水底から見上げた、二度目の空   作:しまらくだ

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ようやく少しずつフラグ(?)が立ち始めます。


誘い

午前の講義が終わると、教室の空気が一気に緩んだ。

教授が資料をまとめて出ていくのを待つまでもなく、何人かは鞄を持って立ち上がっている。

結人もノートを閉じた。

隣では渉が机に突っ伏している。

 

「終わった……」

「講義が?」

 

結人が聞く。

 

「オレが」

「まだ昼だけど」

 

前の席にいた修司が振り返った。

 

「寝てただろ」

「寝てない」

「途中で三回くらい頭落ちてたぞ」

「考え事してただけ」

「目閉じて?」

 

結人が聞くと、渉は少し黙った。

 

「集中すると目閉じるタイプなんだよ」

「初めて聞いた」

 

修司が立ち上がる。

結人も鞄を肩に掛けた。

教室の後ろから颯が近づいてくる。

その少し後ろには紗理奈もいた。

 

「食堂行く?」

 

颯が聞く。

 

「行く」

 

渉が真っ先に答える。

 

「お前、さっきまで死んでなかったか」

「昼飯は別」

「何でも別にするよね」

 

紗理奈が笑う。

五人で教室を出た。

廊下には、同じように昼休みへ向かう学生が流れている。

秋桜祭が終わってから数日。

大学はすっかり普段の姿に戻っていた。

広場にも、もう祭りの名残はほとんどない。

結人にとっても、それが当たり前になりつつあった。

祭りが終わった翌日は、まだ何となく違和感があった。

あれだけ人がいた場所が急に静かになる。

昨日まで特別だった場所が、何事もなかったように戻っている。

けれど数日経てば、その静けさの方が普通になる。

 

講義を受けて。

昼になれば誰かと食堂へ向かって。

バイトがある日は、そのまま店へ行く。

ない日は家へ帰る。

 

そんな日々だった。

前を歩いていた渉が、急に足を止めた。

 

「危なっ」

 

後ろにいた紗理奈がぶつかりそうになって体を引く。

 

「何いきなり止まってんの」

「いや、ちょっと待って」

「歩きスマホしてるからでしょ」

「そういう正論はいらない」

 

渉は画面を見たまま首を傾げている。

修司が横から覗き込んだ。

 

「何だ?」

「今日の講義の連絡」

「だったら後で見ろ」

「大事かもしれないじゃん」

「止まるほどではないだろ」

 

結人も後ろを見る。

何人かの学生がこちらを避けて通っていた。

 

「とりあえず行こう。後ろ詰まってるし」

「あ、悪い」

 

渉が慌てて歩き出す。

 

「で、大事だった?」

 

颯が聞く。

 

「来週の資料持ってこいってだけだった」

「全然止まる必要なかったじゃん」

 

紗理奈が言う。

 

「結果論だろ」

「ほぼ予想通りでしょ」

 

そんなやり取りをしながら、食堂へ向かう。

その横で、颯だけが何度かスマートフォンを確認していた。

普段から触っていることは多い。

だから最初は気にならなかった。

けれど、画面を見るたびに少しだけ考えるような顔をしている。

 

返信を打つ。

数秒待つ。

また画面を見る。

 

結人は何となく気づいていたが、特に聞かなかった。

 

☆☆☆☆☆

 

食堂へ着くと、昼休みということもあり人は多かった。

入口付近には列ができている。

 

「今日多くない?」

 

渉が言う。

 

「いつもこんなもんじゃない?」

 

紗理奈が返す。

 

「腹減ってる時は人数多く見えるんだよ」

「そんな現象ないでしょ」

「ある」

 

渉は当然のように答えた。

それぞれ昼食を選ぶ。

結人は定食。

修司も似たようなものを選び、颯と紗理奈は麺類。

渉だけ、今日も一人だけ明らかに量が多かった。

 

「それ食べきれるの?」

 

結人が聞く。

 

「余裕」

 

手が空いていれば、そのまま親指を立てていそうな満面の笑みだった。

そんな渉を横目に空いている席を見つけ、五人で座った。

渉は座るなり箸を取る。

 

「腹減った」

「毎日言ってない?」

「腹は毎日減るんだから仕方ないだろ」

「理屈だけは正しいね」

「だろ?」

「褒めてない」

 

修司は何も言わず食べ始める。

結人も箸を取った。

 

いつもの昼休み。

講義の話。

課題の話。

昨日見た動画の話。

 

話題には特に順番がない。

誰かが思いついたことを話し、別の誰かが横から別の話を入れる。

少し前なら、結人は話題が変わるたびに、どこまで入っていいのか考えることがあった。

今は、そこまで気にならなくなっていた。

話せそうなら話す。

分からなければ聞いている。

それで十分だった。

 

「そういや結人」

 

渉が口いっぱいに食べたまま言う。

 

「何?」

「この前言ってたライブ、どうだった?」

「どのライブ?」

「ほら、客多いって言ってたやつ」

「ああ」

 

結人は少し思い出す。

 

「忙しかったよ」

「それだけ?」

「それだけって?」

「何か事件とかないの?」

「仕事なんだから事件ない方がいいでしょ」

 

修司が少し笑う。

 

「それはそうだな」

「夢がないなあ」

 

渉が言う。

 

「何を期待してるの」

「出演者同士がケンカするとか」

「何でそんなの期待するの」

「ライブハウスっぽいじゃん」

「偏見だろ」

 

修司が返す。

紗理奈も頷く。

 

「絶対漫画の見すぎ」

「じゃあ何がライブハウスっぽいんだよ」

「音楽」

 

結人が言った。

一瞬の間。

颯が笑う。

 

「正解すぎる」

「結人、こういう時だけ強いよな」

 

渉が不満そうに言う。

結人は少し笑った。

その時、颯のスマートフォンが震えた。

颯は画面を見る。

少しだけ眉を寄せる。

それから何かを打ち込んだ。

渉がすぐ気づく。

 

「さっきから何?」

「ん?」

「スマホ。めっちゃ見てるじゃん」

「そう?」

「そう」

「女子からの連絡?」

 

紗理奈も聞く。

颯は一度画面を見た。

少し迷ったように見えた後、スマートフォンをテーブルへ置く。

 

「残念ながら違うね」

「じゃあどうしたんだよ」

「まあ、ちょうどいいか」

「何が?」

 

渉が身を乗り出す。

颯は少し笑う。

 

「実はさ」

 

その言い方だけで、渉が反応する。

 

「何?」

「今度、ちょっと予定があって」

「予定?」

「合コン」

 

一瞬。

結人の箸が止まった。

渉は逆だった。

 

「マジで?」

「食いつくの早いな」

 

修司が言う。

 

「いや、合コンって普通食いつくだろ」

「人による」

「修司は絶対そう言うと思った」

 

颯は苦笑しながら続けた。

 

「前から決まってたやつなんだけど、こっちの一人が来られなくなって」

「男側?」

 

紗理奈が聞く。

 

「そう。元々、僕の友達何人かで行く予定だったんだけど」

「何人?」

 

渉が聞く。

 

「四人」

「四対四?」

「そう」

「王道じゃん」

「何が王道なの」

 

結人が聞く。

渉は少し考える。

 

「いや、何となく」

「知らないんだ」

 

紗理奈が笑う。

 

「知ってるよ! イメージだよ!」

 

結人はその会話を聞きながら、少しだけ考えていた。

合コン。

言葉自体はもちろん知っている。

前世でも、学生時代や社会人になってから、そういう話を耳にすることはあった。

誰かが行った。

そこで知り合った。

連絡先を交換した。

そんな話。

けれど、自分が参加したことは一度もない。

自分がそういう場へ行く姿を、想像したこともほとんどなかった。

嫌いだったわけではない。

馬鹿にしていたわけでもない。

合コンそのものに、特別な偏見があったわけでもない。

今なら出会い方なんていくらでもある。

ただ、自分とは少し違うところにあるものだと思っていた。

それくらいの距離感。

前世の自分は、自分からその距離を縮めようとはしなかった。

 

「で、一人足りないってこと?」

 

渉が聞く。

 

「そういうこと」

「いつ?」

 

颯が日付を言う。

渉の顔が止まった。

 

「……その日か」

「何かあるの?」

「バイト」

 

さっきまでの勢いが急に消える。

紗理奈が笑った。

 

「行きたそうだったのに」

「行きたいよ! でもその日、派遣入ってんだよ」

「休めないの?」

「元々入る予定だった人が抜けて、その穴埋めで頼まれたんだよ。今さら無理って言いづらい」

「それは無理だね」

「だろ?」

 

渉は本気で残念そうに肩を落とした。

 

「何の派遣?」

 

結人が聞く。

 

「イベント設営。人いる日なのに一人抜けたらしくて」

「大変そう」

「たぶん大変。だから余計抜けられない」

 

修司が言う。

 

「じゃあ諦めろ」

「簡単に言うなよ」

「仕事だろ」

「そうだけど!」

 

颯が笑いながら修司を見る。

 

「修司は?」

「行かない」

 

即答だった。

 

「早いな」

「合コンだろ」

「そうだけど」

「興味ない」

「即答だな」

 

渉が感心したように言う。

修司は気にせず食事を続ける。

 

「知らない相手とわざわざ飲みに行く理由がない」

「そこで知り合うんだろ」

「必要になったら考える」

「修司、その顔でそれ言うのずるいな」

 

渉が言う。

 

「顔関係あるか?」

「あるだろ」

「何で?」

「お前は黙ってても女子から来るじゃん」

 

修司は少し眉を寄せた。

 

「知らん」

「腹立つなあ」

 

紗理奈が笑う。

 

「渉、今日ずっと負けてるね」

「誰と戦ってんだよ」

 

いつもの調子で会話が流れる。

結人は黙って食事を続けていた。

自分には関係のない話。

そう思っていた。

颯も、元々の友人の中から別の誰かを探すのだろう。

そう考えていた時だった。

 

「じゃあ結人は?」

 

箸が止まった。

顔を上げる。

颯がこちらを見ていた。

 

「自分?」

「うん」

「何で?」

「何でって、今ここにいるから」

「雑だなあ」

 

紗理奈が笑う。

颯も少し笑ってから言い直した。

 

「いや、本当に無理にとは言わないよ。ただ、その日空いてたらどうかなって」

「自分が?」

「うん」

 

結人は少し戸惑った。

合コン。

今まで自分と関係ないと思っていた言葉が、急に目の前まで近づいてきた。

 

「何するの?」

「普通に飲んで話すだけ」

「普通って言われても」

「まあ、初対面同士でご飯食べる感じ」

 

紗理奈が口を挟む。

 

「それを合コンって言うんじゃないの」

「そうとも言う」

「そのままでしょ」

 

結人は苦笑した。

 

「女の子側って、颯の知り合い?」

「一人は知り合い。そこから友達連れてきてもらう感じ」

「全員知ってるわけじゃないんだ」

「うん。向こうも同じだと思うよ」

「そうなんだ」

 

少しだけ意外だった。

颯なら全員知っているくらいのものを想像していた。

 

「店は?」

「駅前の居酒屋。普通のところ」

「大学生の合コンっぽい」

 

渉が言う。

 

「行ったことないくせに」

 

紗理奈がすぐ返す。

 

「イメージだよ!」

「またそれ」

 

笑いが起きる。

結人は颯が言った日付を頭の中で確認する。

その日はバイトがない。

大学も休みだったはずだ。

今のところ、予定はない。

 

「でも、自分が行って大丈夫なの?」

「何が?」

「そういうの慣れてないし」

 

颯は少し意外そうな顔をした。

 

「別に慣れてる必要ないでしょ」

「そうなの?」

「僕だって最初から慣れてたわけじゃないし」

「颯にも最初あったんだ」

 

渉が言う。

 

「当たり前でしょ」

「生まれた時から合コンしてそうなのに」

「どんな赤ちゃんだよ」

 

紗理奈が吹き出す。

修司が淡々と付け加える。

 

「そもそも人数合わせなんだから、普通に座ってればいいんじゃないか」

「言い方」

 

紗理奈が笑う。

 

「本当に普通でいいよ。無理に盛り上げようとか考えなくていいし」

「そういうもの?」

「僕はそう思うけど」

「結人が無理して盛り上げようとしたら逆に心配」

 

紗理奈が言った。

 

「そこまで言う?」

「だって想像できないし」

 

結人も少し笑う。

否定できなかった。

自分が初対面の相手を相手に、場の中心で盛り上げている姿。

確かに想像できない。

前世でも、そういうタイプではなかった。

人付き合いがまったくできなかったわけではない。

学生時代には友人もいた。

話すこと自体が嫌いだったわけでもない。

ただ、知らない人の輪へ自分から入っていくことは得意ではなかった。

社会人になってからは、それがさらに強くなった気がする。

 

仕事。

疲れ。

自分自身への余裕のなさ。

 

誰かと新しく知り合うために出かけようと思うこと自体、ほとんどなかった。

合コンも、そのまま一度も経験しないまま終わった。

その記憶があるからこそ、今目の前に出てきた言葉が妙に引っかかった。

合コン。

今の自分なら、行けるのか。

そこまで大げさに考えるようなものでもない。

ただ友人に誘われて、食事に行く。

それだけだ。

 

「結人?」

 

颯に呼ばれ、顔を上げる。

 

「ごめん。ちょっと考えてた」

「嫌なら全然いいよ」

「嫌っていうより」

 

結人は言葉を探す。

 

「一回も行ったことないから」

 

渉がすぐ反応した。

 

「マジで?」

「何でそんな驚くの」

「いや、何となく」

 

結人は苦笑した。

 

『前世でも一回もないんだけど』

 

もちろん、口には出さない。

前世があったことも。

転生したことも。

それは四人には話していない。

そもそも信じないだろう。

けれど、自分の中では今も確かに続いている。

前世の二十九年。

今の人生で過ごした時間まで足せば、とっくに四十を超えている。

そこまで考えたところで、結人は少しだけ可笑しくなった。

 

『前世から数えたら四十超えてるのに、今さら初合コンか』

 

何をやっているんだろう、と自分でも思う。

もっとも、今の自分は大学生なのだから、別におかしなことではない。

誰かに言えば、何の話だと言われるだけだ。

それでも、前世の記憶まで含めて考えると、妙な感じはした。

前世では、一度も経験しなかったこと。

今の人生では、そういうものが少しずつ増えている。

大学に通うこと自体は前世でも経験している。

けれど、今の大学生活は、前世のそれとは違う。

 

一人暮らし。

ライブハウスのアルバイト。

大学祭を友人たちと回ること。

何気ないグループチャット。

誰かと翌日の話をすること。

 

同じように見えても、前世ではなかったものが多い。

 

『一回くらいなら』

 

そう思った。

 

「時間は?」

 

結人が聞く。

颯の表情が少し明るくなる。

 

「夕方から」

「何時間くらい?」

「二時間くらいかな。その後は流れ次第」

「流れ次第?」

「二次会とか」

「絶対あるの?」

「別に。帰りたければ帰っていいよ」

「そうなんだ」

 

思っていたより自由らしい。

何か決まった形式があるものだと、漠然と思っていた。

渉が身を乗り出す。

 

「行くの?」

「まだ決めてない」

「今の質問の数で行かないは無理あるだろ」

「確認してるだけ」

「行く人の確認だよ、それ」

「決めつけないで」

 

結人は少し笑った。

颯は急かさなかった。

それがありがたかった。

 

「本当に人数合わせだから。無理なら他探すよ」

「いつまでに決めればいい?」

「今日中くらいに分かれば助かる」

「今日中か」

「別に今じゃなくてもいいよ」

 

結人は一度、手元の食事を見る。

その日は空いている。

颯が困っている。

自分が行けば一人分埋まる。

それに。

前世では一度も行かなかった。

今の自分でも、おそらく自分から行きたいとは言わなかっただろう。

でも、誘われた。

なら。

 

「……まあ、いいよ」

 

颯が目を瞬く。

 

「本当に?」

「うん」

「助かる」

 

颯の表情が素直に緩んだ。

その反応を見ると、少なくとも断らなくてよかった気はした。

 

「ただ、自分こういうの初めてだから」

「全然問題ないよ」

「颯が言うと逆に不安だな」

 

修司が言う。

 

「何で?」

「慣れすぎてる」

 

紗理奈も頷く。

 

「それはある」

「ひどいな」

「颯、何回くらい行ってんの?」

 

渉が聞く。

 

「数えてない」

「ほら」

「何がほらなの」

「慣れすぎ」

「別に普通だって」

「その普通が分からない」

 

結人が言う。

 

「当日は教えるよ」

「それ余計怖い」

 

紗理奈が笑う。

渉だけが、まだ本気で残念そうだった。

 

「いいなあ」

「バイトあるんでしょ」

「分かってる。でもいいなあ」

「じゃあバイト休めば?」

 

紗理奈が軽く言う。

渉はすぐ首を振った。

 

「無理。人足りないって言われて入ったのに、それやったら意味ないだろ」

 

修司が少しだけ感心したように渉を見る。

 

「そこはまともなんだな」

「どういう意味だよ!」

「そのままの意味」

「普段もまともだろ!」

「どこが?」

 

紗理奈が聞く。

 

「お前ら今日オレに厳しくない?」

 

結人も笑った。

少し前まで、合コンという言葉が出てきただけで、自分とは関係ない話だと思っていた。

今は、その予定が自分の中にも入った。

それだけのこと。

でも、少しだけ不思議だった。

 

☆☆☆☆☆

 

午後の講義が終わった頃。

結人は一人で廊下を歩いていた。

今日はバイトもない。

このまま帰るだけだった。

階段へ向かおうとしたところで、スマートフォンが震える。

颯から個別にメッセージが来ていた。

 

場所。

集合時間。

店の名前。

予約時間。

 

そして最後に、

 

「本当に助かった。ありがとう」

 

と書かれている。

結人は少しだけ迷ってから、

 

「気にしなくていいよ」

 

と返した。

すぐに既読がつく。

 

「当日は普通に来てくれれば大丈夫」

 

普通に。

 

その文字を見て、結人は少し笑った。

 

『普通にって何だろ』

 

初めての合コン。

服は普段着でいいのか。

何を話せばいいのか。

自己紹介みたいなことをするのか。

席は決まっているのか。

連絡先を交換するのが普通なのか。

考え始めると、知らないことはいくらでもあった。

 

『調べる?』

 

スマートフォンの検索画面を開こうとして、指が止まる。

そこまでしなくてもいい気がした。

合コンの作法。

初めての合コンで気をつけること。

そんなものを検索し始めたら、逆に意識しすぎる気がする。

 

『分からなかったら颯に聞けばいいか。今さら変に構えても仕方ない』

 

そう思って画面を閉じた。

以前なら。

知らない人ばかりの場所へ行くと決まっただけで、もっと考え込んでいたかもしれない。

 

何を話せばいい。

変なことを言わないか。

浮かないか。

相手にどう思われるか。

断った方が楽なのではないか。

 

そんなことを先に考えていた気がする。

今も、不安がないわけではない。

むしろ、初めてなのだから多少はある。

でも。

 

『まあ、一回くらいなら』

 

それで済んでいた。

結人はスマートフォンをポケットへ戻す。

階段を下りる。

外へ出ると、少し冷たい風が吹いていた。

秋桜祭が終わってから、少しずつ季節が進んでいる。

キャンパスを歩く学生たちも、薄手の上着を着ている者が増えていた。

結人はその中を駅へ向かう。

数日後。

知らない人たちと食事をする。

合コンへ行く。

前世の自分なら、おそらく選ばなかったこと。

今の自分でも、昨日までなら考えていなかった予定。

それが一つ増えた。

少しだけ落ち着かない。

 

『どんな感じなんだろう』

 

不安とは別に、純粋な興味もあった。

まだ何かが始まったわけではない。

ただ予定が一つ増えただけ。

結人はそう思いながら、駅へ向かって歩いていった。




本格的な恋愛パートに入っていく訳ですが、個人的には凄い不安ですが、自分のペースで頑張っていきます。
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