柄の悪い竜と、強がりお嬢様   作:ゆゆゆい

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お仕事忙しくて大分遅れてしまいました、ごめんなさい


第七話

お嬢様、初仕事に出る

 

 翌朝、九条天音(くじょう・あまね)は食堂のテーブルに置かれた一枚の紙を睨んでいた。

 

 紙には、昨日自分で書いた術の一覧がある。

 

 虫よけ結界。

 湿気避け。

 弱い人払い。

 小さな防護。

 音を少しだけ遠ざける結界。

 匂いを薄める結界。

 怪異を傷つけず、対象から剥がす補助。

 

 文字はどれも、少しだけ硬い。

 

 書いた時の緊張が、そのまま紙に残っているようだった。

 

 天音はそれを見るたび、胸の奥が落ち着かなくなる。

 

 できること。

 

 その言葉を、自分に当てはめるのがまだ難しい。

 

 九条家では、天音にできないことばかりが数えられた。強い結界が張れない。大きな怪異を祓えない。術の出力が足りない。家名に見合う成果が出せない。

 

 だから、できることを書き出すという行為そのものが、どこか罠のように感じられる。

 

 できると思ったものが、実はできなかったらどうするのか。

 

 必要とされた後で失敗したら、どうなるのか。

 

 そんなことばかり考えてしまう。

 

 天音は紙の端を指先で押さえ、ため息を飲み込んだ。

 

 目の前では、黒瀬迅(くろせ・じん)が朝食の皿を並べている。

 

 相変わらず手つきは雑に見えるのに、味噌汁はこぼれない。焼き魚の向きも、なぜか自然と食べやすい位置に置かれる。

 

 その雑さと丁寧さの混ざり方が、天音にはまだよく分からない。

 

「何睨んでんだ」

 

 迅が言った。

 

「睨んでおりません。確認しているだけです」

 

「紙に穴空きそうな顔してたぞ」

 

「失礼ですわね」

 

「失礼なのは今さらだろ」

 

「開き直らないでくださいませ」

 

 天音は紙を裏返したくなったが、負けた気がするのでやめた。

 

 向かいの席では、三枝灯莉(さえぐさ・あかり)が右手首を軽く回している。昨日の黒い跡はもうない。見た目だけなら、何もなかったように白い手首だった。

 

 けれど、天音はそこへつい視線を向けてしまう。

 

 昨日、自分が握った手。

 

 冷たかった手。

 

 大丈夫、と言いながら、本当は怖かった手。

 

 灯莉は天音の視線に気づくと、少し笑って手を振った。

 

「もう平気だよ」

 

「本当ですの?」

 

「うん。ちょっとだるいけど、黒いのはいない感じ」

 

「感じ、では不安ですわ」

 

「天音ちゃん、心配性だね」

 

「あなたが隠すからです」

 

「それはごめん」

 

 灯莉は素直に謝った。

 

 その素直さに、天音は少し言葉を詰まらせる。

 

 責めたいわけではない。

 

 けれど、また隠されたら困る。困るというより、たぶん腹が立つ。なぜ一人で抱えるのかと、きっとまた踏み込んでしまう。

 

 自分がそんなふうに誰かへ踏み込めると思っていなかったので、天音はまだその感覚に慣れていなかった。

 

 狐塚小春(こづか・こはる)が、味噌汁を運びながら柔らかく言う。

 

「灯莉ちゃん、今日は無理しないでね」

 

「はーい」

 

「返事が軽い」

 

「無理しません」

 

「よろしい」

 

 小春はそう言ってから、天音の前に小鉢を置いた。

 

「天音ちゃんも、今日は無理しないでね」

 

「わたくしもですか?」

 

「うん」

 

 小春は天音の手元の紙を見る。

 

「初仕事、行くんでしょう?」

 

 その言葉に、天音は箸を取り落としかけた。

 

 何とか落とさずに済んだが、指先に妙な力が入る。

 

「……初仕事?」

 

「お前、昨日の話忘れたのか」

 

 迅が当たり前のように言った。

 

「忘れておりません。ですが、まさか翌日とは思いませんでしたわ」

 

「先に延ばしたら逃げるだろ」

 

「逃げません!」

 

「顔が逃げそうだった」

 

「顔に勝手な人格を与えないでくださいませ!」

 

 迅は鼻で笑った。

 

 天音は睨み返したが、否定しきれない自分もいた。

 

 逃げたいわけではない。

 

 けれど、怖い。

 

 仕事という響きが、思ったより重い。

 

 家賃を払う。借りを返す。自分の術で誰かの困り事をどうにかする。

 

 言葉にすれば立派だが、天音の胸に最初に湧くのは、失敗したらどうするのか、という不安だった。

 

「小春の知り合いだ」

 

 迅は焼き魚をつつきながら言った。

 

「商店街の古道具屋。裏口に小さいのが寄ってくるらしい」

 

「小さいの、とは?」

 

「知らん。見てこい」

 

「説明が雑すぎますわ!」

 

 天音が抗議すると、小春が苦笑した。

 

「ごめんね。私も詳しくは聞いてないんだ。お店の裏口に、夜になると小さい影みたいなのが集まるんだって。悪さってほどじゃないけど、戸を叩いたり、古い品物を動かしたりするみたい」

 

「それは十分悪さではありませんの?」

 

「うん。でも、壊したり怪我させたりはしないらしいよ。だから大がかりな祓い屋さんを呼ぶほどではなくて」

 

 小春はそこで少し困ったように笑った。

 

「それに、そのお店、古い物が多いから。派手に祓われると困るんだって」

 

 派手に祓うと困る。

 

 昨日、硝子も似たようなことを言っていた。

 

 商店の裏口、古い倉庫、子供部屋、寝室。

 

 怪異がいるかもしれないけれど、大事なものまで壊されたくない場所。

 

 九条家なら、まず「怪異を排除する」ことを考えただろう。対象を祓い、場を清め、二度と近づけないよう強い結界を張る。それが正しい対処だと教わった。

 

 だが、それで壊れてしまうものがある。

 

 天音はそういうことを、あまり考えたことがなかった。

 

 考える前に、自分は強い術を使えない側だったからだ。

 

「……わたくしの術で、どうにかなるとは限りませんわ」

 

「だから見に行くんだろ」

 

 迅はあっさり言う。

 

「失敗したら?」

 

「俺がいる」

 

「あなたがいるから何ですの?」

 

「どうにかする」

 

「説明になっておりません」

 

「説明するより早い」

 

 天音は深く息を吐いた。

 

 こういう時の迅は、最初から細かく安心させる気がない。

 

 ただ、その言葉が完全な無責任ではないことも、もう少しずつ分かっている。

 

 危なくなれば止める。

 

 後始末はする。

 

 昨日の洗面所でも、そうだった。

 

 それは優しい言葉ではないかもしれない。少なくとも、天音が知っている優しさの形ではない。けれど、無視でも放任でもなかった。

 

「黒瀬迅も来るのですか?」

 

「値段交渉があるからな」

 

「わたくしが信用されていないように聞こえますわ」

 

「信用してねえから言ってんだよ」

 

「はっきり言いすぎではありませんこと!?」

 

「相場分かんねえだろ」

 

 天音は口を開きかけ、閉じた。

 

 分からない。

 

 そもそも、虫よけ結界に値段をつけるという発想がなかった。

 

 九条家にいた頃、術は家のために使うものだった。あるいは、評価されるために見せるものだった。自分で値段をつけて、誰かのために働くものではなかった。

 

「……そこはお願いしますわ」

 

「最初からそう言え」

 

「腹立たしいですわ……」

 

 灯莉がくすくす笑う。

 

「天音ちゃん、初仕事がんばってね」

 

「まだ引き受けると決まったわけではありません」

 

「でも、行くんでしょ?」

 

「……見には行きます」

 

「それ、ほぼ引き受ける顔だよ」

 

「顔で判断しないでくださいませ!」

 

 言い返しながら、天音は自分でも分かっていた。

 

 見に行くと言った時点で、たぶん放ってはおけない。

 

 昨日、灯莉の手を見なかったことにできなかったように。

 

 誰かが困っていると聞いて、その困り事が自分の術で少しでも軽くなるかもしれないと知ってしまったら、完全に背を向けることは難しい。

 

 それが良いことなのか、面倒なことなのか、天音にはまだ判断できなかった。

 

     ◇

 

 商店街へ向かう道は、月見荘から歩いて十五分ほどだった。

 

 天音は、昨日買った紺色のジャージではなく、小春が選んでくれた落ち着いた色のカーディガンとスカートを着ていた。初仕事だと聞いて、慌てて「さすがにジャージは避けるべきでは」と主張した結果である。

 

 迅は「動きやすけりゃ何でもいい」と言った。

 

 天音はその意見を丁重に無視した。

 

 並んで歩く迅は、いつも通りだった。

 

 黒い服。雑な歩き方。片手をポケットに突っ込み、もう片方の手には火のついていない煙草を持っている。見た目だけなら、到底まっとうな仕事へ向かう大人には見えない。

 

「黒瀬迅」

 

「あ?」

 

「その煙草はしまった方がよろしいのでは?」

 

「火ついてねえだろ」

 

「そういう問題ではありません。第一印象というものがあります」

 

「俺が行く時点で第一印象は諦めろ」

 

「諦めないでくださいませ!」

 

 迅は面倒くさそうに煙草を耳に挟んだ。

 

 譲歩なのかどうか、判断に困る。

 

 天音はそれ以上言うのを諦めた。

 

 商店街は、昼前ということもあって人通りがある。八百屋の前には主婦らしき人たちが立ち話をしていて、パン屋の前からは焼き立ての匂いが流れてくる。自転車に乗った学生が通り過ぎ、どこかの店先では小さなラジオが古い歌を流していた。

 

 九条家の外へ出る時は、いつも車だった。

 

 目的地と屋敷の間には、誰かが用意した道しかなかった。歩くことも、立ち止まることも、店先を覗くことも、自分で選ぶものではなかった。

 

 だから、こうして商店街を歩いていると、天音は少し落ち着かない。

 

 知らないものが多すぎる。

 

 店先に積まれた野菜の値段も、惣菜屋の匂いも、道端で猫に話しかける老人も、天音の知っている世界にはなかったものばかりだ。

 

 その一つ一つに気を取られそうになって、天音は慌てて姿勢を正す。

 

 今日は仕事で来ている。

 

 まだ正式に引き受けたわけではないが、仕事の可能性がある。

 

 ふらふら見物している場合ではない。

 

「肩に力入りすぎだ」

 

 迅が言った。

 

「入っておりません」

 

「入ってる。歩き方が試験前だ」

 

「試験前の歩き方とは何ですの?」

 

「失敗したら死ぬ、みてえな歩き方」

 

 天音は言い返そうとして、少しだけ言葉に詰まった。

 

 九条家での試験は、さすがに失敗したら死ぬものではなかった。

 

 少なくとも、身体は。

 

 けれど、失敗した時に何かが終わる感覚は、天音の中にまだ残っている。

 

 期待。

 

 評価。

 

 居場所。

 

 それらが、音もなく削れていく感覚。

 

 迅の言い方は乱暴だったが、完全に的外れではなかった。

 

「……仕事ですもの。緊張するのは当然ですわ」

 

「緊張すんのは勝手だが、術が硬くなるぞ」

 

「分かっております」

 

「分かってる顔じゃねえ」

 

「顔の話ばかりしないでくださいませ」

 

 天音は少しだけ頬を膨らませる。

 

 迅はそれを見て、鼻で笑った。

 

 その時、前方の店先から小春が手を振った。

 

「こっちこっち」

 

 小春は先に店主へ話を通すため、少し早く出ていた。

 

 彼女の立っている店は、商店街の中でも少し奥まった場所にあった。

 

 看板には、古い文字で「古道具 猫目堂(ねこめどう)」と書かれている。

 

 店先には、小さな木箱や古い茶碗、古びた時計、よく分からない置物が並んでいた。埃っぽいが、不潔ではない。古いものがそのまま息をしているような匂いがする。

 

 天音は思わず足を止めた。

 

 硝子が言っていた、大事なものまで壊されたくない場所。

 

 その意味が、少しだけ分かった気がした。

 

 ここにあるものは、どれも高価そうとは限らない。むしろ、天音には値打ちの分からないものの方が多い。

 

 けれど、簡単に壊していいものには見えなかった。

 

「天音ちゃん、迅さん」

 

 小春が近づいてくる。

 

「店主さんには話してあるよ。裏口の方を見てほしいって」

 

「店主は?」

 

「中。ちょっと腰が悪いから、裏までは私たちだけで見ていいって」

 

「不用心ですわね」

 

 天音が思わず言うと、小春は苦笑した。

 

「迅さんがいるからじゃないかな」

 

「それは用心になっているのですか?」

 

「なる」

 

 迅が即答した。

 

「自分で言い切るところが品に欠けますわ」

 

「品で怪異が退くなら苦労しねえよ」

 

「それはそうですが」

 

 天音は店内をちらりと見る。

 

 奥には白髪の店主らしき老人が座っていた。小春へ会釈をし、天音にも穏やかに頭を下げる。

 

 天音は慌てて背筋を伸ばし、軽く会釈を返した。

 

 仕事。

 

 初めての、仕事。

 

 その言葉を意識しただけで、胸がまた少し硬くなる。

 

 迅がそれに気づいたのか、店の裏へ向かいながらぼそりと言った。

 

「今はまだ見るだけだ。勝手に引き受けた顔すんな」

 

「しておりません」

 

「してる」

 

「ですから、顔で判断しないでくださいませ!」

 

 言い返す声は少し大きくなった。

 

 小春が前を歩きながら、くすくす笑う。

 

 その笑いに、天音の肩からほんの少しだけ力が抜けた。

 

     ◇

 

 猫目堂の裏口は、細い路地に面していた。

 

 表の商店街と違い、こちらは静かだった。古い木戸、積まれた木箱、錆びた物干し台、使われていない植木鉢。隣の建物との隙間が狭く、昼間なのに少し薄暗い。

 

 天音は、まず匂いに気づいた。

 

 湿った木の匂い。

 

 古い紙の匂い。

 

 そして、ほんの少しだけ、夜の水たまりのような匂い。

 

 はっきり嫌なものではない。

 

 けれど、明るい表通りにはなかった匂いだった。

 

「ここですか?」

 

「うん」

 

 小春が裏口の戸を指す。

 

「夜になると、この戸をこつこつ叩くんだって。開けると誰もいない。でも翌朝、古い鈴とか、小さい箱とか、店の奥に置いてあったものが少し動いてるらしいよ」

 

「泥棒ではありませんの?」

 

「鍵は開いてないし、大きなものは動かないんだって。あと、塩を置いたら全部こぼされてたって」

 

「それは嫌がらせでは?」

 

「うん。小さい嫌がらせ」

 

 小春の言い方が穏やかすぎて、天音は少し困った。

 

 小さい嫌がらせ。

 

 人に怪我をさせるわけではない。大きな被害があるわけでもない。けれど、毎晩続けば気味が悪いし、店の品物が動くのも困る。

 

 こういうものを、九条家ならどう扱っただろう。

 

 低級怪異。

 

 雑霊。

 

 場の歪み。

 

 分類はいくつか思いつく。だが、思いつくだけだった。

 

 天音にできる対処は、その分類の中にはあまりない。

 

 迅は裏口の戸の前にしゃがみ込み、木の隙間を見ている。

 

 ただし、何かをする様子はない。

 

「どうですの?」

 

「いるな」

 

 あっさり言われて、天音の背筋が伸びた。

 

「いるのですか?」

 

「小さいのがな」

 

「どこに?」

 

「お前が見ろ」

 

 迅は立ち上がり、一歩下がった。

 

 あまりにも当然のように場所を空けられたので、天音は反射的に戸の前へ立つ。

 

 それから、自分が前に出たことに気づいて少し焦った。

 

「急に任せないでくださいませ」

 

「見るだけだろ」

 

「見るだけでも心の準備が必要です」

 

「心の準備してるうちに日が暮れるぞ」

 

「急かさないでください」

 

 天音は小さく息を吐き、裏口の戸を見た。

 

 古い木戸だった。

 

 木目の間に細かな傷があり、下の方には黒ずんだ跡がある。隙間には埃が溜まり、戸車の近くには小さな石が挟まっていた。

 

 一見すれば、ただの古い裏口。

 

 けれど天音は、胸の奥を探るように視線を落とした。

 

 昨日、灯莉の手首を見た時の感覚を思い出す。

 

 言葉にすれば笑われてしまいそうな違和感。

 

 薄く、曖昧で、しかし見なかったことにはできないもの。

 

 天音は戸の下へ目を向けた。

 

 影がある。

 

 建物の影。

 

 木箱の影。

 

 植木鉢の影。

 

 その中に、ひとつだけ形の合わない影があった。

 

 戸の隙間から、小さな指のようなものが出ている。

 

 黒い。

 

 だが、昨日の怪異ほど重くはない。

 

 何かを掴もうとしているというより、戸の向こうを覗いているような影だった。

 

 天音が見ていると、その影がすっと引っ込んだ。

 

「……いました」

 

「だろうな」

 

 迅は驚かない。

 

 小春は天音の横へ少しだけ近づいた。

 

「どんな感じ?」

 

「小さいです。戸の隙間から、指のようなものが」

 

 口に出した瞬間、天音は自分の表現が曖昧すぎることに気づく。

 

 九条家なら、もっと正確に言えと叱られただろう。分類、強度、性質、危険度。言葉にできないものは、分かっていないのと同じだと言われた。

 

 天音は慌てて付け足そうとした。

 

「その、強いものではないと思います。昨日の灯莉さんのものとは違って、もっと薄くて、ただ中を見たがっているような」

 

「十分だ」

 

 迅が言った。

 

 天音は思わず彼を見る。

 

「十分、ですの?」

 

「今の仕事ならな」

 

 迅は裏口を顎で示す。

 

「客が知りたいのは、学術分類じゃねえ。危ねえのか、何をすればいいのか、店が壊れるのか。その辺だ」

 

 天音は少し黙った。

 

 学術分類ではない。

 

 九条家で求められた正しさと、ここで必要な正しさは違う。

 

 それを頭では理解しても、すぐに身体が追いつくわけではなかった。

 

「……危険は低いと思います。ただ、放っておくと中へ入り続けます。戸の隙間と、古い物に寄っている気がしますわ」

 

「古い物?」

 

 小春が首を傾げる。

 

「はい。店の中にある、古い鈴や箱を動かすのでしょう? たぶん、明るい場所へ出たいわけではなく、古いものの影を伝って入り込んでいるのではないかと」

 

 言いながら、天音は自分の声が少しずつ落ち着いていくのを感じた。

 

 目の前のものを見て、考える。

 

 灯莉の時ほど近くない。

 

 誰かの身体にまとわりついているわけではない。

 

 それだけで、少しだけ呼吸がしやすかった。

 

 迅は黙って聞いている。

 

 小春も、急かさない。

 

 天音は戸の下へしゃがみ、木の隙間を見た。

 

 黒い影は引っ込んだままだ。

 

 けれど、そこに残った気配はある。

 

 小さい。

 

 弱い。

 

 臆病。

 

 でも、しつこい。

 

「強く祓う必要はないと思います」

 

 天音は言った。

 

「たぶん、戸口から中へ入りにくくすればいい。あと、古い物の気配を少しだけぼかして、ここが入口だと分かりにくくする結界を張れば」

 

 そこまで言って、天音は急に不安になった。

 

 本当にできるのか。

 

 今、自分はできるような顔をして話していないか。

 

 期待される前に、訂正した方がいいのではないか。

 

「ただ、確実ではありません。わたくしの結界は弱いので、完全に防げるとは」

 

「一晩持てばいい」

 

 迅が言った。

 

「え?」

 

「一晩様子見て、駄目なら直す。最初から完璧にやろうとすんな」

 

 電子レンジの時と同じことを言われた気がした。

 

 一回で完璧にできなくてもいい。

 

 様子を見て、足せばいい。

 

 料理の話だったはずの言葉が、今、結界の話として戻ってくる。

 

 天音は少しだけ口を結んだ。

 

「……分かりました」

 

「本当に分かってんのか?」

 

「分かりました!」

 

 迅は鼻で笑う。

 

 天音はそれを無視して、戸口の前に膝をついた。

 

 結界を張る。

 

 虫よけの応用。

 

 湿気避けと、人払いを少し混ぜる。

 

 ただし、人間や店主が出入りできないと困る。拒む対象は、戸の隙間から入ろうとする小さな影。古い物へ向かう気配。

 

 範囲は狭くていい。

 

 強くなくていい。

 

 壊さない。

 

 近づけにくくする。

 

 見つけにくくする。

 

 天音は指先を戸の下へ近づける。

 

 淡い光が、木目に沿って薄く広がった。

 

 昨日、灯莉の手首を包んだ光よりも、ずっと細くて静かな光だった。

 

 戸の隙間へ入る。

 

 木の傷をなぞる。

 

 古い釘の周りを避ける。

 

 戸車の石を押し出すように、結界の筋を通す。

 

 天音は息を止めそうになり、慌てて吸った。

 

 昨日、律に言われた。

 

 呼吸は大事。

 

 当たり前の言葉なのに、今は妙に思い出しやすかった。

 

「……天音ちゃん、綺麗だね」

 

 小春が小さく言った。

 

「話しかけないでください。緊張します」

 

「ごめんね」

 

 小春はすぐに黙った。

 

 けれど、その声に悪意はなかった。

 

 綺麗。

 

 そう言われるような術だとは思っていなかった。

 

 強くない術。

 

 地味な術。

 

 役に立たない術。

 

 そう呼ばれていたものが、木戸の古い傷に沿って淡く光っている。

 

 天音はその光を見ながら、少しだけ胸が詰まった。

 

 集中する。

 

 余計なことを考えると、結界の線がぶれる。

 

 小さな影を傷つける必要はない。

 

 ただ、ここは入口ではないと教える。

 

 ここへ来ても、中には入れない。

 

 古い鈴も、箱も、あなたたちの遊び場ではない。

 

 そんなふうに、言葉ではなく形で示す。

 

 結界が戸の下を一周した時、隙間の奥で何かが小さく動いた。

 

 黒い指のようなものが、再び覗く。

 

 天音は思わず身構えた。

 

 だが、それは結界に触れる直前で止まった。

 

 迷うように揺れ、やがてすっと奥へ引っ込む。

 

 戸の向こうの湿った気配が、少しだけ薄くなった。

 

「……張れました」

 

 言った途端、肩から力が抜けた。

 

 大きな術ではない。

 

 派手な光もない。

 

 怪異を祓ったわけでも、封じたわけでもない。

 

 ただ、裏口に小さな結界を張っただけ。

 

 それなのに、天音の指先は少し震えていた。

 

「どうだ」

 

 迅が聞く。

 

「一応、戸口からは入りにくくなったはずです。古い物の気配も、外からは少しぼけるようにしました。ですが、強い怪異なら破れます」

 

「今回のは?」

 

「たぶん、破れません」

 

「ならいい」

 

 あっさり言われる。

 

 天音は少しだけ拍子抜けした。

 

「確認しなくてよろしいのですか?」

 

「今見た」

 

「あなた、見ておりましたの?」

 

「そりゃ見るだろ。保険だ」

 

 保険。

 

 迅は最初からそう言っていた。

 

 手を出さないが、見ている。危なくなれば止める。失敗すれば後始末する。

 

 それは、天音にとってまだ少し落ち着かない距離だった。

 

 九条家では、失敗を見られるのは怖かった。

 

 だが、迅に見られている時の怖さは、少し違う。

 

 失敗を責めるためではなく、失敗しても壊れすぎないように見ている。

 

 たぶん、そういうことなのだと思う。

 

 小春が嬉しそうに笑う。

 

「ありがとう、天音ちゃん。店主さんも助かると思う」

 

「まだ助かったと決まったわけではありません。一晩様子を見なければ」

 

「うん。でも、まずはありがとう」

 

 天音は視線を少し逸らした。

 

 ありがとう。

 

 助かる。

 

 昨日から、そういう言葉を受け取る機会が増えている気がする。

 

 慣れない。

 

 けれど、嫌ではない。

 

 それがまた、少し困る。

 

     ◇

 

 店主への説明と報酬の話は、迅がほとんど行った。

 

 天音は隣に立っていたが、途中で口を挟む余地はあまりなかった。

 

 迅は相変わらず口が悪い。

 

 だが、値段の話になると妙に迷いがない。店主が「まだ結果も出ていないのに」と遠慮すると、迅は「一晩様子見分込みだ。駄目なら直す。先に手付けだけでいい」とさらりと言った。

 

 手付け。

 

 様子見。

 

 修正込み。

 

 天音には、どれも知らない言葉ではないが、自分の術と結びつけて考えたことはない言葉だった。

 

 仕事とは、そういうものなのか。

 

 九条家で教わらなかったことが、また一つ増える。

 

 店主は小さな封筒を差し出した。

 

 天音は一瞬、受け取っていいのか分からなかった。

 

 迅が顎で促す。

 

「受け取れ」

 

「わ、わたくしが?」

 

「お前の仕事だろ」

 

 その言葉に、天音の指が止まる。

 

 お前の仕事。

 

 迅は当然のように言った。

 

 天音は封筒へ手を伸ばす。

 

 軽い。

 

 だが、紙の重さとは別のものがそこにある気がした。

 

 自分の術に対して支払われたお金。

 

 それを手にした瞬間、天音は背筋を伸ばした。

 

「……ありがとうございます」

 

 自然と、そう言っていた。

 

 店主は穏やかに笑う。

 

「こちらこそ。今夜、静かだと助かります」

 

「はい。もし効果が薄ければ、明日また確認いたします」

 

 言ってから、天音は少し驚いた。

 

 今の言葉は、自分の口から出た。

 

 失敗したら終わりではなく、確認して直す。

 

 そういう前提の言葉だった。

 

 迅が隣で、わずかに口元を動かす。

 

 笑いかけたのかもしれない。

 

 天音はすぐに睨んだ。

 

「何ですの?」

 

「別に」

 

「今、笑いましたわね?」

 

「仕事終わったんだから帰るぞ」

 

「また話題を逸らしましたわ!」

 

 店主がくすくす笑う。

 

 小春も笑っている。

 

 天音は顔が熱くなるのを感じながら、封筒を両手で持ち直した。

 

 恥ずかしい。

 

 けれど、悪い恥ずかしさではなかった。

 

     ◇

 

 月見荘へ戻る道で、天音は封筒を何度も見下ろした。

 

 中身を道端で確認するのは品がない気がして開けていない。だが、封筒の重さが妙に気になった。

 

 迅はその様子を横目で見ている。

 

「落とすなよ」

 

「落としません」

 

「財布に入れろ」

 

「帰ってから入れます」

 

「今入れろ。初報酬なくしましたとか面倒だ」

 

「そのようなことはしませんわ」

 

 言いながら、天音は少し不安になった。

 

 大切なものは自己管理。

 

 月見荘に来たばかりの頃、迅にそう言われたことを思い出す。

 

 天音は素直に封筒を鞄の内ポケットへ入れた。

 

 迅が鼻で笑う。

 

「素直じゃねえか」

 

「合理的判断です」

 

「はいはい」

 

「はいは一回でよろしいですわ」

 

「はい」

 

「本当に一回にしないでくださいませ!」

 

 小春が隣で笑っている。

 

 商店街の夕方は、朝とは少し違う顔をしていた。惣菜屋の揚げ物の匂いが強くなり、学校帰りの子供たちが走っていく。店じまいの準備をする店もあれば、これから明かりをつける店もある。

 

 天音はその中を歩きながら、自分が少しだけこの道を覚え始めていることに気づいた。

 

 パン屋の角を曲がれば、月見荘へ続く道がある。

 

 八百屋の前の猫は、今日も箱の上で寝ている。

 

 古道具屋の裏口には、自分の結界がある。

 

 そう考えた途端、胸の奥が少しだけ落ち着かなくなった。

 

 自分が何かを残した場所。

 

 それは、天音にとってまだ珍しいものだった。

 

「黒瀬迅」

 

「あ?」

 

「本当に、あれでよかったのでしょうか」

 

「何が」

 

「結界です。弱いものですし、一晩で破れるかもしれません。そもそも、あの影が別の入口を探す可能性も」

 

「その時は明日行く」

 

「……それだけですの?」

 

「それだけだ」

 

 迅は歩きながら、耳に挟んでいた煙草を指で弄ぶ。

 

「仕事ってのは、一発で全部終わらせることだけじゃねえ。見て、やって、駄目なら直す。できねえならできねえって言う。そんだけだ」

 

 天音はその横顔を見る。

 

 相変わらず、教え方は雑だった。

 

 けれど、不思議と頭に残る。

 

「九条家では、できないと言うことは許されませんでしたわ」

 

 言ってから、天音は少し後悔した。

 

 わざわざ口にするつもりはなかった。

 

 けれど、今日は朝から、九条家での言葉が何度も胸の内側を掠めている。できない。足りない。半端。不要。

 

 封筒の重さが、それらを少しだけ押し返しているようで、逆に思い出してしまうのかもしれない。

 

 迅はしばらく黙っていた。

 

 足音だけが続く。

 

 やがて、彼は短く言った。

 

「ここは九条家じゃねえ」

 

「……はい」

 

「できねえことを隠して事故る方が面倒だ。できることとできねえことは言え」

 

「努力します」

 

「努力じゃなくて、言え」

 

「言い方が強いですわ」

 

「強く言わねえと隠すだろ」

 

 天音は反論できなかった。

 

 隠す。

 

 大丈夫だと言う。

 

 問題ないふりをする。

 

 昨日、灯莉を責めた言葉が、自分にも返ってくる。

 

 天音は少しだけ唇を尖らせた。

 

「……善処します」

 

「怪しいな」

 

「善処します!」

 

 迅は鼻で笑った。

 

 その笑い方に、天音はむっとしたが、同時に少しだけ安心もした。

 

 失敗を許すと言われたわけではない。

 

 慰められたわけでもない。

 

 けれど、できないことを言っても終わりではないらしい。

 

 その当たり前が、天音にはまだ少し難しかった。

 

     ◇

 

 月見荘に戻ると、灯莉が玄関先で待っていた。

 

 右手首には薄い布が巻かれている。小春に巻かれたのだろう。本人は少し照れくさそうにしていた。

 

「おかえり。初仕事どうだった?」

 

 ただいま、と言う前に聞かれた。

 

 天音は少しだけ胸を張る。

 

「見て、結界を張ってきました」

 

「おお」

 

 灯莉の目が輝く。

 

「すごい。仕事っぽい」

 

「仕事っぽいではなく、仕事ですわ」

 

「報酬もらった?」

 

「いただきました」

 

「すごい。初報酬だ」

 

 灯莉が素直に喜ぶので、天音は少し困った。

 

 まるで自分のことのように嬉しそうだ。

 

 どう反応すればいいか分からず、鞄の内ポケットを軽く押さえる。

 

「まだ結果は出ておりません。一晩様子を見る必要があります」

 

「でも、やったんでしょ?」

 

「やりましたけれど」

 

「じゃあ、すごいよ」

 

 灯莉はそう言って笑った。

 

 昨日より少しだけ疲れた顔をしているが、笑い方は自然だった。

 

 それを見て、天音は胸の奥が少し緩む。

 

「灯莉さんこそ、無理はしていませんの?」

 

「してないよ。小春さんにめちゃくちゃ見張られてる」

 

「当然ですわ」

 

「天音ちゃんまで」

 

「隠した前科がありますので」

 

「返す言葉もありません」

 

 灯莉は両手を上げて降参の形をした。

 

 その右手が、昨日よりずっと普通に動いている。

 

 天音はそれを見て、ようやく少し安心した。

 

 食堂では、小春が夕食の準備をしていた。迅はそのまま台所へ向かい、当然のように手を洗って包丁を持つ。

 

 仕事から帰ってきた直後に、また食事を作る。

 

 天音にはまだその切り替えが不思議だった。

 

 硝子は窓際で茶を飲んでいる。

 

「初仕事はどうだった?」

 

 硝子が尋ねる。

 

「一応、結界を張ってきました」

 

「そう」

 

 硝子は穏やかに目を細める。

 

「では、明日の朝が楽しみね」

 

「不安になる言い方をしないでくださいませ」

 

「結果を見るのは大事でしょう?」

 

「それはそうですが」

 

 天音は席に座り、鞄から封筒を取り出した。

 

 テーブルの上に置く。

 

 封筒は小さい。

 

 中身も、おそらく大金ではない。

 

 それでも、天音には妙に大きく見えた。

 

 迅が台所から声を飛ばす。

 

「なくすなよ」

 

「何度も言わないでくださいませ」

 

「大切なもんは自己管理だろ」

 

 その言葉に、天音は少しだけ目を瞬かせた。

 

 月見荘に来て間もない頃、同じことを言われた。

 

 大切なものは自己管理。

 

 あの時は、鍵に名前を書くべきかどうかで揉めた気がする。迅に名前を書こうとして止められたことまで思い出し、天音は少しだけ顔を熱くした。

 

 大切なもの。

 

 今日の封筒は、たぶんそれに近い。

 

 天音は封筒を胸元へ引き寄せた。

 

「……これは、借金返済用にします」

 

「全部?」

 

 灯莉が驚いたように聞く。

 

「当然です」

 

「少しくらい、自分のもの買ってもいいんじゃない?」

 

「まだ借りが多すぎます」

 

「でも、初報酬だよ」

 

 初報酬。

 

 その言葉に、天音の指が止まる。

 

 借金返済に充てるのは当然だと思っていた。月見荘に置いてもらい、食事を出してもらい、服も買ってもらった。返すべきものは多い。

 

 けれど、初めて自分の術で得たお金を、少しだけ自分のために使う。

 

 そういう発想は、天音にはなかった。

 

「……自分のもの」

 

「うん。マグカップの時みたいに」

 

 灯莉は天音の青いマグカップを指差す。

 

 天音はそちらを見る。

 

 月の模様が入った、自分で選んだカップ。

 

 月見荘の棚に並ぶ、自分のもの。

 

 それを買った時の不思議な感覚を、少しだけ思い出した。

 

 迅が台所から言う。

 

「半分返済、半分手元でいいだろ」

 

「勝手に決めないでくださいませ」

 

「じゃあ自分で決めろ」

 

「……」

 

 天音は封筒を見る。

 

 自分で決める。

 

 それもまた、慣れない言葉だった。

 

 九条家では、天音が決めることは少なかった。服も、食事も、役割も、評価も、必要か不要かさえも、誰かが決めた。

 

 月見荘へ来てから、自分で選ぶことが増えている。

 

 服。

 

 マグカップ。

 

 電子レンジのボタン。

 

 灯莉の手を取ること。

 

 そして、初めて得た報酬の使い道。

 

 どれも小さい。

 

 けれど、小さいわりに重い。

 

「では」

 

 天音はゆっくり言った。

 

「半分は返済に。残りは、仕事に必要なものに使います」

 

「仕事に必要なもの?」

 

 灯莉が首を傾げる。

 

「はい。例えば、結界用の符紙や、記録用の帳面など」

 

「真面目だ」

 

「当然です。仕事ですもの」

 

 天音は胸を張った。

 

 迅が台所で鼻を鳴らす。

 

「帳面なら律に聞け。変な分類表作ってくれるだろ」

 

「便利そうですが、不安もありますわね」

 

「たぶん、天音観察記録と兼用にされるよ」

 

 灯莉が笑う。

 

「それは困ります!」

 

「抗議は強め。順調だね、って言われそう」

 

「想像できますわ……」

 

 天音は頭を押さえた。

 

 食堂に笑いが広がる。

 

 小春が鍋をかき混ぜながら、嬉しそうに言う。

 

「でも、いいね。天音ちゃんのお仕事道具」

 

「まだ大げさです」

 

「大げさじゃないよ。今日、ちゃんと一つ仕事したんだから」

 

 小春の声は柔らかかった。

 

 天音はまた、封筒を見る。

 

 ちゃんと一つ仕事をした。

 

 自分では、まだそう言い切れない。

 

 明日の朝、猫目堂の裏口がどうなっているか分からない。結界が破れているかもしれない。影が別の場所から入り込んでいるかもしれない。店主をがっかりさせるかもしれない。

 

 それでも、今日、天音は逃げずに裏口の前へ立った。

 

 戸の隙間を見て、結界を張った。

 

 封筒を受け取った。

 

 その事実だけは、消えない。

 

 天音は封筒を両手で押さえ、小さく息を吐く。

 

「……明日、確認に行きます」

 

「おう」

 

 迅が短く返す。

 

「効果が薄ければ、直します」

 

「そうしろ」

 

「それでも駄目なら、相談します」

 

「最初からそうしろ」

 

「言い方が腹立たしいですわ」

 

「褒めてんだよ」

 

「どこがですの!?」

 

 天音が声を上げると、灯莉と小春が笑った。

 

 硝子も静かに目を細めている。

 

 月見荘の食堂は、今日も騒がしい。

 

 その騒がしさの中で、天音は封筒をもう一度見下ろした。

 

 小さな仕事。

 

 小さな報酬。

 

 小さな結界。

 

 九条家なら、きっと価値がないと言われたもの。

 

 けれど、月見荘では違うらしい。

 

 まだ信じきれない。

 

 けれど、明日も確かめに行くことはできる。

 

 天音はそう思いながら、封筒を大切に鞄の内ポケットへしまった。

 




この後買ったシンプルな手帳を灯莉ちゃんと小春ちゃんにデコられる天音ちゃんが居たとかなんとか
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