【クロス】コードギアス 忘却のピーター   作:超高校級の小説家(笑)

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【忘却のクラスメイト】

◆ 

頭が割れるように痛かった。

 どれほどの時間が経ったのだろうか。ピーター・パーカーは、自分が極上の柔らかさを誇るベッドの上に寝かされていることに気づき、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

 視界に飛び込んできたのは、見慣れたニューヨークの薄汚れた天井ではない。高く、洗練された、どこかヨーロッパの古風な建築を思わせる美しい天井だった。

 「――目覚めたか」

 冷徹で、低く、しかし驚くほど澄んだ声が部屋に響く。

 ピーターが反射的に上半身を起こすと、ベッドの脇に置かれた椅子に、一人の少年が深く腰掛けていた。端正な顔立ちに、夜の闇を溶かし込んだような黒髪。そして何よりも印象的な、すべてを見透かすような紫色の瞳。 アッシュフォード学園の制服を完璧に着こなしたその少年、ルルーシュ・ランペルージは、組んだ足の上に肘を置き、冷ややかな視線をピーターへと注いでいた。

 「うわっ……! え、ええと、君は……?」

 「それはこちらのセリフだ。深夜、我が学園の正門前で行き倒れていた不審者くん」

 ルルーシュは机の上に置かれた、見覚えのあるボロボロのバックパックを指差した。

 「身分証はなし。財布の中身は、見たこともない奇妙な意匠のドル紙幣。そして何より……」

 ルルーシュが立ち上がり、ベッドの上のピーターへと一歩近づく。その紫の瞳が、サスペンス映画の尋問官のように鋭く細められた。

 「君をここに運び込んだのは、昨夜の午前2時だ。その時、君の肋骨は少なくとも3本は砕け、内臓からの出血でいつショック死してもおかしくない状態だった。……だが、それから僅か数時間。今の君の呼吸音を聞く限り、骨折など最初からなかったかのように完治している、……君の身体には、ブリタニアの最新医学でも説明のつかない『仕掛け』があるのかな?」

 (――ヤバい。速攻でバレかけてる……!)

 ピーターの背中に、冷や汗がドッと噴き出した。

 スパイダーセンスは鳴っていない。目の前の少年から「殺意」や「敵意」は感じられないからだ。しかし、この少年が持つ、異常なまでの知性と観察眼は、ある意味でナイトメアフレームの銃口よりも恐ろしかった。

 「あ、あはは……。いや、実は僕、昔から遺伝子がちょっと特殊っていうか、お医者さんにも『君は寝れば治るタイプだね』って言われてて……あ、僕はピーター! ピーター・パーカー。ただの迷子の高校生だよ!」

 必死に両手を振って、いつもの「冴えないピーター・パーカー」を演じる。

 ルルーシュはその様子をじっと見つめていたが、やがてフッと自嘲気味に口元を緩めた。

 「遺伝子、か。ブリタニアが隠し持っていた新型の生体改造素体かとも疑ったが……その酷い動揺の仕方を見る限り、大層な組織の工作員には見えないな」

 ルルーシュの頭脳は、昨夜の戦場で見た『赤青の蜘蛛』と、目の前の『冴えない少年』をまだ結びつけていなかった。生身で7トンの鉄塊を受け止める怪物が、こんな風に情けなく取り乱す人間だとは、ルルーシュの冷徹な合理性が否定していたのだ。

 「行く宛がないなら、ここに留まるといい。ちょうど、高等部のクラブハウスの雑用係が足りなくてね。生徒会長のミレイさんが、君を面白い玩具のように気に入って、居候を許可した」

 「えっ……本当に!? 助かるよ、ええと……」

 「ルルーシュだ。ルルーシュ・ランペルージ。歓迎するよ、ピーター」

 ルルーシュは綺麗な微笑みを浮かべ、手を差し出してきた。

 だが、ピーターは気づいていた。その微笑みの奥にある瞳が、一瞬たりとも自分への警戒を解いていないことに。 (ルルーシュ……。親切なやつみたいだけど、なんだろう、このトニーさんとは全く違うタイプの『絶対に怒らせちゃいけない人』のオーラは……)

 

 

◆ 

 

それから数日後。

 ピーターはアッシュフォード学園の用務員としての生活に、それなりに馴染み始めていた。身分証の偽造や戸籍の手配は、なぜかルルーシュが「これくらい、生徒会の権限でどうにでもなる」と、あっさりと済ませてくれた(実際は裏のルートを使ったのだろうが、ピーターは知る由もない)。

 脚立に乗り、庭の木の剪定をしていたピーターは、ふと学園の校舎から歩いてくる一人の生徒を見て、ハサミを持つ手を止めた。

 燃えるような赤い髪。ツンと上を向いた、勝気な瞳。

 ブリタニアの貴族子女が通うこの学園には、少し不釣り合いなほどの鋭いオーラを放つ少女――紅月カレンが、体調が悪そうなフリをして、気怠げに歩いていた。

 ピーターの心臓が、ドクンと大きく跳ね上がる。

 (あ、あの時の……赤ジャージのサムライの女の子……!?)

 もちろん、今の彼女はあのボロボロのグラスゴーに乗ってはいないし、テロリストの顔でもない。お淑やかなブリタニアの生徒を演じている。

 すれ違いざま、カレンがふと足を止め、脚立の上のピーターを見上げた。

 「……?」

 「あ、ええと、こんにちは!」

 ピーターは慌てて愛想笑いを浮かべた。

 カレンはピーターの顔をじっと見つめる。彼女の記憶にある『スパイダーマン』は、マスクを被った赤青の男だ。素顔の、しかもこんな冴えない私服を着た少年があの超人だとは、気づくはずもない。

 だが、カレンは怪訝そうに眉をひそめた。

 「あなた……どこかで会ったことあったかしら? なんだか、その……」

 「えっ!? い、いやいや! 僕はただの用務員のピーターだよ! ほ、本国の東海岸……ニューアークから来たばかりで、君みたいな綺麗な女の子と会った記憶があったら、絶対に忘れないよ、ハハハ!」

 「……ふーん、本国(ブリタニア)の人間なわけね。……変な人」

 カレンは興味を失ったように小さく呟き、そのまま校舎へと歩き去っていった。

  (危ない危ない危ない!! ニューヨークなんて言ったら、この世界の『神聖ブリタニア帝国』の領土設定と矛盾しちゃうところだった……! っていうか、この世界にはアメリカなんて国自体がないんだっけ!?)

 遠ざかるカレンの背中を見送りながら、ピーターは脚立の上で大きく息を吐き出した。

 「はぁ……。誰も僕を知らない世界のはずなのに、どうしてこんなに冷や汗が出るんだろ……」

 

 

◆ 

 

その日の夜、ルルーシュは自身の私室で、生徒会のデータベースを開きながら冷徹な思考を巡らせていた。 モニターに映っているのは、ピーターが「紛失した」と言って提出した、あの奇妙なドル紙幣の画像だ。

 「……ピーター・パーカー。本国の東海岸、ニューヨークの出身と言ったな」

 ルルーシュは誰もいない部屋で、静かに呟く。

 「だが、彼が持っていた紙幣に印刷されている文字列は『UNITED STATES OF AMERICA』。

……アメリカ合衆国。そんな国家は、我がブリタニアの歴史のどこを探しても存在しない。かつてワシントンが敗北し、存在し得なかった幻の国名だ」

 ルルーシュの紫の瞳が、暗がりのなかで怪しく光る。

 「驚異的な自己再生能力。歴史に存在しない国家の紙幣。そして、シンジュクに出現した、あらゆる既存のデータに該当しない生身の超人、スパイダーマン……」

 ルルーシュはチェスの駒(ナイト)を指先で弄びながら、不敵な笑みを浮かべた。

 「点と点が繋がりすぎるな。フッ……面白い。泳がせておくさ、ピーター・パーカー。君が私の盤面をひっくり返すジョーカーになるのか、あるいは……」

ピーターにKMFを与えたほうがいい?

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