一夜明けてもなお、私はすっかり冷静で居られなくなってしまっていた。
寝る前に交わした会話すらあやふやで、手を握られるのすらどぎまぎしてしまう。けれど疲れていた身体は睡眠に貪欲で、朝までぐっすりだった。しかしまあ、目を覚ませば端正な顔立ちの美少女が隣に居るわけで、ほとんど飛び起きる形で起床することとなった。幸い、翔子はまだ眠ったまま。
――ど、どうしよ、翔子の顔まともに見れなくなっちゃった……!
とは思いつつ、静かに寝息を立てるその顔をちらちらと盗み見る。
長いまつ毛、白くきめ細かな素肌、薄い桜色の唇、穏やかな表情。寝顔ですら、私の心を強く揺さ振る。彼女はあまりにも罪深かった。
目を逸らす。これ以上は心臓が持たないと判断してのことだった。深く、深呼吸をする。朝からこんな調子じゃ、きっと翔子にも心配をかけてしまう。落ち着いて、冷静に。
視線を戻すと、海色の双眸が私を見ていた。
「おはよう、恵ちゃん」
「――お、おはよぅ」
心臓が飛び出るかと思った。一気に顔が熱くなる。起き抜けの、まだ少しぽやぽやした状態の翔子が不思議そうな目で見つめている。私は挙動不審に視線を彷徨わせた。
「……どうかしたの? 顔、赤いよ」
あからさまに様子がおかしい私を案じて、白い腕が伸びる。その出来栄えの良さに見惚れていると、頬に優しくもひんやりとした感触が触れた。そっと撫でて、今度は額に掌が当てられる。その冷たさはおでこの熱を吸い取ってしまうかのようだった。
「んー……ちょっと熱っぽい? 大丈夫?」
「だ、大丈夫! これ、あの、そういうんじゃないから!」
わたわたと否定しても、まるで説得力がない。どんどん顔が、いや全身が熱くなってくる。
そんな私の異変を、目聡い翔子が見逃すはずもなく。ハッと目を見開いて、彼女は何かに弾かれるようにして飛び起きた。その瞳は爛々と輝き、歓喜に満ち溢れている。
「もしかして恵ちゃん――――私に恋しちゃった?」
ぐうの音も出ないとはこの事か。否定も肯定もできず、私はふいっと目を逸らした。けれど、そんな仕草も翔子にかかれば容易く心情を見抜かれてしまう。満面の笑みを浮かべた彼女によって、目にも止まらぬ早さで抱きしめられる。
「嬉しい! 嬉しい! 私も恵ちゃんのことが大好きだよ!」
「あわわわ……!」
窒息するのではないかと思うくらいにぎゅっと抱きしめられ、苦しいんだか嬉しいんだかも分からないまま、私は軽くパニックになっていた。もう何がなんだか分からない。ただ燃え尽きそうなくらい恥ずかしくても、幸せな体験をしていることに間違いはなかった。彼女の薄い胸元に顔を埋めたまま、羞恥と歓喜の狭間で私は右往左往するばかり。
ようやく解放される頃には、私は見事に茹でダコのようになっていた。
「ふふっ、ああ嬉しいっ! 私、今とっても幸せな気分なの!」
にこにこと嬉しそうに、ゆらゆらと左右に揺れながら翔子が笑う。屈託ないその笑顔がまた、私の心を惹き付けて離さない。この女の子はなんて幸せそうに笑うんだろう。可愛くて、綺麗で――そんな翔子のことが、大好きだった。
「ねえ恵ちゃん。私は勝手に貴女の気持ちを理解しちゃったけど……やっぱり、恵ちゃんのお口から直接聞きたいなあ」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、四つん這いになった翔子が距離を詰める。ふわ、と私をダメにするあの香りが鼻腔を撫でた。彼女との距離は、吐息が掛かるほどに近い。
「――恵ちゃんは、私のことをどう想ってくれてるのかな?」
甘い声が耳元で囁かされる。脳が蕩けてしまうような感覚に陥り、呼吸が浅くなっていく。目の前には好きな人。ばくばくと煩い心臓が、気持ちを抑えきれなくなっていると示唆する。ひと思いに伝えてしまえば、きっと楽になれるはず。でも、好きというたった二文字がどうしても喉に支えて出てこない。
ああ、こんなにも貴女が好きなのに。
「あ、あたしは……あたし、は……し、翔子のことが――」
好き――――その言葉を届ける前に、意識がぷつんと途切れる。
「――きゅう」
情けない私は、不覚にも気を失った。
◆
「――はっ!?」
目を覚ませば、そこは変わらずテントの中だった。
「あ、恵ちゃん起きた」
心配そうな顔をした翔子が私を覗き込む。顔が近くて、またもや失神しそうになる。が、寸前で持ちこたえた。無限ループしかけてる場合じゃない。
「ど、どれくらい気絶してた?」
「えっと、五分くらいかな」
言われて右手につけていた腕時計を確認する。時刻は7時を少し過ぎた頃。今から支度をしても点呼には十分間に合いそうだ。
「とっ、とりあえずさ、ご飯食べない?」
上ずった調子で提案すると、翔子は可笑しそうにくすくすと笑った。無邪気なその表情にも、またドキッとさせられる。
「いいよ。なに食べよっか」
食料品の入った段ボール箱を開けて、徐ろに翔子が振り返った。
「――告白、待ってるからね」
お茶目にウインクをしてみせた可愛らしいその顔を、私は一生忘れないだろう。
――あぁもう、好き!
◆
それから何事もなく点呼を終えて、また砂浜に戻る。遠目に見えるCクラスの生徒は、昨日よりも数を減らしていた。翔子曰く、満足した生徒からリタイアして船に戻っているらしい。
「明日辺り、私たちもリタイアしちゃおうか」
テントの中でジュースを飲んでだらけていると、不意に翔子がそんな発言をした。
「え? でもリタイアなんかしたら30ポイント引かれるんじゃ……」
「まあ、そうなんだけどね。でも無理して残る理由もないでしょ? 十分満喫できたら切り上げて、後は船でのんびり過ごそうよ」
ぴたっと肩を寄せて、翔子が甘く唆す。とても魅力的な提案だった。けれど、リタイアのデメリットは無視できない。30ポイントのマイナスはDクラスにとって大きなものであり、とても受け入れられるとは思えなかった。発覚すれば今まで以上に立場が悪くなるし、最悪の場合、翔子にも迷惑がかかる。それは避けたい。
「私は恵ちゃんと一緒に居たいな。恵ちゃんは……どうしたい?」
「……その聞き方。ずるいって」
翔子と離れ離れなんて絶対に嫌。だったら、選択肢は一つしか無い。こくこくとジュースを飲み干して、キャップを締めた。
「わかったわよ。……明日、リタイアしよ?」
「うん。じゃあ、今日も目一杯楽しもうね」
嬉しそうに白い歯を零す翔子を見ていると、不安なんてどこかへ吹き飛んでいく。高円寺くんがリタイアしてるんだし、別にあたし一人増えたところで変わんないでしょ。翔子とサバイバルするのも、それはそれで面白そうだけど、出来ることならそういうのは二人っきりで楽しみたい。
「あ、リタイアするなら龍園くんにも伝えなきゃだね。一応取引相手だし」
龍園くんかあ。と若干気後れしたものの、翔子が行くならとりあえずどこにでもついていくのが私だった。まるでコバンザメだ。いや、実際は寄生虫なんだけど。
翔子がファスナーを開け、炎天下の外に身を出す。彼女に続く形で外に出ようとした私は、急に前が詰まって翔子の臀部に鼻を打った。い、今お尻に――じゃなくて。
「し、翔子?」
邪な思考を振り払って尋ねる。翔子は中腰の姿勢で外の様子を窺ったままだ。気になって隙間から外を覗こうとすると、彼女はすっと身体を引っ込めた。
「恵ちゃん、ちょっとだけ待っててくれる?」
穏やかな表情は鳴りを潜め、真剣な眼差しが向けられる。突然のことに多少困惑してしまうが、私は理由も聞かずに頷いた。
「私が出たら、戻ってくるまでテントから出ないでね。外も見ちゃダメ」
「う、うん……」
追加の指示が出ても、深く考えずに相槌を打つ。翔子はいつものように私の頭をそっと撫でると、テントから出てファスナーを上げた。砂を踏む音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。空のペットボトルを握りしめて、じっと彼女の帰りを待つ。
程なくして、さざ波の音に入り混じって誰かが言い争うような声が聞こえた。
複数人の男女が声を荒げて何か言っているようだけど、波の音やウミネコの鳴き声に掻き消されてよく聞こえない。
気にならないと言えば嘘になる。でもそれは、翔子の言いつけを守らない理由にはならない。だから黙って、大人しくテントの中で縮こまった。
誰かの悲鳴が聞こえた。私は目を伏せる。誰かの怒鳴り声が聞こえた。私は耳を塞ぐ。聞こえるのは心臓の鼓動と、微かな波の音だけ。そして、瞼の裏に広がる暗闇。
どれくらいそうしていただろうか。
テントの前に誰かの気配を感じて、視覚と聴覚を復帰させる。世界の眩さに少し目を細めた。徐ろにファスナーが降りて、外に居る人物が明らかになる。
「ただいま、恵ちゃん」
翔子だった。屈んで中に入ってくる。私はほっと胸を撫で下ろして――ジャージに赤い斑点を付けた彼女を見た。白い頬にも、赤い何かが付着している。
嗅ぎ慣れた金木犀の匂いに混じって、仄かに錆びた鉄の匂いがした。
「翔子っ! け、怪我してない!? 大丈夫!?」
慌てて詰め寄って、彼女の体をぺたぺたと触る。ジャージの袖を捲ったりしてみるが、特に怪我をしたわけではないようだった。ただ、両手が不自然に濡れている。まるで何かを洗い流したみたいに。
「ああごめんね。全然平気だよ、ただの返り血だから」
「そ、そうなんだ。よかっ――いやよくないわよ!」
一瞬納得しかけて、やっぱり頭を振った。
「ねえっ、危ないことしてない? 本当に平気?」
「ふふ、恵ちゃんは心配性だね。大丈夫大丈夫。クラスメイトに絡まれたから、ちょっと静かにしてもらっただけ。放っておいたら恵ちゃんにまで突っかかりそうだったし、これで暫くは大人しくなるんじゃないかな」
なんてこと無い風にからから笑う翔子。それを聞いて安心できたけど、少量とは言え返り血を浴びて来られると流石に心臓に悪い。今朝から負担がかかりっぱなしだ。
「それより……んー、このジャージは船に戻ったら捨てちゃおうか。人の血が付いたやつなんて、恵ちゃんも嫌でしょ?」
そりゃあそう、と頷く。血がついた服を好き好んで着るなんて殺人鬼くらいなものだろう。翔子は上着を脱ぐと、それを畳んで鞄にしまう。体操着から覗く肌艶の良い二の腕が眩しい。
「さて。トラブルも片付いたし、ついでに龍園くんにも報告済ませてきたから、これで気兼ね無く遊べるね」
頬に血痕を付けたまま、翔子が微笑む。出来れば顔も洗ってほしいなあとは思いつつ、私たちは今日も水着に着替えるのだった。
……いつ告白しよう。
◆
淡い気持ちを胸に秘めたまま、夜を迎える。
告白しようとは想っていても、どうにもタイミングというか、雰囲気というか、流れというか……つまるところ、私に勇気が足りなくて中々踏ん切りがつかなかった。おかげで日中は遊んでいてもうわの空で、楽しくはありつつも楽しみ切れていないような。そんな具合だった。それでも思いつく限りの遊びはひと通りこなしたし、十分満足はしていた。
「今日もたくさん遊んだね~」
「ね。流石にちょっと疲れたかも」
ご飯を食べて、シャワーも済ませて、寝袋で横になる。後はもう眠るだけ。そして明日の朝には船に戻ることになっている。一時期はどうなることかと思った無人島生活も、翔子のおかげで充足した終りを迎えられそうだ。
「船に戻ったら何したい?」
「んー……とりあえず部屋でごろごろしたい」
お互いに寝そべりながら明日の予定を立てる。私たちがリタイアしても、試験は続く。勝手にリタイアしたことにクラスメイトたちは憤るだろうけど、それでも私は翔子を選ぶ。だって私がそうしたかったから。理由なんてそれが全てだった。
暫く話し込んでいると、翔子が眠たそうに欠伸をした。
「……そろそろ寝よっか。私も少し疲れちゃった」
瞼をとろんとさせて、緩みきった微笑みを浮かべる。周りには絶対に見せないその甘えきった表情に、私はまたもやどきりとさせられた。出会ってからというもの、彼女には翻弄されてばかりだ。
「おやすみ、恵ちゃん」
「ん。おやすみ翔子」
翔子は私の手を優しく握り、目を閉じた。その手の温かさと柔らかさを噛み締めて、私も目を伏せる。脳裏に浮かぶのは今日の思い出。ビーチボールをしたり、スイカ割りをしたり、日光浴をしたり。告白しようと思って、タイミングを逃したり。
結局、想いを伝えられずに一日を終えてしまった。その事実が十字架のように重くのしかかる。翔子はこんなにも私のことを好きで居てくれるのに、私は好きの一言も伝えられないなんて。ああ情けない。私は甘えてばかりだ。
薄く目を開けて、翔子を見つめる。相変わらずの端正な顔立ち。誰もが振り返るほどの美貌を持っているのに、私の前ではこんなにも無防備だ。穏やかな顔ですぅすぅと寝息を立てている様はまるで幼い子供のよう。そんな彼女のことが、どこまでも愛おしい。好きだ、好きになっちゃったんだ。
顔が熱い。恋心を自覚してからはその顔を見る度、頬に熱がこもる。ほとんど条件反射だった。こうして手を繋ぐことすら、今の私には至難の業。翔子から察して握ってくれないと、触れることすら難しい。なんだか自分から距離を取ってしまっているようで、それが少し寂しくて苦しかった。ちょっと前まで、あんなに簡単に触れられたのに。
しかし、そこではたと気づく。いつの間にか自分の吐息が熱っぽくなってきた。
翔子の寝顔を見ているうちに、お腹の奥に形容しがたい切なさを感じていた。一度それを自覚してしまうと、もう勘違いでは済ませられない。悶々として、無意識に片手が下半身に伸びる。ジャージのウエスト部分に手を突っ込んで、ショーツに触れた。
「ん……」
下着の上から秘部をなぞる。幸い、まだ濡れては居ないようだったけど、それも時間の問題だろう。翔子を見つめて、きゅっと手を握る。触手のように指を絡めると、それだけで興奮してきてしまう。たったこれしきのことで盛り上がれるだなんて、自分はいつの間にか相当な変態になっていたらしい。
「っあ……ん……っ」
嬌声と吐息を交互に漏らし、下着越しに愛撫する。自慰なんていつ以来だろうか。彼女に出会ってからは、そういう気分になる前にあっちから誘われていたから、溜まる前に発散させられていた。しかし今回は2日のタイムラグが有る。ご無沙汰と言うにはあまりにも短い期間だが、多少なりとも溜まってしまっていたのは事実。結果として、想像以上に捗る。
ショーツ越しに弄るのも物足りなくなってきて、生地を横にずらして直接触れる。僅かに染みた愛液が指を湿らせた。最低限濡れていることを確認すると、徐ろに中指を挿れていく。
「んんっ……! ふ、ぅ……あっ……!」
堪え切れない喘ぎが口端から漏れる。ゆっくりと、第一関節辺りまで挿入したところで一度止めた。翔子を見やると、眠りが深いのか起きる様子はない。よほど疲れていたのだろうか、私が不自然に指を絡ませていても、翔子は小さく寝息を立てたままだ。
彼女を見ていると、不意に思い出したものがある。
それに気づくと、私は繋いでいた手を静かに解いて、頭の上に置いていた鞄に手を伸ばす。片手で器用にチャックを開けて、中身を探る。指先の感触だけで目当てのものを見つけ出し、底にあったそれを掴んで引っ張り出した。
翔子に貰った、レースが可愛らしい薄青色の下着。
私はそれを、あろうことか自らの鼻に当てた。自分の匂いに混ざって金木犀の香りがする。背徳的過ぎる行いに、全身が一気に火照る。
――な、なにしてんのよあたしは!?
もはや自分で自分のことが分からない。ダメだと頭で理解していても、意に反して身体が勝手に動く。深く息を吸う度、柑橘系の愛しい香りが全身に回る。指先による愛撫は止まらず、執拗に挿入と擦り付ける動作を繰り返す。私は口元に彼女のショーツを強く押し当て、嬌声を防ぐ。その行為自体が、ますます欲求を高ぶらせるものだとも知らずに。
「っふ、んぅ……! ん、んっ……ぁっ……!」
背中を丸めて自慰に耽る。第一関節を曲げて弱い部分に擦ると、痺れるような刺激が齎される。甘い快楽に身を捩り、時折、強い刺激にびくんと体が跳ねた。好きな人が眠っている目の前でこんなことをしている自分を恥じる。告白すら出来ないでいるのに、どうしてよりにもよって自慰が出来てしまうのか。その理由さえも分からず、私はただ自分を絶頂へと導いていく。
口を塞いでいるせいか、少し酸欠気味になってきた。息を吸えば、彼女の濃厚な香りが肺に溜まる。そして一層、秘部を弄る指の動きが活発化していく。もはや意思を持った別の生き物のように言うことを聞かない。止めようにも止められるはずがなかった。だって私は、翔子が好きで好きで仕方がないんだから。
やがて、限界が来る。
ショーツはすっかりびしょ濡れで、潤滑油には事欠かない。煩いくらいに心臓が早鐘を打っている。まるでサウナに居るかのように全身が熱く、汗だくで一心不乱に行為に耽る。ぼんやりとした思考は、もはや快楽の一点で染まっていた。
そして致命的に敏感な部分を引っ掻くようにして擦った瞬間、頭の中で電流がばちっと弾けたみたいな一際強い刺激が駆け巡る。咄嗟にショーツを口に咥えたのは英断だった。
「~~~~~っ!?」
びく、びく。と身体を痙攣させるほどの、暴力的なまでの快感が全身を支配する。一切の思考ができなくなって、刺激が抜け切るまで指一本動かせなくなった。息も絶え絶えに、浅い呼吸を繰り返すばかり。
「はぁっ……はぁ……ふ……」
数秒ほどの余韻に浸り、なんとか動かせるようになった中指を恐る恐る秘部から抜く。とろみのある液体が掌に満遍なく塗れていた。ショーツの中もぐしょぐしょだ。
――やっちゃったあ……。
咥えていた翔子の下着に唾液が染みてしまっているのを見て、私は頭を抱えたくなった。これらの下着をどう処理したものか。
ひとまず着替えなきゃ、と倦怠感の残る身体を起こそうとした。
「――なぁにしてるの?」
「ひゃあ!?」
完全に意識の外から呼びかけられて、情けない悲鳴が出る。いつの間にか目を覚ましていた翔子が、にまにましながらこっちを見ていた。
「一人で慰めるなんて、恵ちゃんはつれないなあ。私がいつでも発散させてあげるのに」
伸びてきた細腕が私の手首を掴み、口元に引き寄せる。指先を咥えられ、ちゅうちゅう吸われ始めた。ぬるりと温かい舌が指に絡んで、淫靡な音を立てて舐る。
「んっ……! ちょ、翔子……っ!」
こそばゆいような、くすぐったいような。それでいてお腹の奥が疼いてしまうような、もどかしい感覚。すっかり愛液を舐め取られ、代わりに翔子の唾液で妖しい光沢を帯びていた。それを見ただけで背筋にぞくぞくとしたものが走る。
「んふっ、おいし」
舌舐めずりをした翔子が、据わった目つきで私を捉えた。
「ねえ恵ちゃん。私の下着、どうだった? 興奮した?」
「あ、う……そ、それは……」
堪能して、唾液の染みたそれはもはや言い逃れできない。私は顔を真っ赤にしながら小さく頷いた。
「そっか、そっかぁ。興奮してくれたんならよかった。でもやっぱり――」
妖艶な微笑を浮かべて、彼女は私の上に四つん這いになった。
「――ナマのほうが、いいでしょ?」
「ひ、ひゃい……」
逆らえるわけもなく、私は甘い快楽の波に身を委ねた。
――翌日の朝。腰砕けになった私を抱えて、翔子共々試験をリタイアした。