あたち神様に幼女にされちった!   作:あるがままに在れる世界

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知らぬ間に狙われる少女ちゃん

 

 

 間桐邸。そこは蔦に包まれ、湿った雰囲気を醸し出す不気味な家。手入れ不足というのもかぎられるような、そんな家。そこには、地元の名土である間桐臓硯が住んでいる。

 

 随分高齢の人だ。唯一頼りになる息子も家を出ていったという。加えてある学校のPTA会長も務めているから、家のその雰囲気は仕方ないのかもしれない。

 

 それはそれとして、その屋敷からは時たま年若い女の子の悲鳴と、おぞましい何かの音が入り交じって聞こえてくるという。

 

 まるでお化け屋敷だ。だから仕方ないとしても、そこにだけは地元の誰も近づきたがらなかった。

 

 しかし今はどうだ。まったく手入れされていない様子の間桐邸。暗く湿った空気を放っていたそこには、もうそのような雰囲気はなく。

 

 代わりに厳粛な女王が住む屋敷のような場所へと変貌している。そんな突如変わった間桐邸。その只中で、窓から陽光を受けながら、二人の主従が小さな茶会を開いていた。

 

 

「どうだ桜。正当性も何も無い。愚かな私怨を遂げた気分は?」

 

「ふふ、最高に最悪です。私人を殺しちゃいました。姉さんの妹を殺しちゃいました。なんのいわれもない、無辜の女の子を殺しちゃいました。本当に、最悪で、最高です」

 

「なるほど。良心が痛むか?ならばなぜ喜ぶ?願いが叶ったからか?初めて世界が自分の思い通りになったからか?……ふっ。喜べ桜。私が聖杯を手にした暁には貴様の思う通りの世界を作ってやろう」

 

 

 女帝、とでも言うべきものが、誘うように自身のマスターである桜に手を差し出す。対面に座る桜はその女帝の姿眩しそうに見つめ、そして目を逸らした。

 

 

「?どうした桜?」

 

「私、そんな世界いりません。ただ私は、戻れないならと、それをめちゃくちゃにしてやろうと思ったんです。でも、こんな簡単だったんですね。なら、もういいです」

 

「……もういい?もういいだと!?ああ!桜!お前はなんと愛らしいやつなのだ!よくわかっている!そうだ!本質的に無意味な殺しなど意味はない!では次は何を求めよう!?人か!?世界か!?」

 

「いえ、もういいんです。ありがとうございますセミラミスさん。でももう、私には何も手にする資格は無いから。もう、いいんです」

 

 

 家族から引き離され、間桐にまで来た。それはきっと意味のあった事なのだろう。時臣お父さん。彼が桜を手放した理由は、相応のものだったのだろう。でもなんでそうしたのかは分からない。

 

 桜は間桐で何か学びを得たことはなかった。与えられたのは、間桐の翁による支配と淫蟲。

 

 なんの意味があるかもわからず嫌だ嫌だとよがる桜を目の前に、愉悦を浮かべ蟲を桜の肉にあてがう間桐の翁。

 

 ……染められた。染められた。染められた。

 

 延々と蟲に犯され続ける日々。それは桜に諦観を与え、もう戻れないところまで堕落させた。初めてを捧げたい人に出会った。でもそんなものはもうなかった。

 

 遠く昔に戻りたかった。

 

 でも無理で。じゃあその昔の欠片をめちゃくちゃにして憂さ晴らしをしようとした。なんの意味もなかった。落ちきった桜の心には、何も響かなかった。だからもう。

 

 

「ん?待て桜。こやつ生きておるぞ?一体どうやって?あれは仮にも幻想種の毒だったのだがな」

 

「……生きてる?誰が?」

 

「遠坂杏だ。ヤツめ。どんな手を使って死を免れた?興味は無いが面倒だな。我が覇道を阻む大敵になりかねん。桜。傷心中のところ悪いが策を練るぞ」

 

「そう。杏さんは生きてるんですね。本当に私なんかよりもよっぽど遠坂に、姉さんにふさわしい人。やっぱり、ずるいなぁ」

 

 

 初めはただ、欲しかった、届かない遠く煌めく星に、手を伸ばした。でも違う。そうじゃない。間桐で唯一桜が学んだ喜び。それはそんな高尚なものではない。

 

 かつて数百年を生き、数日前に桜のサーヴァントによって滅ぼされた間桐の翁。彼が教えてくれたのは、汚泥の中に人を引き摺り込む事で得られる愉悦という名前の幸福。

 

 あるいは不幸。もはや桜は、人の不幸で自身の不幸を贖うことでしか、本質的な喜びを得られない。ならばもう、いいではないか。良い子ぶらなくても。

 

 いまだけは、間桐の教えに従おう。

 

 

「ふ、ふふ、ふふふふふ」

 

 

 壊しましょう。なんとなく。そうすることでしか、生きていると、幸せを抱いていると、思えないのだから。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 遠坂邸で杏が襲撃され、アルトリアが召喚されてから二日ほど。遠坂陣営はある事情によりマスターの凛以下杏は学校を休まざるを得ない状況に追い込まれていた。

 

 

「何らかのバグでセイバーは霊体化できない、と。まあいいけどね。学校には身内が死んで身寄りのない親戚が、家に来たから落ち着くまでしばらく学校休むって言ったから」

 

「すみませんマスター。貴重な学びの機会を私のせいで。しかしその分活躍はしてみせます」

 

「うん、期待してるわよ。マスター特権で見えるセイバーのステータスも並外れたものだし。私達の勝利はもはや磐石ね!」

 

 

 杏の後ろで主従二人がワイワイ騒ぐ。着々と信頼関係が築かれているようで何よりだ。杏はその会話に耳を傾けながら、ある建物の屋上の際に立って街全体を見回す。

 

 オーラで強化された視力は、冬木全域を見渡すのに十分なものだった。遠くでは、狭い路地を友達と走り回る子供たちの姿や、繁華街で働く人物たちの姿が見える。

 

 その中から怪しい人物がいないかを探し出す。容易なことではない。しかし念に合わせて魔術を併用することで、杏は比較的、視覚に映るほぼ全てを処理することができていた。

 

 時刻は夕方。ここまで探索して、目星が着いたのは、ひとり。他は相当用心深く潜伏している。

 

 杏のオーラを纏った目はほぼ浄眼だから、サーヴァントが霊体化していても捉えることができる。むしろ霊体となって常世から浮いているなら、より捉えやすくなっていると言ってもいい。

 

 なのに目星がついたのはひとりだけ。

 

 どこか異様だ。

 

 今回の聖杯戦争は。

 

 

「というかあのアインツベルンのちびすけは何をしてるんだ?ひがな一日中街中を徘徊して。連れてるサーヴァントもどう見てもバーサーカーだし。いっそあたしがパーフェクトプランでプスッと行くか?」

 

 

 視界の隅。繁華街を行く白髪赤目の少女。数kmは離れているから気取られることはないが、まるで子供のように繁華街の商品にいちいち目を輝かせて。なんなんだ。

 

 

「え、またあのアインツベルンの子徘徊してるの?能力が高いバーサーカーを連れているとはいえよくやるわねえ。というか本当に杏のあの透明化能力使ったら一瞬で形が着くんじゃないの?」

 

「まあつくだろうな。どんな大英雄だろうがあたしが触れるまでは無だ。気づくことは不可能。未来予知できるなら別だが。その場合でもあたしの姿は捉えられない」

 

「パーフェクトプラン。神の不在証明ですか。恐ろしい魔術だ。それを使われれば私とて死は免れないでしょう」

 

 

 奥の方で話していた二人が、揃って杏のそばに首を出してくる。改めて考えてみると、杏のようなセイバーともある程度打ち合える人間が、完全な透明化能力を持っているのは恐怖でしか無かった。

 

 それゆえに扱いに困る。なぜならまさに恐怖だからだ。どんな防御陣形も意味をなさない。あらゆるものを潜り抜けて殺しにくる。これは能力が露見すれば誰もが抱く恐怖。

 

 そしてそれだけで封印指定なりなんなりがなされる可能性が高い。つまり実質的に使う=ほぼ死とも言える。だから使えば確かに強いが、使うと終わる可能性も考えなければいけない。

 

 パーフェクトプラン。あるだけで厄介な能力だ。あらゆる意味で。

 

 それからも、杏は街の監視を続けた。時刻が夜の時間になっても。いやむしろ夜だからこそ。そもそも聖杯戦争の本番は夜。それを考えれば当然のことだ。

 

 まさか日中にドンパチやって魔術などを露見させる訳には行かない。神秘はまさに湧水のようなものなのだから。そして魔術も神秘の一種である以上、存在を認知されるほどその力を無くす。

 

 ましてや現代で魔術が露見すれば、ほぼ確実に神秘自体が死にかねない。今の人類は数が多すぎるから。故に聖杯戦争の本番は夜となっている。

 

 そしてそんな夜に基本行われる聖杯戦争であるが、その最中、杏は早速街の中で異常な存在をひとつ観測した。

 

 とはいえあまり喜ばしく無いものだ。

 

 

「あれ?あの制服穂群原(ほむらはら)学園のやつだ。凛が通ってる。顔は、なんか見覚えがあるな。誰だっけ?」

 

「え?穂群原の?しかも見覚え?まさか桜じゃないわよね!?」

 

「いや、違う。間桐に行った桜さんではない。あの顔は……えーと。あそうだ。衛宮さんだ。穂群原のブラウニー。令呪も間違いなくあるな」

 

「え、衛宮くんが?あんな腑抜けが?マスター?」

 

「うん」

 

 

 凛が顔を引き攣らせながら問いかけてくる。それに杏は素直に答えた。すると凛はどうしたものかと頭を抱えて悩み始める。聖杯は聖杯にふさわしいものをマスターに選ぶ。

 

 そこからするとブラウニー(妖精)と呼ばれるような人物がマスターとなっているのは不可思議な現象だ。しかし凛も学校で仮面を被っていたように、衛宮も仮面を被っていた可能性も無くはない。

 

 

「んあああ!いくらなんでもあの底抜けの甘ちゃん仕草が演技とは思えないわよ!第一あんなに桜と仲良いのに、というかもうゴール一歩手前なのに、演技だったとか考えたくない!じゃあ甘ちゃんで選ばれたの!?聖杯ってばかぁ!?」

 

「どこぞの二号機パイロットみたいに言ってるとこ悪いけど、衛宮さん多分このままだと死ぬよ。あと2分も持てば健闘賞ってところかな」

 

「二号機パイロット?2分?死!?衛宮くんが!?ちょっと!どうするのよこれ!衛宮くんが死んだら桜に申し訳が立たないじゃない!」

 

 

 暗く染まった屋上で、凛が杏を振り回す。魔術師として冷徹になれるくせに、こういう時に限って使えない。そんなもの自分で考えろという話だが。

 

 とりあえず、杏は凛の体越しに、そばで控えるアルトリアに目線を寄越す。するとそれを受けてアルトリアが頷き、こちら側に歩み寄ってきた。そして杏の目線の先で、彼女が凛の背中に手を添える。

 

 

「凛。落ち着いてください。その衛宮という方もマスターなのでしょう?ならばそばにサーヴァントがいるはずだ。杏が2分と言ったのはそれも含めてでしょう?」

 

「いや?単純に見えたままを言っただけ。衛宮さんはサーヴァントを連れてない。ただ敵と遭遇しそうだから死にそうだなと。でもまあマスターだし実際死ぬかはわからんね」

 

「ちょっとー!余計落ち着けないじゃない!あんたに情ってものはないわけ!?いやないか!衛宮くんと話したことあんまないもんね!」

 

「そいうこと。むしろあたしは衛宮さんには触れたくないな。あそこまで無防備だと何が出てくるか分かったもんじゃない。よっぽどえらいサーヴァント引いて敵をおびき寄せてるんじゃないか?とすら思う」

 

「た、確かに!」

 

 

 情に流され平静を失っていた凛が、ここで初めて盤面の異様さに気づく。マスターに選ばれながらまったくの無防備。

 

 これでは聖杯が衛宮をマスターに選んだ意味がない。聖杯にもある程度選別する意思はあるはずだ。それで言うと衛宮はそんそも選考にすら入らないはず。

 

 しかし現にマスターになっている。

 

 だから何かあると思ったのだが。

 

 …………杏のその視線の先。夜の街灯に照らされた道を歩く衛宮士郎。彼はなんら動きを見せない。そしてその衛宮士郎が行く先に存在する人物。魔術大家。アインツベルンのマスター。

 

 彼女は推定バーサーカーを連れて笑顔を浮かべながら一直線に衛宮の方を目指して歩いている。彼らが衝突するまでに、かかる時間はもう一分とない。

 

 もし衛宮士郎が強力なサーヴァントを隠しているとしてももう出しても良い頃合い。なのに動きはない。数km先で、衛宮士郎は順当に殺されようとしている。

 

 明らかに何かがおかしい。だが杏の目は嘘をつかない。

 

 

「まずいなこれ。普通に衛宮さん殺されるぞ。ほんっっとに何も動きを見せない。不気味なほど。でも罠ではない、と思う。ここまで来たら」

 

「ああもう!どっちなのよ!なんなのよ!なんで衛宮くんなんかがしゃしゃり出てくるのよ!もう面倒くさい!セイバーと打ち合える杏がいるんだし、突っ込むわよ!セイバー!私を抱えて飛んで!」

 

「了解しました。杏。私の速度に合わせて着いてきてください。できるだけ早く急行します」

 

「OK」

 

 

 屋上の縁に足を掛け、凛を抱えたアルトリアが告げてくる。杏はそれに素直に頷き、オーラを全開にした。その雰囲気の変化を感じ取ったのか、目の前でアルトリアが跳躍する。

 

 風が吹き、気づいた時には、アルトリアが何棟か先のビルに姿を移していた。合わせて、杏もその場から跳躍し、背を見せ先導してくるアルトリアの後を追う。

 

 夜の冷たい空気を切り裂きながら、杏達は街の上を飛んだ。明るいネオンの煌めきが、冬木を照らす。されどその空を行く杏達の姿は、誰にも見られることはない。

 

 隠蔽の魔術。ごく初歩的なその技術によって、人々はそれらの姿を追う術を失うのだ。同じように、普通の人間が裏で起きている聖杯戦争について知ることもない。

 

 その事実は救いとなるのか。呪いとなるのか。少なくとも、杏が見据える先、普通の街道をただ歩くマスター、衛宮士郎にとっては呪いになりそうだった。

 

 しばらくして、並んだ杏とアルトリアは魔術的な繋がりを通じて思念を交換し合う。擬似的な主従契約に近い形を取ることで、両者は視覚の共有をできるようになっていた。

 

 

『なるほど。あのものが衛宮士郎。そしてあちらが……アインツベルンの……』

 

『ななに?思うところがあるの?まあアインツベルンは数百年は軽く続いてる錬金術の大家だからな』

 

『いえ、なんでもありません』

 

『……そっか』

 

 

 明らかに何かありそうだったが、踏み込みはしない。順序を踏まず人の心に踏み込むと大抵ろくなことはないからだ。向き合える関係を築けるようになって初めて踏み込むかどうかを決めるべきで。

 

 そうして並走するアルトリアから視線を逸らし、衛宮士郎の方へ視線を戻すと、ちょうどと言うべきか、なんと言うべきか。明らかに彼を狙っていたアインツベルンのマスターが、衛宮の元へ到達した。

 

 そして戦闘に発展するかと思えば、何故か突然衛宮に友好的にお喋りを始めるアインツベルンのマスター。

 

 あいにく読唇術は会得していないので、なんと言っているかはわからないが…………もしや同盟を組んでいたのか?という疑問に行き着くも、直後、その疑問も解消される。

 

 アインツベルンのマスターが、魔力を励起(れいき)させた。明らかな戦闘態勢。合わせてかのマスターの背後で霊体化していたサーヴァントも、その姿を常世へと投影する。

 

 そして、爆音が鳴った。

 




ごめん。何故かルーキーランキングに表示されなくて設定色々弄ってたら一時新作にも乗らなくなっちった。今回はかなり下手打ったから一旦作品消すかも。

見たい人がいたら「お前こっからやろ!?」とか言ってくれればとりあえず完結するまでは残しておくで。
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