機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
動画を公開してからも、赤ずきんちゃんネルには途切れることなくコメントが寄せられていた。
ケンは研究施設の一室でモニターの前に座り、その流れをぼんやりと眺めていた。
戦争を止めたい。
自分にも何か出来ることはないだろうか。
そう書き込む者がいる一方で、戦争になれば仕方がない、相手が武器を向けてくるなら戦うしかないという意見もある。
どちらか一方だけではない。
むしろ、一人の人間の中にその両方があるように思えた。
戦争はしたくない。
でも――。
キャピタリアで出会った連邦兵もそうだった。
話し合いで済むならそれがいい。
けれど、立場も主義主張も守るものも違う。やりたくなくてもやらなければならない時があり、一度動き出した軍は簡単には止まれない。
あの言葉が、今もケンの中に残っている。
「……。」
ケンは椅子に深く座り直した。
自分達がやってきたことに意味がなかったとは思わない。
色々な場所へ行き、色々な人の話を聞いた。
それを動画にして届けたことで、初めて考えたと言ってくれた人もいた。
自分の考えを見直してみると書いてくれた人もいた。
声は届いている。
それでも。
何かが足りない。
そんな感覚が、ずっと消えなかった。
人の声を集めて、動画にして、見てもらう。
その先に、まだ自分に出来ることがあるんじゃないか。
何をすればいいのかまでは分からない。
政治のことなんて分からないし、軍を動かすことも出来ない。
ただ一つ。
今の自分には、昔の自分にはなかったものがある。
ケンは顔を上げる。
視線の先にある壁の向こう。
格納スペースには、修理を受けたガンダムダウトがいる。
「……ガンダム。」
呟いてから、ケンはしばらく考え込んだ。
*
「ねえ、グレアー。」
しばらくして。
ケンは施設内にいたグレアーへ声を掛けた。
「なんでやす?」
「連邦軍の基地から、一番遠い街ってある?」
「……。」
グレアーの手が止まった。
近くにいたノンもケンを見る。
少し離れた場所で端末を弄っていた@kiまで顔を上げた。
「坊主。」
「うん。」
「なんでそんなことを聞くんで?」
「ちょっと行ってみたいんだけど。」
「どこへ?」
「街。」
「……何で?」
「ダウトで。」
「はぁ!?」
ノンの声が室内に響いた。
「ちょっと待って! 何言ってるの!?」
「だから、ダウトで街に――」
「そこは聞こえたわよ!」
ノンが椅子から立ち上がる。
「あなた、自分が国際指名手配されてるの忘れてないでしょうね?」
「忘れてないよ。」
「だったらなんでガンダムで街に行くって話になるのよ!」
「だから基地から遠い場所を聞いてるんだって。」
「そこまで考えておいて、なんで行くって結論になるの!?」
「まあまあ赤ずきん。」
@kiが面白そうに口を挟む。
「聞くだけ聞いたろや。ワッチもちょっと気になるわ。」
「あなたがそういう顔すると余計に不安になるのよ!」
「失礼な。」
「坊主。」
グレアーは騒ぐ二人には構わず、ケンを見ていた。
「理由を聞かせてもらえやすか。」
「……うん。」
ケンは少し迷ってから、近くの椅子へ腰を下ろした。
「俺さ。ずっと動画撮ってきたじゃん。」
「ええ。」
「色んな人の話を聞いて、それを見てもらって。実際、考えてくれた人もいた。」
ノンも黙ってケンを見る。
「だから、それをやめたいわけじゃないんだ。」
「じゃあ、どうして?」
「……声を集めるだけじゃなくて、俺自身にも何か出来ないかなって。」
「何かって?」
「それが分かんないから、とりあえず行ってみたい。」
「とりあえずでガンダムに乗って街へ行かないで。」
「でも俺、他に何が出来るか分かんないし。」
ケンは頭を掻く。
自分でも上手く説明出来ている気はしなかった。
ただ、考えれば考えるほど、ダウトの存在が頭から離れなかった。
「ダウトってさ。」
ケンは続ける。
「ずっと戦ってるんだよ。」
初めて動かした時も。
逃げた時も。
誰かを守ろうとした時も。
いつも相手にはMSがいて、武器があって、戦わなければならなかった。
「この前もスコルさんに教えてもらって、やっと自分で相手を殺さずに止められた。」
怖さが消えたわけではない。
自分の撃った弾が少しずれれば。
狙う場所を間違えれば。
機体の中には人がいる。
それは今でも怖い。
「でも、なんか……それだけじゃない気がするんだよ。」
「それだけ?」
「ガンダムって、戦うことにしか使えないのかなって。」
ノンが僅かに目を見開いた。
「こんなに大きくて、力もあるんだからさ。戦う以外にも何か出来るんじゃないかな。」
「例えば?」
「……荷物運ぶとか。」
「荷物?」
「いや、分かんないよ!? 今思いついただけだから!」
@kiが吹き出した。
「ガンダムで荷物運びかいな。」
「笑うなよ!」
「いやいや、ええやん。めっちゃ贅沢な運送屋や。」
「そういうんじゃなくて!」
ケンは少しむきになりながらも、言葉を続けた。
「何でもいいんだよ。何か重い物を動かすとか、壊れた場所を片付けるとか。困ってる人がいたら手伝うとか。」
そこまで言って。
ケンは少しだけ俯いた。
「俺、ガンダムを見つけたって動画にして……それがこんなことになる原因の一つになった。」
部屋の空気が僅かに変わる。
「だからって、俺に戦争を止める方法なんて分かんない。でも……。」
ケンはもう一度顔を上げた。
「戦争を止めたいって言うだけじゃなくて、ダウトで戦う以外のこともやってみたい。」
「それで、街へ?」
「うん。」
「……。」
ノンはすぐには答えなかった。
グレアーも黙っている。
最初に口を開いたのは@kiだった。
「ええんちゃう?」
「@ki。」
「だって、ガンダムが街に来て『戦いに来ました』やのうて『なんか困ってへん?』やろ?」
「そんな軽く言うつもりじゃないよ。」
「似たようなもんやん。」
「違う!」
@kiが笑う。
一方で、グレアーの表情は変わらなかった。
「坊主。考えそのものは分かりやすが、問題はそこじゃありやせん。」
「うん。」
「軍事基地から離れていれば安全、なんてことはありやせんよ。」
グレアーが端末を操作し、周辺地域の地図を表示する。
「警察もいやす。連邦軍の巡回部隊が近くを通る可能性もある。住民が通報すれば、当然軍にも情報が入りやす。」
「……うん。」
「ましてや、現れるのはガンダムダウトでやす。」
地球連邦にとって、無視出来る存在ではない。
そして、その搭乗者であるケン=大神は国際指名手配中。
見つかれば拘束される。
それは何も変わっていない。
「だから。」
ケンは地図を見る。
「すぐに軍が来られない場所がいい。」
「……。」
「絶対に来ない場所なんてないのは分かってる。でも、来るまで時間があるなら、その間に何か出来るかもしれない。」
グレアーがケンを見る。
以前なら。
危険だと聞いた時点で、ケンはもっと怯えていた。
今だって怖くないはずはない。
それでも、今回は逃げるための安全な場所を探しているのではない。
自分から動くために。
その危険を少しでも減らせる場所を探している。
「……私も行く。」
ノンが言った。
「え?」
「ダウトに一緒に乗る。」
「いや、でも狭いよ?」
「そこ!?」
ノンがケンを睨む。
「あなた一人で行かせる方が怖いのよ!」
「俺、そんなに信用ない?」
「ない。」
「即答!?」
「だって、現地で困ってる人に『ちょっとだけだから』とか言われたら、絶対予定にないこと始めるでしょ。」
「……。」
「ほら。」
「いや……その時はその時で……。」
「だから行くのよ!」
ノンは大きく息を吐くと、ケンの前へ指を立てた。
「その代わり、約束して。」
「なに?」
「絶対にダウトから降りない。」
「うん。」
「ハッチも開けない。」
「うん。」
「何かあったら私の言うことも聞く。」
「分かった。」
「軍が来たら?」
「……。」
「ケン。」
「分かってる。危なくなったら逃げる。」
「よろしい。」
「なんか子供扱いされてない?」
「されるようなことばっかりするからでしょ。」
横から@kiが笑う。
「お目付け役やな。」
「そうよ。」
「認めるんだ……。」
*
それからグレアーと@kiが周辺地域の情報を調べ、いくつかの候補を絞っていった。
大規模な連邦軍基地から距離があること。
MS部隊が常駐していないこと。
人口が密集し過ぎていないこと。
ダウトが街の中心部へ直接入らずに接近出来ること。
そして、何かあった時にはすぐに離脱出来る地形であること。
条件を重ねていくと、候補はそれほど多くなかった。
「ここなら比較的条件には合いやす。」
グレアーが地図上の一ヶ所を示した。
規模はそれほど大きくない。
街の周囲には開けた場所もあり、ダウトが建物のすぐ近くへ降りる必要もない。
「ただし。」
グレアーがケンを見る。
「何度も言いやすが、連邦軍が来ないとは言ってやせん。」
「分かってる。」
「情報が入れば、いずれ動きやす。」
「うん。」
「欲を出さないことです。何か出来たとしても、それで長居しようなんて考えないでくだせぇ。」
「分かった。」
「本当に?」
ノンまで確認してくる。
「分かったって!」
「坊主の『分かった』は信用ならねぇからな。」
別方向から声が飛んできた。
振り向くと、おやっさんが作業着のまま立っていた。
「おやっさん。」
「話は聞いたぞ。せっかく動けるところまで直したダウトで、今度は人助けだぁ?」
「……ダメ?」
「ダメとは言ってねぇよ。」
おやっさんは頭のタオルを直しながら、ケンを見る。
「ただし、街中でMS動かすなら戦闘とは違う意味で気ぃ遣え。あの図体じゃ、ちょっと手ぇ引っ掛けただけでも人間には洒落にならねぇ。」
「うん。」
「地面もだ。何でもかんでも踏んでいいわけじゃねぇぞ。」
「分かってる。」
「あと無茶してまた壊すな。」
「今日は戦いに行くんじゃないって。」
「お前の場合、そう言ってる時ほど何か起きそうなんだよ。」
「なんでみんな俺のこと信用しないんだよ!」
ケンの抗議に。
今度はノンまで笑っていた。
*
準備を終えたダウトが、ゆっくりと立ち上がった。
コクピットにはケン。
そして今回は、そのすぐ近くにノンも乗り込んでいる。
「……やっぱ狭い。」
「我慢して。」
「はい。」
ケンは操縦系を確認し、モニターへ目を向ける。
これから向かう先には敵はいない。
戦いに行くわけでもない。
なのに。
いつもの出撃とは違う緊張があった。
「ケン。」
「ん?」
「怖い?」
「……ちょっと。」
「そう。」
「ノンは?」
「怖いわよ。」
「そっか。」
「でも。」
ノンはケンを見る。
「行きたいんでしょ?」
「……うん。」
「なら行きましょ。」
ケンは小さく頷いた。
操縦桿を握る。
ダウトが歩き出した。
*
目的の街が見えてきた頃には、ケンの口数はすっかり減っていた。
遠くに並ぶ建物。
道路を走る車。
生活している人々。
戦場ではない。
本当に普通の街だった。
「……着いちゃった。」
「自分で来たんでしょ。」
「分かってるけどさ。」
ダウトは街の中心へは近付かなかった。
周囲に建物の少ない外れへ回り込み、ゆっくりと速度を落とす。
着地する場所を確認する。
人はいない。
車もない。
「ノン、下大丈夫?」
「大丈夫。もう少し右。」
「こっち?」
「そう。そのままゆっくり。」
巨体が慎重に地面へ降りる。
それでも。
ガンダムが現れたという事実だけで、街の空気は一変した。
道路を歩いていた人が足を止める。
車が速度を落とす。
遠くから端末を向ける者もいれば、慌てて建物の中へ入っていく者もいる。
当然だった。
突然、巨大なMSが街の外れへ降りてきたのだから。
「……逃げてる。」
「そりゃそうでしょ。」
「やっぱり怖いよな。」
「私だって、何も知らずに街でガンダム見たら逃げると思うわ。」
「……だよね。」
ケンは武器へ触れなかった。
機体もそれ以上動かさない。
まずは何もしないことを見せる。
しばらく待っていると、建物へ逃げ込まずに様子を見ていた人達が少しずつ増えてきた。
距離は遠い。
誰も近付いてはこない。
「……どうするの?」
「話してみる。」
「何て?」
「……。」
「考えてなかったの?」
「考えてたよ!」
「じゃあ言って。」
「実際目の前に人いると違うんだよ!」
「動画ではあれだけ喋るのに。」
「これは配信じゃないから!」
ノンが呆れたように笑う。
ケンは一度大きく息を吸った。
外部スピーカーを起動する。
『……あー。』
大きな声が街の外れへ響いた。
見ていた人々が一斉にダウトへ顔を向ける。
『す、すいません。』
「緊張し過ぎ。」
「しょうがないだろ。」
外部スピーカーを切らずに返事をしそうになり、ケンは慌てて口を閉じた。
「危なっ。」
「しっかりしてよ。」
「分かってる。」
もう一度。
ケンは外を見る。
『高い所からすいません。』
返事はない。
ただ、何人もの人がこちらを見上げている。
『えっと……戦いに来たわけじゃないです。』
その言葉に。
遠巻きにしていた人々の間で、僅かにざわめきが起きた。
『俺……このガンダムで、戦う以外に何か出来ないかなって思って。』
自分で言っていて。
妙なことを言っている自覚はあった。
ガンダムに乗って街へやって来て。
いきなりこんなことを言っている。
それでも。
ここまで来た。
『だから……。』
ケンは少し迷ってから。
結局、一番単純な言葉を選んだ。
『なにか、お困りごとはないですか?』
沈黙。
誰も答えない。
「……。」
「……。」
「ノン。」
「なに?」
「帰りたい。」
「早いわよ!」
「だってめちゃくちゃ恥ずかしい!」
「自分で言い出したんでしょ!」
その時だった。
「……困りごとって。」
外から声がした。
「え?」
ケンが顔を上げる。
少し離れた場所に、一人の男が立っていた。
まだ警戒している。
それでも逃げずにダウトを見上げていた。
「何でもいいのか?」
『あ、はい!』
思わず声が大きくなる。
『俺に出来ることなら!』
男は周囲にいた住民達と顔を見合わせた。
何かを話している。
やがて。
「だったら……ちょっと来てくれないか?」
『行きます!』
「ケン、待って。」
すぐにノンが止める。
「何するか聞いてから。」
「あ。」
危うくそのまま動かすところだった。
『すいません! 何すればいいですか?』
「この先なんだ。」
男が街の外側へ続く道を指差した。
「少し前の荒天で崩れた場所があってな。片付けは進んでるんだが、まだでかい瓦礫が残ってる。」
別の住民も口を挟む。
「重機も入ってるんだけど、手が回ってなくてな。道の一部がまだ使えないんだ。」
ケンとノンが顔を見合わせる。
「……行く?」
「まず場所を見ましょ。危なそうならやらない。」
「うん。」
『分かりました! 案内してください!』
*
ダウトは住民達から十分に距離を取りながら、ゆっくりと移動した。
街中へ踏み込まないように。
道路を壊さないように。
人や車の位置を確認しながら。
目的の場所には、確かに大きな瓦礫が残されていた。
崩れた構造物の一部らしく、人の手ではどうにもならないほど大きい。
作業用の重機も見えるが、それだけでは簡単には動かせないらしい。
「……これ?」
「みたいね。」
『これを動かせばいいんですか?』
「ああ! ただ、下に何があるか分からんから気を付けてくれ!」
『分かりました!』
答えたものの。
ケンはすぐには手を伸ばさなかった。
「ノン。」
「右側に人がいる。もう少し離れてもらった方がいいわ。」
『すいませーん! もうちょっと離れてください!』
住民達が後ろへ下がる。
「まだ。」
『もうちょっと!』
さらに下がる。
「そのくらいなら。」
「よし。」
ダウトがゆっくりと腰を落とす。
戦闘なら。
こんな動作を一つ一つ考えることはない。
だが今は違う。
腕を動かすだけでも、その先には人がいる。
力を入れ過ぎれば瓦礫が崩れるかもしれない。
「これ……戦うより緊張するんだけど。」
「だから慎重に。」
「分かってる。」
ダウトの手が瓦礫へ触れる。
掴む。
ゆっくりと力を掛ける。
重い。
それでも、MSの力なら動かせる。
「上がる。」
「右側、少し崩れてる。」
「見えてる。」
「急がないで。」
「うん。」
巨大な瓦礫が。
少しずつ地面から持ち上がった。
周囲から声が上がる。
「おお……!」
「持ち上がったぞ!」
「ケン、そのまま。振らないで。」
「分かってるって!」
ダウトは瓦礫を抱えたまま慎重に身体の向きを変え、住民達が指定した場所へ運んでいく。
そして。
ゆっくり。
地面へ下ろした。
鈍い音が響く。
ケンはすぐに周囲を見る。
「……大丈夫?」
「大丈夫そう。」
何も壊れていない。
誰も怪我をしていない。
それを確認した瞬間。
ケンの身体から力が抜けた。
「はぁぁ……。」
「一個運んだだけよ。」
「一個が怖いんだよ!」
その時。
外から声が聞こえた。
「ありがとな!」
ケンの動きが止まった。
さっきの男だった。
その周りにいる住民達も、先ほどまでとは表情が違っていた。
「助かったよ!」
「こっちも頼めるか?」
「これなら早く片付きそうだ!」
「……。」
ケンはモニター越しに。
その人達を見る。
ありがとう。
ガンダムに乗って。
そう言われた。
「ケン?」
「……うん。」
ケンは小さく笑った。
『まだありますか?』
「ああ!」
『じゃあ、やります!』
ダウトが再び動き始める。
今度は戦うためではない。
壊すためでもない。
困っている人達のために。
その大きな手を使うために。
*
それからしばらく。
ダウトは住民達に指示を受けながら、残っていた大きな瓦礫を一つずつ動かしていった。
最初は遠巻きにしていた人々も。
少しずつ近くへ集まり始めている。
もちろん、安全な距離は取ったまま。
それでも。
もう最初のように逃げる者ばかりではなかった。
「そっちじゃない! もうちょい左だ!」
『左!? こっち!?』
「逆だ逆!」
『こっちから見たらどっちですか!?』
「ケン、あなたから見て右。」
『ノンもっと早く言ってよ!』
「ちゃんと確認してから動かして!」
『はい!』
外から笑い声が聞こえた。
ケンもつられて笑う。
その時。
通信が入った。
『坊主。』
グレアーの声。
ケンは作業の手を止めないまま応答する。
「どうしたの?」
返ってきた声は。
それまでより低かった。
『連邦軍が動きやした。』
ケンの表情から。
笑みが消える。
隣にいたノンも、すぐに通信へ意識を向けた。
『そちらへ向かっていやす。』
「……何機?」
『MS部隊でやす。』
ケンは黙った。
モニターの向こうでは。
住民達がまだ次の瓦礫を指差している。
さっきまで怖がっていた人達が。
今はダウトを見上げながら。
普通に声を掛けてくれている。
「ケン。」
ノンが呼ぶ。
「……うん。」
ケンは操縦桿を握り直した。
来ることは分かっていた。
それでも。
実際にその時が来れば。
胸の奥が強く鳴る。
ケンは街の人々を見た。
そして。
遠くの空へ視線を向けた。