機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~ 作:NageT
月周辺宙域。
コロニー国家連合軍のソリダスが放ったビームは、地球連邦軍のブルーガのコックピットを正確に貫いていた。
機体内部から噴き出した炎が装甲の隙間を押し広げ、次の瞬間、ブルーガは閃光と共に四散した。
つい数秒前まで、そこには一人の兵士がいた。
赤ずきんちゃんネルの配信を見て、戦争なんてしたくないと思っていた若い兵士が。
その命が、あまりにも簡単に失われた。
そして、その一発を境に、月周辺の空気は決定的に変わってしまった。
「ストーム3、応答しろ! ストーム3!」
地球連邦軍第八小隊ストームライツの隊長、ストーム1の呼びかけに返答はなかった。
通信回線に残っているのは、耳障りな雑音だけだった。
モニターには、ストーム3の機体を示していた識別表示が赤く点滅し、やがて消えていく。
隊長はその表示を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。
部下が死んだ。
それも、ほんの少し前まで同じ通信回線で言葉を交わしていた部下が。
「……隊長!」
ストーム2の声が飛び込んできた。
「連合機が発砲しました! ストーム3が……!」
「分かっている!」
思わず怒鳴り返したストーム1は、すぐに自分の声の大きさに気付いた。
怒鳴ったところで、死んだ部下が戻ってくるわけではない。
だが、目の前にはストーム3を撃墜したソリダスがいる。
その機体は、まだライフルを構えたままだった。
「ブレイブ2! 貴様、何をした!」
一方、コロニー国家連合軍第1小隊ブレーブスでも、隊長であるブレイブ1の怒声が響いていた。
「発砲するなと命令したはずだ!」
「ですが隊長! 先に撃ってきたのは連邦軍です! こちらの機体にも命中しています!」
「それでも撃つなと言った!」
ブレイブ1は、自分の部下が受けた攻撃を理解していた。
ブルーガの放ったビームはガンダムの肩を掠め、その先にいたブレイブ2のソリダスにも命中している。
最初に引き金を引いたのは連邦軍だった。
だが、ブレイブ2の反撃によって、一人の兵士が死んだ。
それもまた、変えようのない事実だった。
「……くそっ!」
ブレイブ1が吐き捨てた、その時だった。
『こちらストーム1! 連合軍機による友軍機撃墜を確認! 繰り返す、連合軍機による友軍機撃墜を確認!』
地球連邦軍の通信が、緊急回線を通じて周辺部隊へ伝わっていく。
『こちらブレイブ1! 連邦軍機からの先制攻撃を確認! 友軍機が被弾した! 現在、両軍が交戦状態にある!』
連合軍側からも報告が飛んだ。
どちらも、自分達が確認した事実を報告していた。
しかし、そこに至るまでの経緯は、それぞれの報告から少しずつ削ぎ落とされていた。
最初の一発が、なぜ放たれたのか。
撃たれた側が、なぜ反撃したのか。
誰が戦争を望み、誰がそれを止めようとしていたのか。
そんな事情が整理されるよりも早く、両軍の指揮系統は動き始めていた。
◇
地球連邦軍旗艦モビーディック。
艦橋の大型モニターには、月周辺に展開する両軍の配置が映し出されていた。
その一角で、連邦軍の識別信号が一つ消失している。
「第八小隊より緊急報告! 連合軍MSによる攻撃でブルーガ一機撃墜!」
「連合軍側にも被弾報告があります! 先制攻撃を受けたと主張している模様!」
「第八小隊、現在も連合軍部隊と対峙中!」
報告が相次ぐ中、艦橋の空気は急速に張り詰めていった。
つい先ほどまで、両軍は互いを牽制しながらも、発砲を避けていた。
赤ずきんちゃんネルの配信を受け、武器を下ろしたMSもいた。
現場では、まだ話し合いができるのではないかという期待さえ生まれかけていた。
だが、一機の撃墜によって、その均衡は崩れた。
「連合軍に警告を送れ! これ以上の攻撃は容認しない!」
「既に送信しています! ですが、連合軍側もこちらに攻撃中止を要求しています!」
「何だと!?」
艦橋に苛立った声が響く。
その間にも、前方に展開する連合軍のMS部隊が陣形を変え始めていた。
それを確認した連邦軍側も、次々と機体を前進させる。
双方が相手の動きを警戒し、相手が前へ出れば自分達も前へ出る。
互いに退くことを恐れた結果、両軍の距離は少しずつ縮まっていった。
◇
コロニー国家連合軍旗艦ベヒモスでも、状況は変わらなかった。
「連邦軍機による発砲を確認! 第1小隊ブレーブスの一機が被弾!」
「反撃によって連邦軍機一機を撃墜! 現在、連邦軍側が戦闘態勢へ移行しています!」
「こちらの先制攻撃ではないんだな?」
「はい! 最初に発砲したのは連邦軍機です!」
その報告を受け、艦橋では警戒態勢を強化する命令が飛び交った。
だが、連邦軍のブルーガがなぜ発砲したのか、詳しい事情を把握している者はほとんどいなかった。
ガンダムを確保するために接近した両軍。
その間で起きた、一瞬の誤射と反撃。
しかし、艦隊規模の戦力が向かい合うこの場所では、一瞬の判断が数百、数千の兵士の運命を左右する。
「連邦軍の動きは?」
「前衛部隊が接近しています! こちらを包囲するような動きも確認!」
「こちらも部隊を前進させろ! ただし、勝手な発砲は許可しない!」
命令が伝達され、連合軍のMS部隊が動き始める。
その動きを見た連邦軍側では、さらに警戒が強まった。
互いが互いを恐れ、その恐怖が新たな行動を生む。
既に、誰か一人の命令で収められる状況ではなくなりつつあった。
◇
両軍の最前線。
一機のブルーガが、ゆっくりとライフルを構え直していた。
コックピットの中では、若い連邦軍兵士が荒い呼吸を繰り返している。
「……本当に、やるんですか?」
通信回線に向かって問いかける。
返答したのは、同じ部隊を率いる指揮官だった。
「何がだ?」
「戦闘です。……俺達、本当に連合軍と戦うんですか?」
「命令が出ればな」
「でも……!」
若い兵士は言葉を詰まらせた。
つい先ほどまで、彼も赤ずきんちゃんネルの配信を見ていた。
画面に映し出されていたのは、戦争を望まない人々の声だった。
地球で暮らす人々。
コロニーで暮らす人々。
そして、自分達と同じように軍服を着た兵士達。
誰もが、戦争なんて起きてほしくないと願っていた。
「……俺、戦いたくありません」
ようやく絞り出した声は、ひどく小さかった。
「連合軍の奴らだって、別に俺達に何かしたわけじゃないでしょう? なのに、どうして……」
「口を慎め!」
指揮官の声が鋭く響いた。
「ここは戦場だ! 命令を無視して勝手に離脱すれば、敵前逃亡と見なされるぞ!」
「……っ!」
「敵前逃亡は銃殺刑だぞ! その意味が分からんのか!」
若い兵士は黙り込んだ。
怖かった。
目の前の連合軍も、これから始まる戦闘も。
そして、戦いたくないというだけで、自分が処罰されるかもしれないことも。
「……了解、しました」
震える声で返答し、操縦桿を握り直す。
モニターの向こうでは、連合軍のソリダスがこちらへライフルを向けていた。
そのコックピットにも、自分と同じような人間が乗っている。
そう考えた瞬間、引き金に掛けた指が動かなくなった。
◇
別の宙域では、連合軍の小隊が連邦軍の部隊と向かい合っていた。
「隊長……」
部下の一人が、通信回線で小さく呼びかける。
「何だ?」
「本当に撃つんですか?」
隊長はすぐには答えなかった。
正面には、数機のブルーガが展開している。
相手もこちらにライフルを向けているが、まだ発砲はしてこない。
どちらかが撃てば、間違いなく戦闘になる。
しかし、どちらも引き金を引く理由を見つけられずにいた。
「……お前、さっきの配信を見たか?」
隊長が尋ねる。
「赤ずきんちゃんネルですか?」
「ああ」
「……見ました」
「そうか」
短い返事の後、隊長は小さく息を吐いた。
「俺も見た」
部下達が黙る。
「正直なところ、俺だって戦いたくねぇ。こんなところで死ぬのも、誰かを殺すのも御免だ」
「隊長……」
「だが、命令を無視して逃げれば、それこそただじゃ済まん」
隊長は前方のブルーガを見つめた。
相手はまだ動かない。
「だから、ひとまず戦ってる振りだけしておけ。無茶に前へ出るな。帰還できる理由ができたら、さっさと引き揚げるぞ」
「……了解!」
部下達の声には、先ほどまでとは違う安堵が混じっていた。
命令に従わなければならない。
それでも、何とかして生きて帰りたい。
隊長自身も、その気持ちは同じだった。
彼らはライフルを構えたまま、前方の連邦軍を牽制し続けた。
撃たないために、撃つ構えを取る。
そんな奇妙な戦い方を選ぶ兵士達も、この戦場には確かに存在していた。
◇
さらに離れた場所では、一機のブルーガと一機のソリダスが、互いに距離を詰めながら向かい合っていた。
どちらもライフルを構えている。
照準は既に相手の機体を捉えていた。
引き金を引けば、恐らく命中する。
それほどの距離だった。
しかし、どちらの機体も撃たなかった。
ブルーガのコックピットで、連邦軍兵士は額に浮かんだ汗を拭った。
警告表示が点滅している。
目の前のソリダスは、いつ撃ってきてもおかしくない。
それでも、相手は撃ってこない。
「……なあ」
兵士は迷った末に、外部通信を開いた。
「そっち、聞こえるか?」
返答はない。
「聞こえてるんだろ?」
少しの沈黙。
やがて、雑音混じりの声が返ってきた。
『……何だ、連邦軍』
ブルーガのパイロットは息を呑んだ。
通信が繋がった。
それだけのことなのに、妙に胸が高鳴った。
「……俺は、戦いたくない」
『……は?』
「だから! 俺は戦いたくないんだよ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「お前らはどうなんだ!? 本当に俺達と戦いたいのか!?」
返事はすぐにはなかった。
ソリダスのライフルが、わずかに動く。
ブルーガのパイロットは反射的に身構えた。
だが、ソリダスの銃口は自分から外れていった。
『……俺だって、戦いたくねぇよ』
通信越しに聞こえた声は、思っていたよりも若かった。
『ついさっきまで休戦してたんだぞ。なのに、何でいきなり殺し合わなきゃならねぇんだ』
「……そうだよな」
『ああ』
ブルーガのパイロットは、ゆっくりとライフルを下ろした。
目の前のソリダスも、それに応えるように武器を下げる。
互いに相手を撃つことなく、二機はその場に留まった。
戦争は始まっていた。
それでも、少なくともこの二人の間では、戦闘は始まらなかった。
◇
しかし、月周辺の全ての兵士が、同じ判断を下せたわけではなかった。
前線の一角で、連邦軍のMS部隊が連合軍の接近を確認した。
相手は複数のソリダス。
ライフルを構えたまま、こちらへ向かってくる。
「敵部隊接近! 距離、急速に縮まっています!」
「警告を送れ! それ以上近付くなと!」
「送信しています! ですが、応答がありません!」
連邦軍側の指揮官は、モニターを睨みつけた。
連合軍の機体は止まらない。
その動きが攻撃のためなのか、単に陣形を整えようとしているだけなのか。
判断する時間は、ほとんど残されていなかった。
「……撃たれる前に撃て!」
「し、しかし!」
「友軍機が既に撃墜されているんだぞ! これ以上やらせるな!」
その命令を受け、一機のブルーガがライフルを発砲した。
放たれたビームが宇宙を走り、接近していたソリダスの肩部装甲を吹き飛ばす。
『敵襲! 連邦軍から攻撃を受けた!』
『反撃しろ!』
連合軍側からもビームが放たれた。
それを合図に、周辺のMSが次々と発砲を始める。
一発、二発。
そして、数え切れないほどの閃光が、月周辺の暗い宇宙を切り裂いていった。
ある機体は攻撃を避け、ある機体は盾で受け止め、ある機体は反撃のためにライフルを構える。
その中で、一機のソリダスが直撃を受けた。
胴体から火花が噴き出し、姿勢を崩した機体が回転しながら流されていく。
『被弾! 機体制御が……!』
パイロットの悲鳴が通信に混じった。
だが、その声は次の爆発音に掻き消された。
さらに別の場所でも、ブルーガが撃墜される。
損傷した機体を援護しようとした僚機が敵の射線に入り、その僚機を守ろうと別の機体が前へ出る。
攻撃と反撃。
援護と迎撃。
一つの戦闘が、別の戦闘を呼び起こしていく。
最初は限られた範囲で起きていた交戦が、次第に周辺部隊へと広がっていった。
そして、ついに艦隊同士の間にも、長距離砲撃の閃光が走り始めた。
◇
ベルーガのブリッジ。
大型モニターには、月周辺の戦況が刻一刻と映し出されていた。
赤と青の識別表示が入り乱れ、交戦を示す警告が次々と増えていく。
「連邦軍前衛部隊、交戦開始!」
「連合軍側も応戦しています! 複数の宙域で戦闘を確認!」
「両軍艦艇からの砲撃も始まりやした!」
グレアーが次々と入ってくる情報を読み上げる。
その声には、普段の余裕がなかった。
ノンはモニターを見つめたまま、唇を噛んでいた。
つい先ほどまで、確かに希望はあった。
配信を通じて集まった、一千万件を超える反戦の声。
武器を下ろした兵士達。
敵同士でありながら、戦いたくないという気持ちを伝え合った人々。
その全てが、戦争を止める力になると信じていた。
だが、目の前では戦闘が広がっている。
画面の中で、一つの識別表示が消えた。
続いて、もう一つ。
さらに、もう一つ。
「……どうして」
ノンの口から、小さな声が漏れた。
「どうして……こんなことに……」
誰も答えられなかった。
戦争を止めたいという声は、確かに届いていたはずだった。
それなのに、両軍は撃ち合っている。
命令を受けた兵士達が、互いに武器を向けている。
その中には、戦いたくないと思っている者もいるはずなのに。
「……お嬢」
グレアーが声を掛ける。
だが、その先の言葉は続かなかった。
何を言えばいいのか、分からなかった。
◇
その頃、ガンダムダウトのコックピットでは、ケンが目の前の光景を呆然と見つめていた。
モニターの向こうで、ビームが飛び交っている。
連邦軍のブルーガが、連合軍のソリダスへ向けて発砲する。
ソリダスが回避し、反撃する。
そのビームが別のブルーガの腕を吹き飛ばし、損傷した機体が回転しながら後退していく。
ケンは、その全てを見ていた。
「……何でだよ」
声が震えた。
「何で……戦ってんだよ……」
ついさっきまで、武器を下ろしていた兵士達がいた。
戦争なんてしたくないと、声を上げていた人々がいた。
自分達の配信を見て、考えを変えてくれた人達がいた。
それなのに。
今、目の前では殺し合いが始まっている。
「……止めようって、言ったじゃん」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
「みんな……戦争なんて嫌だって……」
ケンは操縦桿を握り締めた。
モニターの端で、一機のソリダスが撃墜される。
爆発の光が消えるよりも早く、別の場所でブルーガが被弾した。
救難信号が飛び交っている。
助けを求める声。
仲間を呼ぶ声。
攻撃を命じる声。
その全てが、同じ通信空間に入り乱れていた。
「……俺達、何のためにここまで来たんだよ」
ケンは俯いた。
あの日。
廃工場で見つけた、正体の分からないフレーム。
そこにジャンクの外装を取り付けて、ガンダムを見つけたと動画を投稿した。
ちょっとした冗談のつもりだった。
誰かに見てもらいたかった。
再生数が増えれば嬉しかった。
それだけだった。
まさか、あの動画がこんなことになるなんて、考えもしなかった。
戦争が始まるなんて。
人が死ぬなんて。
自分が、こんな場所に立つことになるなんて。
「……俺の、ウソから……」
言葉が喉に引っ掛かった。
戦争を始めたのは自分ではない。
引き金を引いたのも自分ではない。
それでも、あの動画が全ての始まりだったという思いは、どうしても消えなかった。
ケンは顔を上げた。
モニターには、戦闘を続ける両軍のMSが映っている。
その中には、先ほどまで武器を下ろしていた機体もいるのかもしれない。
命令に従わなければならず、仕方なく戦っている兵士もいるのかもしれない。
そう考えた瞬間、胸の奥に別の感情が込み上げてきた。
「……違うだろ」
小さく呟く。
「こんなの……違うだろ……!」
ケンは通信回線を開いた。
「ノン!」
『ケン!?』
ノンの声がすぐに返ってきた。
『今どこにいるの!? 周囲で戦闘が始まってる! 早くベルーガに戻って!』
「……戻れない」
『え?』
「こんなの見て、戻れるわけないだろ!」
思わず声が大きくなった。
『ケン、落ち着いて! 今あなたが飛び込んでも、どうにかなる状況じゃない!』
「分かってるよ!」
ケンは叫んだ。
「分かってるけど……!」
言葉が続かなかった。
何をすればいいのか、まだ分からない。
どうすれば戦争を止められるのか。
どうすれば、目の前の兵士達を助けられるのか。
そんな答えは、どこにもなかった。
だが、一つだけ分かっていることがあった。
自分には、ダウトがある。
敵の機体に干渉し、制御を奪うことができる。
相手を殺さずに、動きを止めることができる。
全てを止められるかどうかなんて、分からない。
それでも、何もしないまま見ていることだけはできなかった。
「……ノン」
『……何?』
「俺、行くよ」
『待って! ケン!』
ノンの声が鋭くなる。
『何をするつもりなの!?』
「……止める」
『ケン!』
「戦ってる奴らを、止めるんだよ!」
ケンは操縦桿を握り直した。
ダウトのモニターに、周辺のMSを示す識別表示が次々と浮かび上がる。
連邦軍。
連合軍。
どちらも、今まさに戦っている。
だが、ケンにはもう、どちらが敵でどちらが味方なのかなんて関係なかった。
どちらの機体にも、人が乗っている。
帰りを待っている誰かがいる。
死にたくないと思っている人間がいる。
だったら。
どちらも止めればいい。
『坊主! 無茶はやめなせぇ!』
グレアーの声が割り込んできた。
『今の戦域に単機で突っ込むなんざ、自殺行為でやす!』
「……でも、俺なら止められるかもしれない」
『坊主!』
「ダウトなら……できることがあるんだ!」
ケンは正面を見据えた。
遠くでは、今もビームの閃光が走っている。
誰かが撃ち、誰かが撃たれる。
その繰り返しが、終わる気配もなく続いていた。
怖くないわけじゃなかった。
自分が撃たれるかもしれない。
ダウトが壊されるかもしれない。
今度こそ、本当に死ぬかもしれない。
それでも、ケンは操縦桿から手を離さなかった。
「……俺が始めちゃったんだ」
小さく呟いた。
「だったら……」
ダウトのスラスターが点火する。
機体がゆっくりと向きを変え、戦闘の激しい宙域へ正面を向いた。
『ケン! お願い、待って!』
ノンの声が響く。
だが、ケンはもう迷わなかった。
目の前で起きていることを、これ以上見過ごすわけにはいかなかった。
あの日、自分が付いた小さなウソ。
そこから始まった全てが、ついに本当の戦争になってしまった。
だからこそ。
その戦争を、終わらせなければならない。
ケンは操縦桿を強く握り締め、正面に広がる戦場を睨みつけた。
「俺が戦争を止める!」