【クロス】コードギアス 忘却のピーター 作:超高校級の小説家(笑)
「やあ!みんな僕のことがわかるかな?いや、分かるわけないよね、僕の名前はピーター・パーカー、スパイダーマンだ。スパイダーマン?って思う人もいると思う、なんせこの世界は僕がいた世界とは別の世界なんだから」
雪の降るニューヨーク。
あのアパートのミシンで、泣きそうになりながら縫い上げた赤と青のハンドメイドスーツ。
それをバックパックに詰め込んで、僕は一人きりで歩いていたはずだった。
ドクター・ストレンジの魔術の代償。
世界中の誰も、僕のことを覚えていない。
MJも、ネッドも。
世界から僕という存在が『忘却』された、その数日後のことだ。……気づいたら、僕は見知らぬ路地裏にひっくり返っていた。
ーーー空を見上げれば、僕の知らない不気味な飛行船が浮かんでいる。
街の電光掲示板には「神聖ブリタニア帝国」だの「エリア11」だの、アメコミの悪の組織でも使わないような物々しい単語が並んでいた。
おまけに、トゲトゲした巨大な戦闘用ロボットが我が物顔でアスファルトを闊歩している。
どうやら魔術の歪みか何かのせいで、僕はとんでもない異世界に飛ばされてしまったらしい。
身分証もない。お財布の中身は使い物にならないドル札だけ。
帰る場所も、僕を知る人も、この世界のどこを探したって一人もいない。
「……ハハ、文字通りのゼロからのスタートってわけだ」
僕は苦笑いしながら、バックパックから手作りのマスクを取り出した。
世界が変わっても、僕の引き出しにあるものは変わらない。
誰も僕を知らなくても、この街で泣いている人がいるなら、やるべきことは一つだけだ。
だって、大いなる力には、大いなる責任が伴うから。
お手製のウェブシューターを両手首にカチリと装着し、僕はハンドメイドスーツに袖を通す。
この新しい世界でも、僕は僕の仕事を始めるとしよう。親愛なる隣人、スパイダーマンとしてね。
遠くから、激しい銃撃音と爆発音が聞こえてきた。
どうやら、のんびり観光している暇はなさそうだ
「うわ、うそだろ。なんだよあの鉄クズ……!」
爆音と黒煙が立ち込めるシンジュクの街。
ビルの屋上から身を乗り出した僕の視線の先で、それはあまりにも異常な動きをしていた。
全高4メートルはあるだろうか。
巨大な人型の兵器。
背中から物々しい銃器を背負い、足元に取り付けられたローラーのような駆動輪を火花散らせて回転させながら、
アスファルトを凄まじい速度で滑走している。
それがブリタニア軍の主力兵器KMF(ナイトメアフレーム)『サザーランド』だ。
その恐ろしい外見と、ロボットのくせにまるで生き物みたいに滑らかな動きに、
僕は思わずマスク越しに目を丸くした。
「……待って。もしかして、これがウワサのSAMURAI(サムライ)ってやつ!?」
僕のいた世界でも、日本のポップカルチャーは有名だった。
鎧を身に纏い、独自のハイテク技術(?)で戦う戦士たち。
でも、まさか本物の日本のサムライが、あんなSF映画に出てくるような巨大ロボットに乗って暴れ回るシステムだとは夢にも思わなかった。トニーさんの技術も凄かったけど、この世界のジャパニーズ・テクノロジー、ちょっと方向性が尖りすぎてない!?
「よし、挨拶がてら、あのサムライの旦那に道を訊くと――」
言いかけた僕の言葉は、最悪の光景によって遮られた。ガガガガガガガッ!!
巨大ロボットがその右腕に構えたアサルトライフルを容赦なく火を噴かせる。
銃口が向けられていたのは、武器を持たない、ただ逃げ惑う一般の市民たちだった。
崩れ落ちるレンガの壁。
悲鳴。
「――って、おいおいおい! 嘘だろ、あいつら何やってんだ!?」
僕の頭の中で、ジリジリと強烈な警告音が鳴り響く。
スパイダーセンスだ。あいつらは街を守るサムライなんかじゃない。
ただの虐殺者だ。
「おい、そこのデカブツ! 女の子をいじめるな、ってママに教わらなかったのかい!?」
考えるより先に、身体が動いていた。
僕はビルの屋上を蹴り、ハンドメイドスーツの赤と青の残像を残しながら、鉄の怪物が支配する戦場へと真っ逆さまに飛び降りた。
「はっ、セーフ!……あぶなっ!」
ロボットどうやらブリタニアの兵士たちはこれを『ナイトメア』と呼んでいるらしいKMFの放ったワイヤーケーブルが、僕の鼻先をかすめてビルの壁を粉砕した。
重力無視の跳躍。
バク転。
僕のスパイダーセンスがジリジリと頭を焦がす度、僕は糸を引いて銃撃の雨をくぐり抜ける。
「ちょっと! 視界を奪うためにカメラに糸を張り付けたら『ファクトスフィアが機能停止!』って、名前までSFっぽくて格好良いじゃないか! でもね、生身の人間相手に実弾をバラ撒くのは、ニューヨークのギャングでももう少し遠慮するよ!」
ボロボロのハンドメイドスーツを泥と煤で汚しながら、僕はなんとか市民たちを地下道へと逃がし終えた。
お手製のウェブ流体(糸のストック)は、早くも残り半分を切っている。
さすがにこの鉄クズの群れを一人で全滅させるのは無理がある。
一歩下がって作戦を練り直そう――そう思った瞬間だった。
背後の曲がり角から、駆動輪(ランドスピナー)のけたたましい爆音。
現れたのは、これまた一台のサザーランド。
ただし、さっきまでのブリタニア軍のやつとは明らかに様子が違っていた。
装甲はパッチワークのようにあちこち剥がれ、まるでスクラップ置き場から這い出してきたような、
ボロボロの機体。
「うわっ、また別のお出まし!? 待って、そこの赤ジャージのサムライ……って、違う!」
機体のコックピットが強制開放され、そこから顔を覗かせたのは、荒い息を吐く一人の少女だった。
燃えるような赤い髪。勝気な瞳。ブリタニア軍を憎悪の目で見据える彼女――紅月カレンが、操縦桿を握りしめたまま、信じられないものを見る目で僕を凝視していた。
「な、何よあんた……!? その格好、ブリタニアの新型の特殊部隊……? いや、ナイトメアもなしで、生身で何やってるのよ!?」
「やあ! 僕はスパイダーマン。君の親愛なる隣人さ。ええと、質問の答えとしては、ただの迷子の一般市民が、そこの鉄クズたちにお説教してただけだよ。それより君、そんなボロボロのロボットで、あの軍隊相手に一人でケンカを売るつもりかい? 正気の沙汰じゃないね!」
「それはこっちのセリフよ! 日本人じゃないなら、余計な首を突っ込まずにさっさと逃げなさい!」
カレンは吐き捨てるように言うと、再びコックピットを閉じた。
彼女の乗るグラスゴーが、残ったブリタニア軍に向けて再び猛然と突撃していく。
「あーもう、頑固なのはニューヨークの女の子だけで十分なのに! 待ってよ、危ないってば!」
僕はため息をひとつつき、再び手首のシューターを構えた。どうやら僕の新しい世界での『最初の友達』は、とびきり気が荒いロボット乗りの少女になりそうだ。