ダンジョン学園、ゲーム転生ソロ攻略中。 作:塔乃登
ギルドの仕事をして麻雀して寝た。
今日は八月の第二週。
夏真っ盛りの夏休み真っ只中ということで、朝からかなりの暑さを感じる。
そんな中、今日はシズカとダンジョン前で待ち合わせをしていた。
「こんにちは」
待ち合わせの場所に到着すると、先に来ていたシズカがニコリと笑う。
前に話したデートのお誘いである。
「おはよう」
まあその場所がダンジョン前ということでなにをするかは丸わかりだけど。
彼女の格好は青と白でまとめた和装の服防具。
俺は普段通りの軽鎧。
朝から待ち合わせするには互いに色気のない格好だ。
「待たせたか?」
「いえ、私もいま来たところです」
「ならよかった」
流石に暑い中待たせるのは心苦しいので、そういう事態にはならなくて一安心。
まだ午前八時なのに暑いのおかしいだろバグかよ、と言いたくもなるところだけどダンジョンに入ってしまえば関係ないのが救いか。
浜辺階層なんかは一周回って年中夏の気温だしね。
ともあれ、そんな挨拶にシズカが楽しそうに笑う。
「ふふっ、本当にデートみたいですね」
「みたいじゃなくてデートだろ?」
そんな俺の返しは予想外だったのか、シズカは少しだけ驚いた表情を見せる。
わりとレアな表情だ。
デートの誘いを受けて待ち合わせしたんだから、理論上これは間違いなくデート。
一般的に言うデートとはずいぶん異なるし、そうでなければ俺もこんな冗談も言わないけど。
俺の冗談はシズカにはウケたようだった。
「そうでした。それでは今日は楽しませてくださいね」
「期待に沿えるかはわからないけどな」
「その点は心配していませんよ」
まあ既に楽しそうだしね。
「それでは、行きましょうか」
「はいよ」
ということで人がまだまばらなダンジョン前を抜けて、転移陣でシズカが目的の階層へと飛ぶ。
そしてやってきたのは23階層。
この前アクアさんたちと探索した階層だ。
前回は三人で今回は二人だけど戦力的には……、明言するのはやめておこうか。
今の俺は片手剣と小盾装備で、シズカは刀装備。
一応ヒーラー不在って編成の弱点もあるけれど、正直問題になる気はないし。
そのまま二人で並んで歩き始める。
「シズカ、いま攻略してるの何階層だっけ?」
「29ですね。貴方はいくつですか?」
「26」
ついでに俺の片手剣のレベルは24、シズカは確認してないけど29前後だろう。
つまり23階層はレベル的には余裕がある階層。
二人パーティーだから余裕のある階層を選んだという理屈も考えられなくはないけど……、ご機嫌で隣を歩くシズカ的にそれはなさそうかな。
自重とか配慮とか、そういう気配を今日の彼女からは感じられない。
まあ今日の俺もそういうのを求める気はないからいいけど。
「今更だけど、今日は自分のギルドはいいのか?」
「ええ、今日は私がいなくても動けるように訓練中です。普段から私の役割が大きいですから、たまにはいないときの動きを理解するのも必要でしょう」
シズカが『異常火力のアタッカー』兼『司令塔』と『緊急時の避けタンク』として機能していると、たしかにほかのメンバーはそれ前提の動きに自然となってしまうだろうしね。
便利すぎる駒には頼るなという方が難しい話だ。
そしてパーティー内の連携が上達するにはメンバーの役割への理解度も大切なので、そういう意味ではシズカを抜いた編成での訓練というのは有用かもしれない。
シンプルにタンク・アタッカー・ヒーラーの各ロールの動きを理解するのも、その中でのさらに武器ごとの得手不得手を理解するのも連携には有用な工程だし。
俺もタンクやるときはアタッカーがどんなスキルを使ってどう戦うかを考えながら動いてるし。
「ふふっ、本当のことを言えば、半分は抜け出して貴方とデートするための言い訳ですけどね」
おかしそうに漏らすシズカの言葉のせいで俺のさっきまでの解説が台無しである。
「ギルドのメンバーに聞かれたら怒られるぞ」
「大丈夫ですよ。半分は本当のことですし、それに自分の役割は普段からきちんと果たしていますから。今日は息抜きのようなものです」
まあシズカが一日休んだところで戦力的にもバランス的にも抜けているのはひとりスペックが突出しているシズカの側で、みんな追いつけるように頑張れという理屈はその通りだろうけど。
シズカが四人いたら、それがドリームチームだ。
なんて話が冗談にならない程度には飛び抜けているし。
ギルドの代表としての役割は、今日以外は毎日ちゃんとやってるんだろうし。
「それに私にも得るものはありますし。むしろ私の成長としてはこちらの方がよほど有意義かもしれませんよ」
「シズカが学ぶようなことはないと思うけどな」
「そうでしょうか?」
いや本当に、俺を見てシズカが学ぶようなことはないと思うけど。
まあ本人があるというなら別に否定する理由もない。
「そういえば、学年一位残念だったな」
シズカたちのパーティーが学年一位を抜かれて、トップ交代が起こったのが先日のこと。
ちなみにシズカたちも数日遅れでユリウスたちパーティーと同じ階層に追いついてはいるのでそこまで明確に差が生まれているわけではない。
とはいえ後発に追い抜かれたという事実は大きなニュースになっていた。
そこに俺が関わってるのは秘密だけど。
「そうですね。ですが抜かれたら抜き返せばいいだけですから」
そんなふうに堂々としていられるのは、強者ゆえの余裕だろうか。
原作知識で下駄を履いている身からすれば羨ましい限りである。
俺も大概余裕はあるけど、これは十分に抜き返す算段があってのことだしね。
「それに……」
「それに?」
「私、追いかけるのは嫌いじゃないんです」
そう言って笑みを浮かべる彼女の視線は、しっかりとこちらへ向けられていた。
………………
…………
……
「はい」
道を歩きながら、シズカが手の中で転がしていたクナイを投げる。
それが木の上にいるポイズンスネークへと当たる、とクリティカルのエフェクトと共に対象を即死させた。
「ダメージやば」
「ふふっ、こういうのは得意なんです」
シズカはドロップしたアイテムと共に投げたクナイを拾い上げながら、少しだけ胸を張るように答える。
今の彼女の防具は和装だから、しっかりとした着物ほどではないにしてもあまり胸は目立たないけど。
ちなみに今日の青と白の和装は、彼女の翠色の長髪によく似合っている。
袖が広くて見た目動きづらそうなんだけどね、シズカは慣れた様子でそれを汚さないように地面のアイテムを拾っていた。
和服を着慣れているのはもちろんのこと、それで動くことも幼い頃から教育されてきたんだろうなと感じられる所作は美しさも感じられる。
というか膝を曲げずに前屈で楽々と地面のアイテムを拾えるのは身体が柔らかい。
制服だったら後ろからスカートの中が見えそう。
和装は和装でお尻のラインが強調されてちょっと目の毒だけど。
「どうかしましたか?」
「ナンデモナイヨ」
振り返ったシズカに悟られないように自然に誤魔化す。
「それにしても、それ上手いな」
彼女は拾ったクナイも合わせて三本を手の中で器用に転がしている。
大体ペン回しのようなものだろうか、上手に三本を踊るように転がしているのは難易度おかしいけど。
指もそれぞれ意思を持った別々の生き物のようにうねうねしているし。
なお歩きながらでも当たり前の顔でやっているので、彼女としては本当にただの暇つぶしなのだろう。
「貴方もやってみますか?」
「一本でもできる気がしないが」
「慣れればそこまで難しくはありませんよ」
できるやつはみんなそう言うんだよ。
「できると役に立つこともあるんですよ?」
「役?」
「ええ、手の内が柔らかいと剣術では有用ですから」
「あー……」
つまり指先の繊細さや手の柔軟性が攻撃に活かされているということだろうか。
特に日本刀は刃筋が立つなんて言うように、斬る方向に対して刃を真っ直ぐ向けるのが重要だって言うし。
彼女の確定クリティカルの一端もその刃筋の正確さと、弱点を突く繊細さが関係しているのかもしれない。
推測だけどね。
「どうですか、気になりますか?」
「まあ多少は」
「ではあとで教えてあげますね」
なぜか楽しそうなシズカだけど、まあいいか。
「お手柔らかに」
「手だけに、ですか?」
「やかましいわ」
俺が滑ったみたいになるからやめてほしい。
「えい」
それからまた少し歩いて、シズカにしては珍しい可愛らしい掛け声とともに自然な動作で投げられたクナイは、当然のようにポイズンスネークにクリティカルヒットして叩き落とす。
ふふっ、こわい。
なにげない動作から殺意が高いんだよね。
「今更だけどシズカ投擲のスキルレベル上げてたんだな」
「私ですか? 私はそれほどレベルは上げていませんよ」
えー……?
そんな彼女の言葉に、俺は脳内でダメージ計算を思い浮かべる。
サブスキルである投擲スキルのレベル自体はそこまでダメージに関わるわけではないけれど、それでもパッシブスキルでダメージアップは存在する。
それを抜いたとして、彼女のステータスとクナイの攻撃力と確定クリティカルの倍率を掛けてポイズンスネークの耐久力と比較すると……、確かに一確できるわ。
まあその場合、スキルレベルによる命中補正はほとんどかかっていないうえで彼女の投擲は百発百中ということになるわけなのだが。
「元々は昔実家にいた頃に習ったものですね。貴方を見て久しぶりにやってみました」
たしかに実家で技術として習っていたという話なら、技術の高さとスキルレベルの低さは両立するけれど。
「俺?」
「はい、戦技祭で使っているのを見たので真似をしてみたんですが、存外便利で悪くないですね。特に牽制としてはとても便利です」
「なるほど」
遠距離一確するのはポイズンスネークの耐久の低さが要因の一つではあるけれど、それ以外の場面でも先制ダメージ+ヘイト獲得は実際便利ではある。
というか戦技祭で見られてたんだな。
普通に気付かなかったわ。
「そうだ、せっかくですし勝負しませんか?」
「勝負?」
「ええ、どちらが遠くまで当てられるか。的は……、あれなんてどうでしょう?」
彼女が視線を向けたのはかなり遠くにいるポイズンスネーク。
距離は30メートルくらいで戦技祭での本番の的と同じくらいの距離。
丸い標的と違ってポイズンスネークは細長いから、普通ならまず当たるかを心配するような距離だけど……、まあいいか。
「投げるのは同時でいいか?」
「ええ」
どうせ外してもデメリットはないので、俺は彼女の勝負に乗ることにした。
勝てるかは怪しい勝負だから賭けたりはしないけど。
「それじゃ、せーの」
30メートルは腕の振りだけでは届かないので、身体を使って大きく投げる。
俺とシズカで同時に投擲された武器は、わずかに放物線を描きそのまま目的の場所に到達。
「おー、すげ」
遠目に見える俺の投げたナイフはポイズンスネークの胴体に、そしてシズカが投げたクナイは頭部に突き刺さっていた。
そのまま標的になったポイズンスネークはHPが全損して消滅する。
「貴方も当たりましたね」
「シズカほどじゃないけどな」
彼女が投げたクナイは頭部ヒットでクリティカルエフェクトを出していたし。
「では私の勝ちということで」
「いや、両方当たったんだから引き分けだろ」
勝負は当たるかどうかで、ダメージが高い方が勝ちとは決めてなかったからな。
だから俺は負けてない。
「では次は頭に近いほうが勝ちということで」
「うーん……」
なんて話をしながら森の中を進んでいく。
ちなみに二人で横並びで歩いていて、普段のような隊列は組んでいない。
二人だけだからそこまで細かく役割分担する必要もないって事情もあるけど……。
「おっ、ファイアーアルマジロだ」
見つけたのは尻尾の先に火がついたアルマジロ。
体長50センチくらいで、アルマジロという名前の通り背中側の外皮が非常に頑丈なのが特徴。
なお火事の原因にならないのかとか言ってはいけない。
ダンジョンの中だからね、大丈夫なんでしょうきっと。
そんなファイアーアルマジロを見て、シズカがクナイを投げる。
『キュイッ』
顔面にそれを受けて怯んだファイアーアルマジロは、そのままくるっと身を丸めてゴロゴロと突っ込んできた。
その回転攻撃は柔らかい腹側を内側に隠して突っ込んでくる攻防一体の厄介な攻撃。
しかも火属性だから、ガードしても多段ヒットで削られるしね。
「『挑発』」
俺が挑発を入れるけど、それで攻撃のターゲットが向くのは回転攻撃の次の攻撃から。
なんだけどシズカは当たり前のように俺の後ろに立っているのでファイアーアルマジロは真っ直ぐにこちらへと転がってくる。
彼女からして、俺が避けることは想定していない立ち位置である。
避けたら後ろのシズカが轢かれるからね、まあ普通に避けるかもしれないけどどちらにしても俺に押し付ける意図は明白だ。
うーん……、まあいいか。
彼女の確信が確定に変わるくらいの差だろうし、ほぼバレているであろう隠し事をわざわざ続けるのを俺はやめた。
幸い、いまは二人きりだしね。
「『パリィ』」
俺が小盾でパリィを決めると、シズカが滑るように俺の横をすり抜けて、ダウンしているファイアーアルマジロへと攻撃を加えていく。
ダウンで見せた腹は弱点で、シズカが殴るとダメージが加速する。
火力エグぅ。
彼女と前回パーティーを組んだのはそこそこ前のことだったけど、改めて見てもヤバい火力だ。
っていうか前より削る速度がヤバくなってる気がする。
そもそもクリティカルは防御無視なんだけど、部位ごとのダメージ倍率は変わらず存在するので弱点を殴るのは有効だからね。
「『縦一文字・弐』」
「『ハイスラッシュ』」
俺も一緒に攻撃するけれど火力差は顕著。
あんまり一方的にダメージ稼がせるとヘイト取られそうだけど、まあ大丈夫か。
『キュッキュッ』
起き上がったファイアーアルマジロがくるっと跳び上がって空中で縦に一回転しながら俺に燃える尻尾を振ってくる。
「『パリィ』」
二回目のパリィでそれを弾くと、ファイアーアルマジロは空中でバランスを崩して落下した。
「はっ」
「あっ」
それが地面に落ちる前にシズカが斬ると、ドサッという音とともに光の粒子になって消滅した。
空中で的確に腹側の弱点を斬るのもなかなかの技量である。
ついでに言えば、それは俺がパリィを成功させると読んでいないとできない動きであった。
(やっぱ隠しても意味ないなぁ)
並べば隠し事のできない相手、だけれど隠し事をする必要もない相手と思えばたまにはこういうのも悪くはないか。
そのまま投げたクナイを回収するシズカに、ドロップアイテムを拾った俺が並んでそのまま歩き出す。
話は戻るが、なんで隊列を組んでいないかと言えば、わざわざ役割分担を事前に決める必要がないからである。
あと索敵不足で不意打ちを食らう心配もないしね。
「んで、どこまで行くんだ?」
「もう少しです」
二人で並んで密林を歩いているわけなんだけど、進む方向を決めているのはシズカの方。
目的地に向かって真っ直ぐ進んでいるので、しばらく前から目的地におおよその察しはついていたけど。
「着きました」
立ち並ぶ木々が途切れて、開けた場所の先にいるのはメガ土竜。
体長10メートルの巨体は相変わらずの威圧感だ。
まだこちらにヘイトを向けてはいないけれど、もうあと数歩進めばターゲット圏内。
前回は七人で倒した相手。
一方いまはシズカと二人きり。
「一緒にあれを倒しましょう」
提案する彼女はどこか楽しそう。
「二人で?」
「ええ」
「ヒーラーなしに?」
「ええ」
フィールドボスのメガ土竜は適正レベルの四人パーティーで討伐する前提のもので、それを二人、しかもヒーラー抜きで相手するのはリスク管理の観点からいえば論外だ。
もちろん、シズカもそんなことは理解したうえでの提案だろうけど。
「私と貴方なら問題ないでしょう?」
彼女の態度に表れているように、絶対的な自信がなければやらない。
というかそもそも討伐できるとしてもリスク・リターンが合わないから。
「少なくとも、私は問題ありませんよ?」
「そこまでいうなら」
だからこれはただの趣味で、ある意味正しくデートといえるのかもしれない。
「どこ殴る?」
「では、頭を」
「…………、ふふっ、はははっ」
シズカの提案に、俺は思わず笑いが漏れてしまう。
アタッカーがタンクの横に並んで同じ場所を殴るという発想が今の俺にはなかった。
通常タンクというのは攻撃が集中するのが道理で、その隣よりも横合いや後ろから殴るほうが効率がいいからね。
ただしタンクが全ての攻撃をパリィして、アタッカーが正面から最短距離で弱点の頭を殴れるのなら確かにそれが最高効率かもしれない。
そんな自分にはない発想に思わず笑ってしまったんだけど。
目から鱗ってやつだろうか。
「じゃあやるか」
「はい、いつでも」
俺とシズカで二人、朝からここまで直行したので偶然他人に目撃される心配もない。
今だけは無制限に遊べる状況で、隣に並んでそのまま一歩踏み出す。
「『挑発』」
そのまま走りながらヘイトを確保して、突進してくるメガ土竜にスキルを合わせた。
「『パリィ』」
「『縦一文字・弐』」
俺が突進を弾くのと同時に、シズカのスキルが当たる。
パリィが決まったメガ土竜は大きく仰け反るので、間合いに入ってから殴れるタイミングはほんの一瞬だけれどシズカは当然のように当てていた。
モ◯ハンで突進してくるモンスターの顔面に大剣の縦斬りを当てるようなもんだからこれも結構難しいと思うんだけどね。
そのままドサンとダウンしたメガ土竜の顔面を二人で殴る。
斬撃属性は顔面が一番よく通るからシンプルにこれが最適解だ。
「『パリィ』」
そして今度は噛みつきを直でパリィする。
噛みつきって多くの場合は発生速くて弾きづらいんだけど、メガ土竜のそれは実際に噛み付いてくる前に頭を右に動かす予兆があるのを知っていればタイミングは取りやすい。
そんでまたダウンさせると同じ流れでフルボッコにする繰り返し。
俺とシズカで火力差が二倍近くあるので、程なくヘイトが逆転する間際に達する。
そこでシズカと一瞬だけ目が合った。
「『ハイスラッシュ』、『パリィ』」
初手は遠距離から引っ張るように飛ばした挑発だけど、今は隣に並ぶシズカへの攻撃でも問題なく隣からパリィできるのでそのままヘイトを管理する工程は放棄した。
これによって定期的に挑発を飛ばす工程が省略される分だけ俺の火力は向上するが、逆にどちらかがミスして立ち位置が崩れたら非常に面倒なことになる。
彼女は視線で『私はミスしませんけど』って言ってたから俺もミスしないように頑張らないと。
タンクが死んだらみんな困っちゃうからね。
まあこの場には他一名しかいないけど。
「隣、失礼しますね」
「いらっしゃい」
なおパリィするならなるべくターゲットは自分に向かっているのと近い状態のほうが難易度が下がるので、シズカは定期的に俺の横に並んで立ち位置を調整してくれている。
横振りの攻撃とか、立ち位置次第で弾くタイミングが早くなったり遅くなったりするし。
その互いの距離が零になって、俺の右肩とシズカの左肩がピタリと触れた。
「もう少し離れても大丈夫だぞ」
「ええ、把握してますよ」
彼女はそう言って頷くけれど、その触れた肩を離そうとはしない。
「いっそ手でも繋ぎましょうか」
「さすがに邪魔でしょ」
いまはパリィ待ちなので左腕だけフリーなら問題ないけれど、逆の手も片手剣を握っているので次の行動を考えると普通に困る。
シズカは左手無しでも立ち回れるかもしれないけど、どっちにしてもいまやるお遊びじゃないかな。
原作ではできないチャレンジだから、遊びでやるには楽しそうではあるけど。
むしろやるなら決闘とかの対人の方が有用そうではある。
なんて待っているあいだにメガ土竜の振り上げた尻尾がしなるように顔の前の俺たちのところまで振られてきたのでそれを弾いた。
「『パリィ』」
「…………」
俺がパリィするのに合わせて、シズカがSPポーションを飲む。
さっきからがぶ飲み状態だけど、火力をペースダウンする気はなさそうだ。
ドロップアイテムを売ったら余裕で黒字だろうから問題ないけどね。
そんなことを思いながら、俺もSPポーションを取り出して口をつけた。
………………
…………
……
「はあっ!」
放たれたシズカのトドメの一撃で、メガ土竜は光の粒子となって消滅していく。
立ってる位置から動くことはほとんどなかったけど、短いスパンで攻撃を連発してさすがに疲れた……。
隣で平気な顔をしているシズカも、首筋にはうっすら汗が滲んでいた。
まあ適正レベルかつ二人パーティーで戦ったとは思えないほどスムーズな進行ではあったんだけど。
「パリィ成功72回、お疲れさまでした」
「数えてたのか?」
「はい」
「余裕あるなぁ」
「見てて面白かったので」
サーカス的な意味かな?
というか俺なら余裕があっても回数のカウント覚えてられなさそうだけど。
「しかしまあ、実際に回数を言われるとおかしなことをしているように聞こえるな」
「十分おかしいですよ?」
といっても小盾だから弾き判定長くて難易度下がるし、メガ土竜は火力高い代わりにモーションは見やすいから身体で覚えてしまえばそこまで難しくはない。
20分で70とちょっとしかない譜面の音ゲーをフルコンするくらいの難易度だ。
ノーツスカスカだと逆にやりづらいって?
それはそう。
なお階層上がるとモンスターの攻撃も激しくなるから、難易度ノーマルからベリーハードくらいになるけど。
攻撃頻度以上に、モーションが早かったりタイミングが取りづらかったりといった方向で難しくなっていく。
「それにおかしいとしてもシズカほどじゃないだろ」
俺は原作知識と原作プレイ経験で下駄を履いているけれど、それ抜きで俺よりよく動くシズカはなにもかもがおかしい。
「それは、褒めてますか?」
「もちろん」
「ならいいです」
とはいえ全パリィはさすがにちょっとはしゃぎすぎたかな。
少し反省。
といっても途中から手を抜くって選択肢はなかったし、反省するならスタート地点からしないといけないけど。
まあええやろ、奥の手はまだ隠してるし。
今日見せた手は、見せても問題ない技術だし。
…………、言い訳ジャナイヨ。
「素材も沢山ですね」
「だなあ」
部位破壊も全部やったからなあ。
具体的に言うと頭のほかに、尻尾も切ったし爪も壊した。
まあやったのは全部シズカなんだけど。
最終的に討伐にかかった時間は20分ほど。
前回7人で倒したときは30分ほどかかったのでなかなか非常識な数字だ。
同級生で同じことができる人間は皆無だろうと断言できる程度には。
あと二人で倒したので経験値はウマウマ。
まあシズカと経験値稼ぐならシャークサイクロンを無限にボコった方が移動時間の差で効率いいけど。
「この後どうする?」
朝イチからここまで直行してきたので、討伐を終えてもまだ時間は昼前。
デートを切り上げるにはまだ早い時間だ。
「私の希望は聞いてもらいましたから、貴方の希望があれば」
「そう? じゃあ……」
俺の提案に頷いて、そのまま来た道を戻る。
ここまで来たのにもったいない気もしなくもないけれど、今日はデートなのでそのまま並んで雑談をしながら歩いた。
「転移:10階層」
そして転移陣まで戻った足で、そのままゴールドライオンの前へ移動した。
「準備はOK?」
「はい、いつでも」
ボスエリアは先程までのフィールドと異なり、パーティーメンバーのみの完全隔離エリア。
つまりここからは本当に、二人だけの秘密の時間だ。
・シズカの防具
ランク3の和装服防具、物理防御は控え目だが属性防御は優秀。
和装防具は各ランクに存在して、原作ではデザイン的に人気。
色は青と白で花の柄が入っている。
帯でまとめた上下一体型なので普通に動きづらそう。
他の階層では和風の上着とスカートを合わせたものも存在する。