機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
昨日、街で集めた映像は、まだ一本の動画にはなっていなかった。
研究施設の居住区に設けられた一室では、編集用のモニターにいくつもの映像が並べられている。子供の手を握りながら戦争への不安を口にした母親。コロニー国家連合への不信を隠さなかった男。連邦が軍備を強化するのは仕方がないと話した若者。ニュースでは毎日のように騒いでいるが、まだ自分には実感がないと言っていた会社員。
どれも昨日、同じ街で聞いた言葉だった。
ケンは椅子に座ったまま、その映像を何度も行ったり来たりさせていた。
『戦争なんて嫌ですよ。子供もいますし。』
映像が切り替わる。
『向こうが月軌道に艦隊を出してるんですよ? こっちが何もしない方がおかしいでしょう。』
また別の映像。
『コロニーの連中は、自分達が今あるのは地球のおかげだって忘れてる。連邦はもっと強く出てもいい。』
そこまで再生したところで、ケンは画面を止めた。
「……なんか違うんだよな。」
少し離れたところで撮影データを整理していたノンが顔を上げる。
「何が?」
「いや、動画。」
ケンは静止した画面を指差した。
「このまま一本にして出していいのかなって。」
「昨日の撮影、何か問題あった?」
「そうじゃなくてさ。」
ケンは椅子を少し回し、ノンの方を向いた。
「昨日、色んな人いたじゃん。戦争したくないって人もいたし、コロニー連合が悪いって人もいた。連邦がもっと強く出ろって人もいたし、まだ実感ないって人もいた。」
「そうね。」
「でも結局、俺達が話聞いたのってあの街だけなんだよね。」
ノンはすぐには答えなかった。
ケンはもう一度モニターを見る。
「このまま出したらさ、見た人には『地球の人はこう思ってます』みたいに見えないかなって。」
「……なるほどね。」
「もちろん、あの人達が嘘ついてるとかじゃないよ。むしろ本音なんだと思う。でも、それで地球の人全部が同じみたいに見えるのは違う気がする。」
ノンは少し考えた後、隣の端末を操作した。
編集画面が消え、代わりに大きな地球の地図が表示される。
「それはそうでしょ。」
「え?」
「地球は広いんだから。」
ノンが昨日訪れた街の位置を指で示す。
地図全体から見れば、本当に小さな一点だった。
「……小さ。」
「昨日あれだけ歩いたのにね。」
「なんか変な感じだな。」
ケンは地図へ身を寄せた。
地球へ降りてきた時には、ただその大きさに圧倒された。
どこまでも続く空。
地平線。
コロニーでは考えられないほど広い大地。
けれど今は、それとは少し違う意味で地球の広さを感じていた。
昨日一日歩き回った場所など、この星の中ではほんの僅かな範囲でしかない。
「同じ地球でも、地域が変われば考え方もかなり変わるわよ。」
ノンは地図を動かしながら続けた。
「連邦政府との距離が近い場所もあるし、逆に連邦を嫌ってる地域だってある。軍の基地が多いところなら軍人やその家族も多いでしょうし、政治の中心から離れたところなら連邦政府なんて普段ほとんど意識してない人だっている。」
「地球にいるのに?」
「地球にいるからって、みんな同じ考えなわけないでしょ。」
呆れたように言われ、ケンは頭を掻いた。
「まあ、そうなんだけど。」
「昨日だって同じ街の中であれだけ違ったんだから。」
「……じゃあ、もっと違う場所に行ったら。」
「もっと違うでしょうね。」
ノンのその答えに、ケンはしばらく地図を見つめていた。
知らない街。
知らない地域。
そこに住んでいる人達。
今までは「地球連邦」と一つの大きな括りで考えていた。けれど実際に地球へ降り、人と話してみれば、それだけでは何も分からない。
「もっと行ってみたい。」
ぽつりと漏れた言葉に、ノンが横を見る。
「色んな街?」
「うん。」
ケンは少しずつ表情を明るくしていった。
「昨日の街だけじゃなくて、もっと色んな場所行って、色んな人に話聞いてみたい。」
「昨日みたいに、俺が思ってなかったこと言う人もいるだろうし。逆に同じこと言う人もいるかもしれない。」
「そういうの、もっと聞きたい。」
ノンはそんなケンを見て、少しだけ笑った。
「昨日は女装しただけでずっと小さくなってたのに。」
「それとこれは別だよ!」
「急に元気になったわね。」
「だって面白いじゃん。俺、地球のこと本当に何も知らないんだなって思ったし。」
落ち込んでいるわけではなかった。
むしろ、知らないからこそ見てみたい。
そんな好奇心が強くなっていた。
「だったら、昨日の分だけで急いで一本出さなくてもいいかもしれないわね。」
ノンは再び映像一覧を開いた。
「何ヶ所か回ってからまとめるの。」
「まとめて?」
「昨日の街、次の街、その次。いくつかの場所の声を並べた方が、違いも分かりやすいでしょ。」
「なるほど。」
「小出しにして毎回一本ずつ出すより、私達自身も少し地球を見てから作った方がいいと思う。」
ケンはすぐに頷いた。
「それいい。」
その時、部屋の入口から声が飛んできた。
「地球の地域差なんざ、軍にいたら嫌でも分かりやすよ。」
振り返ると、グレアーが端末を片手に入ってくる。その後ろには、おやっさんとジーナもいた。
「グレアー。」
「坊主、また面倒なこと考えてやすね?」
「まだ何もしてないよ!」
「その顔で大体分かりやす。」
グレアーはモニターに表示された地図を見て、僅かに眉を上げた。
「色んな街回って声を集めようって話。」
ノンが説明すると、おやっさんが腕を組む。
「坊主は地球観光に来たわけじゃねぇぞ。」
「分かってるって。」
「その割には楽しそうじゃねぇか。」
「ちょっとだけ。」
「ちょっとじゃねぇ顔してるぞ。」
おやっさんに笑われ、ケンは少しむっとした。
グレアーはそんな二人を横目に見ながら、地図へ視線を戻した。
「まあ、嬢ちゃんの言ってること自体は間違ってないでやす。基地一つ変わるだけでも、住民の軍を見る目はかなり違いやすからね。」
「やっぱり?」
「歓迎される場所もありゃ、制服着て歩いただけで嫌な顔される場所もありやす。連邦政府に不満持ってる連中も普通にいやすし。」
「地球連邦って言っても、地球全部が一枚岩ってわけじゃないんだ。」
「そんなもんでやすよ。」
グレアーは軽く肩をすくめた。
「ただし。」
そこで声の調子が変わる。
「坊主が国際指名手配されてる事実は、どこへ行っても変わらねぇでやす。」
「……うん。」
「コロニー国家連合側から出された手配でも、休戦協定が生きてる以上、地球で無効になるわけじゃねぇ。」
「それに連邦軍の連中からしたって、正体の分からねぇガンダム持って世界中引っ掻き回してる坊主にいい感情持ってる奴ばっかじゃないでやす。」
「分かってる。」
「なら結構。」
グレアーが頷いたところで。
「ほんなら次、ここ行こか。」
どこから聞いていたのか、@kiがひょいとモニターの横から顔を出した。
「うわっ!」
「なんやケンケン。毎回驚きすぎやろ。」
「急に出てくるからだよ!」
@kiは気にせず地図を操作し始めた。
「色んな場所回るんやったら、次は分かりやすいところ行った方がええ。」
表示が大きく移動し、やがて一つの大都市が現れる。
昨日訪れた街とは比べものにならない規模だった。幾重にも延びる幹線道路、鉄道、行政区画、大型施設。都市の中心部には公的機関らしい建物が密集している。
ケンが画面に表示された名前を読む。
「キャピタリア……。」
「アルメアでも有名な街や。」
@kiが得意げに言う。
「有名?」
「見てみ。」
都市中心部へ地図が寄っていく。
ノンが先に気付いた。
「……ちょっと待って。」
「何?」
「ここ。」
ケンも表示された施設名を追う。
そして。
「地球連邦議会……。」
数秒。
ケンの顔が固まった。
「……え?」
「キャピタリアは連邦議会が置かれとる街や。」
@kiがあっさり言った。
「いやいやいやいや!」
ケンが椅子から立ち上がる。
「なんでいきなりそんなところなの!?」
「色んな地域見たい言うたやん。」
「言ったけど!」
「連邦色の強い場所の声も聞きたいんやろ?」
「そうだけど極端すぎるよ!」
グレアーも露骨に渋い顔をした。
「……よりによってキャピタリアでやすか。」
「グレアーも知ってる?」
「知らねぇ方がおかしいでやすよ。連邦議会がある街でやす。」
グレアーは地図を見ながら深く息を吐く。
「警備も監視も、昨日行った街とは比べものにならねぇでやすよ。」
「街歩くだけやって。」
@kiが言う。
「議会に突撃するわけちゃう。」
「当たり前でやす。」
「でもさ。」
ケンは少し落ち着きを取り戻し、地図を見た。
危ない。
それは分かる。
けれど、連邦議会がある街なら。
昨日とは全く違う空気があるかもしれない。
「……どんな人がいるんだろ。」
ノンがケンを見る。
「もう行く気?」
「怖いけど。」
ケンは正直に答えた。
「だからこそ、ちょっと聞いてみたい。」
グレアーが眉間を押さえる。
「坊主はそういうところだけ変に度胸ついてきやしたね……。」
「でもケンの言うことも分かるわ。」
ノンもキャピタリアの地図を見る。
「昨日とは全然違う声が聞けるかもしれない。」
「決まりやな。」
@kiがパンッと手を叩いた。
「ほな、今回はちょっとやり方変えよ。」
「やり方?」
「普通に街角でカメラ向けるんやなくて。」
@kiは自分の端末を取り出し、何かを操作し始めた。
「大学生の街頭インタビューみたいな形にする。」
「大学生?」
「キャピタリアの近くに大学いくつもあるやろ。」
画面に学生証らしきデータが表示される。
「近隣大学の学生ってことにして、社会調査の撮影って体で行けばええ。」
ケンは表示されたものを見た瞬間、何とも言えない顔になった。
「……また偽装ID。」
「なんや、その顔。」
「嫌な思い出がある。」
横にいたノンがすぐに思い出した。
「ケイン=オオカワ。」
「その名前出すなよ!」
ケンが勢いよく振り向く。
「何だそりゃ。」
おやっさんが笑う。
「リボーンで使った偽名。」
「しかも写真まで酷かったんだよ!」
「通ったならええやん。」
@kiが笑いながら言う。
「よくない!」
「今回はもっと自然やで。」
「ほんと?」
「ほら。」
@kiが新しいIDを表示した。
ケンが覗き込み。
「……。」
黙った。
そこに写っていたのは。
昨日の女装姿のケンだった。
「まともじゃない!」
「めちゃくちゃまともやろ!」
「俺、女じゃないんだけど!」
「でも昨日誰にもバレへんかったやん。」
「そういう問題じゃない!」
ノンが笑いを堪えながら、自分の学生IDも確認する。
「私のは普通ね。」
「なんでノンだけ普通なの!?」
「普段から女だからでしょ。」
「それはそうだけど!」
ケンが頭を抱れている横で、ジーナが自分の分を確認した。
「……私は?」
「お目付け役。」
@kiが即答した。
「大学の講師って設定や。」
「講師。」
ジーナは表情を変えなかった。
ただ。
視線が自分のメイド服へ落ちる。
「では、この服装で。」
「駄目。」
ノンが即答した。
「……お嬢様?」
「そのメイド服で大学生の引率してたら目立ちすぎるわ。」
「ですが。」
「お願い、ジーナ。」
ノンが両手を合わせる。
「今回は本当に目立たない方がいいの。」
「……。」
ジーナは困ったように黙った。
普段なら迷うことなくノンの頼みを受け入れる彼女が、珍しく即答しない。
「お嬢様。」
「何?」
「メイド服以外を着用する必要が、本当にございますでしょうか。」
「ある。」
「……。」
「お願い。」
ノンにもう一度言われ。
しばらくの沈黙の後。
ジーナは小さく息を吐いた。
「……お嬢様がそこまで仰るのでしたら。」
「ありがとう!」
「ただし。」
「うん?」
「帰還後はすぐに着替えさせていただきます。」
「もちろん。」
数十分後。
着替えて戻ってきたジーナを見て。
部屋にいた全員が一瞬黙った。
落ち着いた色合いのシャツに細身のパンツ。その上からシンプルなジャケットを羽織り、長い黒髪も普段より少しだけ控えめにまとめている。
どう見ても。
普通の若い大学講師だった。
「……。」
ケンがじっと見る。
「何でしょう、ケン様。」
「いや。」
「はい。」
「普通の服、着るんだなって。」
「失礼ですね。」
「ごめん。」
ノンも珍しそうにジーナを見ている。
「私もあんまり見たことないかも。」
「お嬢様まで……。」
ジーナは本気で少し居心地が悪そうだった。
「やはりメイド服の方が落ち着きます。」
「今日は我慢して。」
「……承知いたしました。」
その様子を見ながら、おやっさんは声を立てて笑った。
「お前ら、街に出る前から面白ぇな。」
「おやっさんは行かないの?」
「行くかよ。」
おやっさんは即答した。
「こっちはダウトだ。」
「まだ応急修理しただけなんだぞ。」
近くに積まれた整備データを親指で示す。
「お前が街ほっつき歩いてる間に、少しでもまともに動けるようにしといてやる。」
「ありがとう。」
「礼は壊さず帰ってきてから言え。」
「……気をつけます。」
「それから。」
おやっさんは@kiを見る。
「ここの古いデータも見せてもらうぞ。」
「好きに見たらええ。ただし勝手に消したらシバく。」
「消すか!」
「ウチも今回は残るで。」
@kiが続けた。
「GKCも見なあかんし、ダウトのデータも掘りたいし、拾ってきたグラディウスもある。」
「来ないの?」
ケンが聞く。
「ウチはやることあんねん!」
「さっきまでずっとここにいたけど。」
「今から忙しなるんや!」
「都合いいなぁ。」
「うっさい!」
それ以上、誰も追及しなかった。
スコルも当然のように残る側へ回る。
「俺も行かねぇ。」
「まあスコルは無理だよね。」
「現役の連邦兵が指名手配犯と一緒に連邦議会の街でインタビューしてみろ。」
「翌日には俺の首が飛ぶ。」
「確かに。」
「お前、毎回それだけ納得早ぇな。」
グレアーは最後まで渋い顔だったが、行くこと自体を止めるのは諦めたらしい。
「通信はこっちで見やす。」
「何かあったら即撤収。」
「欲張って撮影続けようなんて考えないこと。」
「分かってる。」
「坊主。」
「……はい。」
「その返事、信用していいんでやすね?」
「頑張ります。」
「もう不安でやす。」
そんな準備を経て。
数日後。
ケン達はキャピタリアの街に立っていた。
昨日までいた小さな街とは、空気そのものが違う。
大通りには高層建築が並び、行き交う人の数も多い。大型モニターには地球連邦のニュースや議会関連の情報が流れ、遠くには政府施設らしい建物がいくつも見えた。
ケンは昨日と同じ女装姿。
ノンも大学生らしい服装へ変え。
ジーナは少し離れたところを歩きながら、引率役の講師として二人を見守っていた。
「……緊張する。」
ケンが小声で呟く。
「昨日より人多いものね。」
「それもあるけど。」
視線の先。
通りの向こうには。
普通に連邦兵が歩いている。
「軍人多くない?」
「議会のある街なんだから、そりゃいるでしょ。」
「分かってるけどさ……。」
「今から怖がってどうするの。」
「俺、指名手配されてるんだよ?」
「昨日から何回それ言うの。」
「何回でも怖いんだよ。」
ボイスチェンジャーを通した女の子の声でそんな会話をしている自分が、ケンは余計に情けなく思えてきた。
それでも。
ここまで来た以上。
何もせず帰るわけにはいかない。
カメラを構え。
最初に声を掛けたのは、買い物袋を持った若い男性だった。
「あ、あの……すみません。」
「ん?」
「近くの大学で、今の地球とコロニーの関係について街の人に話を聞いていて……。」
ケンの声は昨日以上に小さい。
けれど、それが逆に大学生らしく見えたのか。
男性はカメラを見た後。
「あんた達、ハロクル?」
「……え?」
一瞬。
ケンの頭が止まる。
男性が軽く笑う。
「86ちゃんTVだろ?」
「あ。」
そこでケンはすぐに合わせた。
「そ、そうです!」
少しだけ声を大きくする。
「まだ新人ですが、よろしくお願いします。」
「へぇ、頑張ってんな。」
男性は特に疑う様子もなく、撮影を了承した。
数分のインタビューを終え。
相手が去ったところで。
ノンがケンへ小声で聞く。
「さっきのハロクルって何?」
「ああ。」
ケンは周囲を気にしながら答えた。
「86ちゃんTVで配信してる人達の呼び方。」
「そんなのあるの?」
「結構前から。」
「86ちゃんTVのクルーってところから、ハロクル。」
「知らなかった。」
「ノン、配信とか見てなかったでしょ。」
「あなたほどはね。」
「俺だって昔は全然見てもらえてなかったけど……。」
「それは知ってる。」
「今それ言わなくていいじゃん。」
少しだけ肩の力が抜けた。
そんな二人を少し離れた場所から見ていたジーナが、周囲へ視線を巡らせながら静かに歩み寄る。
「お嬢様。」
「何?」
「次の方へ向かわれるのでしたら、あちらの通りの方が人通りはあります。」
「ありがとう、ジーナ。」
「ただし。」
ジーナの視線が一瞬だけ向かい側へ移る。
「連邦軍人も増えております。」
ケンの顔が強張る。
通りの先。
数人の兵士が談笑しながら歩いていた。
制服姿。
武器こそ構えていないが。
間違いなく地球連邦軍。
「……。」
ケンはじっと見た。
「ケン?」
ノンが様子に気付く。
「どうしたの?」
「いや。」
ケンはすぐには答えなかった。
昨日までなら。
近付かない。
それが一番だった。
自分を拘束する側。
見つかれば逃げなければならない相手。
でも。
今、自分達が聞こうとしているのは。
地球で暮らしている人達の声だけではない。
戦争が始まれば。
実際に戦場へ行くことになる人達もいる。
「……軍人にも。」
「え?」
「聞いてみてもいいかな。」
ノンの目が大きくなる。
「本気?」
「うん。」
「捕まったらどうするの。」
「それは怖い。」
「じゃあ。」
「でもさ。」
ケンはまだ兵士達を見ていた。
「戦争したくないって言ってる人が街にいるのは分かった。」
「じゃあ、実際に戦うことになる人達はどう思ってるんだろ。」
ノンは答えなかった。
少し離れた場所では。
連邦兵達がまだ普通に話している。
笑っている者もいる。
何か飲み物を持っている者もいる。
街を歩く普通の若者と。
見た目だけならそれほど変わらない。
「……聞いてみたい。」
ケンがもう一度言った。
ノンはしばらく兵士達とケンを交互に見ていたが。
やがて。
小さく息を吐いた。
「分かった。」
「ただし、少しでも怪しいと思ったらすぐ離れるわよ。」
「うん。」
「ジーナ。」
「承知しております。」
ジーナはすでに周囲を確認していた。
逃げられる方向。
人の流れ。
兵士達の位置。
全部。
ケンは一度だけ深く息を吸った。
カメラを持ち直す。
「……行ってくる。」
「私も行くわよ。」
「あ、そっか。」
「一人で行かせるわけないでしょ。」
二人は並んで歩き出した。
連邦兵達との距離が。
少しずつ。
縮まっていく。
胸の鼓動は。
さっきの一般人へ声を掛けた時とは比べものにならない。
それでも。
ケンは足を止めなかった。
聞かなければ分からない。
地球の街で暮らす人達だけではなく。
戦争になれば銃を持つ人達が。
今。
何を考えているのか。
その答えを。
自分の耳で聞くために。