機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
戦闘の終わった廃村に、@kiの絶叫だけがいつまでも響いていた。
『ワイの見せ場がぁぁぁぁぁ! GKCの華やかなデビュー戦がぁぁぁぁ!』
五機のグラディウスはすでに全機が戦闘能力を失い、古びた建物の間で動きを止めている。その向こうでは、ようやく辿り着いたGKCが大量の装甲と武装を背負ったまま、何とも言えない姿で立ち尽くしていた。
あれだけ巨大な砲を積み、見た目だけならこの場で一番物騒な機体なのに、一発も撃っていない。
「だから@kiが遅いんだって。」
『しゃあないやろ! GKC重いねん!』
『自分であれだけ装甲と武器積んだんだろ。』
ブルーガのコックピットから、スコルの呆れた声が飛んでくる。
『どっちも削れんかったんや! 火力も装甲も大事やろ!』
「その結果、着いた時には終わってたじゃん。」
『ケンケンまで言うな!』
ケンは思わず笑ったが、操縦桿を握った手にはまだ微かな震えが残っていた。
ほんの少し前まで、この場所で本当に撃ち合っていたのだ。
今までのように、相手へ当てないように撃ったわけではない。脚を狙い、武器を狙い、相手を殺さずに戦闘能力だけを奪うつもりで引き金を引いた。
撃った瞬間の振動も、弾丸がグラディウスの脚へ命中した時の光景も、ヒートカトラスで敵機の手首を切り落とした時の感触も、まだはっきり覚えている。
怖かった。
それでも、今回はダウトに任せて勝ったわけではない。
アシストモードが起動したわけでもない。
自分で考えて、狙って、戦った。
そのことを実感し始めたところで、スコルの声が耳に入った。
『ケン、まだ気ぃ抜くな。』
「え?」
『敵の機体止めただけだ。中の奴らがどうなってるか確認するぞ。』
ケンは倒れたグラディウスを見渡した。コックピットには一発も当てていない。爆発した機体もない。それなら大丈夫だろうと、どこかで勝手に安心していた。
「でも、コックピットは狙ってないよ?」
『転倒した時に中で頭打ってるかもしれねぇだろ。それに、まだ武器持って出てくる可能性もある。』
そこまで言われて、ケンもようやく気付く。
相手はついさっきまでMSでこちらを攻撃していた連中だ。機体が動かなくなったからといって、全員が素直に降伏したとは限らない。
『お前は降りんな。』
「俺も確認するんじゃないの?」
『ダウトの中からやれ。お前がわざわざ生身で出ていく必要ねぇだろ。』
「……確かに。」
『外部スピーカー使え。まず全員機体から出させる。』
ケンは頷き、通信を外部スピーカーへ切り替えた。
一度息を吸う。
「えーっと……聞こえてますか!」
返事はなかった。
静かな廃村の中へ、ダウトから発せられたケンの声だけが広がっていく。
『弱ぇな。』
「しょうがないじゃん。こういうのやったことないんだから。」
『慣れてたらそっちの方が怖ぇよ。もうちょいハッキリ言え。』
「分かったよ。」
ケンは少し姿勢を正し、もう一度声を張った。
「聞こえてますか! もう機体は動けないと思います! 武器を持たずに、コックピットから一人ずつ出てきてください!」
数秒待つ。
だが、どの機体からも反応はない。
ケンは眉を寄せた。
「出てこないけど。」
『もう一回。出なきゃこっちで開けるって言え。』
「こじ開けるってこと?」
『そうだ。』
ケンは少しだけ躊躇したものの、再び外部スピーカーへ向かう。
「返事してください! 出てこないなら……こっちでハッチを開けます!」
それでも、すぐには動かない。
「できれば無理矢理こじ開けたくないので、ちゃんと出てきてください!」
『最後でまた弱くなったな。』
「だって本当に壊したくないし!」
『まあいい。』
その時だった。
一番近くに倒れていたグラディウスのコックピットハッチが、ゆっくりと持ち上がった。
一人の男が恐る恐る顔を出す。
『両手見えるところに出せ! 腰には触るな!』
すぐさまスコルの声が飛んだ。
それまでケンや@kiと軽口を交わしていた時とは違う。短く、強く、相手に考える余裕を与えない軍人の声音だった。
男は一瞬顔をしかめたが、逆らわず両手を上げたまま機体から降りていく。
それをきっかけに、他のグラディウスも次々とハッチを開いた。
一人。
二人。
三人。
全員が機体から離れるまで、ケンはダウトの中から外部カメラを通して注意深く見守った。
額を切っている者がいる。足を引きずっている者もいるし、肩を押さえて苦そうな顔をしている男もいた。
無傷ではない。
それでも、全員自分の足で立っていた。
『五人。これで全員だな。』
「……みんな生きてる?」
ケンが確認すると、スコルは少し間を置いて答えた。
『あぁ。少なくとも死んでる奴はいねぇ。』
「……よかった。」
胸の奥に引っ掛かっていたものが、ようやく少しだけ軽くなった。
敵だった。
向こうから攻撃してきた。
それでも、自分が撃った相手が生きていると分かったことが、素直に嬉しかった。
◇
荒くれ者達は、もう抵抗しようとはしなかった。
五機あったグラディウスは一機残らず動けない。その前にはダウトとブルーガが立ち、さらに後方にはGKCまでいる。
見た目だけなら、GKCが一番恐ろしい。
戦闘には間に合わなかったが、それを知らない荒くれ者達からすれば、大量の火砲を全身に載せた正体不明の重MSが控えているだけで十分な威圧になっていた。
『持ってる武器は全部置け。拳銃でもナイフでもだ。』
スコルの指示に、一人が舌打ちしながら腰の拳銃を外した。
他の者達もそれに続き、携行銃やナイフ、予備弾倉を地面へ並べていく。
武装解除が済んだことを確認してから、ケンがダウトの外部スピーカーを使って話しかけた。
「俺達は、あなた達を殺しに来たわけじゃないです。」
男の一人がダウトを睨み上げる。
「じゃあ何だよ。」
「ここから出ていってほしいだけです。近くの施設に入ったり、物を持っていったりするのもやめてください。」
「MS全部ぶっ壊しといて、歩いてどっか行けってのか?」
ケンは一瞬言葉に詰まった。
確かに、この辺りは人里から離れている。
ここから徒歩で移動しろというのは現実的ではない。
どうしたものかと考えていると、@kiがあっさり通信へ割り込んできた。
『村の奥に車あるやろ。』
男が僅かに反応する。
『何台か残っとるし、燃料もあるはずや。それ使って出ていき。荷物まとめる時間くらいは待ったる。』
「……。」
『あと。』
「まだあんのかよ。」
『ウチの倉庫から持ってった工具と部品、全部返してな。』
『結局そこかよ。』
スコルの呆れた声に、@kiは即座に反論した。
『大事や! 工具も部品もタダちゃうねんぞ!』
「そこはすごく現実的なんだね。」
『世の中金や!』
ケンが思わず笑った、その時だった。
何かが頭の中に引っ掛かった。
「……あ。」
『何や?』
「配信。」
今度は@kiが黙る。
『……あ。』
『お前ら、まさか。』
スコルの声に呆れが滲む。
そして。
『忘れてたでしょ。』
ノンの冷静な声が通信に入ってきた。
「……。」
『二人とも。』
「いや、その……。」
『ウ、ウチは忘れてへんで!』
『嘘ね。』
「嘘だね。」
『ケンケンまで裏切るんか!?』
Liveはまだ続いていた。
戦闘が終わったところから、GKCが遅れて到着し、荒くれ者達をMSから降ろし、@kiが工具を返せと迫ったところまで、全部そのまま流れていた。
コメント欄を確認すると、当然のように凄まじい速度で文字が流れている。
『配信忘れてるだろこれ』
『まだ切れてないぞー』
『GKC一発も撃ってない』
『全員生きてる?』
『ケンケン今回ちゃんと狙ってたな』
『スコルの指示がガチ軍人』
ケンは少し照れながら外部カメラへ向き直った。
「えっと……ということで。」
背後には、動けなくなった五機のグラディウス。
「無事、終わりました。」
途端にコメントがさらに加速する。
『雑な締め始まったw』
『絶対忘れてた』
『全員無事ならよかった』
施設側で状況を確認していたノンが補足した。
『相手側にも死者はいません。怪我をしている方はいますが、全員無事です。』
その言葉を聞いてから、ケンは少しだけ表情を和らげた。
「今回、俺……今までとちょっと違う戦い方をしました。」
さっきまで騒いでいた@kiも、今度は何も言わずに聞いている。
「今までは、人を殺すのが怖くて、なるべく当てないように撃ってたんです。でも今日は、スコルに脚とか武器とか、相手を殺さずに止められそうな場所を教えてもらって。」
『俺の名前いちいち出すな。』
「もうずっと声入ってるじゃん。」
『そういう問題じゃねぇ。』
ケンは少し笑ったものの、すぐに視線を戻した。
「正直、今でも怖いです。撃つ時も、当たった時も、本当にこれで大丈夫なのかなって思いました。」
自分の手を見る。
もう震えはほとんど止まっていた。
「でも、ただ外してるだけじゃ相手を止められないって、今日分かりました。」
少し考えてから。
「だから……殺したくないなら、殺さないためにちゃんと撃てるようになりたいです。」
コメント欄の空気が少し変わった。
『前よりちゃんと戦えてた』
『難しそうだけど頑張れ』
『全員生きてるなら今回は成功だろ』
『スコル先生』
ケンが吹き出す。
「先生だって。」
『読むな。』
「めっちゃ流れてる。」
『読むなっつってんだろ。』
『スコル先生ぇ!』
@kiまで乗っかった。
『お前は黙ってろ!』
そこからコメントの矛先は、当然のように別の方向へ向かった。
『GKC被弾0!』
『発砲0!』
『戦果0!』
『移動だけ!』
『最強の無傷記録』
『砲身いっぱい付いてるのに一発も撃ってなくて草』
『ちょお待てぇぇぇ!』
@kiの声が響く。
『GKCはこれからや!』
「今回はもう終わったけど。」
『ケンケン!』
「でも無傷なのは本当だよ。」
『戦っとらんからな!』
「自分で言った。」
『違う! そういう意味ちゃう!』
ノンまで笑い出し、コメント欄も完全にお祭り状態になっていた。
ケンは笑いながら、今度こそカメラへ向き直る。
「じゃあ、今回のコラボはこの辺で!」
『待て! せめてGKCの名誉回復を――』
「以上、ケンケンと!」
『赤ずきんと。』
『@kiやぁぁぁ!』
「またねー!」
最後まで抗議する@kiの声を残して、ようやくLiveは終了した。
◇
荒くれ者達が村に残していた荷物をまとめ、車両へ積み始めてからも、ケンはダウトから降りなかった。
武器は置かせた。
抵抗する様子もない。
それでも、相手が完全に立ち去るまでは何が起こるか分からない。スコルもブルーガに乗ったまま周囲を監視し、最後の一台が遠ざかって見えなくなるまで警戒を解かなかった。
「これで大丈夫かな。」
『少なくとも今すぐ戻ってくる気はねぇだろ。』
「そっか。」
『お前も覚えとけ。MS降りたからって戦闘が終わったとは限らねぇからな。』
「うん。」
ケンは短く頷いた。
そこで話を引っ張らず、スコルもそれ以上何も言わなかった。
すでに今日の戦闘でケンへ教えるべきことは十分教えている。
それより。
『なあなあ。』
今度は@kiが別のものへ目を付けていた。
『このグラディウス、置いてくん勿体なくない?』
『お前、もう拾う気か。』
『だって五機もあるんやで? 使える部品いっぱい取れるやろ。』
「確かに。」
『ほら! ケンケンも分かっとる!』
「でも、どうやって持ってくの?」
『そこでGKCや!』
その声が、急に自信満々になる。
◇
しばらく後。
ダウトとブルーガの前を、GKCがゆっくりと歩いていた。
背部から伸ばした複数の牽引ケーブルの先には、動けなくなった五機のグラディウス。
ズン。
ズン。
ズン。
速度は相変わらず遅い。
だが五機ものMSをまとめて引きずっているにもかかわらず、その歩みが止まることはなかった。
「……すごい。」
ケンは素直に感心した。
『やろ!?』
「五機引っ張ってるのに普通に動いてる。」
『これがGKCのパワーや! ウチの設計を舐めんなよ!』
『牽引車としては相当優秀だな。』
スコルが何気なく言う。
『兵器や!』
「でも今日一番役に立ってるの今じゃない?」
『ケンケンまでぇ!』
GKCそのものは遅い。
だが、その巨体に詰め込まれた出力は本物だった。
戦闘では何も出来なかった最強MSが、五機の旧式MSを引きずって帰るという何とも締まらない光景を先頭に、三機は研究施設へ戻っていった。
◇
施設へ戻って一息つく頃には、コラボLiveのアーカイブはすでにかなりの勢いで再生数を伸ばしていた。
ケンとノン、@kiは居住区の一室に集まり、大きなモニターへ次々と流れてくる反応を映していた。
「早……。」
ケンが思わず呟く。
ほんの数分前に確認した数字が、更新するたびに増えていく。
赤ずきんちゃんネルの視聴者だけではない。
@kiの視聴者も流れ込み、さらに切り抜き動画や拡散された短い映像から、新しく見に来た人達まで混ざっている。
当然。
一番勢いのある話題は。
『GKCデビュー戦0発』
『ガンダムキラーキャノン、ガンダムに置いていかれる』
『戦場より帰り道で活躍する最強MS』
『巨大牽引車』
「……。」
@kiの頬が引きつった。
さらに。
『GKCじゃなくてGKC(ガンダム来る頃には終わってるキャノン)』
「誰やぁぁぁ!」
@kiが椅子から跳ねるように立ち上がった。
「誰やこれ書いた奴!」
ケンが吹き出した。
「上手い。」
「上手ない!」
ノンまで笑いを堪え切れていない。
「でも、かなり覚えてもらえたんじゃない?」
「ウチが欲しかったんはこんな知名度ちゃう!」
「次は間に合えばいいね。」
「絶対間に合う! 次こそGKCの真の力を――」
「軽くした方が早いんじゃない?」
「それは嫌や!」
即答だった。
火力も欲しい。
装甲も欲しい。
だから重い。
そして遅い。
どうやらGKCの問題は、本人も理解した上で一切直す気がないらしい。
ケンは笑いながらコメントを追っていった。
GKCの話題に混ざり、自分の戦い方について書かれたものもかなり増えている。
『ケンケン前よりちゃんと戦えてた』
『当てないんじゃなくて壊す場所選んでたな』
『あれなら前より安心して見れる』
『殺さない戦いって口で言うほど簡単じゃないと思う』
『無理だけはするなよ』
ケンは、その中の一つで手を止めた。
「……安心して見れる、か。」
ノンが隣から覗き込む。
「嬉しい?」
「うん。」
少し考える。
「上手いって言われるより、そっちの方が嬉しいかも。」
「どうして?」
「俺が強くなったかどうかより……ちゃんと殺さないで終わらせられたって、見てる人にも分かったってことでしょ。」
ケンは照れ臭そうに頭を掻いた。
「なんか、それが一番いいかなって。」
その時、後ろから声が飛んでくる。
「何ニヤついてんだ。」
振り返ると、スコルが飲み物を片手に部屋へ入ってきた。
「先生。」
「やめろ。」
「ほら、また言われてる。」
「見せんな。」
「『スコル完全に教官』だって。」
「だから見せんなって言ってんだろ!」
スコルは嫌そうに眉を寄せながらも、そのまま部屋を出ていくわけではなく、空いている椅子へ腰を下ろした。
何だかんだでコメント欄は気になるらしい。
ただし、ケンへ改めて戦い方を説教することも、さっきの戦闘を振り返って講評することもなかった。
それはもう、戦場で十分話した。
今はただ、他の三人と一緒に画面を眺めている。
しばらくすると、ノンがコメント欄を流していた指を止めた。
「ケン。」
「ん?」
「これ、結構増えてる。」
ノンが示したのは、戦闘そのものとは別の話題だった。
『せっかく地球まで来たなら普通の街も見てほしい』
『軍人じゃなくて普通に暮らしてる人の話も聞いて』
『地球にいる人達が今の状況どう思ってるのか知りたい』
『ニュースや軍の声明じゃなくて街の声が聞きたい』
『戦争になりそうって言われても普通の人はどう感じてるんだろ』
地域名は出ていない。
今、ケン達が地球のどこにいるのかは配信では明かしていないし、@kiも自分の拠点の所在地を公開していない。
荒くれ者達との戦闘についても、場所が特定されるような情報は映さないようにしていた。
そこを曖昧にしたままでも。
視聴者達が見たがっているものは、はっきりしていた。
「普通の街……。」
ケンが呟く。
「元々、そのために地球へ来たんでしょ。」
ノンの言葉に、ケンも頷いた。
地球へ来たのは、ガンダムを見せるためではない。
地球連邦軍の声明。
月周辺に集まるコロニー国家連合軍。
再開されるガンダム開発。
そういう大きな話ばかりが世界を飛び交っている。
けれど。
そこで実際に暮らしている人達は、どう思っているのか。
戦争が始まりそうだと本当に感じているのか。
コロニー国家連合を怖がっているのか。
あるいは。
普段の生活の方が大事で、そんなことをあまり意識していないのか。
そこはまだ、ケン達自身も知らない。
「そういえば。」
ケンは少し笑った。
「地球に来てから、普通の街ってまだ一回も行ってないよね。」
「そうね。草原と海と基地と廃村。」
「並べるとすごいな……。」
「地球観光としてはだいぶ偏ってるわね。」
「ほんなら。」
それまでGKCへのコメントに文句を言っていた@kiが、端末を自分の方へ引き寄せた。
「街行こか。」
「近くにあるの?」
「あるで。」
@kiは配信画面とは別の地図を開いた。
もちろん、今はLiveではない。
施設から少し離れた場所に、小さな街が表示される。大都市ではないが、住宅区画や商店、公共施設も揃っていて、普通に人々が生活している場所だった。
「ここならそんな遠ない。」
ケンが地図を覗き込む。
「人多い?」
「そこそこやな。デカい街ほど人混みちゃうし、話聞くには丁度ええんちゃう?」
ノンも地図を確認しながら頷いた。
「撮影する場所には気をつけないとね。地域が特定出来るものはなるべく映さない方がいい。」
「もちろんや。」
@kiもそこは軽く考えていなかった。
「移動中も撮らへん。街の名前が出る看板とか、特徴ある建物も気ぃ付ける。ウチんとこの場所まで割れたら面倒やしな。」
「俺達も困る。」
ケンが苦笑する。
「俺なんて場所バレたら普通に捕まえに来られるし。」
「そうね。」
ノンも同意した。
その言葉で。
四人の視線が、自然とケンへ集まった。
「……何?」
ケンが首を傾げる。
ノンが少し困った顔をする。
「そもそも、あなたそのまま街に出られるの?」
「あ。」
ケンは自分の顔へ触れた。
赤ずきんちゃんネル。
何度も行ったLive。
指名手配。
自分で思っていた以上に、今のケンの顔は知られている。
「……無理かな。」
「無理でしょうね。」
「帽子とマスクじゃ駄目?」
「一人だけならともかく、撮影までしたら怪しまれると思う。」
スコルも横から口を挟む。
「変な隠し方すると、逆に目立つぞ。」
「じゃあどうしよう。」
ケンが頭を抱える。
ノンも、自分のことを考えていた。
「私も顔は出せないし。」
「赤ずきんはフードとマスクでいつもの格好に近付ければ何とかなるんちゃう?」
@kiが言う。
「でもケンケンはなぁ……。」
そこで。
声が止まった。
「……?」
ケンが顔を上げる。
@kiは返事をしない。
ただ。
じっとケンを見ている。
「何?」
目。
顔。
髪。
細身の身体。
肩幅。
また顔。
@kiの視線が、ゆっくり上から下へ移動していく。
「……何なの?」
ケンが少し身体を引いた。
@kiの口元が。
徐々に。
にやぁ……と吊り上がっていく。
「おい。」
スコルまで嫌な予感を覚えたような顔をする。
「何か思いついたのか?」
「んー?」
@kiは答えない。
ノンがそんな@kiを見た後。
改めてケンを見る。
「……。」
「ノンまで何?」
ノンも少し首を傾げる。
その顔に。
ほんの僅かに。
同じような笑みが浮かんだ。
「……なるほど。」
「何が!?」
「いや。」
@kiは楽しそうに立ち上がった。
「なんでもあらへんでぇ?」
「絶対なんかある!」
「明日のお楽しみや。」
「怖いんだけど!」
ケンがそう叫んでも。
@kiは答えない。
ただ。
ケンを見ながら。
いつまでも楽しそうに。
にやにやと笑っていた。