機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第52話「@ki」

 大西洋へ出てから数日。

 

 ベルーガは、人目を避けるように海上を北西へ進み続けていた。

 

 主要な船舶航路から外れ、地球連邦軍の哨戒区域を避けながら高度を抑える。速度を出そうと思えばもっと早く進める大型艦だったが、今は目的地へ急ぐことより、連邦側に存在を悟られないことの方が重要だった。

 

 窓の外に広がっていた景色も、数日前からほとんど変わらない。

 

 空と海。

 

 どこまでも続く水平線。

 

 最初こそ窓に張り付くように眺めていたケンも、さすがに数日も経てば少しは見慣れてきた。

 

 それでも。

 

「……陸だ。」

 

 前方モニターの向こうに細い影を見つけた瞬間、思わず声が漏れた。

 

 大西洋の向こう側。

 

 目的地であるアルメア大陸北部の海岸線が、ようやく見え始めている。

 

「やっと着いた……。」

 

「まだよ。」

 

 隣に立つノンがすぐに訂正する。

 

「見えただけでしょ。」

 

「でも数日ずっと海だったんだよ?」

 

「最初はあんなに喜んでたじゃない。」

 

「海が嫌いになったわけじゃないよ。ただ……陸もいいなって。」

 

「節操ないわね。」

 

「なんで?」

 

 二人の後ろでは、グレアーが@kiから送られてきた位置情報と周辺地形を照合していた。

 

「目的地はもう少し北でやすね。」

 

 モニター上には複雑な海岸線が映し出されている。

 

 人口密集地からはかなり離れている。

 

 都市部らしい大きな光点も少ない。

 

 アルメアという大国の中でも、今いる辺りは確かに後方地域と呼ぶに相応しかった。

 

 さらに北へ進むと、森林と湖の多い一帯が広がっている。

 

 以前グレアーとスコルが話していた、かつて地球連邦の研究施設が置かれていた地域だ。

 

「本当にこんな所に住んでんのか、あの配信者。」

 

 スコルが地図を見ながら呟く。

 

「本人が送ってきたんだからいるんじゃない?」

 

「そういう意味じゃねぇ。」

 

「じゃあどういう意味?」

 

「有名配信者ってもっと街のど真ん中とかに住んでるもんじゃねぇのか?」

 

 ケンが首を傾げる。

 

「俺に聞かれても。」

 

「お前も配信者だろ。」

 

「コロニーの工専生に何を求めてるんだよ。」

 

「今じゃ指名手配のガンダム配信者じゃねぇか。」

 

「それは望んでなったわけじゃない!」

 

「どっちにしろ普通じゃねぇよ。」

 

「スコルに言われたくないな。」

 

「俺は普通の軍人だ!」

 

 そのやり取りを聞き流しながら、グレアーが航路を微調整する。

 

「そろそろ陸側の監視網も増えてきやす。ここからはさらに慎重に行きやしょう。」

 

「@kiから追加の連絡は?」

 

 ノンが聞く。

 

「さっき来てやしたよ。」

 

 グレアーが別の画面を開く。

 

 短いメッセージがいくつか並んでいる。

 

『海岸沿いにそのまま北へ来てや!』

 

『でっかい岩壁見えてくるから、そこ見逃さんといてな!』

 

『入口分かりにくいけど、ワッチが開けるから!』

 

 ケンが読む。

 

「また一人称変わってる。」

 

「今そこ気にする?」

 

「だって気になるじゃん。」

 

 スコルが腕を組んだ。

 

「それより“岩壁が開く”って何だよ。」

 

「そこだよな。」

 

 グレアーも少しだけ目を細める。

 

「記録上、この周辺に現役の軍事施設はありやせん。」

 

「でも昔はあったんでしょ?」

 

「えぇ。」

 

 グレアーが目的地付近の古い地図を表示する。

 

「先の戦争より前、この辺りには連邦の研究施設がありやした。新型MSの研究や試験、それに――」

 

 一瞬。

 

 言葉が止まる。

 

「ガンダム開発にも関わってた施設でやす。」

 

 ケンが振り返った。

 

「ガンダム?」

 

「あぁ。」

 

 今度は、後ろから別の声がした。

 

 おやっさんだった。

 

 いつの間にかブリッジへ上がってきており、モニターに映る地形をじっと見つめている。

 

「おやっさんも知ってるの?」

 

「知ってるも何も……。」

 

 低い声。

 

 いつものぶっきらぼうな調子とは、少し違っていた。

 

 おやっさんは目的地の座標を見たまま、しばらく黙っている。

 

「……懐かしいな。」

 

 ケンが目を瞬いた。

 

「来たことあるの?」

 

「昔な。」

 

 短く答える。

 

「まだガンダムを作ってた頃、この施設には何度か出入りしてた。」

 

 ノンも興味を示す。

 

「じゃあ、おやっさんが関わってた開発の施設?」

 

「全部がここでやってたわけじゃねぇ。」

 

 おやっさんは首を振った。

 

「研究も試験も、場所を分けてやってたからな。ここもその一つだ。」

 

「今は?」

 

「先の戦争が終わって、ガンダム開発が表向き凍結された頃には閉鎖されたはずだ。」

 

 グレアーも頷く。

 

「記録もそうなってやす。」

 

 スコルが眉を寄せる。

 

「じゃあ余計分かんねぇな。」

 

「何が?」

 

「なんでその廃棄施設に、あの配信者が住んでんだよ。」

 

「……それは。」

 

 ケンが端末を見る。

 

「本人に聞くしかないんじゃない?」

 

「一番嫌な答えだな。」

 

     ◇

 

 アルメア大陸北部の海岸線をさらに進む。

 

 やがて。

 

 @kiが言っていた通り、大きな岩壁が見えてきた。

 

 海から直接そそり立つような、灰色の断崖。

 

 一見すれば。

 

 ただの自然地形にしか見えない。

 

「ここ?」

 

 ケンが窓越しに見上げる。

 

「入口なんてないけど。」

 

「座標は合ってやす。」

 

 グレアーが答えた、その直後。

 

 ベルーガへ通信が入る。

 

『おーい! 聞こえとるー!?』

 

 聞き覚えのある声。

 

 ケンが思わず笑う。

 

「@ki!」

 

『やっと来たな! 待ちくたびれたで!』

 

「数日かかったんですよ!」

 

『しゃーないしゃーない! そのまま真っ直ぐ来てや!』

 

 グレアーが確認する。

 

「真っ直ぐって、岩壁にぶつかりやすよ?」

 

『大丈夫や!』

 

「その言葉、信用していいんでやすか?」

 

『ワテを何やと思っとる!』

 

 スコルが小声で呟く。

 

「そこが分かんねぇから聞いてんだよ。」

 

 もちろん通信の向こうには聞こえていない。

 

『今開けるで!』

 

 次の瞬間。

 

 岩壁の一部に、真っ直ぐな線が走った。

 

「……え?」

 

 ケンが身を乗り出す。

 

 自然の岩肌にしか見えなかった場所が、ゆっくりと左右へ分かれていく。

 

 その奥。

 

 巨大な空間。

 

 人工照明が順番に点灯し、海へ向かって長く伸びる進入路が姿を現した。

 

「でっか……。」

 

 ケンが呆然とする。

 

 ベルーガほどの大型艦でも余裕を持って通れる。

 

 そのさらに奥には、明らかに艦艇用として造られた巨大ドックが見えている。

 

 スコルが額を押さえた。

 

「これを“ベルーガ隠せる場所ある”の一言で済ませてたのかよ。」

 

『ある言うたやろ?』

 

「聞こえてたのか!?」

 

『通信繋がっとるからな!』

 

「クソ……。」

 

 グレアーは苦笑しながら、ベルーガをゆっくりと進入させる。

 

 外から見れば岩壁にしか見えない巨大な扉が、艦の後方で再び閉じていく。

 

 海から差し込んでいた光が消え。

 

 代わりに。

 

 古い施設の照明がベルーガの艦体を照らした。

 

 おやっさんは。

 

 ずっと黙っていた。

 

 巨大ドック。

 

 壁面に残る古い識別表示。

 

 かつて整備員や研究者達が行き交っていたであろう通路。

 

 時間が経ち。

 

 設備の多くが古びていても。

 

 記憶の中の形は残っている。

 

「……ほんとに残ってやがったか。」

 

 小さな呟き。

 

 ケンが横を見る。

 

 おやっさんの視線は。

 

 昔を見ているようだった。

 

     ◇

 

 ベルーガがドックへ完全に収まる。

 

 固定作業を終えた後。

 

 ケン、ノン、グレアー、おやっさん、ジーナ。

 

 そしてスコルが艦を降りた。

 

 人気のない巨大なドック。

 

 機械の低い駆動音だけが響く。

 

「広い……。」

 

 ケンは辺りを見回す。

 

 大型艦が収容出来る時点で分かってはいたが、実際に降りてみると規模の大きさを改めて感じる。

 

「こんな所一人で使ってるの?」

 

「まだ一人とは限らないでしょ。」

 

 ノンが言う。

 

「いや、でも――」

 

「おーーーーーい!!」

 

 遠くから。

 

 大声。

 

 全員がそちらを見る。

 

 一人の人物が、通路の向こうから走ってくる。

 

 映像越しに何度も見てきた。

 

 その姿。

 

「ケンケーーーン!」

 

「うわっ。」

 

 勢いのまま目の前まで来る。

 

「ほんまに来た!」

 

「いや呼んだのそっちでしょ!」

 

「そうやけど!」

 

 @kiはケンを見る。

 

 ノンを見る。

 

 そして。

 

 その向こう。

 

 ベルーガの格納庫方向へ視線を向けた。

 

 一瞬。

 

 目が輝く。

 

「で。」

 

「何?」

 

「ガンダムどこ?」

 

「最初にそれ!?」

 

「当たり前や!」

 

 @kiは当然のように言い切る。

 

「動画でしか見たことないんやぞ! 実物のガンダムやぞ!」

 

 ノンが呆れる。

 

「私達に会いたかったんじゃなかったの?」

 

「会いたかったで!」

 

 一拍。

 

「でもガンダムも見たい!」

 

「正直ね……。」

 

 スコルは少し離れたところから、その様子を見ていた。

 

「……想像以上にうるせぇな。」

 

 @kiが振り返る。

 

「ん? 誰や?」

 

「連邦軍のスコル。」

 

「あー!」

 

 ぽんと手を打つ。

 

「大気圏突入してた人!」

 

「その覚え方やめろ。」

 

「生きとったんやな!」

 

「動画見ただろ!」

 

「元気そうで何よりや!」

 

「人の話聞け!」

 

 ケンが笑う。

 

「スコル、@kiと相性いいんじゃない?」

 

「どこがだ!」

 

 騒がしいやり取りの中。

 

 おやっさんだけは。

 

 @kiをじっと見ていた。

 

 何か。

 

 引っ掛かっている。

 

 遠い昔。

 

 この施設へ来ていた頃。

 

 研究区画の通路を走り回っていた、小さな姿。

 

 だが。

 

 あまりにも昔だ。

 

 今目の前にいる@kiとは、すぐには繋がらない。

 

 そんなおやっさんの視線に気付いたのか。

 

 @kiが首を傾げる。

 

「ん?」

 

「……。」

 

「オッチャン、ウチの顔になんか付いとる?」

 

「いや。」

 

 おやっさんが眉を寄せる。

 

「どっかで見たような気がしてな。」

 

「ナンパ?」

 

「違ぇ!」

 

 ケンが吹き出す。

 

「おやっさんが@kiをナンパしてる。」

 

「坊主、黙ってろ!」

 

 @kiは楽しそうに笑う。

 

「でもオッチャン、ここ知っとる顔しとるな。」

 

「昔来たことがある。」

 

「へぇ。」

 

「ガンダム開発でな。」

 

 その言葉に。

 

 @kiの表情がほんの少し変わった。

 

 驚きというより。

 

 何か思い出したような。

 

「あー。」

 

「何だ?」

 

「ほな、じいちゃんのこと知っとる?」

 

「じいちゃん?」

 

「トミー=秋広。」

 

 おやっさんの目が大きく開いた。

 

「……トミー?」

 

 今度こそ。

 

 記憶が繋がる。

 

 おやっさんは@kiの顔を改めて見る。

 

 目元。

 

 表情。

 

 話し方は全く違う。

 

 だが。

 

「お前……。」

 

「ん?」

 

「まさか。」

 

 しばらく。

 

 そして。

 

「あの時のチビ助か!?」

 

「誰がチビ助や!」

 

 @kiが即座に怒鳴る。

 

 ケンとノンが同時に目を丸くした。

 

「えっ?」

 

「知り合いなの?」

 

「知り合いっつーほどじゃねぇ。」

 

 おやっさんは、まだ信じられないように@kiを見る。

 

「昔、この施設に来てた頃に何度か見ただけだ。」

 

「じゃあ……。」

 

 ケンが@kiを見る。

 

「@kiって昔からここにいたの?」

 

「まあな。」

 

 @kiはあっさり頷く。

 

 おやっさんが続ける。

 

「こいつは。」

 

 一拍。

 

「ガンダム開発主任、トミー=秋広の孫だ。」

 

「えぇ!?」

 

 ケンの声がドックへ響いた。

 

 ノンも驚いて@kiを見る。

 

「ガンダム開発主任の?」

 

「せやで。」

 

 @kiは特に隠す様子もなく頷いた。

 

「じいちゃんが昔ガンダム作っとった。」

 

「それ先に言ってよ!」

 

「聞かれてへんし。」

 

「いやいやいや!」

 

 ケンが思わず身を乗り出す。

 

「ガンダム開発主任の孫が、なんで配信者やってるの!?」

 

「暇やったから。」

 

「理由軽っ!」

 

「暇やったら配信くらいするやろ。」

 

「普通はしないと思う。」

 

 ノンが冷静に返す。

 

 スコルも頭を押さえた。

 

「大型艦隠せる廃研究施設に住んでる有名配信者が、元ガンダム開発主任の孫……。」

 

 少し間。

 

「情報量多すぎんだろ。」

 

「そう?」

 

「そうだよ!」

 

     ◇

 

「そういえば。」

 

 施設の奥へ案内されながら、ケンが@kiを見る。

 

「@kiって本名なの?」

 

「せやで。」

 

「絶対違うでしょ。」

 

「なんでや。」

 

「@kiって。」

 

「ええ名前やろ。」

 

「記号入ってるじゃん。」

 

「今時や!」

 

「今時なの?」

 

 ノンが小さく笑う。

 

「じゃあ昔から@ki?」

 

「……。」

 

 @kiが少し考える。

 

「たぶん。」

 

「たぶん?」

 

「昔のことなんか細かく覚えとらん。」

 

「自分の名前でしょ?」

 

「長いこと@kiで生きとるんやから、もう@kiでええやろ。」

 

「本名忘れたの?」

 

「忘れた!」

 

 胸を張る。

 

「なんで自信満々なのよ。」

 

 ノンが呆れる。

 

 おやっさんは。

 

 そのやり取りを少し後ろから聞いていた。

 

 何か言いかけ。

 

 結局、何も言わなかった。

 

     ◇

 

 施設は想像以上に広かった。

 

 ベルーガを収容した艦艇ドックだけではない。

 

 MS用の整備区画。

 

 研究室。

 

 倉庫。

 

 居住区。

 

 通信設備。

 

 閉鎖されて長い年月が経っているため、使えない場所も多い。

 

 それでも。

 

 @kiが生活するために手を入れた区画を中心に、最低限の機能は維持されていた。

 

「これ全部一人で管理してるの?」

 

 ノンが聞く。

 

「全部ちゃうで。」

 

 @kiが笑う。

 

「使っとるとこだけ。」

 

「残りは?」

 

「知らん!」

 

「知らないの!?」

 

「広すぎるんや!」

 

 @kiは悪びれもしない。

 

「昔の区画なんて何年も入っとらんとこあるで。」

 

 スコルが周囲を見る。

 

「よくこんな場所で平気で暮らせるな。」

 

「慣れや慣れ。」

 

「俺なら怖ぇよ。」

 

「軍人が何言うとんねん。」

 

「軍人でも怖いもんは怖ぇ。」

 

 グレアーは歩きながら設備を確認している。

 

「これならベルーガを置く場所には困らなそうでやすね。」

 

「好きに使ってええで。」

 

 @kiはあっさり言った。

 

「どうせ空いとるし。」

 

「本当にいいの?」

 

 ケンが聞く。

 

「ええよ。」

 

「そんな簡単に……。」

 

「じいちゃんからも好きに使え言われとるからな。」

 

 おやっさんの足が少し止まった。

 

「トミーが?」

 

「せや。」

 

 @kiは振り返らずに答える。

 

「ここもう連邦の施設ちゃうし。」

 

「……そうか。」

 

 おやっさんはそれ以上聞かなかった。

 

 ただ。

 

 古い通路を見渡す。

 

 昔。

 

 研究者。

 

 技術者。

 

 軍人。

 

 様々な人間がここを行き交っていた。

 

 ガンダムを作るため。

 

 新しいMSを作るため。

 

 そして。

 

 もっと別の研究も。

 

「……懐かしいな。」

 

 もう一度。

 

 今度は誰にも聞かせるつもりのない、小さな声だった。

 

     ◇

 

 そして。

 

 一行がベルーガへ戻る途中。

 

 @kiは当然のように格納庫までついてきた。

 

「で!」

 

「何?」

 

 ケンが嫌な予感と共に振り返る。

 

「ガンダム!」

 

「やっぱりそれか。」

 

「当たり前やろ!」

 

 格納庫の扉が開く。

 

 固定アームに支えられたガンダムダウト。

 

 大気圏突入で焼けた外装。

 

 応急処置の跡。

 

 動画で見るよりも、遥かに痛々しい姿。

 

 それでも。

 

 @kiは。

 

 しばらく何も言わなかった。

 

「……。」

 

 ケンが横を見る。

 

 さっきまで騒がしかったのが嘘のように。

 

 静かに。

 

 ダウトを見上げている。

 

「どうしたの?」

 

「いや。」

 

 @kiは少しだけ笑った。

 

「実物、やっぱ全然ちゃうなって。」

 

「動画と?」

 

「せや。」

 

 一歩近付く。

 

「大気圏突入でだいぶ焼けとるけど……。」

 

 装甲。

 

 関節。

 

 応急処置された箇所。

 

 その奥。

 

 フレーム。

 

 視線が細かく動いていく。

 

「今の外装、元の設計ちゃうやろ。」

 

「……え?」

 

 ケンが止まる。

 

 おやっさんの表情も変わった。

 

「分かるのか?」

 

「分かるで。」

 

 @kiは当たり前のように答える。

 

「フレームに合わせて後から組んどるやん。外装の設計思想と中身が全然合っとらん。」

 

「……。」

 

 おやっさんがじっと見る。

 

「お前、どこまで覚えてやがる。」

 

「何が?」

 

「いや。」

 

 おやっさんは首を振る。

 

「なんでもねぇ。」

 

 @kiは気にする様子もなく。

 

 すぐにまたダウトを見る。

 

「なあケンケン。」

 

「何?」

 

「もっと近くで見てええ?」

 

「まあ、それくらいなら。」

 

「触ってええ?」

 

「場所による。」

 

「コックピット開けてええ?」

 

「ダメ。」

 

「ケチ!」

 

「なんでだよ!」

 

「ええやんちょっとくらい!」

 

「ちょっとで済まないでしょ!」

 

 ノンが呆れる。

 

「あなた、本当にガンダム好きなのね。」

 

「そら好きや!」

 

 @kiは笑う。

 

「こんなん目の前にあって興味持たん方がおかしいやろ!」

 

 その顔に。

 

 特別な執着はなかった。

 

 自分のものを見るような目でも。

 

 失った何かを見るような目でもない。

 

 ただ。

 

 面白いものを見つけた子供のように。

 

 今そこにあるガンダムダウトへ、純粋な興味を向けている。

 

 ケンは少し笑った。

 

「じゃあ後で見せるよ。」

 

「ほんま!?」

 

「壊さないなら。」

 

「ワテを信用しろ!」

 

「それ言われると不安になるな……。」

 

     ◇

 

 ひと通り施設を見終え。

 

 ベルーガの停泊場所も決まった。

 

 当面の補給。

 

 ダウトの本格的な修理。

 

 そして地球での活動。

 

 全てを考えても。

 

 ここ以上に都合のいい場所はなかった。

 

 ノンが改めて@kiを見る。

 

「本当に、ここを使わせてもらっていいの?」

 

「ええって。」

 

「しばらくになるかもしれないわよ。」

 

「問題ない問題ない。」

 

 @kiは軽く手を振る。

 

「広すぎて余っとるし。」

 

「助かる。」

 

 ケンが頭を下げる。

 

「ありがとう。」

 

「その代わり。」

 

「え?」

 

 @kiがにやりと笑う。

 

「コラボな。」

 

「あ。」

 

「忘れとったんか!」

 

「忘れてないよ!」

 

「ほな何やる?」

 

「え?」

 

「コラボ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

 ケンとノンが顔を見合わせる。

 

「@kiが誘ったんじゃないの?」

 

 ノンが聞く。

 

「せやで。」

 

「内容決めてなかったの?」

 

「会ってから考えよう思っとった!」

 

「何も決めてないの!?」

 

「細かいこと気にしたら配信者やってられへん!」

 

「いや、そこは決めようよ!」

 

 @kiは笑う。

 

「ええやんええやん!」

 

「せっかく地球まで来たんや。」

 

「面白いことしようや!」

 

 ケンは。

 

 少し呆れながら。

 

 それでも笑った。

 

 地球へ降り。

 

 連邦兵のスコルと出会い。

 

 大西洋を渡り。

 

 ようやく辿り着いた、新しい場所。

 

 かつてガンダムが研究されていた施設。

 

 そこに暮らす。

 

 ガンダム開発主任の孫を名乗る、一人の配信者。

 

 こうして。

 

 ケン達の地球での拠点と。

 

 次の配信相手が。

 

 同時に決まった。

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