機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
それから、ダウトの改修作業が本格的に始まった。
@kiの拠点となっている廃棄研究施設には、長い間使われていなかったとはいえ、かつてMSの研究開発に使われていた設備が残されている。
おやっさんと@kiは施設内に残されたデータを調べながら、ダウトから得られた実戦データと照らし合わせ、使えるものを次々と引っ張り出していった。
格納庫ではダウトの装甲が各部で取り外され、内部フレームが露出している。
その足元ではケンも作業着姿で工具を手にしていた。
「おやっさん、これどこ?」
「そっちじゃねぇ。右だ、右。」
「こっち?」
「それはお前から見て左だ!」
「あれ?」
「坊主! 工専で何習ってたんだ!」
「色々だよ!」
「何一つ信用出来ねぇ答えだな!」
怒鳴られながらケンが部品を抱えて走っていく。
少し離れた場所では、端末を抱えた@kiがその様子を見て笑っていた。
「いやぁ、若者が怒鳴られながら働く姿はええのぉ。」
「お前も働け!」
「働いとるわ!」
おやっさんに怒鳴り返され、@kiも慌てて端末へ視線を戻した。
その横ではノン達も作業の様子を見守っている。
「本当に大丈夫なのかしら……。」
「どっちの意味でだ?」
スコルが聞く。
「ダウトも、この二人も。」
「そこは俺に聞くな。」
格納庫に、おやっさんと@kiの言い争う声が響く。
それでも作業そのものは確実に進んでいた。
これまでのダウトをそのまま直すだけではない。
今の形になってから蓄積された戦闘データ。
宇宙での戦闘。
地球へ降りてからの戦闘。
そして、以前よりも自分で考えてダウトを動かせるようになったケンの操縦。
それらを元に、今のケンに合わせて機体そのものを変えていく。
肩周辺には新たな構造が組み込まれ、胸部フレームにも補強が施されていく。腰回りにも新たな装甲が加えられ、脚部には機動性と姿勢制御を高めるための調整が入った。
背部も大きく手が加えられていた。
これまでのデータを元に、新たに組み直されたバックパック。
その左右に伸びるバインダーへ、おやっさんが新しいユニットを取り付けている。
ケンがその手元を覗き込んだ。
「それが?」
「ああ。」
おやっさんが固定具を締める。
「バインダー用のアンカーだ。」
左右に一基ずつ。
さらに両腕にもアンカーが組み込まれる。
これで合計四本。
ケンは右腕から左腕、そして背中の左右へ視線を動かした。
「本当に四本付けちゃった……。」
「付けるって話しただろうが。」
「話では聞いてたけど、実際見ると多いなって。」
「全部一遍に使えとは言ってねぇ。必要な時に必要なだけ使え。」
おやっさんはバインダー側のユニットを軽く叩いた。
「こっちの二本はAIに制御を渡せるようにしてある。」
「アイに?」
「……もうそれで呼ぶのか。」
「名前付けたんだから呼ぶよ。」
「好きにしろ。」
呆れながらも、おやっさんは作業を続ける。
「射出して終わりじゃねぇぞ。相手が動けばワイヤーも動く。ダウト本体の姿勢だって変わる。その辺りの細けぇ処理をAIに回す。」
「俺が相手を決めて、アイに動かしてもらう。」
「そうだ。」
「腕の二本は?」
「お前が使え。」
「やっぱり?」
「全部任せてどうすんだ。」
「分かってるけどさ。」
ケンが苦笑する。
以前なら、一本のアンカーを使うだけでも必死だった。
それが今度は四本になる。
それでも、不思議と以前ほど無理だとは感じなかった。
一人で全部を動かすわけではない。
自分が出来るところは自分でやる。
出来ないところは助けてもらう。
そのための四本だった。
*
数日後。
格納庫では、最後の調整が行われていた。
ケンが中へ入ると、そこにはノン、ジーナ、グレアー、スコルも集まっている。
「何? みんなして。」
「完成するって聞いたからよ。」
ノンが答える。
「坊主、ちょうどいいところに来やしたね。」
グレアーが格納庫の奥へ視線を向けた。
「そろそろ終わるみたいでやすよ。」
その先には、大きな整備用シートに覆われたダウトが立っていた。
足元では、おやっさんと@kiが最後の確認を続けている。
「よっしゃ! 数値は問題なしや!」
「こっちも終わった。」
おやっさんが工具を置く。
「坊主。」
「うん。」
「外すぞ。」
整備員達がシートへ手を掛ける。
ゆっくりと引き下ろされていく布の向こうから、まず頭部が姿を現した。
ケンは思わず息を呑む。
「……おお。」
ダウトだった。
見間違えるはずがない。
それでも、その姿は確かに変わっている。
基本となる姿を残しながら、肩周辺には新たな構造が加わり、胸部や腰回りも以前より整えられている。
脚部も改修され、背中には新たなバックパックと左右のバインダー。
両腕と二基のバインダーには、四本のアンカーが収められていた。
これまで戦いながら何度も手を入れられてきたダウトが、さらに先へ進んだ姿。
ケンは機体の足元まで歩いていき、ゆっくりと見上げた。
「……結構変わったなぁ。」
「今のお前に合わせた結果だ。」
隣へ来たおやっさんが答える。
「前と同じじゃ駄目なの?」
「お前自身、前と同じ乗り方してねぇだろ。」
「まあ……そうだけど。」
「だったら機体だけ昔のままにしておく理由もねぇ。」
おやっさんもダウトを見上げる。
「出力だけ上げりゃ強くなるなんて単純な話じゃねぇ。動かしやすくして、戦い続けられるようにして、お前がやりてぇことをやれるようにする。」
「俺がやりたいこと……。」
「殺さずに止めるんだろ?」
ケンは少し驚いた後、笑った。
「うん。」
「だったら、そのために使え。」
「……うん!」
「それと、坊主。」
おやっさんが格納庫の一角へ歩き出した。
「まだ一つある。」
「え?」
「付いてこい。」
ケン達が後を追う。
向かった先は、MS用兵装の整備区画だった。
天井には大型クレーンが走り、壁際には各種兵装を固定するための整備ラックが並んでいる。
その一基に、見慣れない長大な兵装が固定されていた。
「……これ?」
ケンが足を止める。
人間の身体など比較にもならない。
ダウトが手にして初めて武器として成立する、MS用の大型ライフルだった。
「坊主用だ。」
「俺っていうか、ダウト用でしょ。」
「細けぇこと言うな。」
ケンは下からその兵装を見上げた。
「今までのライフルと違う。」
「試作品だからな。」
「何が違うの?」
「撃つだけが能じゃねぇだろ。」
おやっさんが整備端末を操作する。
「近づいた時に、もう一本の手が欲しいって思ってな。ジャンクの寄せ集めだが、坊主の戦い方には合ってるはずだ。派手さはねぇが、使いやすくて壊れにくい。それが一番だ。」
ラック脇のモニターへ、兵装の構造図が表示された。
ライフルとしての形状から機構が切り替わり、銃身部から長いビーム刃が形成される。
「おおっ!」
「射撃だけじゃねぇ。近接戦になったら剣として使える。」
「ソードとライフル……。」
「ソードライフルだ。」
ケンが一瞬黙る。
「……そのまんまだ。」
「AIだからアイって付けた奴に言われたくねぇよ。」
「あれはいいの!」
後ろでノンが吹き出した。
「似た者同士じゃない。」
「どこが!?」
「名前の付け方だよ。」
スコルまで笑う。
「スコルまで!」
「うるせぇぞ、坊主。」
おやっさんは再び整備端末へ向き直った。
「出力は調整出来る。ライフルとして使う時も、剣として使う時もだ。」
ケンもモニターを見る。
「これも、殺さないように使える?」
「それを決めんのはお前だろ。」
ケンは一瞬だけ目を見開いた。
そして、先ほどまで見ていたダウトへ視線を戻す。
「……そうだった。」
「ああ。」
ケンはもう一度ソードライフルを見上げた。
「じゃあ、使ってみる。」
「壊すなよ。」
「最初に心配するのそこ!?」
「当たり前だ! どんだけ苦労して作ったと思ってんだ!」
その後、天井クレーンが動き出した。
整備ラックの固定具が解除され、ソードライフルが慎重に吊り上げられる。
人間の手では到底扱えない巨大な兵装が、クレーンによってゆっくりと格納庫を移動していく。
やがてダウトの前まで運ばれ、整備用マニピュレーターによって機体へ装備された。
*
全ての作業が終わった。
格納庫に立つダウトを、ケンは改めて見上げる。
四本のアンカー。
新しく組み直された機体。
そして、その手に握られたおやっさん特製のソードライフル。
ただ武器が増えただけではない。
これまで戦ってきた中で得たものが、今のダウトには詰まっている。
「坊主。」
おやっさんが背後から声を掛ける。
「乗ってこい。」
「もう動かしていいの?」
「起動確認だけだ。調子に乗って飛ばすんじゃねぇぞ。」
「分かってるよ!」
「お前の分かったは信用出来ねぇんだよ。」
「ひどくない!?」
ケンは昇降機へ乗り込む。
上昇していく足場からダウトの身体を眺め、やがてコックピットへ入った。
シートへ腰を下ろす。
操縦桿へ手を置き、メインスイッチを入れた。
低い起動音。
各部へ電力が流れ、暗かったモニターが一枚ずつ点灯していく。
機体情報が次々と表示された。
左右の腕部アンカー。
左右のバインダーアンカー。
ソードライフル。
新しくなった各部の状態。
そして、その全てを支える機体制御システム。
ケンは正面を見た。
昨日までなら、それをただの表示として見ていた。
今は違う。
ここには、自分一人では出来ないことを手伝ってくれる相手がいる。
返事はしてくれないけれど。
ケンは操縦桿を握り、少しだけ笑った。
「よし……。」
正面モニターに、格納庫の景色が映し出される。
「行こうか、アイ。」
返事はない。
ただ、ケンの操作に応えるように、新しくなったダウトの両眼が静かに光を灯した。