――翔子に告白した。
夏休み、クルージングもそろそろ折り返しのある日、私は翔子に自分の気持ちを伝えた。好き、大好き、愛してる、ずっと傍に居てほしい、と。ありったけの想いを込めて、感情のままに好意を示す言葉を思いつく限り紡いだ。私が如何に翔子を好きなのか、翔子を必要としているのか、これからの未来で、翔子とどんな思い出を作っていきたいのか。その全てを。ありのままに。ただ不器用に、声を震わせて言葉に乗せた。
翔子は泣いていた。
静かに、幸せを噛みしめるみたいに泣いていた。一際強く私を抱きしめて、ありがとう、と愛してる、を涙ながらに繰り返す。翔子が泣いていると、なんだか私まで泣けてきて、二人してベッドの上で泣きじゃくった。悲しい涙じゃない、幸せな涙だ。嬉し泣きというやつなんだ。
泣き止んだ後は、貪るように身体を重ねた。でも普段と違って、少し激しめに翔子が私を求める。息も絶え絶えに何度もイかされ、身体中にキスマークが作られていく。全身がお互いの唾液やら汗やら何やらでびちょびちょになっても、日付が変わろうとも止まらない。溢れた愛情を再び器に注ぐみたいに、終わりのない快楽に奉仕する。私たちだけの甘い幸福がそこにあった。
翔子。私の好きな人。
翔子。私の大好きな人。
翔子。私の最愛の人。
翔子、翔子、翔子――――翔子だけが、私の全てだ。
愛してる。貴女だけを。
◆
告白を境に、自分の中である変化が起きた。
「ねえ翔子、あたし今日も可愛い? ……んふ、翔子も綺麗だし可愛いわよ。好き」
好意を隠さなくなった。いや、元より隠してなどいなかったけれど、羞恥という壁を取り払って思ったことや感じたことをそのまま伝えるようになったのだ。これは多分、告白という高いハードルを乗り越えたことによる影響だろう。今までの私は何かと恥ずかしがっていたが、それも殆どなくなった。公衆の面前だろうが自分からディープキス出来る自信がある。
これまで、性的な行為のお誘いや日常的なボディータッチは全て翔子からのアプローチだった。でも今は違う。私はもう今までの軽井沢恵ではないのだ。隙あらば自分からキスしちゃうし、手持ち無沙汰になったらとりあえず翔子の身体に触れる。だって、愛しい人が傍に居るのだから、私から積極的に相深めるのは自然なことだ。
そしてもう一点、変化したことがある。
翔子に対して、何かと献身的な行動を心掛けるようになった。
お風呂に入れば体を洗ってあげたくなるし、浴室を出ればタオルで体を拭きたくなる。疲れが溜まっていそうだなと思えば、膝枕をしてあげたり、客船では必要ないけど、寮に戻ったら手料理を振る舞ってあげたいとも思う。料理の腕は大したことないとは言え、それでも何かしらで翔子を支えてあげたかった。多分、それが私なりの愛ってやつなのかも。好きな人にはとことん一途で、身も心も尽くしてあげたくなる。そういう愛情。
だから今日も、私たちはお互いを愛して愛されあうのだ。
「翔子~、ぎゅってして~」
「いいよー」
「えっへへ……」
朝からベッドの上で抱きしめ合う。彼女の胸に顔を埋めれば、幸せの香りが鼻腔をくすぐり、肺をいっぱいに満たして、脳が甘く痺れる。ああだめだ、ばかになる。もうばかになっちゃってるのかもしれない。じゃあばかでもいいや。すき、すき。
「すきぃ……」
「ふふ、恵ちゃんはどんどん可愛くなるね~」
よしよし、と側頭部を撫でられる。触れられた箇所が温かくなって、とても気持ちが良い。ひと撫でされる度に知能指数が下がっていくような気がする。もうこの際、IQがサボテン以下になっても構わなかった。
二人だけの時間が流れる。何よりも穏やかで、満ち足りていて。過去に受けた苦痛の日々を、全て洗い流してしまうほどの幸せを享受していた。世の人々の皆様方は、これを怠惰だとか堕落だとか言ってチープな言葉に当て嵌めようとするかも知れない。だとしても、そんなことは些末でしかない。だって私たちには、このひと時こそが必要なのだから。翔子と一緒なら、どこまででも堕ちていこう。
ところが、そんな私たちの幸せ空間を邪魔するものがあった。
抱き合いながら、お互いの首筋にキスマークを付けて遊んでいると、不意にキーンという甲高い音が鳴る。枕元に置いた端末からだ。確か、学校から重要なお知らせが有った際に鳴るようになっていると説明を受けた記憶がある。
不快音に顔を歪めた私たちはそれを確認すること無く、無視しようとしたものの、直後にスピーカーからアナウンスが流れ始めた。非常に重要だからさっさと確認しろ、とのことらしい。
「もー、なんなのよ」
乱暴に学生証を引っ掴み、受信したメールを確認する。翔子も眉間にシワを寄せながら同じ動作をした。
――要約すると、特別試験が始まるから指定した時間に来い。そう書かれていた。
「試験って、またぁ!? この間やったばっかじゃん!」
驚きと怒りが同時にこみ上げてくる。こっちはバカンスの名目で来ているのに、告知せずに二度も試験を行うなんてちょっと横暴すぎじゃないだろうか。事前説明すら無いとか、生徒を舐めてるでしょ。これだから大人は。
「恵ちゃん、ちょっとメール見せて」
ぷんすこと文句を垂れていると、翔子がそう言って画面を覗き込んでくる。見やすいように少し端末を傾けてあげると、液晶を見つめる彼女の表情がどんどん強張っていく。
「……集合時間は同じだけど、部屋が違う」
「え……? ま、また翔子と一緒じゃないの?」
携帯の画面を見せてもらうと、翔子が呼び出されていた部屋は201号室。だけど私は204号室。近いようで、凄く遠い。所要時間は20分と書かれていても、私たちにとっては決して軽んじることの出来ない数字だ。自分の意志で離れるのと、他者が介入して強制的に離れ離れになるのとではまるで違う。
「ねえ翔子っ、なんとかならない?」
私は彼女の腕に縋り付く。わがままを言っている自覚は有っても、それでも離れるのが嫌だった。
「先生に掛け合ってみるね」
微笑んだ翔子はそう言って端末を操作すると、徐ろに電話を掛け始めた。
真嶋先生を呼び出した翔子が余所行きの声で交渉している。けれどその表情は明るくない。時折、苛立ったように頭を掻く。その様子を5分、10分と見守っていると、やがて翔子が通話を切った。
「ごめんね、どうにもならなかった」
気落ちした様子で、翔子は私を強く抱きしめる。どうしたらいいか分からなくて、私はその背中をただ抱きしめ返すことしか出来なかった。
「試験の根幹に関わることだから、ってポイントも使えなかったよ。欠席したら退学もあり得るって」
「翔子が退学になったら、あたしもついてく」
即答。翔子の居ない学校に意味はない。何があっても彼女の実家まで付いていく腹づもりだった。寄生虫が宿主と一緒に移動するのは当たり前なのだから。
「恵ちゃんはさ、まだ学校続けたい? やりたいこととかある?」
嬉しそうに頬を緩める彼女の不意な問いに、こくんと頷く。
「……あるわよ。折角の高校生活なんだし、もっと登下校とかテスト勉強とか……あ、お弁当も作ってみたい。それでお昼に屋上で一緒に食べるの。それに、まだ翔子と同じクラスになれてないじゃん。あの時の約束、忘れてないんだからね」
頭の中のやりたいことリストはまだたくさん残っている。ここで退学してしまうと、少しばかり心残りが出来てしまう。それはちょっとやだ。
「あ、あと……保健室でえっちとか、やってみたいし? 寮の部屋だけじゃなくてさ、もっと色んなとこ。トイレとか空き教室とか……だめ?」
素直に、欲望のリクエストを伝える。もう隠さないと決めたのだ。
「……そっか。恵ちゃんはえっちだねえ」
翔子は優しい眼差しで、ちょっとだけ苦笑した。仕方ないなあ、という心の声が聞こえてくるようだった。少し見つめ合って、彼女が私の耳元に顔を寄せる。
「じゃあ20分だけ頑張ってみよう? もし頑張れたら――」
ちゅろ、と舌舐めずりの音がよく聞こえる。
「――今夜、私のカラダ……好きにしていいよ」
蠱惑的に囁いて、私の耳たぶを甘噛した。
◆
所定の時刻が近づき、私たちは2階のフロアまで降りてきた。フロアは閑散としていて、時折他の生徒が歩いているくらいで、その彼らも次第にそれぞれの部屋の中に消えていく。同じ時間帯に呼びされた生徒だろうか。
翔子と腕を組みながら指定された部屋の前までやってくる。204号室。ここに翔子は立ち入れない。
「翔子、ちょっと充電させて」
ひし、と細身の身体に抱きつく。胸に顔を埋めて、深呼吸を繰り返す。すっかり馴染んだ柑橘系の香りが胸いっぱいに広がる。
「ん」
背伸びをして、上目遣いで催促すると、翔子はやや膝を曲げて身長差を調整してくれる。触れられる距離になったのを確認し、唇を重ねた。啄むようなキスを何度か繰り返す。それから舌で彼女のぷにぷにとした唇をノックすれば、次は舌を絡め合う濃厚なディープキスが始まる。ちゅる、ちゅるる。と唾液ごと彼女の赤い舌を吸う。程よい静けさの廊下に、淫らな水音が鳴る。
「――ぷは」
頃合いを見計らって自分から顔を離す。これ以上は抑えが効かなくなりそうだと判断した。二人の間に、透明な橋が落ちる。
「これで頑張れそう?」
「ん!」
満面の笑みで頷くと、翔子も嬉しそうにはにかむ。名残り惜しくはあるけれど、身体を離す。互いの温もりが空間に散っていき、少し肌寒く感じた。
「じゃあ、また後でね」
惜しむように私の横髪を梳いて、翔子は姿勢正しく自分の部屋に向かう。三つ隣のその部屋に入っていくまで、私は小さく手を振っていた。
「……よし」
気合を入れる。20分だ。たったそれだけ耐えれば、また会える。耐えきれば、今晩、翔子のカラダを好きにできる。好きにしていいとは、つまり好きにしていいということだ。……ど、どうやって?
まずいぞ、やられっぱなしだった私にその手の知識は皆無だ。散々ベッドの上で鳴かされてきたのだから、あるわけもない。何をされているかは分かっていても、具体的な知識やテクニックは見様見真似でどうにかなるものでもないだろうし……あとでこっそり調べておく必要があるわね。
なんてワードで検索かけようかな、などと頭の片隅で思考しつつ、部屋のドアをノックする。中から低い男性の声で入室を促された。ノブを捻って室内に足を踏み入れる。
「失礼しまーす」
中で待っていたのはAクラスの真嶋先生と、Dクラスの男子が三人。ぱっと見は共通点がない奇妙な組み合わせだ。というか女子が私だけなのは何の嫌がらせだろう。ただでさえ狭い空間がむさ苦しいったらない。回れ右して退室したい心をぐっと堪え、扉を閉めた。
「遅刻ギリギリだぞ。早く席につくように」
「……はーい」
こっちは翔子との時間を割いてまで来てあげたのに、という言葉は飲み込んで空いていた席に腰を下ろす。
「全員、揃ったな。ではこれより、特別試験の説明を行う」
低く重々しい声音で真嶋先生が口火を切る。これでまた無人島に放り出されたら、きっと私は翔子と即合流して同じことを繰り返すだろう。
「今回の試験では、1年全員を干支になぞらえた12のグループに分け、各グループごとに試験を行う。目的は生徒のシンキング能力を問うものだ」
――うーわめんどくさそー。
ただでさえ低いモチベーションがだだ下がりする。干支? 12のグループ? シンキング? 試験の内容はまるで見えてこないけど、とりあえず頭を使う厄介そうな試験なのは分かった。せめて翔子が同じグループだったら、もう少しやる気が出たんだけどなあ。
ちら、と横目に男子たちを窺う。順にぬぼーっとした綾小路くん、ガリ勉の幸村くん、小太りオタクの外村くん。……なんでこんなメンツと一緒に試験を受けなきゃなんないのか。内心で辟易しながらも大人しく話を聞く。
それから真嶋先生は社会人に求められる基礎力はあーだこーだ、考え抜く力がどうこうとか、難解な呪文を唱え始める。出来るなら日本語でお願いしたい。
「ここまでで、なにか質問は?」
「ないでーす」
正直言って内容は1ミリも理解していなかったけど、早く終わらせたかったので理解したふりをする。横で男子三名が胡乱げな視線を向けてきていた。真嶋先生も同様の目をしていたが、小さく嘆息して口を開く。
「……念のため付け加えておくが、今この場に居る君達4人は同じグループとなる。そして同時刻、別室にて『君たちと同じグループになる』メンバーに対しても、並行して説明が行われている」
その説明に、聞き流そうとしていた私の脳が待ったをかける。同時刻、別室、同じグループ。ということはもしかして――翔子と一緒に試験を受けられるの?
浮上した可能性は、まさに一縷の希望だった。もし、本当に翔子と同じ試験が受けられたとしたら、この苦痛でしかない時間にも意味があるというもの。
居住まいを正して、ちょっと真面目に話を聞いてみる。
「このグループは1つのクラスから構成されるものではなく、他クラスから3、5人ほどの生徒を集めての混合グループとなる。今回、ここに君たちを呼び集めたのは、生じるであろう混乱を防ぐためだ」
「他クラスとの混合? 今まで敵同士として競い合ってきたのに、急に協力しろと?」
幸村くんが疑問を述べる。理解しがたい、とばかりに眼鏡の縁をくいっと持ち上げた。
「お前たちはそう感じていたかもしれないが、この試験ではひとまず置いておくように。……さて、君たちが配属されるのは『卯』。これからメンバーリストが記された紙を渡すが、退室時に返却してもらう。必要だと感じれば、この場で記憶するように」
そう言って、真嶋先生はサイドテーブルに置いていたハガキサイズほどの紙を配る。受け取ったそれを、私は祈るような気持ちで目を通していく。
Aクラス・土岐翔子 町田浩二 森重卓郎
Bクラス・一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太
Cクラス・伊吹澪 真鍋志保 藪菜々美 山下沙希
Dクラス・綾小路清隆 軽井沢恵 外村秀雄 幸村輝彦
「やったっ、翔子いるじゃん!」
最愛の人の名前を見つけ、その場で飛び上がらんばかりに歓喜する。もう嬉しくて嬉しくてたまらない。私は緩みきってしまった頬でにこにこと笑顔を惜しみなく振りまきながら、土岐翔子という文字を何度も何度も反芻した。やれやれ、と真嶋先生がこれ見よがしに溜め息を吐く。
「……今回の試験では、大前提としてクラスの関係性を一度無視しろ。それが、試験をクリアするための鍵となるだろう」
なにやら意味深なことを言われているような気がするけど、嬉しさのあまり頭に入ってこない。
「これより、君たちはDクラスではなく、兎グループとして行動してもらう。そして試験の合否はグループごとに設定されている」
私が浮かれている間にも説明は続く。
「結果は4通りしか存在しない。例外はなく、必ず4つのうちどれかになるよう作られている。分かりやすいよう、プリントを用意してある」
そうして配られた用紙に目を通す。何やら長々と文章が書いてあるが、軽く読み込んだ感じでは人狼ゲームっぽい。グループ内に潜む優待者とやらを見つけ出すか、優待者が隠れ切るかという試験のようだ。
しかも、結果1で試験を終わらせられれば、グループ全員が50万ポイントを報酬として受け取れる上に、優待者はその倍の100万ポイントだという。もし100万ポイントも貰えたら、翔子がクラス移籍するための資金の十分な足しになるはず。そう考えると、若干やる気も湧いてくるというものだ。結果2だったとしても、塵も積もればというやつである。こうなると是が非でも優待者に選ばれたいけど、どうやって振り分けられるのかが分からない。普通にランダムだろうか。
「これら2つの結果が理解できたのなら、裏面を捲れ。ここで躓いているようでは先に進めないぞ」
ひとまず、全員が理解できたのを確認し、揃って裏面を捲る。残りの結果について詳しく書かれていた。
要約すると、優待者を見抜いて回答すると、その合否に応じて結果が変わる。合っていれば結果3。回答した生徒のクラスは、クラスポイントを50ポイント得られる。同時に正解者にもプライベートポイントが50万支給される。ただし、不正解であれば回答者のクラスは50クラスポイントを失い、優待者が50万ポイントを得ると同時にその所属クラスは50クラスポイントを得てしまう。……らしい。ここまで理解するのに知恵熱が出そうになった。
皆仲良く足並みを揃えれば、結果1に持っていくことも出来るだろうけど、裏切り者の存在がそうさせない。そのための話し合いというわけだ。なるほど、良く出来ている。ちょっとおもしろそう。
「以上が、今回の試験の全容だ。理解できたか?」
「えぇっと……まあ、大体?」
曖昧な答えに、幸村くんが溜め息を吐く。なんか皆して溜め息ばかりだ。そんなんじゃ幸せが逃げちゃうのに。
「禁止事項などは各自確認するように」
細かく書かれているそれにも一応目を通しておく。些細なことで違反したら面倒だし――そこで、流し見ていた視線がある項目で停止する。
――最終試験終了後は直ちに解放し、一定時間他クラスとの生徒同士での話し合いを禁じる。
「ち、ちょっと! これ、この、試験終わったら他クラスの生徒と喋っちゃダメっていつまで!?」
慌てて真嶋先生に確認を取る。突然テンパりだした私に怪訝そうな表情を浮かべていたが、すぐに説明が入った。
「書かれている通りだ。全てのグループが終了してから約1時間ほど禁止されている」
「い、いち――じゃあ筆談は!?」
「筆談も禁じられている。破れば退学措置が下るぞ」
冷たくあしらわれ、私は愕然と項垂れた。もうだめだ。翔子と1時間も話せないなんてあんまりだ。栄養失調で死んでしまうかも知れない。
露骨に意気消沈とする私を不憫に思ったのか、真嶋先生は独り言のように呟く。
「はあ……接触自体は禁止されていない、とだけ言っておく」
「それならまあ……なんとか……」
60分間キスしまくる、とか? でもそのうち盛り上がってきて好き好き言っちゃいそうだなあ。だったら猿轡でもしてもらって物理的に塞いでもらおうかな? ……変な性癖に目覚めそうで怖いな。でもナシじゃない。全然アリ寄りのアリだ。イケるよ、私。
1時間をどう乗り切るか、桃色の思考を巡らせていると、幸村くんから冷ややかな注意が飛んでくる。
「おい軽井沢、頼むから退学になるようなことだけはするなよ。クラスに迷惑がかかるからな」
「うっさい。あたしは翔子が居ないと生きていけないの。黙ってて」
比喩表現じゃなく、本当に死んでしまう。が、コトの重大さをあまり理解していないのか、幸村くんは呆れたように後頭部を掻いた。誰も彼も、肩をすくめたり嘆息したり、似たような反応を示していた。唯一、綾小路くんだけは反応が薄い。何を考えているんだか。
それから真嶋先生は説明を付け足し、早速明日から指定された時刻に指定された部屋へ向かい、必ず自己紹介しろと言う。また、基本的に退室は認められていないとも。1時間部屋に軟禁されるのは別にいい、翔子と一緒だし。
「そしてもう一点、グループ内の優待者は学校側は公平性を期し、厳正に調整している」
真嶋先生は最後に意味深な発言を残し、私たちに退室を命じた。幸村くんが話し合いがどうとか言っていたけど、私はいの一番に席を立って部屋を出る。
「あ、翔子~」
丁度、部屋から出てきた彼女と鉢合わせる。直ぐ様抱きついてすんすんと鼻を鳴らす。幸せの匂いが再び胸に溜まり、全身に回る。
「翔子、あたし頑張れたよ。褒めて~」
「ふふっ、恵ちゃんはいい子だね。よしよし」
優しく頭を撫でられる。ああ、これだ。これがないとやっていけない。失った水分を補給するように、身体の中に甘やかな要素が充填されていく。
「頑張った恵ちゃんには、約束通り、あとで私のこと好きにしていいからね。恵ちゃんの欲望を全部ぶつけていいの。何をしても、絶対に拒んだりしないよ」
頭上から甘く囁かれ、脳が痺れる。何をしてもいい。その言質を取った私は、瞬く間に思考回路が性欲に支配されてしまう。
「お部屋、戻ろっか」
手を取り、指を絡める。普段、私をねちっこく責め立てるその細指は、今日に限ってはその役目を私の10本の指たちに譲られる。彼女がいつも私にしてくれていることを、今夜は私が担当しなければならない。そう考えると、ちょっと不安になる。出来ることなら気持ちよくなってもらいたい。後で、本格的に調べておこう。
悶々とあれこれ思慮に耽りながら、私たちは客室へと戻った。