恵ちゃん至上主義?   作:名無しのナナ氏

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19.ぼっちサバイバル

 

 砂浜でのやり取りから少しして、茶柱先生からやんわりと『節度を弁えるように』とのお言葉を頂戴した私は、つい先程とは打って変わって超ご機嫌だった。

 

 ちらちらとクラスメイトたちの好気の視線に晒されながら、時折、唇に触れて余韻の残滓を確かめる。まだ薄っすらと唾液で濡れている感触があった。

 

 私がニヤニヤしているうちに、どうやら一旦森の中に入ることになったらしく、先行した男子数名を追いかける形で平田くんを先頭に歩き出す。地面は砂から次第に土へと変わり、深い森林へと景色が移ろっていく。歩くうちに自然と2列ほどの細長い隊列が出来て、その最後尾付近でのんびりと彼らを追従する。草木が生い茂っている分、日光が枝葉に遮られて砂浜に突っ立って居るよりはよっぽど体力を温存できそうだった。

 

 不意に虫や蛇なんかが飛び出してこないか、内心ビクビクしながらクラスメイトたちの背中を追っていると、やがて開けた場所に出た。平田くんはそこで一度立ち止まり、砂浜での話し合いの続きをするようだ。自然と男女で分かれて、直ぐにまたトイレ問題が勃発する。私は女子グループからちょっぴり距離を空けて、遠巻きにそれを見守ることにした。今の私に発言力は皆無なのだし。

 先ほどと同じように平行線を辿るかと思いきや、平田くんが言葉巧みに理論を展開して、反対意見を出していた生徒(幸村くん)を説得してみせた。私も流石に簡易トイレは抵抗があったので、そこはひと安心。

 

 次の議題はベースキャンプについて。

 

 平田くんがキャンプに精通したクラスメイトが居ないか尋ねたけれど、若干一名空気の読めないオタクがしゃしゃり出ただけだった。

 

 微妙な空気感が漂ったところで、櫛田さんが探索を申し出る。すると今まで沈黙していた男子らが俺も俺もと挙手し始めた。多分下心ありきなんだろうなあ、とその様子を冷めた目で眺める。

 

 それからトントン拍子で探索グループが決まって、彼らが森の奥へと出発していく。残ったのはほとんどが女子で、暑い暑いと愚痴を言いながら木陰に避難していった。私も適当な木の根本に腰を下ろし、三角座りしながら体操着の胸元をぱたぱたと扇いだ。にしても暑い。海沿いから離れて森の中にいるせいか、やたらと蒸し暑い。客室でシャワーを浴びてきたというのに、汗で身体がベタついてしまっている。本当なら、今頃水着に着替えて翔子と海で遊び倒している予定だったんだけどな。

 

 鞄からタオルを取り出して汗を拭く。気休めにしかならないけど、ずっと手とかジャージの袖で拭うわけにもいかない。衣類を洗濯できるかどうか怪しいのだから。探せば川くらいはありそうだけど、洗えても干す場所に困りそうだ。ある程度汗を拭って、白いタオルを首に掛ける。何をするでもなく、ぼーっと時間を浪費し続けた。

 

 それから暫くして、探索に出かけていた池たちが興奮した様子で戻ってきた。

 

「おーい平田! あっちで川見つけたぞ! すっげー透明でさ、川魚も泳いでたんだぜ! あと何かの装置っぽいやつも見つけた! ありゃ多分スポットってやつだ!」

 

 目を輝かせながら森の奥を指差す池に、平田くんも笑顔を見せる。良いタイミングで他のグループも戻ってきたので、彼らも合流して池たちに先導される形でそこへ向かう。

 

 やや歩いて川辺が見えてくると、明らかに不自然な大岩が目につく。岩をくり抜く形で何らかの機械が埋め込まれていた。あれがスポットのようだ。

 荷物を付近に一纏めにして、ひとまずベースキャンプの位置が確定する。これから1週間はこの川辺で生活することになるわけだ。ぱっと見、立地は悪くなさそうだし、拠点としても悪くなさそうだった。

 

 次に話題に上がったのはスポットを占有するかどうかだ。8時間に一回更新する必要があり、当然だけど他クラスに見られればリーダーが露見するリスクが有る。じゃあどうするのかと思えば、シンプルに周囲を囲んで隠すことで意見が一致した。

 で、肝心のリーダーは意外なことに堀北さんに決まった。てっきり平田くんか櫛田さん辺りが務めると思っていたところ、櫛田さんが彼女を推挙したのだ。あまり目立たず、責任感がある人物は誰かと考えたとき、堀北さんが適任だと判断したらしい。

 

 さて問題はまだまだある。次の議題は水と食料問題だった。

 

 衛生面を気にして、大半の女子が流れる川を不安げに見つめた。男子はあまり抵抗が無さそうだったけど、私としても川の水を直飲みするのは勇気が要る。確かに見た目は透き通っていて綺麗だし、川魚もちらほら泳いでいる。でも目に見えない汚染がないとは言い切れない。

 

「大丈夫だって。こんなに綺麗なんだからさ」

 

 そう言って、あろうことか池が川の水を手ですくってそれを飲んでみせた。うげ、と篠原さんたちが信じられないものを見る目つきでドン引きしている。

 

 結局、飲める飲めないで意見が対立して譲らなかったので、ひとまず飲水の件は一旦保留になった。正直、そろそろ喉が渇いてきたので一刻も早くなんとかしてほしい。が、現時点で特に何もしてない私が言えるわけもなく。大人しく唾を飲み込んで誤魔化した。

 

 それから寝床を用意するためにテントを張ることになった。最大8人ほど寝られるだけあってそこそこに大きい。それを設置しなければならないわけだが、設置の仕方なんて分からない女子が大半で作業の殆どを男子に任せる流れに。私も面倒だったので、日陰に隠れて大変そうだなーなんて感想を抱きながら作業を眺めていた。ああ言う力仕事はやっぱ男子にやらせないとね。

 

 しかし労働させた男子にテントの権利が与えられることはなく、無情にもテントは女子が占有することとなり、必然的に男子は野宿が決定。いや、それは流石に可哀想でしょと思ったものの、か弱い女子と違って男子は皆逞しく、どうにかしてベッドの代わりを作ろうと草までむしり始めた。素直に感心すると同時に、申し訳なさがこみ上げてくる。でもごめん、私もテントで寝たいから……。

 

 そこでふと思う。翔子は私とのバカンスを取り戻すと言っていたけど、一体どうするのだろう、と。

 

 Aクラスの皆を説得して、こっちのクラスに交ざって生活できるようにするとか? ……いや、そんな簡単な話じゃないよね。これは特別試験とやらで、単なる仲良しごっこではなくポイントを賭けたクラス同士の争い。他所のクラスに受け入れてもらうには相当な大義名分が必要なはず。それこそ、私と翔子が一緒じゃなきゃ嫌だと、二人揃って丸一日駄々をこねたら観念した両クラスが渋々承諾してくれる……わけないか。となると、あと考えられそうなのは適当な理由をつけてリタイアすることぐらいだけど、それじゃバカンスは楽しめない。うーん、私じゃさっぱりだ。

 

「早く明日になんないかな……」

 

 木陰で独りごちる。1週間のうちのたった1日。随分と気持ちは楽になったけど、それはそれとして暇を持て余す。率先して動いている男子たちや、仕事を割り振られて食料を探しに出かけた櫛田さんたちとは違い、どのグループにも属さない私みたいなはぐれものはちらほら居る。何も仕事をしていないという罪悪感のようなものはあれど、面倒くささが勝って体が動かない。陰の内側で涼みながら、喧しいセミの鳴き声を聞いている。夏だなあ。枝葉の隙間から覗く青空を見上げて、私は呑気な感想を抱いた。

 

 気づけばキャンプ地からはだいぶ人が減っていた。平田くんも探索に出ているようで姿が見えない。軽く見渡すと、残っているのは数人の男女と仏頂面で作業している茶柱先生くらいだ。今ならこっそり動けば見咎められることもないだろうし、適当にその辺をうろついてみよう。暇だし。

 

 周囲の目を気にしつつ日陰を出ると、眩い太陽の陽射しが襲いかかる。まだ日焼け止めを塗っていないので、なるべく肌を晒したくない思いでジャージの袖は捲っていない。その代わり、ジャージは前のファスナーを全開にしてある。出来ることなら体操着で居たいけど、人前で肌を晒せない理由があった。……二の腕とか、キスマークがしっかり残っているから。

 

 忌々しい日光を浴びつつ、私はさり気なく来た道を戻ることにした。

 ベースキャンプから離れるにつれて、次第に足が軽くなっていく。開放感と言ってもいい。そこに居心地の悪さはなく、誰に邪魔されるでもない小さな自由があった。

 踏み均された小道を辿っていくと、横に細い道が続いているのを発見した。茂みに隠れていて、行きでは気づかなかった道だ。少しだけ考えて、私はその道に踏み込む。ちょっとした冒険心のようなものが働いたからだ。真っ直ぐ来て曲がるだけだから、一切迷う心配もない。

 

 人1人分ほどの狭い道を進む。両脇には茂みが生い茂っていて、時たま、葉っぱに変な虫がくっついているのを見て肌が粟立つ。虫は苦手だけど、一度火がついた探索への好奇心は抑えきれなかった。

 

 道なりに暫く歩いていると、小さく開けた場所を見つけた。地面は耕されて畑のようになっていて、自然のフェンスの役目を果たしていた低い茂みを跨いでそこに入ってみる。

 

「わ、スイカじゃんっ」

 

 一面に実を生していたのは、緑を基調とした黒い縞模様が特徴のスイカたちだった。誰にも手がつけられていないみたいで、持ち去られた様子はない。恐らく私が一番乗りだ。

 せっかくだし一個ぐらい持って帰ろうと、なるべく大きなものを選ぶ。ハサミなんてないのでつるを切るのにひと苦労したけど、なんとか強引にちぎることに成功。ちょっと手が痛いものの、我慢してビーチボールほどのスイカを抱える。

 

「重っ……」

 

 木の根に足を取られないよう注意しながら道を引き返す。女子一人で持ち運ぶには結構な重量だったので、2回ほど休憩を挟んで腕を休めながらどうにかベースキャンプまでたどり着く。遠目に平田くんたちを目視したので、よたよたと彼の下へ近づく。

 

「ひ、平田くーん」

 

 腕をぷるぷると震わせつつ持ってきたスイカを見せると、平田くんやそれを見たクラスメイトたちが高揚した様子でわらわらと集まってくる。そろそろ腕が限界なので、ひとまず彼にスイカを預けた。

 

「お手柄だね軽井沢さん! どこでこれを?」

「来た道を戻って、一本横道に逸れた先にいっぱいあったよ。多分まだあたししか見つけてないと思う」

「おっしゃ! じゃあ俺らで独占しちまおうぜ!」

 

 私が答えるや否や、やる気に満ちた男子たちが駆け足でキャンプ地を出ていく。どうやら今日の夕食はスイカで決定しそうだ。

 少し疲れたので、私は平田くんにテントで休む旨を伝えてから中に入る。シュシュを外して髪を下ろしたあと、試しに横になってみると、下に何も敷いていないので流石に固い。このまま寝ると身体を痛めそうなので、ジャージの上を脱いでシーツ代わりにした。これで多少はマシになっただろう。スイカを見つけたぐらいしか仕事をしていないけど、午前中はほとんど翔子とえっちしてたから、自分が思っている以上に身体に疲労が溜まっていたらしい。寝転がっていると徐々にまぶたが重くなってきた。

 

 睡魔に抗うこと無く目を閉じれば、私はあっという間に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 賑やかな声に目が覚める。寝床にしては些か固かったからかちょっと背中が痛い。起き上がるわけでもなくぼんやりとテントの天井部分を見つめていると、ゆっくりと入口のファスナーが開いてひょこっと櫛田さんが顔を覗かせた。

 

「あ、ごめんね。起こしちゃった?」

「ん……いや、大丈夫。さっき起きたから」

 

 体を起こして用件を聞く。

 

「どうかしたの?」

「今ちょうど皆でスイカ割りしてたとこだから、よかったら軽井沢さんもどうかなって。川の水で冷やしてたから冷たくて美味しいよっ」

 

 櫛田さんがニコっと笑う。ああ、それでちょっと騒がしかったのね、と納得。

 

「じゃあ、もらおっかな」

 

 髪をシュシュでいつものポニテにまとめてテントを出る。私が眠っている間に色々と設備を揃えていたらしく、テントの傍には簡易シャワーとトイレが建ててあった。流石に無いと厳しいと誰かが意見したのか、男子用のテントも張ってある。川の傍には焚き火があって、囲むようにして皆がスイカを食べていた。櫛田さんから小さめに割られたスイカを受け取り、適当な位置に腰を下ろす。

 

「あ、美味し」

 

 口にしてみると、ひんやりとした甘い口当たりが渇いた喉に染みる。スイカの果肉はほとんどが水分だとテレビで言っていたのを思い出す。しゃくしゃくと食べれば、すっかり喉が潤う。良い具合に小腹も満たせて一石二鳥だ。

 

 クラスメイトたちが楽しそうに雑談しているのを眺めていると、ふと距離を置いてスイカを齧っている見慣れない生徒が視界に入った。Dクラスの生徒じゃないのはひと目で分かったけど、どこのクラスかまでは分からない。吊り目で少し勝ち気な印象を受けるその女子生徒は、自分が見られていることに気づくと胡乱げにこっちを見た。一瞬だけ視線が交差して、私から先に視線を外す。なんで他所のクラスの生徒がここにいるのかは知らないけど、多分平田くんが許可してそうだし、私が気にしてもしょうがない。

 

 貴重な甘味をゆっくりと味わって食べ終え、これまた私が眠りこけている間に購入したというミネラルウォーターを一本受け取ってテントに戻る。途中、高円寺くんが勝手にリタイアしていたという驚愕の事実が判明して、クラスメイトたちは驚きと憤慨を露わにしていた。でも私は驚きこそすれど、内心でリタイアの前例ができたことに若干の嬉しさを感じてもいた。30ポイントは痛いものの、体調不良を申告してしまえば簡単に船に戻れるという事実が、いざというときの最終手段を後押しさせる。まあ、翔子が何かしら考えてくれてるだろうし、この手は使わないだろうけども。

 

 夜になっても蒸し暑さの残るテントでごろごろしていると、次第に外の仮説シャワーを利用する生徒が出始めた。私も結構汗をかいていたし、使いたいのは山々だけど、万が一にでも脇腹の傷を見られるわけにはいかないので、皆が使い終わった頃を見計らってシャワーを済ませることに。

 

「あ……」

 

 着替える最中、ふとポケットの中にしまい込んだままの例の布の存在を思い出す。取り出してみると、蒸れて生暖かい感触が伝わってくる。なんか、脱ぎたてみたいでちょっとあれだな……。

 

 若干変な気分になりかけたので、見なかったことにして鞄にしまう。そして己の煩悩ごと洗い流すみたいに無心でシャワーを浴びた。使っていいよと言われても、それを使えば私はただの変態だ。自分のちっぽけな誇りにかけて使うわけにはいかない。……少し、興味はあるけど。

 

 悶々としながらシャワーを済ませてテントに戻る。明日の朝には翔子に会えるから、彼女に頼んで発散してもらおう。などと考えて自分の寝床に横になる。軽く仮眠を挟んだせいか、まだ眠気がやってくる気配はなかった。

 

 しばらくすると、明日に備えて皆も各々の位置で寝る姿勢に入った。

 ……が、そこはやっぱり女子高生。普段とは違う環境ということもあってか、例のごとく恋バナで盛り上がる。案の定、Dクラスでの一番人気は平田くんのようで、少なくない女子が彼女の座を狙っているらしい。元カノ(偽)の私から見ても彼はかなりの優良物件だし、気持ちはわかる。でも今の私は翔子のことで頭がいっぱいだ。恋愛に回す余力はない。

 

「――前々から聞こうと思ってたんだけど、軽井沢さんと土岐さんってどこまで進んでるの?」

「うへっ!?」

 

 聞き専に徹していたところ、佐藤さんから唐突に話を振られて素っ頓狂な声が出た。

 

「ど、どこまでって、え、いや……そりゃあ……え、えぇー?」

「動揺しすぎじゃない……?」

 

 パニクっている私を見て松下さんが苦笑する。

 

「ぶっちゃけ、ヤることヤッた感じ?」

「…………まあ、一応」

 

 一応どころかガッツリだけど。

 濁した返答でもお気に召されたようで、彼女たちは興味津々と言った感じで質問攻めが始まった。

 

「お、女の子同士ってどうするの? 流れは?」

「流れって言われても……えと、最初はキスとか、胸とか弄られて……濡れてきたら指挿れられたり、たまに舌とか使って責められるけど……」

「し、舌ぁ!?」

 

 体験談を語ると、佐藤さんが顔を真っ赤にして絶句。他の女子たちも一様に顔が赤い。皆あれこれと考えたんだなあというのが面白いくらいに分かりやすかった。

 

「ほ、本当に付き合ってるんだ……」

「まあ、むしろあれで付き合ってないとおかしいよねって感じではあるけど……」

「森に入る前エグいのしてたもんね……」

 

 納得した様子であちこちから声が上がる。まあ、割と人前で色々やってたからなあ……今日のキス然り散歩然り。

 

「いや、別に付き合ってはないんだけどさ」

「嘘ぉ!?」

 

 少々オーバーリアクション気味の佐藤さんを筆頭に、その場のほぼ全員が目を丸くした。あんまり騒ぐと怒られそう……。

 

「いやいやいやそんなわけないでしょ!」

「女の子同士でセッ――アレしてるのに付き合ってないは通んないよ!」

 

 まるで信じてない風に森さんたちが否定する。尤もらしい意見に他の女子たちもうんうんと頷く。そう言われましても、恋人同士ではない特殊な関係性ですので。なんて言えるわけもなく、私は誤魔化すように苦笑いするしか無かった。

 

「もしかしてセフレってやつ?」

 

 松下さんがそれならばと指摘する。当たらずとも遠からずではあるけど、正解には程遠い。ふるふると首を振って否定した。

 

「んー、セフレとも違うかな」

「じゃあどういう関係? 告白してないだけだったり?」

「告白っていうか、むしろすっ飛ばして先にプロポーズされたかな」

 

 軽い調子で答えると、一斉に皆が硬直してしまった。固まったまま返答が返ってこない。時間でも止まってしまったのだろうか。

 

「……え、どうしたの? あたしなんか変なこと言った?」

「あ、いや……え? ぷ、プロポーズ? 今プロポーズって言ったの? 軽井沢さんプロポーズされたの?」

「うん。返事は保留してるんだけどね」

 

 絶叫(控えめ)。テントの中は俄に姦しさを増した。興奮状態の彼女たちから好気の視線が突き刺さる。思春期の女子にはあまりにも濃すぎる燃料だったらしく、ある程度落ち着くのにちょっと時間がかかった。

 

「でも、どうしてオッケーしてあげないの? 好きなんでしょ? 土岐さんのこと」

 

 皆が少しだけ冷静さを取り戻した頃、松下さんが私にそう尋ねた。

 

「そりゃ好きだけど……たぶん、あたしの好きは翔子の好きとは違うと思うから……」

「……つまり、どういうこと?」

「恋愛感情未満、なのかも」

 

 私の抱いている好きという感情に、翔子の求める愛はない。求められたから、私なりの好意を返しているだけに過ぎない。そして勝手に依存してしまっている。自分で寄生先に選んだくせに、相手を好きになるってことがなんなのか理解できていない。それは恐らく、彼女に対する裏切りなのかもしれない。与えられた愛を機械的に処理しているだけで、私からは見様見真似で作った空っぽのそれを渡している。そんなものが愛と呼べるはずがない。

 

「好きって、なんなんだろ」

 

 私は、翔子のことをどう思っているんだろう。

 胸の中で燻るそれの正体が、今の自分には分からなかった。

 

 その感情の正体を、私は知りたいと願う。

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