令を出す前に。
「……スコル。」
ノクトは目を閉じた。
返事はない。
あるはずもない。
そう思いながら。
再び端末を操作し、次の動画を再生した。
◇
その頃。
地球へ降下したベルーガでは。
スコルが連邦軍の制服へ着替え、再びブリッジへ戻ってきていた。
「よう。」
ケンが振り返る。
「お。」
上から下まで眺める。
「スコル、ちゃんと軍人っぽい。」
「だから元から軍人だ!」
「でもさっきまでボロボロのノーマルスーツだったし。」
「服で軍人か決めてんじゃねぇ。」
スコルの後ろにはジーナがいる。
ケンはそれを見て、にやりとする。
「メイド長にはちゃんとお礼言った?」
「言った。」
「敬語で?」
「……。」
「言ったんだ。」
「うるせぇ。」
ジーナが少し視線を向ける。
それだけでスコルの背筋が伸びた。
ケンが吹き出す。
「めちゃくちゃ怖がってるじゃん。」
「怖がってねぇ!」
「そう?」
「そうだ!」
「スコル様。」
ジーナが静かに呼ぶ。
「はい。」
即答。
ケンがさらに笑う。
「ほら!」
「テメェ後で覚えてろよ!」
ノンが呆れながら二人を見る。
「随分仲良くなったわね。」
「なってねぇ!」
「なってない!」
二人同時に返す。
一瞬。
互いを見る。
「真似すんな。」
「そっちだろ!」
「はいはい。」
ノンが軽く手を叩く。
「ちょうどよかった。スコルにも聞きたいことがあるの。」
「俺に?」
「今回の大気圏突入。」
ノンはケンの端末へ目を向ける。
そこにはダウトが記録した映像データが並んでいた。
「動画にしようと思ってる。」
「……は?」
スコルの顔が止まる。
「動画?」
「そう。」
「何の話だ?」
「赤ずきんちゃんネル。」
「……何だそれ。」
今度はケンとノンが止まった。
「知らないの?」
ケンが聞く。
「知らねぇ。」
「本当に?」
「だから知らねぇって!」
ノンが少し考える。
「兄さんも見てない感じだったし……。」
「隊長が動画配信なんか見ると思うか?」
「……あんまり。」
「だろ。」
ケンは端末を持ち上げる。
「じゃあ見てみる?」
「何を。」
「俺達が何やってるのか。」
スコルは少し怪訝そうな顔をした。
だが。
先ほどノン達から聞いた説明だけでは判断出来ないと言ったのは自分だ。
「……見せろ。」
◇
動画が流れる。
リボーンでの撮影。
住民達の声。
民間輸送船の救助。
賊との戦闘。
そしてオービットハンズとの衝突。
スコルは最初こそ椅子へ深く座り、腕を組んでいた。
だが。
途中から少しずつ前へ身を乗り出していく。
「……これ、Liveなのか?」
「そこはね。」
ケンが答える。
「編集なし。」
「マジかよ。」
「マジ。」
ダウトが一個中隊を相手にしている。
それでも。
撃墜は一機もない。
さらに流れる視聴者コメント。
コロニー国家連合側からの声。
地球側からの声。
互いへの不信。
怒り。
恐怖。
その中に混ざる。
戦争になってほしくないという声。
「……。」
動画が終わっても、スコルはしばらく黙ったままだった。
「どう?」
ケンが聞く。
「……お前ら。」
「うん。」
「本当にこんなことやってんだな。」
「だから言ったでしょ。」
ノンが返す。
「戦争を止めたいって。」
「聞いただけじゃ分かんねぇよ。」
スコルは頭を掻く。
「でも。」
画面へ視線を戻す。
「何してんのかは分かった。」
ケンが少し笑う。
「じゃあ信じてくれた?」
「そこまでは言ってねぇ。」
「えぇ。」
「俺は連邦軍人だぞ。」
「知ってる。」
「まだ全部信じたわけじゃねぇ。」
「そこはいいわ。」
ノンが静かに言う。
「自分で決めれば。」
「……あぁ。」
スコルは頷いた。
その時。
ノンが本題へ戻す。
「それで。」
「ん?」
「今回の大気圏突入も動画にしたいんだけど。」
「……。」
「スコルも記録には入ってる。」
スコルが眉を寄せる。
「俺も?」
「正確にはブルーガと通信音声。」
ケンが補足する。
「顔を出すわけじゃないよ。」
「……。」
「そのまま使っていい?」
スコルは少し考え込んだ。
「動画にしたら、世界中が見るのか?」
「多分。」
「多分どころじゃないでしょ。」
ノンが横から言う。
「かなり見ると思う。」
「……。」
スコルは視線を落とす。
ノクト。
ジータ。
クラウス。
母艦の仲間達。
今頃。
自分がどうなったと思っているのか。
ブルーガに大気圏突入能力がないことなど、全員知っている。
「……いい。」
ケンが目を瞬いた。
「いいの?」
「あぁ。」
「本当に?」
「しつけぇな。」
スコルは少しだけ顔を逸らした。
「俺が生きてるって分かれば、隊長や仲間達にも伝わるかもしれねぇ。」
そして。
ゆっくりノンを見る。
「それに。」
「何?」
「お前らがこんな活動してんのは分かった。」
少し間を置く。
「これで本当に戦争が止まる可能性があるってんなら……俺が出るくらい構わねぇよ。」
ノンの表情が少し柔らかくなる。
「そう。」
「あぁ。」
ただし。
スコルが急にケンを見る。
「条件がある。」
「何?」
「俺が諦めてたところはカットしろ。」
ケンの口元が緩む。
「えー。」
「えーじゃねぇ!」
「『はぁ〜ここまでかよ』って言ってたとこ?」
「再現すんな!」
「でも結構いい場面――」
「良くねぇ!」
「スコルさん。」
「都合いい時だけさん付けすんな!」
ケンが笑う。
「そこ視聴者的には結構――」
「カットだ!」
「はいはい。」
「軽いな!」
ノンも少し笑っていた。
「本人が嫌がってるところは使わなくてもいいでしょ。」
「ほら!」
スコルが勝ち誇ったようにケンを見る。
「赤ずきんは分かってる!」
「じゃあ『さんを付けろ!クソガキ!』のところは?」
「……。」
「そこは使っていい?」
「なんでそこだけ残したがるんだよ!」
◇
編集は、その日のうちに始まった。
使う映像は。
ダウトの外部カメラが記録していたものだけ。
コックピット内部は一切出さない。
アシストモードの表示。
システム内部。
ブルーガへアクセスした際の詳細情報。
そういったものも全て外す。
あくまで。
世界に見せるのは。
二機が大気圏へ落ち。
それでも協力し。
生き残った。
その事実だけ。
「ここ。」
ノンが映像を止める。
「内部情報が少し映り込んでる。」
「じゃあ外部カメラだけに切り替える。」
「次。」
ダウトとブルーガが炎に包まれている。
装甲が赤熱し。
二機が互いに身体を支えるように姿勢を合わせる。
その映像へ、当時の通信音声を重ねていく。
『ブルーガには大気圏突入の性能はねぇ。』
『諦めるなって! 二人で助かろうよ!』
『はぁ? だからブルーガには――』
『ダウトならなんとかなる! 多分!』
『多分じゃねぇか!』
スコルが横から顔をしかめる。
「改めて聞くとテメェ本当に無茶苦茶だな。」
「助かったんだからいいじゃん。」
「結果論だろ!」
続いて。
『スコルだ!』
『え?』
『俺の名前!』
『あ〜。』
『分かったか?』
『じゃ、よろしく! スコル!』
『さんを付けろ! クソガキ!』
ケンが吹き出す。
「ここ絶対使おう。」
「なんでだよ!」
「面白いから。」
「戦争止める動画なんだろ!?」
「重いだけじゃ見てくれない人もいるし。」
「それっぽい理由つけんな!」
ノンも少し笑いながら編集を続けた。
やがて。
二機が雲を抜ける場面。
赤熱していた装甲。
炎。
そして一気に広がる青空。
その先で。
二機とも飛んでいる。
「……。」
スコルが少しだけ黙った。
自分でも。
改めて映像で見ると信じられなかった。
本当に。
あそこから生きて帰ったのだ。
◇
翌るべき動画が完成すると。
ケンとノンは、いつもの撮影位置へ並んだ。
カメラ正面。
ケンケン。
赤いフードを被った赤ずきん。
それだけ。
スコルは映らない。
このチャンネルは。
最初から。
ケンケンと赤ずきんの二人でやってきた。
そしてこれからも。
そこは変えない。
録画開始。
「はい! どうも〜! ケンケンです!」
「赤ずきんです。」
「ということで。」
ケンが少し笑う。
「地球に来ました!」
ノンが横を見る。
「本当はもっと安全に来る予定だったけどね。」
「それ言わないでよ。」
「事実でしょ。」
「まあ……そうなんだけど。」
ケンはカメラへ向き直る。
「本当はベルーガで普通に地球へ降りる予定だったんですが、色々あってMSで大気圏突入することになりました。」
ノンが続ける。
「その時、地球連邦軍のブルーガも一機、一緒に大気圏突入へ巻き込まれました。」
「ブルーガには大気圏突入の性能がなくて。」
ケンの表情が少し真面目になる。
「パイロットの人も、途中でかなり厳しい状況になってました。」
「でも。」
ノンがケンを見る。
「最終的には二機で協力して、無事地球まで降りることが出来ました。」
ケンがカメラへ手を向ける。
「では。」
少しだけ間を置き。
「その時の映像をどうぞ!」
◇
画面が切り替わる。
ガンダムダウト外部カメラ。
大気圏へ引き込まれていく地球。
すぐ横。
ブルーガ。
二機の装甲が少しずつ赤く染まっていく。
通信音声。
『ブルーガには大気圏突入の性能はねぇ。』
『諦めるなって! 二人で助かろうよ!』
『はぁ?』
『ダウトならなんとかなる! 多分!』
『多分じゃねぇか!』
二機が姿勢を合わせる。
炎が広がる。
映像そのものまで熱で揺れているように見えた。
『スコルだ!』
『え?』
『俺の名前!』
『あ〜。』
『分かったか?』
『じゃ、よろしく! スコル!』
『さんを付けろ! クソガキ!』
映像は続く。
ダウトとブルーガ。
敵同士だった二機が、互いに身体を支えながら地球へ落ちていく。
外から見れば。
どちらがどちらを操っているのか。
何が内部で起きているのか。
分からない。
ただ一つ。
分かるのは。
二機が。
生き残るために。
同じ方向を向いていること。
炎。
赤熱する装甲。
機体の一部が焼け。
それでも。
姿勢は崩れない。
やがて。
白い雲へ突入する。
一瞬。
画面が真っ白になる。
そして。
抜けた。
青空。
その中を。
ダウトとブルーガが飛んでいる。
映像終了。
◇
画面が再び。
ケンケンと赤ずきんへ戻る。
「……という感じでした。」
ケンが少し照れたように笑う。
「さっきも言ったけど、本当はもっと安全に地球に降りるつもりだったんですが、色々あってMSでの突入になってしまって……もう二度とやりたくないですね。」
ノンも頷く。
「かなり危険な状況だったけど、二人とも無事です。」
「それと。」
ケンが少し真面目な顔になる。
「そのままだったら、大気圏で燃え尽きるはずだった連邦軍の兵士の方も救えました。」
少し間。
「今は、その人も俺達と一緒にいます。」
画面の外。
少し離れたところで見ていたスコルが、僅かに目を細める。
ケンは続けた。
「俺達は。」
言葉を選ぶ。
「やっぱりガンダムを、人のために使っていきたいです。」
「そして。」
ノンが続ける。
「戦争を止めたい。」
「これまで俺達は、コロニー国家連合軍とも、地球連邦軍とも揉めました。」
ケンは苦笑する。
「まあ、揉めたっていうか……結構追い掛けられてるんですけど。」
「そこは笑うところじゃないでしょ。」
「はい。」
すぐ真面目に戻る。
「でも。」
ケンはカメラを真っ直ぐ見る。
「今回みたいに。」
「立場が違っても。」
「敵だと思ってても。」
「一緒に協力して、助け合うことは出来る。」
ノンも静かに頷く。
「地球連邦だから。」
「コロニー国家連合だから。」
「それだけで、全部を決めなくてもいいんじゃないかと思います。」
ケンが最後に言葉を繋ぐ。
「今回のことを見て。」
「少しでも。」
「こういうことも出来るんだって、みなさんに伝わったら嬉しいです。」
それから。
いつものように少し笑った。
「それじゃあ今回はこの辺で!」
「以上。」
「ケンケンと!」
「赤ずきんでした。」
録画終了。
◇
「……。」
少し離れたところにいたスコルが、しばらく何も言わなかった。
ケンが振り返る。
「どうだった?」
「……ちょっと恥ずいな。」
「何が?」
「自分の声が世界中に流れんのが。」
「そこ?」
「そこだよ。」
「スコルさん、有名人になるかも。」
「都合いい時だけさん付けんな。」
「もう癖になってきた。」
「やめろ。」
ノンが端末を操作する。
「投稿するわよ。」
「ちょっと待て。」
スコルが手を上げる。
「何?」
「俺が諦めてたところ。」
「あぁ忘れてたわ……カットせずそのまま使ったわ。」
「……もういいわ。」
ケンが小さく笑う。
「流石ノンだ。」
「うるせぇ。」
投稿。
動画が公開された。
再生数は、すぐに増え始めた。
コメントも流れ込む。
『地球着いた!?』
『大気圏突入してるじゃん!』
『ブルーガも一緒!?』
『連邦兵助かったの!?』
『敵同士で協力してる』
『さんを付けろクソガキで笑った』
スコルが画面を見る。
「……そこ拾われんのかよ。」
「やっぱり使って正解だった。」
「ケン。」
「何?」
「後で殴る。」
「暴力反対。」
「テメェ……。」
だが。
その顔には。
ほんの少しだけ笑いが混ざっていた。
スコルは流れていくコメントを見ながら、ぽつりと呟く。
「……これなら。」
「ん?」
「隊長や仲間達にも、届くかもしれねぇな。」
ケンは少しだけ表情を和らげた。
「届くよ。」
「……だといいけどな。」
◇
その頃。
地球圏外縁の警備艦。
自室謹慎中のノクトは。
まだ赤ずきんちゃんネルの過去動画を見続けていた。
端末の隅に。
新着通知が表示される。
新しい動画。
タイトルを見て。
ノクトの指が止まった。
「……地球?」
再生。
ケンケンと赤ずきん。
そして。
大気圏突入の記録映像。
二機。
ガンダムダウト。
ブルーガ。
聞き覚えのある声。
『スコルだ!』
ノクトの目が大きく開く。
『俺の名前!』
「……。」
『じゃ、よろしく! スコル!』
『さんを付けろ! クソガキ!』
ノクトは立ち上がった。
「スコル……?」
さらに見る。
動画の最後。
ケンの言葉。
『連邦軍の兵士の方も救えました。今は、その人も俺達と一緒にいます。』
「……生きてる。」
声が震えた。
「スコルが……。」
ノクトはしばらく。
画面から目を離せなかった。
そして。
大きく息を吐く。
力が抜けるように椅子へ座り込んだ。
「……よかった。」
短い。
ただ、それだけだった。
その時。
地球側。
投稿を終えたケンの端末に、新しい通知が届く。
「ん?」
ケンが画面を見る。
「あ。」
「何?」
ノンが覗き込む。
表示されていた名前。
@kiショーちゃんネル。
新着メッセージ。
『ほんまに地球来とるやん!』
『しかも大気圏から落ちてきとるやんけ!』
『ウチとのコラボの前に何しとんねん!』
ケンが吹き出した。
「返信早っ!」
「暇なのかしら。」
ノンが真顔で呟く。
「誰だそいつ。」
スコルが怪訝そうに画面を見る。
「地球の有名配信者。」
「……また配信者かよ。」
スコルが心底呆れたように言った。
地球へ降りたばかりだというのに。
ケン達の次の出会いは。
もう、向こうから近付いてきていた