あたち神様に幼女にされちった!   作:あるがままに在れる世界

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身に覚えのない少女ちゃん

 

 

 聖杯戦争。魔術師達により開催される宴。その実態は七騎のサーヴァントとそれを従えるマスター。魔術師達による殺し合い。全ては聖杯という万能の願望器を得るための、弱肉強食。

 

 なんでも、聖杯戦争に勝てばどんな願いでも叶うという。それは嘘か真か。少なくともただの眉唾ではなかった。

 

 その聖杯戦争には遠坂も古く関わっているからだ。

 

 始まりの御三家。間桐、遠坂、アインツベルン。彼らはシステム、実際運用するための土地、全ての基幹、となるものたちを提供しあった。そして出来上がったのが大魔術式"聖杯"。

 

 あらゆる願望を叶えると言われるもの。そして聖杯戦争を勝ち取ったものだけがそれを扱う権利を得る。

 

 本来5〜60年周期で開催されるその聖杯戦争。それがなんの因果か、前回大会の不備より、今回は前回の10年後。すなわち2004年ほどに行われることになった。

 

 本来なら、杏達にはあまり関係のなかった話だ。しかし遠坂が始まりの御三家である以上、遠坂には優先的に聖杯戦争に挑戦する権利を与えられる。つまり選ばれてしまった以上、戦うのが遠坂の務め。

 

 

 そんな聖杯戦争も、あと数日で開演を迎える。今まで勝者のなかった聖杯戦争。そこに新たな歴史が刻まれるのか。それは始まってみないとわからなかった。

 

 それはそれとして、日常は変わらず続いていく。杏ももう今年で中学三年生。凛に至っては高校二年生。魔術師としての裏のあれそれを抜きにすれば、凛と、杏も一応年頃の女の子だった。

 

 だから色々関係もあれば新たな進展もある。学校を先に終えて凛を迎えに来た杏は、またと言っていいほど凛の学園の関係者達に絡まれていた。

 

 

「よーお杏ちゃん!また姉貴の失敗談聞かせてくれよ!」

 

「はあ、まったく。相変わらず品性を疑う発言だね。(かえで)

 

「なにおう!あんたも気になってるんでしょ〜!本当は!ほれほれ!」

 

 

 明るく遠慮なく踏み込んでくるのは、蒔寺(まきでら)(かえで)。それを咎めるのは、氷室(ひむろ)(かね)という無機質な印象を与えてくる女の子。

 

 だが蒔寺の方が一歩上手だったようで、咎めた側の氷室がむしろ蒔寺のノリに押されている。そんな中で、彼女達のそばにいるもう一人が杏に話しかけてきた。

 

 

「私杏ちゃんのお話聞きたいな。ほら楓ちゃんはずっとああだし」

 

「ああ、うん。楓さんはずっとああですよね。ある意味らしいって言うか……そうだなぁ。あたしの話か〜。いやー、テストは常に満点。成績優秀!行儀よし!姉とは違うのだよ姉とは!」

 

「ふふ、なにそれ。むしろお姉さんそっくりじゃない。変な回答。杏ちゃんって相変わらず面白いね」

 

 

 朗らかな笑顔を見せる少女、三枝(みえだ)由紀香(ゆきか)。彼女はおかしくて笑っているが、杏としては割と本気だった。どうも凛は学校では大層な仮面を被っているらしい。

 

 ミスパーフェクトなどと呼ばれたりして。魔術師としてはともかく人間としては俗もいいところなのに。そう思っていると、その最中、ふと感じた鬼気に、杏は身構えた。

 

 

「ちょいさ!」

 

「あでっ」

 

 

 なんとなくの構えだったからか、容易くそれは破られ、頭をぶたれる。特に痛くはなかったものの、杏は不意を打たれたことで、恨みがましくその拳の主の方へ振り返った。

 

 

「何すんだよ」

 

「当然でしょ。姉の株下げるようなことばかり言って。三枝さんたちもごめんなさいね。こんな妹に付き合わせて。良ければまた世話を見てくれると助かるわ」

 

「世話て……ああ引っ張るな引っ張るな」

 

 

 凛を迎えに来ていたはずが、むしろ牽引される杏。そんな杏を、先程まで話していた三枝などが微笑ましそうに見据えてきていた。姉とは違うというのは本当なのに…………いや、これはもう仕方ないか。

 

 詰んでいたのだ。初めから。

 

 義務教育を恥辱と共に受け入れた、あの瞬間から。

 

 それから、杏は凛に連れられて家へと帰っていく。その道中で、ふと凛が足を止めて口を開いた。

 

 

「杏、あんたは聖杯戦争に参加しないでね。私の援護もしなくていいわ。正直あんたは強すぎる」

 

「んー?まあいいけど、勝てんの?」

 

「勝つわよ。この令呪に賭けて。それに触媒も極上のものを用意してあるわ。万が一なんてありえない」

 

 

 手に刻まれた聖痕を空にかざしながら、凛が声たかだかに自信の程を告げる。極上の触媒。境界記録帯(ゴーストライナー)。英霊を呼び出すための縁の品。

 

 英霊とは、サーヴァント。すなわち聖杯戦争に用いられる使い魔の一種。過去の亡霊。英雄の写し身そのもの。

 

 そして英雄にも格がある。ギリシャ、インド、を始めとした神話群。その中でいかほど活躍し、いかほどの力量を示したか。それをもって極上の触媒があると言うならば、なるほど。

 

 勝利は固いものになるだろう。

 

 

「そっか。ところで時臣さんの遺産のおかげで、家の時計の時間ズレてるけど、覚えてる?」

 

「え、あ、ああ。もちろん覚えてるわよ。英霊を召喚するのは私の魔力が最も高まる時間。つまり時計の深夜三時に召喚すればいいのよね」

 

「そうだけど。大丈夫かなぁ。凛はかなりのうっかりだから」

 

「う、うるさいわね!とにかく今夜!今夜サーヴァントを召喚するわ!杏はくれぐれも邪魔しないでよね!」

 

 

 前を行く凛が、羞恥に赤くなる顔を隠しながら声を張り上げる。まあ、聖杯に選ばれたのは凛なので、元々杏は邪魔する気はなかった。

 

 そうして、杏達は帰路について行く。

 

 そこからはくだらない話を繰り返しながら、いつもの通学路を行き、杏達は、しばらく、暖かながらも厳かな、我が家へと帰宅した。

 

 

「ただいまー」

 

「ただいまー」

 

 

 凛と杏、ふたり揃って帰宅を告げるものの、返ってくる声はない。家には義理の姉妹ふたりだけ。凛の父時臣も、母葵も、それぞれ違う事情で家にいない。

 

 杏からしてみれば初めからいないふたりだから、あまり感慨はないが、凛にとってはこの無反応さは堪えるものがあるのだろう。こうして帰宅の声をあげる時は凛はいつも寂しそうな顔をする。

 

 でもそれは悪いことでは無い。悲しめている。それだけで、十分人として今は遠くに行ってしまった両親にも顔向けできるだろう。忘れて何も思わないことほど、残酷なことはないのだから。

 

 それから、帰宅した杏達姉妹は、それぞれの作業へと身を移していく。杏は神に授かった力をより自分に馴染ませる鍛錬へ。凛はサーヴァント召喚の準備へ。

 

 そうしてその合間に夕食なども挟みながら、時間は過ぎていった。

 

 夜にもなると、特に今後予定もない杏はゆっくりと鍛錬を終えて床につく。聖杯戦争はあまり良い噂を聞かないので、それがどうなるか、気になりながらも杏は目を閉じようした。

 

 その時、杏の部屋の扉からコンコン。と何度か戸を小突く音が鳴る。寝ぼけ眼の杏は、なんだと思いながらもベッドから降りて自ら戸を開けに行った。

 

 

「なんだ凛か?どうしたの?」

 

「うーんちょっと召喚する前に本当に上手くいくのか不安になって。悪いけど付き合ってくれない?ちょっとだけでいいから」

 

「ん。まあいいよ。まだ寝てはなかったし」

 

「ありがと」

 

 

 若干落ち着かない様子の凛が扉の先から姿を現す。杏としても叩き起された訳ではないので、適当に応対しながらも凛を部屋に招き入れた。

 

 そして部屋に置かれているあまり使われない机につき、妙に準備よく紅茶を持ってきた凛の話に付き合い始める。

 

 

「それで?何がそんなに不安なんだ?」

 

「いや、儀式はそんなに私からしたら難しくないんだけどね。サーヴァントって要は過去の英雄じゃない。だから私が従えられるのかなって」

 

「まあ妥当な不安だな?でもそんな心配することか?」

 

「どうして?」

 

 

 凛が小首を傾げる。そこに、杏は眠気を誤魔化すように凛に用意された紅茶を飲みつつ、答えようとした。

 

 

「そりゃあ……ッ!?」

 

 

 息が詰まる。何かが逆流するような感覚が走る。血液が沸騰する。体が、恐ろしいほど熱い。なんだこれは。何か、致命的なものを食らったかのような。

 

 

「ふふふ。魔術師と言えども身内の情は捨てられんか。我が毒を見破る術はないが、まさか無警戒に飲むとは。呆気ないものだな。これで聖杯の全ては我がものか」

 

 

 鈴の鳴るような声に、重々しい厳かな声が入り交じる。倒れそうになる体を起こし、目線を前に向けると、対面に座っていたはずの凛の姿が消えていた。

 

 代わりに現れたのは、漆黒のロングドレスを着た見たこともない女性。彼女は体を痛みに震えさせる杏を見ながら、言った。

 

 

「ではさらばだ。哀れな我が主の怨敵よ」

 

 

 優雅に、静かに、無様を晒す杏の姿を哀れみの目で見つめながら、その謎の女性が空へと消えていく。霊体化。だろうか。普通の魔術師ではまず不可能だから、先に召喚されたサーヴァントか。

 

 それがいなくなった後で、杏は震える手を視界に収める。その震えは止まりそうになかった。先程は熱いと感じていた体も、今では寒気を感じている。女性は毒と言っていたか。

 

 サーヴァント燻製の、毒。

 

 

「最悪だ」

 

 

 体の色が、青ざめていく。もう時間が無い。何とか解毒しなければ。だがどうやって?今ある能力では解毒など不可能。

 

 魔術も最低限の素質があるからと何とか凛に頼み込んで教えてもらったが、今は役に立たない。唯一可能性があるのは「発」

 

 念。だがこんな土壇場で能力を作れるか?サーヴァントの毒に対応する能力?いや、死なないためにはやるしかない。能力。サーヴァントの毒に対応できる能力!

 

 

「最悪だ。本当に最悪だ!」

 

 

 

 ───『シュレディンガーの猫(オブリビアスムーヴ)

 

 

 

 毒を、攻撃を受けた事実を忘れる!能力は生涯で一度しか使用できない!その代わりにあらゆる事象を一瞬無視する!

 

 クソみたいな能力!

 

 

「発動!」

 

 

 視界が真っ赤に染まる中で、気力を絞ってオーラを振るう。

 

 限られたリソース。その半分以上を、ひとつの能力に費やす。言うまでもなく最悪な行為。しかしサーヴァントという理不尽相手にはこの程度の理不尽さがなければ対抗できない。

 

 本当に最悪だ。

 

 本当に…………本当に。

 

 そう思いながら、杏の意識は霞んでいく。初動ですらこれほどの劇毒を盛られる聖杯戦争。果たしてそれを凛が乗り切れるのか。杏は消えかける意識の中で彼女の先行きを心配した。

 

 それから、杏の意識は深い暗闇へと落ちていく。どこまでも。どこまでも。まるで、ある世界から転げ落ちた時のようだ。そういえば、あの神は今どうしているだろうか?

 

 説明なく世界に放り出されたのは恨んでいるが、能力を与えてくれたのは感謝しているのだが。まあ、今は次生きて起きることができているかの方の心配が先か。

 

 そのような思考を、微睡みの中でする。暗闇は、どこまでも深く杏を飲み込んでいった。それが晴れたのは、果たしてどれくらい時間が経った頃か。ふと呼ぶ声がした気がして、杏はそれに耳を傾けた。

 

 

「───!」

 

「…………」

 

「──!杏!」

 

 

 体が揺さぶられている。なんとなくわかる。暖かい。生きている証拠だ。沈んでいたはずの意識も、少しずつ浮上してくる。今までは消え失せていた体の感覚も、僅かに掴めるようになった。

 

 それに合わせて、自然と目が開く。

 

 眩い光が、杏の目を焼いた。

 

 

「うあ、クソ。今何時だ?あの女狐が」

 

 

 まだか細い意識の中で、ほぼ無意識的につぶやく。重い頭を振り、光に包まれる視界から何とか情報を得ようとあたりを見回した。すると朧気ながら、視界の中央に誰かの人影が見えてくる。

 

 ふたりいるか。ふたり?

 

 

「杏!良かった!生きてる!私よ私!凛!目は見える!?治癒魔術を施したから悪いところはないと思うけど!」

 

「あ、あー、まだ目がぼやけてる。それ以外は問題ないかな。でも気のせいか?なんか凛以外にも人がいる気がするんだが」

 

「それは今は置いといて!とりあえず良かったぁ〜!」

 

 

 何が何だかよく分からない。それが杏の正直な感想。とはいえ一応抱きついてくる凛を抱き返し、無事は伝えた。しばらくそうしていると、色んな感覚器も僅かずつ回復してくる。

 

 体にも活力が戻り、グダグダだったオーラの流れも掌握できるようになってきた。そして視界も回復したところで、抱きついてくる凛の後ろに、誰とも知らない顔ぶれが見える。随分美少女だ。

 

 

「うーん?いや、ああ。サーヴァントか。あんたサーヴァントでいいんだよな?凛が召喚した。今何時だ?」

 

「そうですね。この家の時計は現在一時間早いとの事なので、深夜の三時ほどになりますね」

 

「ほー、その程度か。回復はえーな。あたしの体。英霊の毒を受けたにしては悪くない回復速度だ」

 

「……英霊の毒?」

 

 

 凛に召喚されたであろうサーヴァント。金髪の美少女がキョトンと「何を言っているのだ?」と言わんばかりに首を傾げる。憎いことに、その動作は非常に様になっていた。

 

 そして今の杏の発言を聞いて、抱きついてきていた凛も顔をあげる。体を引き、何を言ってるんだという顔で杏を見てきた。

 

 

「英霊の毒って。あの英霊?」

 

「その英霊だよ。そこの英霊さんと一緒の。だいたい治癒魔術を起源で強化できるあたしならそこら辺の毒なんて効かないのはわかるだろ?」

 

「まあそうね。ってことはあんた英霊に襲撃されたの?いや信じない訳じゃないけど。開幕からそれって、誰かに恨まれてるわけ?」

 

 

 怪訝な顔で凛が見てくる。それに答えようとして、そこに金髪美少女から待ったをかけられた。

 

 

「いや、ちょっと待ってください。英霊に襲撃された?それはありえない。仮にアサシンのサーヴァントに襲われたなら、凛の妹君。杏さんはとっくに殺されているはずだ。いくらなんでも信じ難い」

 

 

 当然の論理を伴って、一歩踏み込んでくる金髪美少女。アサシン。それは聖杯戦争においてサーヴァントに与えられる称号。

 

 そしてクラス。全七騎いるサーヴァントには各自独自のクラスが割り当てられ、その役割の中で聖杯を奪い合う。

 

 アサシンであれば暗殺者。そして暗殺者の役割を担うものはひとり。他にも七騎分のセイバーやキャスターなどがあり、これにはそれぞれ特色がある。

 

 そしてアサシン。暗殺者に不覚を取られて生きているのはおかしい、という論理は、酷く正当だ。

 

 

「つってもまあ、相手が暗殺者ならもしかしたらあたし殴り勝てるかもしれないし、相手が仕留め損なったのは自然だと思うぜ」

 

「なっ!?サーヴァント相手に殴り合いが成立すると!?そんなもの聞いたことがありません!」

 

「まあまあセイバー落ち着いて。事情は後で話すから。それよりも杏。サーヴァントに襲われたのは信じるけど今後の方針はどうするの?」

 

 

 凛がサーヴァントを窘める傍ら、杏の方を向いて今後のあれそれを聞いてくる。当然ここまでやられてタダで引くというのもありえない。

 

 なぜかは知らないがアサシンのサーヴァントと思しき人物は杏を「我が主の怨敵」と言った。まったく心当たりがないのだが。果たして。まあとりあえず。

 

 

「女狐は間違いなくサーヴァントだった。霊体化するのもこの目で見た。あいつはあたしが殺る。遠坂がやられたままじゃ格好つかねえ」

 

 

 見据える相手は、サーヴァント。能力の大半を無駄打ちさせられた相手。もはやどんな攻撃をされたかも設けた制約のためか覚えていない。だがお陰でいい能力のアイデアが浮かんだ。

 

 次はない。今度はこちらが相手を狩る。

 

 確実に。

 




シュレディンガーの猫とかいうまじで土壇場で思いついたクソ能力。改めて見ると酷い。
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