目立ちたくない転生者と勝手に拗らせて曇るパーティメンバーズ 作:くちらせ
俺は目立ちたくなかった。
だって目立つとそれだけ厄介事が増えるから。
優秀な成績を残した結果仕事だけが増え、給料が増えずに退職する同僚を見てきた。
そんな同僚に陰口を叩くものを見てきた。
出る杭は打たれるなんて言うけれど、まさにそんな感じだ。
といっても、前世の俺にそんな特別な能力はなかったんだけど。
ただ、転生してしまうと話は少し変わってくる。
転生者ってのは物語だと特別な才能に恵まれているものだけど、俺もその例に漏れなかったのだ。
その力を普通に使うことも考えたが、やめた。
俺が転生した村の幼馴染は優秀だがプライドが高く、自分より優秀な人間を到底受け入れられそうには見えなかったから。
やはりこの世界でも、出る杭は打たれる定めにあるらしい。
しかし同時に、あることが俺の中で問題になった。
かつて、俺は去っていく同僚に何もしてやれることがなかった。
あいつは気遣ってくれるだけでも嬉しい、なんて言ってくれたけど、見ているだけの俺を他の陰口を叩く連中と同じに思っていてもおかしくない。
それだけのことをしたと、俺は思っている。
だが、それは自分に力がなかったからだ。
この世界では、そうではない。
転生して強くなった俺ならば、
冒険者になって世界が広がってから、なおのことそれを感じるようになった。
だから俺は自分にどうにかできることを、見過ごさず放っておける人間か、考えたのだ。
――そして、見過ごせないと結論を出した。
結果、こっそり障害を排除する日々。
それ自体は上手く言っていたのだが――ある時パーティメンバーにそのことがバレた。
まぁもともと、隠しておけるものではない。
観念した俺が事情を話したのだが――なぜか、思っても見ない反応が帰ってきたのである。
+
――その日、ギルドは、西の森を拠点にしていた野盗が一夜にして壊滅したことでもちきりになっていた。
西の森は現在彼らがいる街、アーゼリアから歩いて一週間ほどの場所にある森だ。
アーゼリアからは直接つながっていないが、街道でつながっているため、そこに野盗が出たとなれば話題にもなる。
討伐依頼のクエストなんかも出始めていて、近いウチに複数の冒険者パーティ連合か、国の部隊が制圧することになるだろうともっぱらの噂だった。
しかし、中にはそれだとあまりにも”遅すぎる”という意見もある。
西の森近くには小さな町があり、その街は定期的に野盗の嫌がらせを受けているという。
最悪、本格的な襲撃で壊滅してしまう可能性も考えられた。
だから急ぐべきなのだ――と。
そんな矢先の壊滅である。
だから、誰もが噂しているのだ。
――義心の騎士がやったのだ、と。
……まぁ、おそらく俺のことだ。
そんな噂を聞きながら、俺はギルドの個室へと足を運ぶ。
今日の依頼を見繕って、パーティメンバーに見せるためだ。
比較的美味しそうな依頼がいくつか見つかったため、結構ホクホクで向かったのだが――
「おーい、戻ってきたぞー」
――そう言って入室した個室の中の雰囲気は、お通夜と化していた。
三人の少女が、顔を真っ青にしてうつむいている。
…………ああ、うん。
「お前……アルド! お前また無茶しただろ! なんでまた一人で行くんだよ!」
そんな中、顔を真っ青にした一人の少女が俺に突っかかってくる。
三人のウチで尤も小柄ながら、癖のある赤髪も相まってパワフルな印象を受ける少女だ。
背が低いのはドワーフの血を若干引いているからで、別に年齢まで幼いわけではない。
むしろ俺の一つ上で、今年で二十歳になる。
名を――
「――ルウリ。一人で行ったのは悪かったけど、無茶はしてないよ。別に一人でも十分勝てる相手だった」
「お前の強さは知ってるよ! けどな、あたしはそんな足手まといか!? いたらアルドに迷惑かけるか!?」
「そんなことないって。でも仕方ないだろ、転移魔術は一人しか転移できないんだから」
ルウリ。
俺達”凛風の矢”の前衛で、大剣を武器に戦うパワーファイター。
豪快という言葉がよく似合う、非常に勇猛な少女なのだが――
「だとしても……一言くらい……言ってくれても、よかった……だろ」
そんな少女が、ぽろぽろと涙を流し始めた。
そして俺にすがりつくように、その場に崩れ落ちる。
残る二人のメンバーも、痛ましい視線をルウリに向けていた。
けど、俺はここで一つはっきり言っておかないと行けない。
「――いや、言ったけど?」
「そ、そんなの!」
「ルウリがおもいっっっっっっきり酔っ払って、ほとんど話し聞いてなかったからだけど????」
「…………」
ルウリは酒飲みだった。
仕事が終わったら即呑み始めて、しかも酒に弱いものだから常に酩酊状態で使い物にならなくなる。
だからちゃんとルウリはじめ、ほかメンバーにもこのことは伝えたのだが……ルウリは都合よくそのことを忘れて曇っているのであった。
「……………………………………………………それでも、無茶はしないでほしかった」
「またそうやって子どもみたいにむくれる。……仕方ないだろ、この話を聞いたのは昨日の夜が初めてだったんだから」
野盗の情報がアーゼリアの街にたどり着いたのが、ちょうど昨日の昼頃だったらしい。
それから、野盗を討伐しなきゃなぁ、みたいな話が聞こえてきたりして。
一日ダンジョンに籠っていた俺達パーティは、そのことを夜に知ったわけ。
アーゼリアの街に話が流れてくるって時点で、野盗は結構前から西の森に居座っているのだろう。
こりゃ急がないかん、と俺は討伐に向かったわけだ。
とりあえずルウリのことはこれで問題ないと判断し、俺はほか二人に視線を向ける。
残り二人、ルウリみたいに突っかかってこない少女の一人は、さきほどからブツブツと何かをつぶやいていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
金髪でツインテールの、気が強そうな少女だ。
しかし、今はどこか瞳から光を失わせ、ごめんなさいボットとかしている。
彼女の名前はフィナ、俺とは幼馴染の関係にあり、同郷だ。
「私が……アルドにそうさせてしまった……」
なんてことをフィナがぽつりとこぼしたが、何を隠そう先ほどはなした”プライドの高い幼馴染”がフィナである。
フィナはどうも自分のプライドが高すぎたせいで、それを気にした俺が実力を隠さざるを得なかったことを気にしているらしい。
いや、俺が実力を隠している根本的な原因は前世の経験が大きくて、フィナがいなくてもそこまで目立とうとはしてなかったと思うぞ……
なにせ目立ちたくない理由は、現代人特有のことなかれ主義が原因なんだから。
こっそり事件を解決しようとするのは、俺の個人的な心持ちの問題だけどさ。
「フィナ!」
「んひゃう!」
とりあえずフィナは、直接本人に触れて声をかけると再起動する。
異性の身体に触れてしまうのは申し訳ないとはおもうが、いい加減慣れてほしい。
いや、なれると再起動しなくなるからだめなのか?
で、最後にもう一人のパーティメンバーだ。
「――シエラ」
「……アルド、さん」
最後の一人、とんがり帽子と長い黒髪の、いかにも魔術師と言った雰囲気の少女。
どこか気弱そうな雰囲気の少女は、三人の中でもっとも深刻そうに俺を見ていた。
そんな少女は、ぽつりとこぼす。
「――――また、
「ないが……」
「……わかっています。アルドさんが”光陰の標”に従って歩んでいることを……」
――シエラは独特な世界観を持っていた。
俺が何度言っても、俺はなにやらこの光陰の標とやらに従い世界を救う救世主であると言ってくる。
「私はただそれを……黙ってみているしかないのでしょうか……」
「まあうん、とりあえず助けが必要なら……力借りるからね……?」
少なくとも俺は、世間に正体を明かすつもりはないけれど、君たちのことはパーティメンバーとして信頼してるんだから。
とはいえ、まぁ。
そんな彼女たちの反応は、見ての通りなんですけど。
フィナは常に自分を責めてるし、ルウリは酔っ払ってるのを棚に上げて置いていかれることに絶望するし、シエラは常になにかわかった感じを出しつつ曇ってる。
全員が全員、なにか変な方向に拗らせてしまっているのだ。
俺を心配してくれるのは嬉しい、けど、なんていうか……こう。
「とりあえず、人の話を! 聞いてくれ!」
――としか、俺からは言うことができないのであった。