機動戦士ガンダム DoubT ~少年のウソが戦争となる~   作:NageT

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第79話「止まらぬ戦火」

 

 

 

 ダウトのスラスターが、噴射の光を強めた。

 

『ケン! 待って!』

 

 ノンの声が響く。

 

 ケンは返事をせず、戦場を見ていた。

 

 何本ものビームが交差している。その奥で、また爆発が起きた。

 

 さっきまで、人が乗っていた機体。

 

 それが一瞬で、破片になっていく。

 

 もう見ていたくなかった。

 

 だったら、止めなければならない。

 

 ダウトなら、相手を殺さずに止められる。

 

 ケンが操縦桿を倒しかけた時、目前のリーガが動いた。

 

 その後方には、二機のブルーガ。

 

 反対側では、ソリダスエースと三機のソリダスが、まだこちらを囲むように展開していた。

 

 ケンは息を呑んだ。

 

 この七機を残して離れれば、ベルーガはどうなる。

 

 追いかけてくるかもしれない。

 

 ここでまた撃ち合いになるかもしれない。

 

「……先に、こっちだ」

 

 ダウトの進路を変える。

 

 まず、この人達を止める。

 

 その次に、向こうへ行く。

 

 ケンはそれだけを考えていた。

 

     ◇

 

『こちらストーム1。周辺宙域で交戦が拡大。当隊は残存三機でガンダム及び連合軍機と対峙中。今後の対応について指示を願います』

 

 旗艦への回線を開いたまま、ストーム1は僚機を確認した。

 

 二機とも、まだいる。

 

 そのことを確かめてから、連合軍側へ目を向けた。

 

 装甲を損傷したソリダスが見える。

 

 ストーム3が撃った機体だ。

 

 そして、ストーム3を撃ち落とした機体でもある。

 

 胸の奥に熱いものが込み上げ、ストーム1は奥歯を噛み締めた。

 

 先に撃ったのはこちらだった。

 

 分かっている。

 

 だからといって、部下が死んだ事実を飲み込めるわけではなかった。

 

『隊長、ガンダムがこちらを向いています』

 

 ストーム2の声に、視線を戻す。

 

 ダウトが動き始めていた。

 

『間隔を取れ。アンカーに警戒しろ』

 

 残った部下まで失うわけにはいかない。

 

 ストーム1はリーガを前へ出した。

 

     ◇

 

『こちらブレイブ1。連邦軍機及びガンダムとの対峙を継続。確保任務を継続すべきか、指示を願います』

 

 ブレイブ1も、旗艦からの応答を待っていた。

 

 既に報告は済ませている。

 

 連邦軍機からの発砲。

 

 ブレイブ2の被弾と反撃。

 

 その結果、敵機一機を撃墜したこと。

 

 口にして伝えれば、それだけだった。

 

 だが、撃つなと命じた自分の声も、爆発したブルーガの姿も、頭から消えてはいなかった。

 

『ブレイブ2、状態を報告しろ』

 

『……機体は動きます』

 

『お前自身は』

 

 少し間があった。

 

『大丈夫です』

 

 答えたブレイブ2は、ライフルを握る機体の腕を見ていた。

 

 撃たれた時は、死ぬと思った。

 

 怖くて、撃ち返した。

 

 あのブルーガのパイロットにも、自分のように怖がる時間があったのだろうか。

 

 それを考えると、引き金に触れていた指が動かなくなった。

 

『……隊長。俺が』

 

『今は、こちらの指示を聞け』

 

 ブレイブ1は言った。

 

『銃口を下げろ。これ以上、独断で撃つな』

 

『……了解』

 

 ブレイブ2のライフルが下がる。

 

 その時、ダウトが接近してきた。

 

     ◇

 

「あの……聞こえますか」

 

 外部通信を開いたケンは、自分の声が震えていることに気付いた。

 

 七機。

 

 どれも武器を持っている。

 

 それらを、自分から止めに行こうとしていた。

 

「機体を止めます。動けなくするだけです。だから、その……撃たないでください」

 

『ガンダム、接近するな!』

 

 警告が返る。

 

 ブルーガが左右へ離れ、連合軍機も距離を取り始めた。

 

 ケンは唇を湿らせた。

 

 言っただけで止まってくれるなら、こんなことにはなっていない。

 

「アイ、近付く軌道、出して」

 

 モニターに示された進路を見据える。

 

「……行くよ」

 

 ダウトが加速した。

 

     ◇

 

 最初のブルーガは、アンカーを避けようと後退した。

 

 ケンはその動きを追い、機体を横へ滑らせる。射出したアンカーが装甲を捉え、噴射が途切れた。

 

『接続された! 制御不能!』

 

 報告を聞きながら、ケンは次の機体へ向かった。

 

 盾を向けてくるソリダス。

 

 その正面を外し、横から接続する。

 

 止まった機体へぶつからないように抜けたところで、リーガの銃口がダウトを追った。

 

「アイ、右へ抜けたい!」

 

 表示された進路へ機体を傾ける。

 

 ビームが横切り、ケンは肩を強張らせた。

 

 それでも目を離さず、回収したアンカーを放つ。

 

 リーガの腕が止まった。

 

 次いで、噴射の光も消える。

 

『ストーム1、制御を奪われた。各機、接近を避けろ』

 

 ケンは短く息を吐いた。

 

 声が聞こえる。

 

 生きている。

 

 次も、同じように止めればいい。

 

 残るブルーガを追い、連合軍側へ向き直る。

 

 ブレイブ2は迫るダウトを見て、ライフルを上げかけた。

 

 だが、その腕は途中で止まった。

 

 また撃つのか。

 

 迷った一瞬に、アンカーが接続された。

 

『……ブレイブ2、制御不能』

 

『負傷は!』

 

『ありません』

 

 ブレイブ1は部下の返答を聞き、ダウトへ向き直った。

 

 ソリダスエースが距離を取る。

 

 ケンはそれを追った。

 

 ここまで来たら、残すわけにはいかなかった。

 

     ◇

 

 最後の一機が停止すると、ケンは深く息を吐いた。

 

 七機とも動いていない。

 

 新たに爆発した機体はなかった。

 

「ノン。近くにいた連邦軍と連合軍は止めた」

 

『ケン、もう戻って!』

 

 返ってきた声は鋭かった。

 

『その先へ行ってどうするの!? 周り全部が戦ってるのよ!』

 

「だから……止めないと」

 

『一人で止められる数じゃない!』

 

 ケンは戦場を見た。

 

 ノンの言う通りだった。

 

 画面に映っているだけでも、何機いるのか分からない。

 

 その向こうには艦艇もある。

 

 それでも、ここで引き返したら。

 

 今見えている誰かが、撃たれる。

 

「……俺には、ダウトがあるから」

 

『それでも無茶よ!』

 

『坊主! 機体が止められるからって、戦場に飛び込んでいいって話じゃありやせん!』

 

 グレアーも割って入った。

 

『まず戻りなせぇ! ここから先は――』

 

「でも、今なんだよ」

 

 ケンは俯きかけ、モニターへ顔を戻した。

 

「今、撃たれてるんだ。戻って、それから考えてたら……」

 

 声が詰まる。

 

 今まで見た爆発が、頭の中で重なった。

 

「もう、誰にも死んでほしくない」

 

『ケン……』

 

「止められるのに、何もしないのは……俺、できないよ」

 

 操縦桿を倒す。

 

『待って! ケン!』

 

「……ごめん」

 

 ダウトが加速した。

 

 ノンの声が続いていた。

 

 ケンは聞いていた。

 

 聞いていながら、引き返せなかった。

 

     ◇

 

 ベルーガのブリッジで、ノンは遠ざかるダウトを見つめていた。

 

 呼びかけても、戻ってこない。

 

 戦闘の起きている場所へ、真っすぐ向かっている。

 

「……どうしよう」

 

 思わず漏れた声に、グレアーが振り向いた。

 

 その時、別の報告が上がった。

 

「停止した両軍機、依然漂流中です!」

 

 ノンはモニターへ目を戻した。

 

 ベルーガの近くには、ケンが止めた七機が残されている。

 

 その先では、既に戦闘が始まっていた。

 

 流れ弾が届かない保証はない。

 

 ダウトを追うことばかり考えていた視線が、動けない機体へ移った。

 

 あの中にも、人がいる。

 

「……回収できる?」

 

 ノンが尋ねる。

 

「機体を全部積み込む余裕はありやせん」

 

 グレアーは七機の位置を確かめた。

 

「ですが、乗ってる人間を助けるだけなら」

 

「やろう」

 

 ノンは顔を上げた。

 

「ケンを止めるのも諦めない。でも、あの人達も放っておけない」

 

 グレアーは頷き、艦内回線を開いた。

 

「MSを動かせる者は格納庫へ! ブルーガ三機を出しやす! 艦の防衛と、停止機の回収でやす!」

 

     ◇

 

 格納庫では、待機していた黒く塗装されたブルーガの周囲をクルーが走っていた。

 

 整備用の足場から、乗り込む男へおやっさんが声を掛ける。

 

「いいか、戦いに行くんじゃねぇぞ! 拾って帰ってくるだけだ!」

 

「分かってるっすよ!」

 

「分かってる奴ほど、余計なことすんだよ!」

 

 言い返された男は苦笑し、コックピットへ身体を滑り込ませた。

 

 機器を確かめ、手順を一つずつ追う。

 

 通信が繋がった。

 

『ホエール1、起動確認』

 

『ホエール2、こっちもいける』

 

『ホエール3、問題なし』

 

 発進を待つ短い間に、一人が息を吐いた。

 

『……なんだかんだ、ベルーガに乗ってから初出撃だな』

 

『今までケンだけだったからな』

 

 返事の後、回線が少し静かになった。

 

 いつも格納庫から送り出していた。

 

 戻ってくれば機体を調べ、直し、次に備えた。

 

 その間、あの少年は一人で外へ出ていた。

 

『……まあ、俺達まで張り合うことはない。拾いに行くぞ』

 

『了解』

 

 黒いブルーガが、順にベルーガを離れた。

 

     ◇

 

 ブルーガとソリダスが撃ち合っていた。

 

 ケンはその間へダウトを入れた。

 

「撃たないで!」

 

 ソリダスへアンカーを放つ。

 

 接続を確かめ、ブルーガにも伸ばした。

 

 二機の噴射が消える。

 

 ケンは周囲を見回した。

 

 これで、ここは止まった。

 

 次へ向かおうとした時、後方のブルーガが前へ出てきた。

 

 ライフルを構えている。

 

 狙っているのは、今止めたばかりのソリダスだった。

 

「待って!」

 

 ケンは慌てて引き返した。

 

 銃口が狙いを定める前に、アンカーを接続する。

 

「その人、もう撃てません!」

 

『敵機だぞ! 今なら落とせる!』

 

「でも、動けないんだから……!」

 

 言葉が途切れた。

 

 反対側からソリダスが近付いてくる。

 

 その銃口は、停止したブルーガへ向いていた。

 

 ケンはそちらへダウトを向ける。

 

 間に入り、アンカーを放った。

 

 四機が動きを失った宙域で、ケンは息を詰めた。

 

 止めれば助けられると思っていた。

 

 だが、ここにはまだ撃てる機体がいる。

 

 自分が離れたら、この人達は。

 

 別の場所でビームが走る。

 

 ケンはそちらを見て、また四機を見た。

 

 どちらへ向かえばいいのか、一瞬分からなくなった。

 

     ◇

 

『こちらホエール1。停止機に接近する』

 

 黒いブルーガが、漂うリーガへ近付いていた。

 

 その後方では、もう一機がソリダスを確保している。

 

 ホエール3は二機から離れ、ベルーガとの間で周囲を警戒していた。

 

『ベルーガまで運ぶ。急な動きはできんから、頼むぞ』

 

『見てる。こっちは気にするな』

 

 ホエール1がリーガの機体を支えた。

 

 ゆっくりと噴射し、ベルーガへ向きを変える。

 

『……こちらストーム1。貴官らは何をするつもりだ』

 

 通信が入った。

 

 ホエール1のパイロットは、運んでいる機体を見た。

 

『あんたを拾いに来たんだ。そこで漂ってたら危ない』

 

『部下は』

 

『順番に回収する』

 

 ストーム1はすぐには返事をしなかった。

 

 やがて、短い声が返る。

 

『……残り二名も、生存している』

 

『分かった』

 

 別の回線では、ブレイブ1も部下へ呼びかけていた。

 

 抵抗するな。

 

 まず、生きて戻れ。

 

 その命令を聞きながら、ホエール2はソリダスを運んだ。

 

     ◇

 

 ベルーガの格納庫では、回収されたリーガからパイロットを降ろす作業が始まっていた。

 

 出てきた男は、すぐに周囲を見回した。

 

「部下は、まだか」

 

「今、連れてきてる」

 

 武器を持っていないことを確かめられ、両手を拘束される。

 

 男は唇を引き結んだが、暴れなかった。

 

 続いてソリダスから降ろされた連合軍兵士も、別のクルーに拘束された。

 

 互いの姿を見た二人の間に、張り詰めた沈黙が落ちる。

 

「話は後だ。怪我があるなら先に言ってくれ」

 

 クルーが間へ入った。

 

 格納庫の奥へ誘導し、回収機の周囲から人を離す。

 

 パイロットを降ろしたリーガは、再び船外へ出された。

 

 ソリダスも同じように艦から離される。

 

 機体を保管するための回収ではなかった。

 

 中にいる人間を助ければ、次を迎えに行かなければならない。

 

『ホエール1、もう一度出る』

 

『ホエール2も続く』

 

 黒いブルーガが、残る停止機へ向かった。

 

     ◇

 

 ケンは何度も進路を変えていた。

 

 一機を止める。

 

 その機体を狙う相手が現れ、そちらも追う。

 

 接続を終えて振り向くと、今度は別の場所で射撃が始まっている。

 

「アイ、あの二機の間に入れる軌道を出して!」

 

 表示を追い、ダウトを動かした。

 

 リーガが僚機へ指示を飛ばしている。

 

 その正面には、ソリダスエースがいた。

 

 まず隊長機を止める。

 

 だが、リーガの噴射が消えると、ブルーガがダウトへ向き直った。

 

『隊長から離れろ!』

 

「壊してません! 動きを止めただけで……!」

 

 説明の途中で銃口が動く。

 

 ケンは言葉を飲み込み、機体を横へ滑らせた。

 

 そちらにもアンカーを放つ。

 

 さらに向こうではソリダスが前進していた。

 

 ケンは唇を噛み、追いかけた。

 

 止めた機体が後ろに残っていく。

 

 そのことが、ずっと気になっていた。

 

     ◇

 

『ケン!』

 

 ノンの声がした。

 

『もう戻って! あなた一人じゃ無理よ!』

 

「……まだ、戦ってるから」

 

『分かってる! でも、あなたまで撃たれたらどうするの!』

 

 ケンは答えられなかった。

 

 自分が撃たれることを考えていないわけではなかった。

 

 ビームが近くを通るたびに、身体が強張る。

 

 次は当たるかもしれないと思う。

 

 それでも、帰ると口にできなかった。

 

「俺が止めた人達も、狙われるんだ」

 

 ケンは目の前のソリダスを追っていた。

 

「避けられないのに……俺が動けなくしたから」

 

『近くの停止機は回収してる。艦のブルーガも出したわ』

 

 ケンの指が僅かに止まった。

 

『こっちは私達でやる。だから――』

 

「……そっか」

 

 ケンは息を吐いた。

 

「よかった。じゃあ、俺は……」

 

『違う!』

 

 ノンの声が強くなった。

 

『だからもっと止めてきてって言ってるんじゃない!』

 

 ケンは口を閉じた。

 

 助けに来てくれる。

 

 そのことに安心して、また先へ進もうとしていた。

 

 ノンが何を言おうとしているのかも、分かっていた。

 

「……ごめん」

 

 それしか返せなかった。

 

 正面で、ブルーガがライフルを持ち上げる。

 

 ケンはダウトを向かわせた。

 

     ◇

 

 損傷したソリダスが、姿勢を崩しながら流されていた。

 

 その先へ、ブルーガの銃口が向く。

 

「待って……!」

 

 ケンは出力を上げた。

 

 まだ遠い。

 

 アンカーが届く距離まで、あと少し。

 

 ライフルが光った。

 

 ビームがソリダスを貫いた。

 

 爆発。

 

 ケンは息を止めた。

 

 散った破片の中から、機体の腕が流れてくる。

 

 ダウトはそれを避けながら進んだ。

 

 遅れて届いたアンカーが、発砲したブルーガを捉える。

 

 噴射が消えた。

 

 ケンはその停止表示を見つめた。

 

 止めた。

 

 けれど、間に合わなかった。

 

「……もっと、早く」

 

 掠れた声が漏れた。

 

 別の通信から、助けを求める声が聞こえる。

 

 ケンは顔を上げた。

 

 まだ誰かがいる。

 

 次なら、間に合うかもしれない。

 

     ◇

 

『ホエール2、回収機を引いてくれ。こっちに流れてきてる』

 

『了解。……こいつで何機目だ?』

 

『数えるのは後だ』

 

 ホエール3が周囲を警戒する傍ら、黒いブルーガ二機が停止機を運んでいた。

 

 ベルーガへ戻ると、すぐにパイロットを降ろす。

 

 負傷の有無を確かめ、拘束し、艦内へ。

 

 空になった機体は船外へ出す。

 

 格納庫では、その手順が繰り返されていた。

 

 連邦軍兵士も、連合軍兵士も運び込まれる。

 

 怒鳴る者もいた。

 

 部下の名を呼ぶ者もいた。

 

 拘束されるまで、操縦桿を握る形のまま手を固めていた者もいた。

 

 ノンは救助の報告を聞きながら、何度も通信機へ手を伸ばした。

 

 ケンは、まだ戻ってこない。

 

     ◇

 

 ケンは瞬きを繰り返した。

 

 目が痛かった。

 

 肩にも腕にも、力が入り続けている。

 

 それでもモニターから視線を離すと、誰かが撃たれる気がした。

 

 ソリダスを止める。

 

 その向こうのブルーガへ向かう。

 

 回収したアンカーを確かめ、次の機体に放つ。

 

 遠くで光が膨らんだ。

 

 また、届かなかった場所がある。

 

「……どうすれば」

 

 声が続かなかった。

 

 止めたはずの機体の向こうから、別の機体が現れる。

 

 その銃口を見て、ダウトを動かす。

 

 ノンに呼ばれている。

 

 戻らなければならないことも、もう一人ではどうにもならないことも、頭のどこかでは分かっていた。

 

 だが、目の前にはまだ、生きている人がいた。

 

 今から引き金を引こうとする人と、その先にいる人が。

 

「お願いだから……!」

 

 ケンは外部通信へ叫んだ。

 

「もう、撃たないで!」

 

 アンカーが伸びた。

 

 ブルーガの腕が止まる。

 

 ケンが息を吐くより早く、別の方向からビームが走った。

 

 ダウトを向け直す。

 

 回収したワイヤーを待ちながら、次の相手へ近付く。

 

 その背後では、黒いブルーガが漂う機体を支え、ベルーガへ運んでいた。

 

 一人を止める。

 

 一人を拾う。

 

 その間にも、遠くで誰かが撃っていた。

 

 止めても、止めても。

 

 戦火は、消えなかった。

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