機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
翌朝。
ケンは、研究施設の居住区にある一室の前で立ち止まっていた。
昨夜、@kiから届いたメッセージには、ただ一言。
『明日の朝ここ来てな! 変装用意しとくで!』
それだけだった。
嫌な予感しかしない。
昨日、自分を上から下まで眺めながら浮かべていた、あの笑みがどうしても頭から離れなかった。
「……普通の変装だよな。」
誰に聞かせるでもなく呟きながら、扉を開ける。
「来たな、ケンケン!」
「……。」
満面の笑みを浮かべた@ki。
その隣にはノン。
さらに。
机の上には、化粧道具、ウィッグ、衣服、帽子、リボン。
どう見ても。
男の変装に必要な物には見えなかった。
ケンは何も言わず、一度扉を閉めた。
「待て待て待て待て!」
@kiが慌てて扉を開く。
「なんで帰んねん!」
「絶対おかしいだろ!」
「何がや!」
「何で化粧品あるんだよ! 何でリボンあるんだよ! それ誰の服!?」
「ケンケンの。」
「俺のじゃない!」
@kiは悪びれるどころか、むしろ胸を張った。
「昨日考えたんや。」
「何を。」
「ケンケン、男のまま隠すから難しいんやって。」
「……は?」
「帽子深く被って、マスクして、顔隠して。そんな男が撮影機材持って街歩いとったら逆に怪しいやろ?」
「それは……。」
「せやから。」
@kiの口角が持ち上がる。
「女の子になればええ。」
「ならないよ!」
即答だった。
「何でそうなるんだよ!」
「大丈夫やって。細いし、顔もそんなゴツないし、髪も使える。ちょっと整えりゃ普通にいける。」
「いけなくていい!」
ケンは助けを求めるようにノンを見る。
「ノンも何か言ってよ!」
「私も最初はやり過ぎだと思ったんだけど……。」
「思ったんだけど?」
ノンは一度ケンを見る。
じっと。
「昨日改めて見たら、意外といけるかもしれないなって。」
「裏切った!」
「裏切ってないわよ。」
「昨日から二人して俺のこと何だと思ってんの!?」
@kiは机の上からベージュのキャスケットを拾い上げると、楽しそうにケンの頭へ乗せた。
「ほら。」
「やめろって。」
「顔上げて。」
「嫌だ。」
「ノン。」
「分かった。」
「何が分かったの!?」
二対一だった。
◇
一時間後。
部屋の隅にある姿見の前で。
ケンは完全に固まっていた。
「……。」
鏡の中には。
見覚えがあるような。
ないような。
一人の女の子が立っている。
黒髪は後ろで緩くまとめられ、結び目は小さなリボンで隠されていた。深めに被ったベージュのキャスケットから前髪が自然に落ち、目元には本当に薄い程度の化粧が施されている。
服装も派手ではなかった。
アイボリー系のゆったりしたパーカーに、ライトデニムのオーバーオール。足元は歩きやすいスニーカー。小物や撮影用機材を入れるためのブラウンのショルダーバッグ。
街にいても。
特に目立たない。
むしろ。
「……普通に女の子ね。」
ノンが率直に言った。
「言わないで……。」
ケンは俯いた。
帽子のつばで顔を隠しながら、肩を小さく縮める。
「なんで俺がこんな格好……。」
「ほら見ぃ。」
@kiが嬉しそうにケンの周囲を回る。
「その恥ずかしがっとる感じまで完璧やん。」
「完璧じゃなくていいって……。」
「引っ込み思案な女の子って感じや。」
「実際恥ずかしいんだよ……。」
ノンはケンの横へ立ち、鏡越しに見比べる。
「顔だけ見ても、すぐケンだとは思わないかも。」
「本当?」
「少なくとも、いつものケンケンを探してる人なら、一瞬では結び付かないと思う。」
「……ならいいけど。」
ケンは自分の頬へ触れた。
別人に見える。
それは分かる。
分かるからこそ、余計に複雑だった。
「でも声どうするの?」
ノンが指摘する。
「喋ったらすぐ分かるんじゃない?」
その言葉を待っていたらしい。
@kiがにやりと笑った。
「そこも抜かりないで。」
小さな機器を取り出す。
「何それ。」
「ボイスチェンジャー。」
「……いつ作ったの?」
「昨日の夜。」
「仕事早すぎない?」
「こういうん作るん好きやねん。」
薄型の装置をケンの襟元へ取り付け、端末と接続する。
「ほな何か喋って。」
「……何を。」
スピーカーから出た声に。
ケン自身が固まった。
「……え?」
高すぎない。
作り物っぽさも薄い。
少し柔らかい、若い女の子の声。
ケンが口を動かしているのに、耳へ入ってくる声だけが完全に別人だった。
「これ……俺?」
「せや。」
「気持ち悪い……。」
「失礼やな! 結構調整したんやぞ!」
ノンが笑いを堪えながら言う。
「声まで変わると、更に分からないわね。」
「……そう?」
ケンはもう一度鏡を見る。
知らない女の子。
しかも、自分である。
恥ずかしさから自然と声まで小さくなる。
「……これで、街歩くの?」
「そのボソボソ喋る感じ、そのままでええで。」
「え?」
「設定決まった。」
@kiが人差し指を立てる。
「人見知りで、ちょっと引っ込み思案な女の子。」
「設定じゃなくて女の子以外、ほぼ今の俺そのままじゃん……。」
「せやから自然なんや!」
「嬉しくない……。」
その時。
扉が開いた。
「おい、まだ準備――」
スコルが入ってきた。
途中で止まる。
「……。」
ケンも止まる。
「……何。」
女の子の声。
スコルは一度ケンを見て。
ノンを見て。
@kiを見る。
そして再びケンを見る。
「……誰だ?」
「俺だよ!」
女の子の声で怒鳴った。
スコルの目が僅かに見開く。
「……ケン?」
「そうだよ!」
「……。」
「何その間!」
「いや……。」
スコルはもう一度、頭から足まで見た。
「分かんねぇな。」
「その感想が一番嫌なんだけど!」
「でも成功じゃねぇか。」
「そうだけど!」
@kiが満足そうに大笑いしていた。
◇
街へ向かう前に。
念入りな確認が行われた。
移動経路は撮影しない。
研究施設周辺も当然映さない。
街の名前。
場所を特定出来る看板。
特徴的な公共施設。
そういったものは映像へ入れない。
Liveではなく、今回は撮影したものを後で確認してから動画として出すことになった。
ケン達が今いる場所を、視聴者へ知らせる必要はない。
まして。
指名手配されているケンと。
顔を公開出来ないノン。
さらに、自分の拠点を公表していない@kiまで一緒なのだ。
撮影内容以上に。
場所の特定を避けることが重要だった。
「じゃ、行こか!」
@kiだけが朝から変わらず元気だった。
ケンはショルダーバッグの紐を握りながら、小さく息を吐く。
「……早く帰りたい。」
「まだ出てへんぞ。」
◇
街へ入った瞬間。
ケンは。
女装していることすら、一時忘れた。
「……。」
道路を車が行き交っている。
歩道には買い物袋を持った人達。
友人同士で話しながら歩く若者。
子供の手を引く家族。
飲食店の前に並ぶ人。
道の向こうでは、自転車に乗った学生達が笑いながら走っていった。
空を見上げれば。
青空。
その向こうに。
何もない。
コロニーなら当然あるはずの、地表の反対側も。
人工的な天井も。
ない。
ただ空が続いている。
「……すごい。」
思わず漏れた声も。
今は女の子の声だった。
ノンが横を見る。
「何が?」
「いや……。」
ケンは辺りを見回した。
「普通だなって。」
「何よ、それ。」
「もっとさ。」
少し言葉を探す。
「ニュースとかだと、ずっと艦隊とかガンダムとか戦争の話してるじゃん。」
道端のカフェでは。
客が飲み物を飲みながら談笑している。
小さな子供が母親へ何かをねだっている。
店員が商品を並べている。
誰もが。
普通の一日を過ごしていた。
「だからもっと……街全体がピリピリしてるのかと思ってた。」
「生活は続くもの。」
ノンが答える。
「何が起きてても、全員が一日中そのことだけ考えてるわけじゃないわ。」
「そっか。」
「せや。」
少し前を歩いていた@kiも振り返った。
「せやから聞くんやろ?」
ケンは頷いた。
「うん。」
◇
最初のインタビュー相手を探すまでには。
かなり時間が掛かった。
「ほらケンケン。あの人聞いてみ。」
「俺が!?」
「撮影言い出したんケンケンやろ。」
「でも……。」
女装している。
知らない人へ声を掛ける。
しかも声まで女の子。
普段なら配信で勢いをつけられるのに、今日は自分自身を隠したまま話さなければならない。
工専で底辺配信者をやっていた頃の。
誰にも見られていなかった頃の自分へ戻ったようだった。
「あ、あの……。」
通り掛かった中年女性が振り返る。
「はい?」
「……すみません。」
「はい。」
「い、今の……地球とコロニーのことって……どう思ってますか?」
「え?」
声が小さすぎた。
女性が聞き返す。
「ごめんなさい、もう一回いい?」
「……。」
ケンが赤くなる。
ノンが後ろから小声で言う。
「聞こえてないわよ。」
「分かってる……。」
「もう少し声出して。」
「うぅ……。」
@kiは笑うのを必死に堪えている。
ケンはもう一度。
今度は少しだけ大きな声を出した。
「あの……今の地球と、コロニー国家連合のことについて、どう思ってるか……聞いてもいいですか?」
女性は少し驚いた後。
撮影の趣旨を説明すると、立ち止まってくれた。
「戦争のこと?」
「はい。」
「嫌ですよ、そりゃ。」
迷う様子はなかった。
「子供もいるし。主人の弟は軍にいるし……始まったら誰がどうなるか分からないでしょう?」
「……そうですよね。」
「どっちが正しいとか、私にはよく分からないですけど。」
女性は困ったように笑った。
「戦争しなくて済むなら、それが一番じゃないですか。」
「ありがとうございます。」
撮影を終え。
女性が離れていった後。
ケンは小さく息を吐いた。
「……やっぱり。」
「何?」
ノンが聞く。
「戦争したくない人、ちゃんといる。」
嬉しそうだった。
ほんの少し。
希望を確かめられたような顔だった。
だが。
それから先。
集まる声は。
ケンが思っていたほど単純ではなかった。
◇
「戦争は嫌ですよ。」
若い男性はそう前置きした。
「でも、コロニー国家連合の艦隊が月の近くまで来てるんですよね?」
「はい。」
「なら連邦軍が警戒するのは当然じゃないですか。」
男性は少し考えた後。
「こっちだけ何もするなっていうのも違うと思います。」
「ガンダム開発再開については?」
「仕方ないんじゃないですか。」
即答ではなかった。
けれど。
反対でもない。
「向こうが軍を集めてるなら、こっちも備えないと。」
「……そうですか。」
ケンはそれ以上言わず。
ただ。
その声を記録した。
次。
年配の男性。
「コロニーの連中は自分達のことしか考えてない。」
ケンの表情が変わる。
「……どういう意味ですか?」
「地球の資源を使って、地球が技術も人も出して、あいつらの生活基盤を作ったんだろ。」
男の声音には、明確な苛立ちがあった。
「それで豊かになった途端、地球は口出すな、自分達は独立だって?」
「……。」
「恩を忘れてるんだよ。」
隣でノンの目が僅かに細くなる。
男は続けた。
「だいたい地球があったからコロニーがあるんだ。なのに今じゃ自分達の方が上みたいな顔してる。」
「でも……。」
ケンが思わず口を開く。
「戦争になったら――」
「そりゃ戦争なんてない方がいいさ。」
男はあっさり答えた。
「でも向こうが分からないなら、力を見せるしかない時もあるだろ。」
「……。」
「連邦が弱腰だから、あいつらが付け上がるんだ。」
インタビューが終わった後。
ケンはしばらく黙っていた。
「……戦争したくないって言ってたよね。」
「言ってたわ。」
ノンが答える。
「でも、戦ってでも相手を引かせた方がいいって思ってる。」
「……それって。」
ケンには。
どう整理すればいいのか分からなかった。
「戦争したくないのに……戦っても仕方ないって。」
「矛盾してるように聞こえる?」
「うん。」
ノンは少しだけ考えた。
「でも、本人の中では矛盾してないのかもしれない。」
「どういうこと?」
「自分達が戦争を始めたいわけじゃない。相手が原因なんだから、相手が引けばいいって考えてるのよ。」
「……。」
「向こうも同じように思っていたら?」
ケンは答えられなかった。
◇
その後も。
いろんな人に話を聞いた。
「正直、あまり実感ないですね。」
昼休みらしい会社員。
「ニュースでは大変そうですけど、明日も仕事ありますし。」
別の女性は。
「戦争は怖いです。でもコロニー側の軍艦が集まってるのも怖いですよ。」
若い学生は。
「どっちも引けばいいのにって思います。」
別の男性は。
「連邦がガンダム作るのは当然でしょ。相手が武装してるのに、こっちだけ武器持つなっておかしい。」
また別の老人は。
「前の戦争で十分だ。もうやるな。」
様々だった。
戦争なんて嫌だ。
でもコロニー側は信用出来ない。
連邦にも問題がある。
向こうが先に引くべきだ。
自分には関係ない。
怖い。
どうでもいい。
家族が心配。
始まらないと思っている。
始まると思っている。
人の数だけ。
声が違った。
そして。
ケンが想像していたよりも。
地球側からコロニー国家連合へ向けられた不信感は強かった。
◇
少し休憩することになり。
四人は人通りから外れた場所のベンチへ腰を下ろした。
ケンはショルダーバッグを膝の上に置いたまま、俯いている。
見た目だけなら。
本当に少し人見知りな女の子だった。
「疲れた?」
ノンが聞く。
「ちょっと。」
「女装が?」
「それもある……。」
@kiが横から笑う。
「もう馴染んどるやん。」
「馴染みたくない……。」
ケンは帽子のつばをさらに下げた。
だが。
しばらくすると。
「……ねえ。」
「何?」
「俺さ、もっと単純に考えてたかも。」
ノンが何も言わず続きを待つ。
「戦争したくないって人の声をいっぱい集めれば。」
ケンは膝の上で指を組んだ。
「それをみんなに見せれば。」
「こんなに誰も戦争したくないのに、なんで戦争するのって……。」
これまで。
少しずつ増えてきた反戦の声を見るたび。
もしかしたら。
本当に止められるかもしれないと思い始めていた。
「でも今日の人達。」
「戦争したくないって言いながら、向こうが悪いなら仕方ないって人もいた。」
「連邦がもっと強く出ればいいって人もいた。」
ケンは顔を上げた。
「それでも戦争反対って言えるのかな。」
すぐに答える者はいなかった。
スコルは少し離れた場所から街を見ながら、やがて口を開いた。
「……俺は軍人だからな。」
ケンが見る。
「敵かもしれねぇ艦隊が目の前にいたら、警戒する。」
「うん。」
「向こうが撃つかもしれねぇのに、こっちは撃つなって命令されたら、不安にもなる。」
それは。
軍人としての。
スコル自身の感覚だった。
「でも。」
スコルは続ける。
「だから戦争したいかって言われりゃ、したくねぇ。」
「……。」
「そういう奴もいるってだけだ。」
ケンは少し考えた。
「難しいな……。」
「人間なんてそんなもんやろ。」
@kiがベンチの背もたれへ身体を預ける。
「戦争したない。」
「でも自分が傷つくんも嫌。」
「自分だけ我慢するんも嫌。」
「せやったら相手が先に引けって思う。」
ケンが顔を向ける。
「どっちもそう思ったら?」
「どっちも引かへん。」
@kiはさらりと言った。
その答えが。
妙に重かった。
◇
休憩を終え。
もう少しだけ撮影を続けることにした。
最後に声を掛けたのは。
小さな子供を連れた若い母親だった。
「戦争について?」
「はい……。」
ケンが小さく頷く。
「今、地球とコロニーの関係が悪くなってますけど……どう思いますか?」
女性は。
隣にいる子供へ一度目を向けた。
「難しいことは分からないです。」
それから。
少し笑う。
「でも、戦争は嫌です。」
「……。」
「だって。」
子供の手を握り直す。
「この子が大きくなる頃まで、ずっと地球とコロニーが憎み合ってるなんて嫌でしょう?」
ケンは何も言わず聞いていた。
「誰が正しいとか、どっちが悪いとか。」
「そういうことを決める人達は、きっと色々考えてるんでしょうけど。」
女性は少しだけ困ったように笑った。
「私は、普通にこの子が学校行って、友達作って、大人になってくれればそれでいいです。」
「そんなことでいいんですか?」
ケンは首を横に振った。
「いえ。」
ボイスチェンジャーを通した女の子の声。
「……俺も。」
一瞬。
自分の言葉に気付く。
「あ……私も。」
女性は特に気にしていない。
ノンだけが少し笑っていた。
「……そういうのが一番いいと思います。」
女性と子供が離れていった後。
ケンはしばらく、その背中を見ていた。
「……やっぱり。」
ノンが隣に立つ。
「何?」
「戦争したくない人はいる。」
「そうね。」
「いっぱい。」
「うん。」
ケンは少しだけ笑った。
今日聞いた声は。
思っていたより複雑だった。
嫌な言葉もあった。
コロニーを見下す言葉。
相手が引かなければ力で押せばいいという声。
聞いていて。
胸がざわつくものもあった。
それでも。
確かに。
戦争を望んでいない声もあった。
「……もっと聞きたい。」
ケンが言う。
「戦争反対って言ってくれる人だけじゃなくて。」
ノンが少し驚いたように見る。
「嫌なこと言う人も?」
「うん。」
少し迷いながらも。
頷く。
「だって。」
「俺達が聞きたいことだけ集めたら……それも違う気がする。」
ケンは街を見る。
「みんなが本当はどう思ってるのか知りたい。」
「その上で。」
少しだけ。
声に力が入った。
「それでも戦争しなくていい方法を探したい。」
ノンは何も言わず。
ただ。
小さく頷いた。
◇
撮影を終え。
帰る前に少しだけ街を歩いていた時だった。
「お姉ちゃん!」
「……え?」
女の子の声。
振り返る。
さっきインタビューした母親の子供が、少し離れたところから手を振っている。
「バイバーイ!」
ケンが固まる。
「……。」
子供は楽しそうに手を振りながら去っていった。
@kiの肩が震える。
「……。」
「笑うなよ。」
「まだ笑ってへん。」
「声震えてる。」
「ぷっ……。」
「笑った!」
「だって完全にお姉ちゃんや思われとるやん!」
「うるさい!」
ノンまで口元を押さえる。
「似合ってるってことじゃない?」
「ノンまで!」
スコルは視線を逸らしたまま。
「まあ、変装としては成功だったな。」
「それ今言わなくていいよ!」
ケンは帽子を深く被り直し。
真っ赤になった顔を隠した。
「もう帰る……。」
「声ちっさ!」
「帰る!」
今度は少しだけ大きくなった女の子の声に。
@kiの笑い声が重なった。
いろんな声を聞いた。
思っていたよりも。
ずっと複雑だった。
それでもケンの中で。
消えかけたわけではない。
むしろ。
簡単ではないと知ったからこそ。
もっと多くの声を聞きたいという気持ちは。
昨日より少しだけ。
強くなっていた。