機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第七話 「出撃、ガンダムダウト」

 

 ベルーガ格納庫。

 

 警報が鳴り響く中、整備班は慌ただしく動き回っていた。

 

 だがその慌ただしさとは裏腹に、格納庫の中央に立つガンダムダウトはどこか頼りなく見えた。

 

 ジャンク装甲。

 

 左右非対称の外見。

 

 継ぎ接ぎだらけの外装。

 

 テープで固定された箇所。

 

 本来なら最新鋭機であるはずなのに、その姿はまるで廃品置き場から引っ張り出してきたMSだった。

 

「すまねぇな坊主」

 

 おやっさんが頭を掻きながら言った。

 

「本来ならもっとマシな状態で送り出してやりてぇんだが」

 

 ケンはガンダムを見上げる。

 

「仕方ないですよ」

 

「いや、仕方なくねぇ」

 

 おやっさんはため息を吐いた。

 

「俺達が持ってきたのはフレームだけだ」

 

 そう。

 

 ノン達が地球から奪い出したのはXF-Gフレームのみ。

 

 正規装甲もない。

 

 専用武装もない。

 

 予備パーツもない。

 

 あるのは骨組みだけだった。

 

「それでも何とかしたかったんだがな」

 

 おやっさんが部下から受け取ったライフルをケンへ見せる。

 

「これくらいしか用意できなかった」

 

 ブルーガ用ビームライフル。

 

 ただしそのままではない。

 

 塗装が変えられ、識別コードも削られている。

 

「偽装済みだ」

 

「連邦製だってバレないようにはしてある」

 

「まぁ気休めだがな」

 

 ケンはライフルを見る。

 

「ありがとうございます」

 

「礼は生きて帰ってから言え」

 

 おやっさんは笑った。

 

「帰ってきたら聞いてやる」

 

 ◇

 

 コックピット。

 

 ケンはシートへ座る。

 

 ディスプレイが起動する。

 

【PILOT KENKEN】

 

「だからケンケンじゃねぇって……」

 

 誰に言うでもなく呟く。

 

 その時。

 

 AI設定画面が表示された。

 

「ん?」

 

 ケンが首を傾げる。

 

 登録パイロット権限。

 

 そう表示されている。

 

「設定できるのか」

 

 画面を操作する。

 

 アシストモード。

 

 戦闘補助。

 

 ハッキング機能。

 

 大量の項目。

 

 工専で学んでいた知識を総動員しながら読み進めていく。

 

「アシストモード優先順位変更」

 

 入力。

 

【非推奨】

 

「うるさい」

 

 さらに入力。

 

 パイロット保護優先。

 

【非推奨】

 

「知らん」

 

 さらに設定を進める。

 

 ハッキング機能。

 

 敵機制御奪取。

 

 自壊誘導。

 

 同士討ち誘発。

 

 通信妨害。

 

 電子侵攻。

 

「なんだこれ……」

 

 ケンの顔が引きつる。

 

「戦争大好きかよ」

 

 ハッキング項目を開く。

 

 そして片っ端から制限を掛けていく。

 

 自壊機能。

 

 ロック。

 

【非推奨】

 

 同士討ち誘発。

 

 ロック。

 

【非推奨】

 

 生命維持装置への侵入。

 

 ロック。

 

【非推奨】

 

 敵機制御奪取後。

 

 一時行動不能化のみ許可。

 

【非推奨】

 

【非推奨】

 

【非推奨】

 

 画面に同じ文字が並ぶ。

 

「だからなんなんだよ」

 

 ケンは呆れる。

 

「どれだけ戦いたいんだお前」

 

 返事はない。

 

 だが。

 

 なぜか不満そうな空気だけは感じた。

 

 気のせいだろうか。

 

 ◇

 

 設定を終えた時だった。

 

 通信回線が開く。

 

『坊主』

 

 グレアーだった。

 

『すまねぇが奴さん動き始めやした』

 

 ケンの表情が引き締まる。

 

『そろそろ出れますかい?』

 

「多分……大丈夫です」

 

 正直大丈夫じゃない。

 

 だがそう言うしかなかった。

 

『十分です』

 

 グレアーが頷く。

 

『格納庫まで頼みやす』

 

 ◇

 

 ガンダムダウトがゆっくり歩く。

 

 ベルーガ格納庫。

 

 整備員達が道を開ける。

 

 カタパルト。

 

 発進位置。

 

 機体固定アームが足首を拘束する。

 

 ガシャン。

 

 重い音が響く。

 

 出撃準備。

 

 完了。

 

 ケンの心臓が早鐘を打つ。

 

 その時。

 

 通信が入る。

 

「聞こえる?」

 

 ノンだった。

 

「聞こえる」

 

 ケンは答える。

 

「寝覚めが悪いから」

 

 一瞬。

 

 言葉が止まる。

 

「ちゃんと生きて帰ってきなさいよ」

 

 ケンは苦笑する。

 

「死にたくはないし」

 

「ちゃんと帰ってきたいよ」

 

「なら帰ってきなさい」

 

「簡単に言うなよ」

 

「簡単よ」

 

 ノンは即答した。

 

「帰ってきなさい」

 

 それだけ言う。

 

 ケンは少しだけ笑った。

 

「分かった」

 

 通信が切れる。

 

 今度はグレアー。

 

『坊主』

 

「はい」

 

『五分だ』

 

 真剣な声だった。

 

『五分だけ戦え』

 

『その間にベルーガは離脱準備を終わらせる』

 

 ケンは頷く。

 

『そして五分経ったら戻れ』

 

『三分以内に帰還です』

 

「三分」

 

『三分です』

 

「帰れなかったら?」

 

 一瞬。

 

 沈黙。

 

 そして。

 

『置いていきやす』

 

 あまりにもあっさり。

 

 ケンの顔が引きつる。

 

『だから覚えておけ』

 

『五分戦う』

 

『三分で帰る』

 

『それだけです』

 

 ケンは何度も復唱する。

 

「五分戦う」

 

「三分で帰る」

 

「五分戦う」

 

「三分で帰る」

 

 呪文のように。

 

 繰り返す。

 

『それでいい』

 

 グレアーが笑う。

 

『生きて帰ってきな』

 

 通信終了。

 

 静かになる。

 

 コックピット。

 

 ケン一人。

 

 呼吸だけが聞こえる。

 

 怖い。

 

 逃げたい。

 

 帰りたい。

 

 だが。

 

 不思議だった。

 

 少しだけ。

 

 ワクワクしている自分もいた。

 

「一度やってみたかったんだよな……」

 

 昔から憧れていた。

 

 MSパイロット。

 

 ガンダム。

 

 戦場。

 

 もちろん現実はゲームじゃない。

 

 人も死ぬ。

 

 自分も死ぬかもしれない。

 

 それでも。

 

 今この瞬間だけは。

 

 少年だった。

 

 ケンは小さく笑う。

 

 そして操縦桿を握り直した。

 

 深呼吸。

 

 視線を前へ向ける。

 

「ケン=大神」

 

 一拍。

 

「ガンダムダウト」

 

 カタパルトが起動する。

 

 轟音。

 

 振動。

 

 全身へ伝わる圧力。

 

「出ます!」

 

 射出。

 

 身体がシートへ叩き付けられる。

 

 視界が一気に開ける。

 

 ベルーガが後方へ流れていく。

 

 目の前には漆黒の宇宙。

 

 そして。

 

 その先。

 

 二隻のケートス級戦艦が待ち構えていた。

 

 ガンダムダウトが宇宙へ飛び出す。

 

 直後。

 

 警報が鳴り響く。

 

 敵影。

 

 二十四。

 

 ソリダス中隊。

 

 その後方にはケートス級戦艦が二隻。

 

 完全な迎撃態勢だった。

 

「多いな……」

 

 ケンの顔が引きつる。

 

 そして。

 

 一機だけ目立つ機体がいた。

 

 両肩を青く塗装されたソリダス。

 

 頭部には一本角。

 

 隊長機だ。

 

『各機散開』

 

『ガンダムを包囲する』

 

 オープン回線から指示が聞こえる。

 

 ケンは唾を飲み込む。

 

「やるしかない……!」

 

 ライフルを構える。

 

 狙う。

 

 引き金。

 

 ビームが宇宙を走る。

 

 当然。

 

 当たらない。

 

 ソリダスは簡単に回避した。

 

『……?』

 

『なんだ今の射撃』

 

『素人か?』

 

『いや待て』

 

『ガンダムだぞ?』

 

 隊長機も困惑していた。

 

 動きがおかしい。

 

 戦術もない。

 

 照準も甘い。

 

 だが。

 

 ガンダムである事は間違いない。

 

『油断するな』

 

『囲め』

 

 二十四機のソリダスが連携して動く。

 

 さすが正規軍だった。

 

 距離を保つ。

 

 接触を許さない。

 

 包囲する。

 

 ケンは必死だった。

 

「うわっ!」

 

 右へ。

 

 左へ。

 

 回避。

 

 回避。

 

 回避。

 

 だが追いつかない。

 

 経験が違う。

 

 訓練量が違う。

 

 相手は軍人。

 

 こちらは学生。

 

 数秒後。

 

 ビームが左肩へ直撃した。

 

 爆発。

 

 ジャンク装甲が吹き飛ぶ。

 

「うわぁぁっ!」

 

 警告音。

 

 火花。

 

 視界が揺れる。

 

 その時だった。

 

【ASSIST MODE】

 

 表示。

 

「やめろ!」

 

 だが遅い。

 

 シートベルトが締まる。

 

 両腕が固定される。

 

「またかよ!」

 

 ガンダムダウトが動く。

 

 一直線。

 

 隊長機へ。

 

『速い!?』

 

 ソリダス隊長が叫ぶ。

 

 回避。

 

 間に合わない。

 

 ガンダムの手が肩へ触れる。

 

 バチッ。

 

 電流。

 

 次の瞬間。

 

 隊長機が停止した。

 

『なっ!?』

 

 通信途絶。

 

 推進停止。

 

 完全沈黙。

 

『隊長!?』

 

『応答してください!』

 

 中隊に動揺が走る。

 

 そして。

 

 ガンダムダウトは次の機体へ向かう。

 

 触れる。

 

 停止。

 

 また触れる。

 

 停止。

 

 また。

 

 また。

 

 また。

 

 冷静さを取り戻した機体が距離を取る頃には。

 

 六機。

 

 六機のソリダスが宇宙空間に漂っていた。

 

 ケンは画面を見る。

 

 生命反応。

 

 全機生存。

 

 安堵した。

 

「お前……」

 

 思わず呟く。

 

「ちゃんとやってくれてるんだな」

 

 先程設定した内容。

 

 殺さない。

 

 それを守っている。

 

 その時。

 

 通信が入る。

 

『坊主!』

 

 グレアーだった。

 

『時間でさぁ!』

 

『早く戻れ!』

 

『ベルーガの準備が出来やした!』

 

「え?」

 

 時計を見る。

 

 五分。

 

「もう!?」

 

 その瞬間。

 

 我に返る。

 

 だが。

 

 ガンダムダウトは止まらない。

 

 再びソリダスへ向かっていく。

 

「おい!」

 

 ケンが叫ぶ。

 

「そっちじゃない!」

 

 操縦桿を引く。

 

 動かない。

 

「ベルーガに帰るんだよ!」

 

 動かない。

 

「もう戦わなくていいんだ!」

 

 モニターに表示。

 

【非推奨】

 

「だから何が非推奨なんだよ!」

 

 さらに表示。

 

【非推奨】

 

「帰るぞ!」

 

 必死に叫ぶ。

 

「ダウト!!」

 

 ガンダムはもう一機へ触れる。

 

 停止。

 

 十二機目。

 

 その時。

 

 表示が変わった。

 

【帰還可能】

 

「……え?」

 

 ケンは周囲を見る。

 

 そして気付く。

 

 行動不能となり宇宙空間を漂うソリダス十二機。

 

 それらが壁のように並んでいる。

 

 その向こう。

 

 距離を取って警戒態勢の残ったソリダス十二機。

 

 ケートス級戦艦。

 

 そして。

 

 こちら側。

 

 ベルーガ。

 

「まさか……」

 

 砲線が通らない。

 

 ケートス級はベルーガを直接撃てない。

 

 沈黙したソリダスが盾になっていた。

 

 ガンダムダウトは。

 

 最初からそれをやろうとしていた。

 

『坊主!』

 

 グレアーの声。

 

『あと一分しか待てませんぜ!』

 

 ケンが操縦桿を握る。

 

 今度は動いた。

 

 素直に。

 

 ベルーガへ向かう。

 

「お前……」

 

 ケンはコンソールを撫でた。

 

「ちゃんと作戦理解してたんだな」

 

 返事はない。

 

 だが。

 

 少しだけ誇らしげに見えた。

 

 ガンダムダウトはベルーガ格納庫へ滑り込む。

 

 固定アーム。

 

 ロック。

 

 帰還成功。

 

『ギリギリ間に合いやしたね!』

 

 グレアーが笑う。

 

『ベルーガ!』

 

『ハイパーブースター起動!』

 

『総員対ショック姿勢!』

 

 次の瞬間。

 

 ベルーガ後部が眩く輝いた。

 

 青白い光。

 

 轟音。

 

 そして。

 

 常識外れの加速。

 

 ケートス級。

 

 ソリダス。

 

 全てが後方へ流れていく。

 

 宇宙戦艦の常識を置き去りにする速度で。

 

 ベルーガは戦場から消え去った。

 




ケートス級宇宙戦艦

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