機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
キャピタリアから戻ったケン達は、これまで地球で撮影してきた映像を一本の動画にまとめることにした。
地球へ降りてから訪れたいくつかの街で聞いた人々の声。そしてキャピタリアで聞いた市民や地球連邦軍の兵士達の声。
撮影した映像はかなりの量になっていた。
戦争なんてしたくない。
出来ることなら話し合いで終わってほしい。
家族を戦場へ行かせたくない。
そんな声がある一方で、コロニー国家連合が艦隊を展開している以上、地球連邦も備えなければならないという声もある。
もし戦争になれば、家族や故郷を守るために戦うしかない。
何人もの人が、形こそ違えど似たようなことを口にしていた。
ケンとノンはその中から、今回の動画で使う映像を一つずつ選んでいった。
もちろん、撮影したもの全てを使えるわけではない。
中には――。
『地球という大地を離れ母なる地球の恩恵を忘れた恩知らずの連合共に鉄槌を!』
「……。」
「……。」
モニターの中では、キャピタリアで声を掛けた地球連邦議会の議員が熱弁を振るっている。
ケンが無言で映像を止めた。
「これは。」
「使わない。」
「即答ね。」
「だって昨日も無理って言ったじゃん!」
「そうだったわね。」
「途中からインタビューじゃなくなってたし。」
ケンはその映像を候補から外した。
そして。
今回の動画で二人が特に長く残すことにしたのが、キャピタリアで話を聞いた二人の連邦兵だった。
モニターの中で、あの兵士が答えている。
『そりゃ、やりたくはないよ。』
戦争はしたくない。
それなのに。
命令が出れば戦う。
家族がいる。
故郷がある。
仲間がいる。
守るために戦う。
昨日、自分の耳で聞いたばかりの言葉だった。
それでも編集のために何度も見返していると、そのたびにケンの中へ同じ引っ掛かりが戻ってくる。
『やりたくなくても、やらなきゃいけないのが大人だ。』
『そして、一度動き出したら止まれないのが軍というものだ。』
『やりたくないとか、そんな簡単な問題でもないのかもな。』
「……。」
ケンは黙って画面を見ていた。
「ここは長めに使う?」
ノンが聞く。
「うん。」
返事はすぐだった。
「ここは……ちゃんと見てもらいたい。」
「分かった。」
ノンもそれ以上は何も言わなかった。
編集を終えた二人は、インタビュー映像の前後に入れる部分の撮影を始める。
カメラの前には、いつもの赤ずきん。
そして。
その隣には。
キャピタリアでインタビューをしていた時と同じ姿のケンが座っていた。
帽子を被り。
髪をまとめ。
体型が目立ちにくい服を着て。
薄く化粧までしている。
街中では大人しそうな女子学生を演じていた姿。
「……やっぱこれで撮るんだよね。」
「その方が分かりやすいでしょ。」
「分かってるけどさぁ。」
ケンが帽子のつばを触る。
「準備いい?」
「……はい。」
「じゃあ始めるわよ。」
ノンが撮影を開始する。
赤ずきんがカメラへ向き直った。
「皆さん、こんにちは。赤ずきんです。」
いつもの落ち着いた挨拶。
そして。
隣に座る女の子へ顔を向ける。
「そして。」
「どうもー! ケンケンです!」
勢いよく手を上げる。
ただし。
聞こえてきたのは若い女の子の声だった。
ボイスチェンジャーを通した声で、いつもの調子で名乗っている。
「……って、誰だよって思いましたよね?」
「思うでしょうね。」
「今回はですね!」
ケンケンは自分の姿を両手で示した。
「地球連邦にバレて捕まらないように、こんな格好で街へ行ってきました!」
そう言ってから。
ボイスチェンジャーを切る。
「はい! ここからいつもの声に戻りまーす!」
姿は女の子のまま。
声だけがいつものケンケンへ戻る。
赤ずきんが横からケンケンを見る。
「案外ノリノリじゃない。」
「え?」
「あんなに恥ずかしそうにしてたのに。」
「めっちゃ恥ずかしかったよ!」
ケンケンは照れたように笑った。
「今だって恥ずかしいからね!」
「そうは見えないけど。」
「なんかカメラ回ると大丈夫なんだよ!」
「さすがケンケンね。」
「どういう意味!?」
いつものようなやり取り。
赤ずきんも小さく笑ってから、改めてカメラへ向き直る。
「今回は、地球のいくつかの街を回ってきました。」
「そこで!」
ケンケンが続ける。
「実際に地球で暮らしている人達が、今の地球とコロニーの状況についてどう思っているのか、直接話を聞いてきました!」
「そしてキャピタリアでは、地球連邦軍の兵士の方にもインタビューすることができました。」
「いやぁ、あれは緊張した!」
「自分から行くって言ったのに。」
「だって捕まえる側の人だよ!?」
「言い出した後で気付いたの?」
「気付いてたよ!」
赤ずきんが少し呆れたようにケンケンを見る。
ケンケンも笑っていたが。
すぐにカメラへ向き直った。
「ということで。」
赤ずきんが続ける。
「私達が実際に聞いてきた地球の人達の声を、皆さんにも見ていただこうと思います。」
「それでは!」
「動画をどうぞ。」
二人の声と共に。
画面が切り替わった。
地球の街。
子供を連れた母親が、少し困ったように笑っている。
『戦争なんて嫌ですよ。子供もいますし。』
『この子が大きくなるまで、普通に暮らせればそれでいいです。』
別の街。
仕事帰りらしい男性。
『そりゃ戦争なんてしたくないですよ。』
『でも、向こうが艦隊を出してるんでしょう? こっちだけ何もしないってわけにもいかないんじゃないですか。』
若い女性は、不安そうな表情で答えた。
『怖いです。地球が戦場になるなんて考えたこともなかったから。』
『話し合いで終わってくれたら、それが一番です。』
別の男性。
『コロニー側にも事情はあるんでしょうけどね。』
『でも、こっちにも家族がいるんで。何かあったら守らなきゃいけないとは思います。』
人も。
場所も。
答え方も違う。
それでも。
何度も。
同じ言葉が聞こえてくる。
戦争はしたくない。
そして映像は。
キャピタリアへ移った。
軍人の家族だという女性。
『夫が軍にいるんです。』
『戦争なんて絶対嫌ですよ。子供もいますし。』
『でも本人は、命令が出たら行くって言ってます。軍人だからって。』
それから。
映像には二人の地球連邦兵が映った。
ここまでのインタビューよりも。
少し長く。
編集せずに会話が続く。
『今、コロニー国家連合との緊張がかなり高まってますけど。』
女の子の声。
『もし、本当に戦争になったら……どう思いますか?』
若い方の兵士が困ったように笑った。
『どうって言われてもなぁ。』
少しだけ肩をすくめる。
『そりゃ、やりたくはないよ。』
『え?』
『戦争。好き好んで行きたい奴なんて、そうはいないだろ。』
隣の兵士も頷く。
『俺もしたくない。』
質問する側が。
少し黙る。
『じゃあ……。』
『ん?』
『もし、戦えって命令が出たら?』
『戦う。』
迷いのない答え。
『……戦争、したくないんですよね?』
『したくないさ。』
『じゃあ、なんで……。』
兵士は怒らなかった。
『家族がいる。』
『故郷もある。仲間もいる。』
『守るためだ。』
隣の兵士も続ける。
『俺達が戦わなきゃ、その代わりに誰かが戦うことになるしな。』
そこで。
質問する女の子の声が途切れる。
少し迷った後。
『あの……。』
『ん?』
『が、ガンダムの人の……ど、動画で……見ました。』
兵士の眉が上がる。
『ガンダム?』
『はい。』
『コ、コロニー連合の兵士さんも……同じこと言ってました。』
二人の兵士が顔を見合わせる。
『……あの動画見たのか?』
『は、はい。』
年上の兵士は。
少しの間。
何も言わなかった。
やがて。
『そうだな、お嬢ちゃん。』
ゆっくりと口を開く。
『好き好んで戦いたい奴なんて、そんなにいないかもしれない。』
『話し合いで済むなら、それがいいな。俺も動画は見た。』
そこで。
少しだけ表情が変わる。
『でもな。』
『アイツらとは立場や主義主張、守るべきものが違う。』
『やりたくなくても、やらなきゃいけないのが大人だ。』
『そして、一度動き出したら止まれないのが軍というものだ。』
兵士は。
小さく息を吐いた。
『やりたくないとか、そんな簡単な問題でもないのかもな。』
横から。
『ヒュー、言うねぇ。』
『茶化すな。若者の問いに答えるのも大人の役目だろ。』
兵士が苦笑する。
そして。
『こんなことでインタビューにはなったかな? 俺達もまだ勤務中なんでな。そろそろ失礼させてもらうよ。』
『あ、はい! ありがとうございました!』
二人の兵士が敬礼する。
その姿を最後に。
インタビュー映像は終わった。
画面が切り替わる。
再び。
赤ずきんとケンケン。
ただし。
「もう着替えたの?」
赤ずきんが隣を見る。
そこにいるのは。
もう女子学生姿のケンケンではなかった。
オレンジ色のツナギ。
上げた髪。
目元には細身の非透過ゴーグル。
いつものケンケンだった。
「着替えたよ!」
「女装、可愛かったのに。」
赤ずきんが少し残念そうに言う。
「もう女装は懲り懲りだよ!」
「似合ってたのに。」
「途中バレかけてたし!」
「あれは焦ったわね。」
二人の頭に。
同じ言葉が蘇る。
『姉ちゃん、気は弱そうだけど、よく見ると結構体格いいな。』
あの時。
ケンケンは完全に固まった。
「いやぁ……あれは本当に焦った。」
「私もよ。」
「ナイスフォローでした。」
ケンケンが赤ずきんへ手を合わせる。
「どういたしまして。」
赤ずきんが少し得意そうに答える。
ケンケンも笑う。
けれど。
その笑顔は。
長く続かなかった。
「……今回の動画でも。」
少しずつ。
声が変わる。
「今までの動画でも。」
「戦争をしたくないって言っている人が、大半でした。」
赤ずきんも。
何も言わずに聞いている。
「地球でも。」
「コロニーでも。」
「普通に暮らしてる人も。」
「軍人さんも。」
「みんな戦争したくないって言うんです。」
一度。
俯く。
「でも!」
突然。
ケンケンが顔を上げた。
「みんな、その後に『でも』が付くんです……。」
赤ずきんが隣を見る。
「でも、コロニー側が。」
「でも、地球が。」
「でも、相手が。」
声が。
少しずつ強くなる。
「でも。」
「でも。」
「でも。」
「でも……!」
ケンケンの手に力が入る。
「みんな本当に戦争したくないんだよね?」
カメラへ問い掛ける。
「じゃあ。」
「でもってなんだよ!」
「したくないなら、しないでいいじゃん!」
「ケンケン。」
赤ずきんが声を掛ける。
「落ち着いて。」
けれど。
止まらなかった。
「俺が原因でこんなことになってるんだけど!」
声が震える。
「だからこそ俺は戦争を止めたい!」
キャピタリアから帰ってきて。
ずっと。
胸の中に残っていた。
戦争したくないだけじゃ。
ダメなのかもしれない。
それでも。
戦争したくないと言っている人達が。
どうして戦うことを受け入れようとしているのか。
ケンケンには。
まだ理解できなかった。
「動画で声を集めれば。」
「みんなが戦争したくないって言ってるのを見せれば。」
「それで止められるって思ってました!」
赤ずきんは。
もう止めようとはしなかった。
「でも……。」
ケンケンは。
カメラを真っ直ぐ見る。
「本気で止めたいって。」
「本気で戦争したくないって思ってる人。」
「どれだけいますか?」
呼吸が。
少しずつ乱れていく。
「もしかしたら。」
「あなた達の大切な人が。」
「家族が。」
「友達が。」
「死んでしまうかもしれないんですよ!」
そこで。
声が詰まった。
「俺は……。」
握っていた手を見る。
「俺は最初に。」
「コロニー連合の……名前も知らない兵士の人のMSを。」
「何も知らないままガンダムを動かして。」
「命を奪ってしまいました。」
隣にいる赤ずきんの表情が。
僅かに沈む。
「必死だったし。」
「あの時は、自分でも何が起きてるのか分かってませんでした……。」
一度。
言葉が止まる。
「でも。」
「今でも夢に見ます。」
ゴーグルの奥から。
涙が一つ。
頬へ落ちる。
「人を殺してしまうって。」
「怖いことなんです……。」
ケンケンは。
それでもカメラから目を逸らさない。
「戦争って。」
「そんなことが。」
「いっぱい起きるんです!」
声が上がった。
「だから!」
涙が。
もう一つ。
頬を伝う。
「だから……。」
さっきまでの勢いが。
急に弱くなる。
「みんなで止めましょう……。」
声が震える。
「だから……。」
「力を貸してください……。」
ケンケンは。
必死に言葉を続ける。
「みんなで。」
「戦争、止めましょう……。」
「ケンケン……。」
赤ずきんが。
そっと肩をさする。
「……ありがとう。」
ケンケンが小さく答える。
「赤ずきん……。」
それから。
カメラへ背を向けた。
ゴーグルを外し。
腕で涙を拭う。
赤ずきんは。
その背中を見つめた。
そして。
カメラへ向き直る。
「ケンケンが今言ってくれましたが。」
いつもの落ち着いた声。
けれど。
その声にも。
僅かに感情が滲んでいた。
「私達は、本気で戦争を止めたいと思って活動しています。」
赤ずきんは。
真っ直ぐ前を見る。
「ケンケンがガンダムを発見して。」
「それを動画にした原因は、私にもあります。」
一度。
息を整える。
「だからこそ。」
「私はその責任を果たしたいと思っています。」
「そのためにも。」
「皆さんの協力が必要です。」
赤ずきんは。
深々と頭を下げた。
「この戦争。」
「絶対に止めましょう……。」
「よろしくお願いします。」
そこで。
動画は終わった。
公開後。
反応が出始めるまでに。
ほとんど時間は掛からなかった。
「……すご。」
ケンがモニターを見つめる。
コメント欄が。
今までとは比較にならない勢いで更新され続けていた。
一つのコメントを読もうとしている間にも。
次。
その次。
さらにその次と。
新しい言葉が濁流のように流れ込んでくる。
《ケンケンめちゃくちゃキレてたな》
《あれ台本じゃないだろ》
《途中から本気で怒ってた》
《戦争したくない、でもって俺も言ってたかもしれない》
《連邦兵のインタビューめちゃくちゃ考えさせられた》
《コロニー連合の兵士も前に似たようなこと言ってなかった?》
《どっちも戦争したくないのにどっちも戦うって言ってる》
《連邦兵の言ってることも分かるんだよな》
《軍人なら命令が出たら戦うだろ》
《でもその結果誰かが死ぬんだぞ》
《その「でも」をどうするかって話なんじゃないの》
《簡単に戦争止めろって言われても無理だろ》
《理想論だと思う》
《理想論でも戦争始まるよりマシだろ》
賛成。
反対。
迷い。
反発。
色々な意見が。
入り乱れている。
その中には。
当然。
別のところに反応するコメントもあった。
《待てあの女子大生ケンケンだったの!?》
《全然気付かなかった》
《女装普通に可愛くて草》
《赤ずきんも一緒にいたのか》
《あの格好で連邦兵に突撃したのかよ》
《捕まったらどうするんだよ!》
《女装の話してたら後半で全部吹っ飛んだ》
そして。
ケンケン自身が口にした。
あの話にも。
多くの反応が集まっていた。
《ケンケン人を殺したことずっと抱えてたのか》
《あの状況なら仕方なかっただろ》
《仕方ないで本人が納得出来る話じゃないんだろ》
《今でも夢に見るって……》
《だからずっと殺さないように戦ってたのか》
《泣きながら言われたら何も言えない》
《俺はケンケンのやったこと全部正しいとは思ってない》
《でも戦争止めたいっていうのは本気なんだな》
ケンは。
流れていくコメントを黙って見つめていた。
泣いてしまったところまで。
そのまま使った。
今になって見返せと言われたら。
かなり恥ずかしい。
それでも。
あそこだけ切ろうとは思わなかった。
あの時に口から出た言葉は。
全部。
本当に思っていたことだった。
「……今までで一番多いんじゃない?」
ノンも画面を覗き込む。
「うん。」
「全然追えないわね。」
「速すぎるよ。」
それでも二人でコメントを追っていると。
ノンの目が。
ある一つの書き込みで止まった。
「ケンケン。」
「ん?」
「これ。」
ノンが画面を指差す。
ケンも身を乗り出した。
《今日キャピタリアで大学生だと思って話した連邦兵です。》
「……え?」
二人の目が。
同時に大きくなる。
《まさかあのお嬢ちゃんがケンケンだったとはな。全然気付かなかった。》
「……あの人?」
「たぶん。」
ケンは。
続きを読む。
《動画を見ました。俺が話したことは今も変わらない。》
《命令が出れば、俺は軍人として戦う。家族も故郷も仲間も守りたい。それは本心です。》
《でも、話し合いで終わってほしいというのも本心です。》
そこで。
一度文章が区切られている。
《“でも”の先を考えることくらいは、俺達にも出来るのかもしれないな。》
「……。」
ケンは。
そのコメントをじっと見つめた。
「……あの人だ。」
「そうみたいね。」
「見てくれたんだ。」
昨日。
自分が誰なのかも知らないまま。
一人の学生からの質問として。
真面目に答えてくれた兵士。
その人が。
今度はケンケンの言葉を聞いて。
返事をしてくれている。
さらに。
別のコメントが流れてきた。
《インタビューを受けた者です。》
《あの時は戦争なんてしたくない、でも仕方ないと言いました。》
《動画を見て、自分が何を「仕方ない」と思っていたのか考えています。》
また一つ。
《私も街でインタビューを受けました。まさか赤ずきんちゃんネルだったとは思いませんでした。》
《戦争は嫌だって言ったのに、その後に自分も「でも」って言ってました。》
ケンは。
その一つ一つを目で追った。
「……届いたのかな。」
小さく呟く。
ノンは。
すぐには答えなかった。
画面には。
今も反対する言葉が流れている。
戦争はそんなに単純じゃない。
現実を知らない。
軍には軍の役目がある。
コロニー側が先に艦隊を引くべきだ。
地球側が先に動くべきだ。
意見は。
全く一つになっていない。
「分からない。」
ノンが答える。
ケンが横を見る。
「でも――」
そこまで言って。
ノンが止まった。
「……。」
「……。」
二人の間に。
一瞬だけ妙な沈黙が流れる。
「今の『でも』は許して。」
ノンが少し困ったように言う。
ケンも。
思わず笑った。
「……うん。」
さっきまで泣いていた顔に。
ほんの少しだけ。
いつもの表情が戻る。
「少なくとも。」
ノンは改めてモニターを見る。
「考えてくれた人はいるんじゃない?」
「……そっか。」
ケンも。
画面へ視線を戻した。
コメントは。
まだ止まらない。
《戦争したくない》
《俺も》
《怖いよ》
《家族を戦場に行かせたくない》
《俺はまだケンケンの言ってること全部には納得してない》
《でも考える》
《止められるなら止めたい》
《どうやったら止められるんだ》
《俺達にも何か出来るのか?》
《戦争を止めたい》
ケンは。
何も言わずに。
その流れを見つめていた。
昨日。
キャピタリアから帰る時。
戦争したくないだけじゃダメなのかもしれない。
そう思った。
その答えは。
まだ分からない。
動画一本で。
軍が止まったわけでもない。
国同士の緊張が消えたわけでもない。
それでも。
ただ戦争をしたくないと口にするだけではなく。
その後に続く自分自身の「でも」について。
考え始めた人がいる。
画面の中では今も。
数え切れないほどの言葉が。
途切れることなく流れ続けていた。