機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第53話「コラボで戦闘で成長」

ベルーガがアルメア大陸北部の旧研究施設へ収容されてから、一夜が明けた。

 

 長い間使われていなかった地下ドックには、久しぶりに整備用機械の駆動音が響いている。

 

 その中心。

 

 固定アームに支えられたガンダムダウトの足元では、おやっさん達が朝から作業を続けていた。

 

 大気圏突入で焼かれた外装には、まだ黒く変色した部分が残っている。ところどころ応急材で塞がれ、以前よりもさらに継ぎ接ぎめいた姿になっていた。

 

 それでも。

 

 動く。

 

 戦える。

 

 完全ではないにしろ、おやっさんの応急処置によって、少なくともMSとして最低限の機能は取り戻していた。

 

「うーん。」

 

 そんなダウトを。

 

 @kiは少し離れた場所から腕を組み、何やら真剣な顔で眺めていた。

 

 さっきからずっと。

 

 右へ移動して見る。

 

 左へ回る。

 

 少し離れる。

 

 また近付く。

 

「……何してるの?」

 

 ケンが声を掛けると、@kiはダウトを見上げたまま答えた。

 

「考えとる。」

 

「何を?」

 

「これ。」

 

 ダウトを指差す。

 

「ちゃんと直せんかなーって。」

 

「え?」

 

 ケンが目を瞬いた。

 

「直せるの?」

 

「たぶん。」

 

「たぶん!?」

 

「なんや、その顔。」

 

「いや、もっと自信満々に言うのかと思ったから。」

 

「無茶言うなや。実物見たん昨日が初めてやぞ。」

 

「それはそうだけど。」

 

 @kiは気にした様子もなく、ダウトへ近付いていく。

 

「でもな。」

 

 焼けた外装へ直接触れないよう、僅かに手を浮かせる。

 

「ここ、昔はガンダムの研究もやっとった施設やろ?」

 

「あぁ。」

 

 近くで工具を整理していたおやっさんが答えた。

 

「データがどこまで残ってるかは知らねぇけどな。」

 

「そこや。」

 

 @kiが振り返る。

 

「施設の古いサーバー、死んどるのも多いけど、生きとる区画もまだ結構あんねん。」

 

「ガンダムのデータも?」

 

「多分な。」

 

 ケンが嫌そうな顔になる。

 

「また多分……。」

 

「昔の研究データなんて、全部整理されてると思う方がおかしいやろ。」

 

 そこは妙に現実的だった。

 

 @kiは再びダウトを見る。

 

「せやから、残っとるデータと今のダウトの状態を比較していけば、使えるもんあるかもしれへん。」

 

「部品まで残ってる?」

 

「それも探す。」

 

「探すところからなの?」

 

「広いねん、ここ。」

 

 胸を張ることではない。

 

 ノンが横で小さく溜息をついた。

 

「あなた、本当にこの施設の全部を把握してないのね。」

 

「使わんとこまで全部覚える必要ないやろ。」

 

「自分の家でしょ?」

 

「広すぎる家なんや!」

 

「家って規模じゃねぇだろ。」

 

 スコルまで呆れている。

 

 おやっさんはそんな三人の会話を聞きながら、ダウトの脚部から降りてきた。

 

「まあ、データが残ってんなら助かる。」

 

「やろ?」

 

「こっちにもベルーガへ積んでるデータはあるが、今のダウトは元の設計から外装も装備もだいぶ変わってる。使える情報は多い方がいい。」

 

「ほな決まりや!」

 

 @kiが両手を叩く。

 

「ガンダム直そ!」

 

「おお!」

 

 ケンの顔が明るくなる。

 

 だが。

 

 @kiはすぐに人差し指を立てた。

 

「その前に一個頼みあるんやけどな。」

 

「……何?」

 

 途端にケンの声が警戒気味になる。

 

「なんでそんな嫌そうな顔すんねん。」

 

「@kiが頼みって言うと嫌な予感する。」

 

「失礼やな!」

 

「昨日から見てたら何となく。」

 

「まだ一日しか一緒におらんやろ!」

 

「一日で分かるくらいってことでしょ。」

 

 ノンの一言に、@kiが言葉を詰まらせる。

 

「……赤ずきん、言うようになったな。」

 

「それで頼みって?」

 

「おう。」

 

 @kiは気を取り直した。

 

「ここから少し離れたとこに廃村があんねん。」

 

「廃村?」

 

「人がおらんようになって、だいぶ経っとる村や。そこにな、不法滞在の荒くれ者が入り込んどる。」

 

 スコルの表情が少し真面目になる。

 

「武装してんのか?」

 

「しとる。」

 

「どの程度。」

 

「MS何機か。」

 

「最初にそれ言え。」

 

「言ったやろ、今。」

 

「順番の話だよ!」

 

 スコルが頭を抱える。

 

 @kiは悪びれもしない。

 

「最近あいつら、近くの施設とか倉庫漁っとんねん。こっちの周りまで来るようになって、ワッチもちょっと困っとってな。」

 

「連邦軍に言えば?」

 

 ケンが聞く。

 

「こんな施設に住んどるワテが、連邦軍呼んでどないすんねん。」

 

「……確かに。」

 

「それに、あの辺は今あんまり軍も来ぇへん。追い払ってもらうだけでええんや。」

 

 そして。

 

 @kiの口元がにやりと上がった。

 

「ちょうどええやん。」

 

「何が?」

 

「初コラボ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

 ケンとノンが顔を見合わせる。

 

 嫌な予感が、当たった。

 

「コラボ配信で、あいつら追い出そ!」

 

「それコラボなの!?」

 

「ガンダム出るやん!」

 

「基準そこ!?」

 

「ええやろ! 地球来ていきなり実戦コラボ! 数字取れるで!」

 

「数字の話しないでよ!」

 

 ノンが額を押さえる。

 

「それに、相手MS持ってるんでしょ?」

 

「せや。」

 

「危ないじゃない。」

 

「大丈夫や。」

 

 @kiは自信満々に胸を張った。

 

「ワテも出る。」

 

 スコルが眉をひそめる。

 

「お前、MS乗れんのか?」

 

 @kiが止まった。

 

 ゆっくりと振り返る。

 

「……今。」

 

「何だよ。」

 

「聞いたな?」

 

「何を。」

 

「ワテのMSを。」

 

「いや、そこまで――」

 

「ついてこい!」

 

 @kiは急に走り出した。

 

「ちょ、どこ行くの!?」

 

「見せたる!」

 

「話聞けって!」

 

     ◇

 

 連れて行かれたのは、施設のさらに奥だった。

 

 ベルーガを収容している大型ドックとは別。

 

 古い研究用格納区画。

 

 長い間使われていなかったのか、通路の照明には所々消えているものもあり、壁にはかつて使われていた識別番号が薄く残っていた。

 

 おやっさんは歩きながら、何度も周囲へ視線を向けていた。

 

「ここも残ってたのか……。」

 

「知ってるの?」

 

 ケンが聞く。

 

「昔の試作機格納区画だ。」

 

「試作機?」

 

「あぁ。全部がガンダムだったわけじゃねぇ。新型機の試験なんかもここでやってた。」

 

 その言葉に、スコルも興味を示す。

 

「それを今あいつが使ってんのか。」

 

「知らねぇよ。」

 

「おやっさんも知らないの?」

 

「俺がここにいたの何年前だと思ってやがる。」

 

 その先で。

 

 @kiが巨大なシャッターの前に立ち止まった。

 

「見て驚くなよ。」

 

「その前振りで驚かなかったらどうするの?」

 

 ノンが冷静に聞く。

 

「驚くまで説明する。」

 

「面倒ね。」

 

「赤ずきん厳しいな!」

 

 @kiは端末を操作する。

 

 低い警告音。

 

 続いて。

 

 巨大な隔壁が左右へゆっくりと開き始めた。

 

 暗かった格納庫内部に、天井照明が一本ずつ点灯していく。

 

 その光が。

 

 一機のMSを。

 

 足元から徐々に照らし出していった。

 

「……。」

 

 最初に見えたのは。

 

 脚。

 

 太い。

 

 とにかく太い。

 

 通常のMSとは比較にならないほど分厚い脚部装甲に、大型のスラスター。

 

 腰周りにも追加装甲。

 

 胴体は何層にも装甲を重ねたような構造で、その上からさらに武装ユニットが取り付けられている。

 

 肩には大型砲。

 

 背部にも複数の武装。

 

 腕も脚も、装甲というより何かを上から上から重ね続けたような姿。

 

 機体色は濃い緑を基調とした迷彩。

 

 洗練。

 

 軽量。

 

 機動性。

 

 そうした言葉とは、真逆の方向へ全力で突き進んだ機体だった。

 

 全員。

 

 黙った。

 

 ケンが見上げる。

 

「……デカっ。」

 

 ノンも目を丸くする。

 

「うわぁ……何これ?」

 

「やり過ぎだろ、これは……。」

 

 スコルが心底呆れた声を出す。

 

 最後。

 

 おやっさんが額に手を当てた。

 

「なんてもん作りやがったんだ……。」

 

 一同が口をあんぐりと開けたまま。

 

 巨大なMSを見上げる。

 

 その反応を待っていたかのように。

 

 @kiが一歩前へ出た。

 

 両腕を広げる。

 

「ウチの最強のMS!」

 

 そして。

 

「その名も――GKC!」

 

 胸を張った。

 

「ガンダムを倒すための、ガンダムを超えるMS!」

 

 さらに大きく息を吸い。

 

「ガンダムキラーキャノンや!」

 

 沈黙。

 

「どや!」

 

 沈黙。

 

「デーハーでカッコええやろ!」

 

 まだ沈黙。

 

「どやどや!?」

 

 ノンが首を傾げた。

 

「GKC?」

 

「せや!」

 

「卵かけご飯みたいね?」

 

 一瞬。

 

 @kiの顔が固まった。

 

「アホー!」

 

 格納庫に声が響く。

 

「GKCや! GKC!」

 

「TKGちゃうわ!」

 

 数秒。

 

 ケンが堪え切れず吹き出した。

 

 スコルも顔を背ける。

 

 おやっさんまで肩を震わせている。

 

「笑うなぁ!」

 

「いやだって!」

 

「どこが卵かけご飯やねん!」

 

「三文字だからじゃない?」

 

「三文字全部卵かけご飯になるんか!?」

 

 ノン自身まで笑っていた。

 

 ひとしきり笑いが収まったところで。

 

 おやっさんが改めてGKCを見上げる。

 

「……まあ。」

 

「なんや。」

 

「見た目はともかく、火力は洒落になってねぇな。」

 

 @kiの顔が一瞬で輝く。

 

「やろ!?」

 

「ただし。」

 

「なんや。」

 

「重すぎる。」

 

「……。」

 

「この装甲量にこの武装。何考えて全部積んだ。」

 

「選べんかった。」

 

「選べ。」

 

「全部欲しかったんや!」

 

「子供か!」

 

「ロマンや!」

 

 ケンが横から聞く。

 

「動くの?」

 

 @kiが胸を張る。

 

「当然や!」

 

「速い?」

 

「……。」

 

「ねぇ、速い?」

 

「火力はある!」

 

「聞いてるのそこじゃない!」

 

     ◇

 

 初コラボ配信は。

 

 思っていたものとは、かなり違う形で始まった。

 

 ケンケン。

 

 赤ずきん。

 

 そして@ki。

 

 三人がカメラへ並ぶ。

 

 背景には、施設の場所を特定されないよう無地の壁と簡易セットだけを使っていた。

 

「はい! どうも〜! ケンケンです!」

 

「赤ずきんです。」

 

「そしてぇ!」

 

 @kiが割り込む。

 

「待たせたなぁ! @kiショーちゃんネルから@kiや!」

 

 コメント欄が一気に流れ始めた。

 

『本当にコラボした!』

 

『地球来てすぐじゃん』

 

『ガンダムは!?』

 

『大気圏突入の連邦兵もいるの?』

 

『何やるんだ?』

 

 @kiが画面へ指を突き出す。

 

「今日はな!」

 

 ケンが若干嫌そうな顔をする。

 

「近くの廃村を勝手に縄張りにしてる武装集団を――」

 

「ちょっと!」

 

 ノンが止める。

 

「言い方!」

 

「え?」

 

「もっとちゃんと説明して。」

 

「赤ずきん真面目やなぁ。」

 

「あなたが雑なのよ。」

 

 結局。

 

 近隣の無人地域を不法占拠している武装集団が、周辺施設への侵入や物資の持ち出しを繰り返していること。

 

 そしてMSまで保有しているため、今回はそれを追い払うこと。

 

 出来るだけ相手を傷つけずに終わらせること。

 

 その辺りをノンが補足した。

 

「ということで。」

 

 ケンが少し苦笑する。

 

「地球で最初のコラボが、まさかMS戦になるとは思ってませんでした。」

 

「ええやん!」

 

 @kiは楽しそうだった。

 

「派手にいこうや!」

 

「派手にしなくていいから。」

 

「ケンケン、ガンダムやで?」

 

「だから何?」

 

「ガンダム出して地味に済むわけないやろ!」

 

「俺は地味に済ませたいんだよ!」

 

 コメント欄に笑いが流れる。

 

 ノンは少し呆れながらも、最後にカメラへ向き直った。

 

「私は施設側から配信と通信を見ています。」

 

「無理はしないで。」

 

「分かってる。」

 

 ケンが頷く。

 

 その横。

 

 @kiも。

 

「分かっとる分かっとる。」

 

 軽く手を振る。

 

「あなたには言ってない。」

 

「なんでや!」

 

     ◇

 

 施設の外へ出たダウトが、緩やかな草地を進んでいく。

 

 大気圏突入の傷跡はまだ生々しい。

 

 だが。

 

 おやっさんの応急処置のおかげで歩行にも大きな問題はない。

 

 サブマシンガン。

 

 ヒートカトラス。

 

 右腕のワイヤーアンカー。

 

 戦闘に必要な装備も使用可能。

 

 そして。

 

 その横には。

 

 黒いMS。

 

 偽装で黒くペイントされたブルーガ。

 

 スコルがベルーガの予備機を借りて出撃していた。

 

『やっぱ自分の機体じゃねぇと微妙に感覚違うな。』

 

「同じブルーガなんでしょ?」

 

『個体差ってもんがあんだよ。』

 

「そういうもの?」

 

『そういうもんだ。』

 

 さらに。

 

 後方。

 

 地面が微かに揺れる。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 かなり離れた位置から。

 

 巨大なGKCが歩いてくる。

 

『待っとれー!』

 

 @kiの声が通信に飛び込んでくる。

 

『すぐ追いつくからなー!』

 

 ケンが後方モニターを見る。

 

「全然追いついてないじゃん。」

 

『これからや!』

 

 スコルが呆れた声を出す。

 

『だから言っただろ。重すぎんだよ、その機体。』

 

『火力と装甲の代償や!』

 

『代償デカすぎだろ!』

 

『ロマンに効率求めんな!』

 

「じゃあ俺達先行する?」

 

『おう。』

 

 スコルは迷わなかった。

 

『あれ待ってたら日が暮れる。』

 

『聞こえとるぞ!』

 

「じゃあ@ki、後から来て。」

 

『主役置いてくな!』

 

 通信越しの叫びを置き去りに。

 

 ダウトとブルーガは速度を上げた。

 

     ◇

 

 廃村が見えてきた。

 

 かつては小さな集落だったのだろう。

 

 低い建物が並び。

 

 道路には雑草が生え。

 

 窓の割れた住宅。

 

 傾いた標識。

 

 放棄された車両。

 

 人が暮らさなくなって長いことが分かる。

 

 ただ。

 

 今は。

 

 別の住人がいた。

 

『来るぞ。』

 

 スコルの声が低くなる。

 

 ケンも操縦桿を握り直す。

 

 建物の影。

 

 一機。

 

 続いて二機。

 

 三機。

 

 さらに奥から二機。

 

「五機……。」

 

 ケンが呟く。

 

 現れたMSには見覚えがあった。

 

「グラディウス。」

 

『知ってんのか?』

 

「闇試合で何度も見た。」

 

 前大戦時。

 

 コロニー国家連合軍が主力量産機として配備していたMS。

 

 現在はソリダスへその座を譲り。

 

 旧式となった機体の一部は払い下げられ、傭兵や犯罪組織へ流れている。

 

 そのため。

 

 闇試合でも珍しくない。

 

『旧式とはいえ、油断すんなよ。』

 

「分かってる。」

 

 相手側から警告通信が入る。

 

『何だテメェら!』

 

『ここは俺達の場所だ!』

 

『失せろ!』

 

 ケンが通信を返す。

 

「ここ、元々あなた達の場所じゃないですよね?」

 

『うるせぇ!』

 

「近くの施設に入ったり、物資取ったりするのもやめてください!」

 

『知るか!』

 

 直後。

 

 グラディウスの一機がライフルを構えた。

 

『来るぞ!』

 

「っ!」

 

 ダウトとブルーガが左右へ散る。

 

 銃弾が地面を抉る。

 

 そこから。

 

 戦闘が始まった。

 

     ◇

 

「当たるなよ!」

 

 ケンはサブマシンガンを構え。

 

 引き金を引いた。

 

 連射。

 

 だが。

 

 照準は敵機から僅かに外している。

 

 グラディウスの横。

 

 前。

 

 足元。

 

 土煙だけが上がる。

 

 相手が一瞬怯む。

 

 それでいい。

 

 近付けない。

 

 追い返せれば。

 

 そう思った。

 

 だが。

 

『ケン!』

 

 スコルの声。

 

「え?」

 

『前!』

 

 土煙の向こうから。

 

 グラディウスが飛び出した。

 

「うわっ!」

 

 ケンが慌てて機体を下がらせる。

 

 もう一機。

 

 別方向から接近。

 

 ケンが再び射撃。

 

 また外す。

 

 すると。

 

 敵は止まらなかった。

 

「なんで!?」

 

『当たり前だ!』

 

 ブルーガが横から割って入る。

 

 スコルの射撃。

 

 グラディウスが腕を引き、進路を変える。

 

『当てる気がねぇのが読まれてんだよ、クソガキ!』

 

「でも!」

 

『最初から外してりゃ怖くもなんともねぇ!』

 

 スコルが敵機の進路を塞ぐようにブルーガを動かす。

 

『もっと足狙うとか、武器落とすとか、やりようあんだろ!』

 

「それは……。」

 

 ケンの手が止まる。

 

 敵の脚へ。

 

 武器へ。

 

 当てる。

 

 それは。

 

 今までのように外すのとは違う。

 

 間違えれば。

 

 少し照準がずれれば。

 

 コックピットへ。

 

 推進器へ。

 

 もし。

 

「……殺してしまったらって。」

 

『あ?』

 

「怖いんだよ。」

 

 操縦桿を握る手に。

 

 僅かな震えが走る。

 

「当てようとして……もし失敗したら。」

 

「俺が撃ったせいで誰か死んだらって……。」

 

 通信の向こう。

 

 スコルが黙った。

 

 ほんの少し前まで。

 

 彼にとって。

 

 敵を狙って撃つことは、戦闘なら当然のことだった。

 

 訓練を受けた。

 

 軍人になった。

 

 どう撃てば機体を止められるのか。

 

 どこへ撃てば致命傷になるのか。

 

 それを知るのも仕事だった。

 

 だが。

 

 ケンは違う。

 

『……そういや。』

 

 スコルが小さく呟く。

 

『テメェ、民間人だったな。』

 

「……。」

 

『悪ぃ。』

 

「え?」

 

『俺らと同じ感覚で言っちまった。』

 

 グラディウスの射撃を避けながら。

 

 スコルは続ける。

 

『でもよ。』

 

 声が。

 

 少し変わった。

 

『いつまでもその戦い方じゃ、いつかお前が死ぬぞ、ケン。』

 

「スコル……。」

 

『さんを付けろ!』

 

「そこ今言う!?」

 

『言う!』

 

 一瞬。

 

 ケンの緊張が僅かに抜けた。

 

 スコルはすぐ真面目な声へ戻る。

 

『実際、隊長にもバレてただろ。』

 

「……うん。」

 

 ノクトとの戦闘。

 

 当てる気のない射撃。

 

 すぐに見抜かれ。

 

 一気に距離を詰められた。

 

『殺さない戦いなんてな。エースの中のエースでも簡単に出来るもんじゃねぇ。』

 

 ブルーガのモニター越し。

 

 スコルがケンを見る。

 

『でもガンダムでなんとかするって決めたんなら。』

 

 一拍。

 

『覚悟決めろ。』

 

「……。」

 

『殺さないために撃て。』

 

 その言葉に。

 

 ケンの目が僅かに動く。

 

「殺さないために……撃つ。」

 

『そうだ。』

 

「どうしたらいいの?」

 

『まずはさん付けろ。』

 

「スコル……。」

 

『お前わざとだろ!』

 

 ケンの口元に僅かな笑みが浮かぶ。

 

『いいから聞け!』

 

「うん。」

 

『最初は膝から下だ。』

 

「膝から下?」

 

『そうだ。』

 

 スコルが素早く説明する。

 

『脚を壊しゃ動きは止まる。まずそこを狙え。』

 

『ただしスラスター付近は避けろ。推進剤やら何やらに当てりゃ誘爆する可能性がある。』

 

「……分かった。」

 

『外すんじゃねぇぞ。』

 

 スコルの声が強くなる。

 

『当てる場所を選べ。』

 

 ケンは息を吸った。

 

 そして。

 

 サブマシンガンを構える。

 

 迫ってくるグラディウス。

 

 照準。

 

 いつもなら。

 

 ここで横へずらしていた。

 

 でも。

 

 今度は。

 

 脚。

 

 膝。

 

 さらに下。

 

「……。」

 

 震える指。

 

 トリガー。

 

 引く。

 

 ダダダダダッ!

 

 小気味よい連射音。

 

 弾丸が地面へ突き刺さり。

 

 グラディウスの足元で土が爆ぜた。

 

「外した!」

 

『落ち着いて狙え、バカ!』

 

 スコルの声が飛ぶ。

 

『でも足は止まった!』

 

 土煙を前に。

 

 敵機が一瞬動きを鈍らせている。

 

『そのままもう一回だ!』

 

「分かった!」

 

 照準。

 

 今度は。

 

 慌てない。

 

 膝から下。

 

「当たれ!」

 

 トリガー。

 

 連射。

 

 今度は。

 

 銃弾がグラディウスの膝を叩いた。

 

 装甲が砕ける。

 

 さらに脛。

 

 関節。

 

 片脚が耐え切れず折れる。

 

 支柱を失った機体は前へ大きく傾き。

 

 そのまま。

 

 地面へ倒れ込んだ。

 

「……!」

 

 コックピット。

 

 無傷。

 

 機体は動かない。

 

「やった!」

 

 ケンが思わず拳を上げる。

 

「やったよ! スコル!」

 

『バカ野郎! 戦闘中に気ぃ抜くな!』

 

「え?」

 

『次来るぞ!』

 

 警告。

 

 ケンが前を見る。

 

 二機目。

 

 ヒートソードを構えたグラディウスが、真っ直ぐこちらへ迫ってくる。

 

『次は近接だ!』

 

 スコルが素早く指示を出す。

 

『近付かれる前に足止めろ!』

 

「うん!」

 

 ダウトがサブマシンガンを構える。

 

 今度は。

 

 最初から脚へ。

 

 引き金。

 

 連射。

 

 一発。

 

 二発。

 

 装甲へ当たる。

 

 敵機が姿勢を崩し。

 

 片膝をついた。

 

『今だ!』

 

「え?」

 

『カトラス抜け!』

 

 ケンはサブマシンガンを下げ。

 

 ヒートカトラスを抜く。

 

『武器持ってる手首だけ落とせ!』

 

「分かった!」

 

 ダウトが地面を蹴る。

 

 一気に距離を詰める。

 

 グラディウスがヒートソードを振り上げる。

 

 だが。

 

 遅い。

 

 赤熱するヒートカトラスが。

 

 その手首だけを横一文字に切り裂いた。

 

 切断された手とヒートソードが地面へ落ちる。

 

 コックピットには。

 

 触れていない。

 

「出来た!」

 

『そのまま離れろ!』

 

 ダウトがすぐに後退。

 

 武器を失い。

 

 脚も損傷したグラディウスは追ってこない。

 

「……出来た。」

 

 ケンは自分の手を見る。

 

 震えは。

 

 まだ少し残っている。

 

 でも。

 

 さっきとは違う。

 

 撃った。

 

 当てた。

 

 斬った。

 

 それでも。

 

 殺していない。

 

『上出来なんじゃねぇか。』

 

 スコルの声。

 

「本当?」

 

『あぁ。』

 

 少しだけ。

 

 笑っているようにも聞こえた。

 

『スラスター系にさえ当てなきゃ、そうそう誘爆もしねぇ。』

 

『脚。関節。武器。』

 

『そこ狙って無力化していけば、今までみてぇに全部外すよりはマシになる。』

 

「……うん。」

 

『ただし絶対じゃねぇぞ。戦闘なんだから事故はある。』

 

「分かってる。」

 

『だったらいい。』

 

 ケンは再び前を見る。

 

 まだ三機。

 

 スコルがブルーガを前へ出す。

 

『二機は俺がやる。』

 

「じゃあ俺は?」

 

『残り一機。』

 

「分かった。」

 

『今度は自分で考えろ。』

 

「……うん。」

 

     ◇

 

 スコルが先に動いた。

 

 ブルーガが横へ滑るように移動しながら、短く射撃。

 

 無駄撃ちはない。

 

 一機目のライフルを持つ腕。

 

 関節部分。

 

 そこへ正確に弾を叩き込み、武器を落とす。

 

 続いて脚。

 

 膝。

 

 動きを止める。

 

 もう一機が横から狙う。

 

 スコルは機体を沈ませて避けると、そのまま反撃。

 

 こちらも。

 

 撃墜ではない。

 

 戦闘能力だけを奪っていく。

 

「……すごい。」

 

 ケンが一瞬見惚れる。

 

 だが。

 

 すぐに。

 

 自分の敵へ意識を戻した。

 

 最後の一機。

 

 グラディウスがライフルを構えている。

 

「……まず脚。」

 

 ケンは小さく呟いた。

 

「動きを止める。」

 

 サブマシンガンを構える。

 

 敵も撃つ。

 

 ダウトが横へ動く。

 

 避ける。

 

 照準。

 

 膝下。

 

「……ここ!」

 

 射撃。

 

 命中。

 

 グラディウスの片脚が弾かれる。

 

 まだ倒れない。

 

「じゃあ。」

 

 次。

 

 武器。

 

 ライフルを持つ手。

 

 連射。

 

 一発は外れる。

 

 だが。

 

 二発目。

 

 銃身へ命中。

 

 ライフルが弾き飛ばされる。

 

 グラディウスが後退。

 

「いける。」

 

 ケンの手に。

 

 少しずつ。

 

 感覚が残っていく。

 

 アシストモードではない。

 

 ダウトに任せているわけでもない。

 

 自分が。

 

 考え。

 

 狙い。

 

 動かしている。

 

 最後。

 

 脚へもう一度。

 

 銃撃。

 

 関節が砕け。

 

 グラディウスがその場に崩れ落ちた。

 

「……止めた。」

 

 ケンは息を吐く。

 

 周囲を見る。

 

 五機。

 

 全て。

 

 動きを止めている。

 

 撃墜なし。

 

 コックピットへの直撃なし。

 

『……まあ。』

 

 スコルが通信を入れる。

 

『初めてにしちゃ悪くねぇ。』

 

「ありがとう!」

 

『調子乗んなよ。』

 

「乗ってないよ。」

 

『どうだかな。』

 

 それでも。

 

 ケンは笑っていた。

 

 怖さが消えたわけではない。

 

 撃つ瞬間。

 

 まだ手は震えた。

 

 これからだって。

 

 間違えるかもしれない。

 

 でも。

 

 殺したくないから。

 

 撃たない。

 

 ではなく。

 

 殺したくないからこそ。

 

 どこを撃つのか考える。

 

 初めて。

 

 その意味が。

 

 少しだけ分かった気がした。

 

     ◇

 

 その時。

 

 遠くから。

 

 地面が揺れた。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

「……何?」

 

 ケンが振り返る。

 

 スコルも同じ方向を見る。

 

 建物の向こう。

 

 ゆっくり。

 

 巨大な影が姿を現した。

 

『おーい!』

 

 聞き覚えのある声。

 

『待たせたなぁ!』

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 GKC。

 

 大量の装甲。

 

 大量の武器。

 

 大量の重量。

 

 全てを引きずるように。

 

 ようやく。

 

 戦場へ到着した。

 

『真打ち登場やぁぁぁ!!』

 

 スコルが。

 

 周囲に倒れている五機のグラディウスを見る。

 

 そして。

 

 GKCを見る。

 

 一拍。

 

『……もう終わったぞ。』

 

 沈黙。

 

『……は?』

 

 @kiの声が。

 

 小さくなる。

 

 ケンも苦笑する。

 

「@kiが遅すぎるんだよ。」

 

『いや待て!』

 

「そのMS重すぎて、まともに進んでないじゃん。」

 

『ちゃ、ちゃう!』

 

「何が?」

 

『これはな! 圧倒的火力と防御力のために――』

 

「遅いのは一緒じゃん。」

 

『ケンケン!』

 

「何?」

 

『言ってええことと悪いことあるぞ!』

 

「事実じゃん!」

 

 GKCが止まる。

 

 そして。

 

 しばらく。

 

 何も聞こえなくなった。

 

「@ki?」

 

 返事がない。

 

「どうしたの?」

 

 次の瞬間。

 

『そ……。』

 

「え?」

 

『そんな……。』

 

 声が震える。

 

『ワイの見せ場が……。』

 

 スコルが額を押さえる。

 

『始まったぞ。』

 

『GKCの……。』

 

 @kiの声が次第に大きくなる。

 

『華やかなデビュー戦がぁぁぁぁ!』

 

「だから遅いんだって。」

 

『そんなんないでぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 @kiの絶叫が。

 

 静かな廃村一帯へ響き渡った。

 

 戦闘は終わっている。

 

 GKCは。

 

 一発も撃っていない。

 

 初コラボ。

 

 初出撃。

 

 そして。

 

 華々しいデビュー戦になるはずだったその日。

 

 @kiの最強MSは。

 

 戦場へ辿り着いただけで。

 

 その役目を終えた。

 

 ただ。

 

 その横で。

 

 ケンはもう一度。

 

 自分の手を見つめていた。

 

 怖さは。

 

 まだある。

 

 それでも。

 

 自分の意思で撃ち。

 

 自分の意思で相手を止めることが出来た。

 

 アシストモードに任せるのではなく。

 

 ガンダムダウトを。

 

 自分自身で。

 

 少しだけ。

 

 扱えるようになった気がしていた。




GKC

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ブルーガ(ベルーガ配備)

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