機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第5巻 巻末外伝 ■アマテラスの日常 「帰還者取扱説明書」

■アマテラス艦内

 

朝。

 

 

いつも通りの朝だった。

 

 

整備員達は格納庫へ向かい。

 

オペレーター達は艦橋へ向かい。

 

食堂では朝食の準備が始まっている。

 

 

ただ一人。

 

 

いつも通りではない人物がいた。

 

 

■セラーナ・カーン

 

 

走っている。

 

 

だが、相変わらず足は遅い…。

 

 

珍しい。

 

 

かなり珍しい。

 

 

両手には紙の束。

 

 

しかも妙に真剣な顔をしている。

 

 

■整備員A

 

「セラーナさん?」

 

 

呼び止められても止まらない。

 

 

■セラーナ

 

「これをお願いします」

 

 

紙を一枚渡す。

 

 

■整備員A

 

「はぁ…」

 

 

■セラーナ

 

「格納庫入口へ」

 

 

■整備員A

 

「え?」

 

 

■セラーナ

 

「重要です」

 

 

そう言い残し。

 

 

次の区画へ消えていく。

 

 

 

十分後。

 

 

アマテラス艦内。

 

 

食堂。

 

艦橋。

 

格納庫。

 

医務室。

 

居住ブロック。

 

 

あらゆる場所に。

 

 

同じ紙が貼られていた。

 

 

 

■帰還者取扱説明書

 

ブライト・ノア編

 

 

・急に仕事を始めます

 

・放置すると更に仕事をします

 

・疲労を自覚しません

 

・休憩を拒否する場合があります

 

・定期的な監視が必要です

 

 

推奨担当

 

ミライ・ノア

 

 

 

■食堂

 

 

ブライトが紙を見ている。

 

 

無言。

 

 

その隣で。

 

 

ミライも見ている。

 

 

無言。

 

 

少し離れた席では。

 

 

ジョブがコーヒーを飲みながら読んでいた。

 

 

肩が震えている。

 

 

 

レイジは普通に感心していた。

 

 

■レイジ

 

「分かりやすいな」

 

 

■ブライト

 

「分かりやすくて困る」

 

 

 

ベルトーチカは視線を逸らした。

 

 

笑ったら負けだと思った。

 

 

もう負けていた。

 

 

 

■ブライト

 

「誰が作った」

 

 

 

全員。

 

 

同じ方向を見る。

 

 

 

食堂入口。

 

 

セラーナが手帳を見ながら立っていた。

 

 

真剣な顔。

 

 

非常に真剣な顔。

 

 

■セラーナ

 

「おかしいですね」

 

 

■ブライト

 

「何がだ」

 

 

■セラーナ

 

「居住ブロックに貼った分が見当たりません」

 

 

■ブライト

 

「誰か剥がしたんだろう」

 

 

■セラーナ

 

「困ります」

 

 

 

そして手帳へ何か書き込む。

 

 

■セラーナ

 

「追加印刷します」

 

 

 

ブライトは額を押さえた。

 

 

 

■ジョブ・ジョン

 

「良かったな」

 

 

■ブライト

 

「何がだ」

 

 

■ジョブ

 

「艦内全員がお前を心配してる」

 

 

 

ブライトは言葉を失う。

 

 

 

確かにそうだった。

 

 

だから余計に困る。

 

 

 

食堂の奥では。

 

 

整備員達が説明書を読みながら頷いていた。

 

 

■整備員A

 

「なるほど」

 

 

■整備員B

 

「参考になるな」

 

 

 

ブライトは聞かなかった事にした。

 

 

 

その頃。

 

 

セラーナは艦橋へ向かっていた。

 

 

まだ貼っていない区画がある。

 

 

 

■セラーナ

 

「急がないと」

 

 

 

本人だけが気付いていなかった。

 

 

今。

 

 

アマテラスで最も監視が必要なのは。

 

 

ブライトではない。

 

 

 

セラーナ本人だった。




■第5巻 あとがき

ここまで『機動戦士ガンダム:残響』第5巻『帰還座標』を読んでいただき、本当にありがとうございました。

第5巻で描きたかったもの。

それは、

「帰るとは、どういうことなのか」

でした。

姿が戻れば、帰還なのか。

声が届けば、帰還なのか。

そこに存在していれば、それで「帰ってきた」と言えるのか。

この巻を書きながら、何度も考えました。

そして結局。

この物語なりの答えは、とても単純なところへ辿り着きました。



帰る場所があって。

待っている人がいて。

その人から、

「お帰りなさい」

と言ってもらえること。



たぶん、それが帰還なんだと思います。

ブライト・ノアという人は、長い間、戦争を見続けてきた人です。

一年戦争から始まり。

何度も戦場へ立ち。

何度も若者達を送り出し。

それでも、人類が同じことを繰り返す姿を見続けてきた。

だからこそ、この『残響』という物語の中で、彼にはもう一度「帰る」ということを経験してほしかった。

英雄としてではなく。

歴史の証人としてでもなく。

ただ一人の人間として。

そして最後に待っていたのが、ミライでした。

「お帰りなさい」

「ブライト艦長」

この言葉を書けたことで、第5巻はようやく終われた気がします。



そしてもう一人。

レイジ・イルマ。

彼は相変わらず、世界の仕組みなんて知りません。

観測だろうが。

因果だろうが。

存在定義だろうが。

そんなことは彼にとって二の次です。

「戻したかったから戻した」

たったそれだけ。

でも『残響』では、そういう人間の単純な感情こそが、世界の理屈より強いことがあります。

正しいから手を伸ばすんじゃない。

助けたいから手を伸ばす。

レイジには、最後までそんな人間でいてほしいと思っています。



そして。

エリシア。

まだ彼女は完全にこちら側へ帰ってきたわけではありません。

それでも。

「エリシア」

という名前を、自分自身のものとして口にするところまで辿り着きました。

彼女が何者なのか。

どこから来たのか。

そして、どこへ帰るのか。

その答えは、もう少し先までお待ちください。



物語はここから、さらに深い場所へ向かいます。

海鳴り。

深蒼。

観測。

残響。

これまで断片的に現れていたものが、少しずつ繋がり始めます。

ですが。

どれだけ世界が大きくなっても。

どれだけ不可思議な現象が起きても。

この作品で描きたいものは変わりません。

人と人です。

分かり合えない。

それでも知りたい。

届かない。

それでも手を伸ばしたい。

『機動戦士ガンダム:残響』は、

そんな人達の物語です。



さて。

ここまで随分と重たい話をしましたが。

せっかくブライト艦長も帰ってきました。

少しくらい、アマテラスのみんなにも休んでもらいましょう。

……もっとも。

帰ってきた直後から仕事を始めそうな艦長を、

あの観測者が放っておくとは思えませんが。

それでは。

第5巻巻末外伝――

『アマテラスの日常』

「帰還者取扱説明書」

どうぞ、肩の力を抜いてお楽しみください。

そして第6巻でも。

また、アマテラスでお会いしましょう。

――片蔵清優
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